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八話・コース料理とソフトクリーム
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1・あたしはここの所、ずっと気になっているものがある。そう、この間出てきた謎のお茶についてだ。色々あったからちゃんと触れられなかったけど、茶葉の入った巨大な缶を厨房で見つけてしまったんだからしょうがない。これはもうお姉ちゃんに聞くしかない。
「お姉ちゃん…これ」
あたしが指で缶を示すと、お姉ちゃんが笑った。
「あら、見つかっちゃったわね」
「なにこれ?このお茶すごく美味しかったんだけど、どうしたの?ウチ、コーヒーやめないよね?」
「大丈夫よ、サリアちゃん。それは交易のお礼にリンカさんから頂いたの。リンカさんのお家、お茶農家さんなんですって」
なんと。リンカさんのスラッとした立ち姿をあたしは思い浮かべた。美女とお茶…いい!!
「これ、紅茶だよね?もしかしてお店に置く予定とかあるの?」
お姉ちゃんが笑った。
「リンカさんに調整してもらえるか今、聞いているの。あとね、せっかく色々なお茶があるならソフトクリームも置いて、アフォガードにするのはどうかなって。素敵でしょう?」
「じゅる…」
あ、いけない。よだれ出た。どんどんメニューが増えてきているけど大丈夫かなぁ?でもお姉ちゃんも調理には随分慣れてきたみたいだし、最近はケインくんにも調理方法を教えているから大丈夫かな。あたしだってソフトクリームくらいなら盛り付けられるはずだ。でも、肝心のソフトクリームはどうするんだろう?あたしの疑問が分かったのかお姉ちゃんは笑った。
「これ、見て」
厨房に置いてあった足元のダンボールを示される。
「これ、実は、ソフトクリームの機械なの」
お姉ちゃん、行動が素早すぎるよ?いつものことながら驚く。
「さ、そろそろ出かける準備をしましょうか」
ぽむ、と手を打ってお姉ちゃんが言う。そう、今日はいよいよコース料理を食べに行く日だ。ずっと楽しみにしていたけれど、実際当日になってみるとドキドキするな。あたしは自分の部屋に戻って、この間買った服に着替えた。
白いポシェットを肩から提げる。これでいいかな。変じゃないよね?部屋から出ると、エミリオとケインくんも支度が終わったらしい。
「す、すごく緊張します…!」
ケインくんの気持ち、よく分かるなぁ。レストランというものに不慣れだから尚更だ。昔、家族と良く行ったファミリーレストランとは格が違い過ぎる。
「せっかく食べさせてもらえるんだから美味しく食べよう」
エミリオに宥められるように言われて、あたしたちは頷いた。それもそうだよね。ご馳走になるんだから楽しまないと。
「さ、行きましょうか」
お姉ちゃんが言って、あたしたちは店を目指した。
例の二号店は実を言うと、ウチの店からそんなに離れていない場所に建っている。あのリゾートホテルの出店がきっかけで、ウインディルムに二号店を出そうと店主さんは決めたらしい。こうして新しい姿に土地は変わっていく。ウインディルムという土地とこれからも仲良く生きられたらいいな。
「わぁ…!」
建物を見た瞬間からもうオシャレだと分かった。一面がガラス張りで、中がよく見える。うわあ、これはお料理も高そう!いざ中に入ると、思っていたより席はなかった。一つ一つの席のスペースが広い。これならゆったりできていいなあ。
「こんにちは。アリアさん。ケインくん、あと…」
出てきたのはエプロンを着けたお兄さんだった。エミリオよりは歳上に見える。お姉ちゃんがあたしたちを紹介してくれたので、あたしたちは頭を下げた。
「僕がここのシェフ兼オーナーのスズキだよ。今日はいっぱい食べていってね」
「ありがとうございます!ご馳走さまです」
お姉ちゃんが答えて、あたしたちは案内された席に座った。さて、コース料理か。何が出てくるんだろう。
ドリンクをまずは頼むらしい、あと主菜を何にするかも選べるそうだ。どこがカジュアルなんだってあたしは心の中で突っ込まざるを得なかった。主菜は魚と肉から選べる。どちらも美味しそうで、迷ったけれど、あたしは魚料理をお願いした。
ドリンクにはアイスティーを頼んだ。なかなか新しいメニューに冒険って出来ないわね。エミリオとお姉ちゃんはアイスコーヒー、ケインくんはオレンジジュースを頼んでいた。みんなもあたしと同じようだ。冒険苦手派らしい。
ドリンクがやって来る。一口アイスティーを飲むと、ふわりとフルーティな甘みが広がる。
「ん、美味っ」
「よかったわね、サリアちゃん」
お姉ちゃんがにこにこしながらアイスコーヒーを飲んでいる。
「そのアイスコーヒーはどうなの?」
「美味しいわ」
「その豆はここから遠く離れた島で採られたものなんだ。アイスティーには採れたての桃を漬けてあるよ」
スズキさんがやって来て説明してくれた。こだわってるんだろうし、きっと作り方にも妥協しないんだろうな。なかなかできないことだ。しばらくしてサラダから始まり、最後のデザートまで一気に駆け抜ける。うん、お腹いっぱいで幸せになる。
「これ、美味しい」
ケインくんが食べているもの、それはデザートのティラミスだった。コーヒーにこだわりがあるみたいだったからその選択には納得がいく。
「ティラミス食べたことある?」
「あ、これティラミスっていう名前なんですね。すごく美味しい」
ケインくんが少し頬を赤く染めながら言う。可愛い。ほろ苦いコーヒーと甘みのあるクリームがマッチしている。あぁ、もう残り一口しかない。楽しい時間はすぐ経ってしまうなぁ。悲しい気持ちを堪えて、あたしはティラミスを完食した。本当に美味しかった。スズキさんがやって来て感想を求められた。あたしたち、この為に来てたんだったわね、忘れてた。
お料理の感想を逐一細かく求められたけど、美味しかったからすらすら答えられた。よかった。
「今度はお客としてここに来ますね」
「是非!お待ちしています」
あたしたちのレストラン体験はこうして幕を閉じたのだった。
2・「うーん、ちょっと違うのよね」
今日も無事にお店の営業を終えていたあたしたちはソフトクリームの味見をしている。お姉ちゃんはまだ納得がいかないみたいだ。十分美味しいのに。
「ま、今日はこれくらいにしておきましょ」
ふと電気が消えた。え、停電?窓の外を見るとすごく強い風が吹いているのが見える。びゅうびゅうとすごい音だ。あたしは畑が心配になった。でも、とても外には行けなさそうだ。色々なものが飛んできている。今外に出たら危ないだろう。
「ニュースではこんな天気になるなんて、言ってなかったのに」
お姉ちゃんが呟いた。確かにその通りだ。今日の天気は明日にかけて快晴だったはずだ。それがこの荒れ模様、何かが起きていると思うのが普通だ。
「アリアちゃん、サリアちゃん!」
エミリオとケインくんがやってくる。
「龍が近くにいます」
「え?」
ケインくんの言葉にあたしは驚いた。
「本当なの?」
お姉ちゃんが尋ね返すと、ケインくんが頷く。この強い風は龍のせい?
「俺も龍の気配を感じている。また竜人の龍化かもしれない」
エミリオの言葉に、あたしたちはどうしたらいいかわからなかった。エミリオは冷静に言い放つ。
「龍を相手に戦うのは難しい。特にこの天気じゃ無理だ。龍は天候を自在に操れるとも聞いたことがある」
もしウインディルムを攻撃してきたら、あたしたちにはどうすることも出来ないの?あたしは思わず自分を腕で抱き締めていた。怖い。お姉ちゃんがあたしを抱き寄せてくれる。
「サリアちゃん、私たちにも出来ることがあるじゃない」
そっか。あたしはお姉ちゃんに向かって頷いていた。
「何をするつもりなの?」
支度を始めたあたしたちを見て、エミリオが困惑しながら聞いてきた。
「エルフが出てくるおとぎ話を知っている?」
お姉ちゃんの言葉にケインくんが、そうかと顔を輝かせた。
「エルフは乱暴な龍を止めるために村の周りにみんなで防御壁を張ったんですよね。龍が乱暴になっていたのは木の枝が喉に引っかかっていたから。最後はみんなで一緒にご飯を食べたっていうやつ!」
「おとぎ話が本当の話だったってことか。何か俺に手伝えることはある?」
「僕もやります!他人事じゃありませんから!」
二人の申し出を有り難く受け取って、防御壁を張る準備をした。それは外に出て紋章の書かれた布を括り付けることだ。あたしはエミリオと、お姉ちゃんはケインくんと紋章を張りに行った。防御壁が張られると風の勢いが一気に弱まる。龍相手にこの防御壁がどれだけ有効か分からない。でも攻撃直撃よりは遥かにマシなはずだ。
「サリアちゃん!危ない!」
エミリオがあたしの背中を押した。龍の攻撃がぎりぎり当たらなかった。危ない。エミリオが守ってくれてなかったらと思うと恐ろしいな。
「龍は防御壁のことを分かっているみたいだ」
遠くで悠々と空を飛ぶ巨大な龍の影が見える。龍はなんで急に活動し始めたんだろう。何か原因があるのかな。龍化だとしたら尚更だ。
「話が出来たらいいのに」
あたしは思わず呟いていた。龍の言葉が分かれば、戦わずに済むかもしれない。エミリオがあたしの肩を掴んだ。急なことだったから驚いた。
「そうだよ、サリアちゃん」
「え?」
エミリオは興奮しているらしい。どうしたんだろう?
「石を持ってる?」
「うん」
あたしはポケットから緑色に輝く石を取り出した。なんだかいつもより輝いてない?
「これは龍の涙から出来ているんだ。過去にラディアの王女は龍とこれでコンタクトを取っていたらしい」
「ま、またまたあ」
「サリアちゃん、今は信じて欲しい。君の力が必要なんだ」
エミリオがあまりに必死だったから、あたしは反射的に頷いていた。どうすればいいかなんて、もちろんわからない。でも今はやるしかないんだ。あたしは石を握って願った。なんでウインディルムを攻撃してくるのか聞きたかったから。
「?」
気が付くと、あたしは変な場所にいた。真っ暗などこかだ。でも周りがはっきり見える。どうしよう、このまま帰れなかったら。お姉ちゃんにもう会えないなんて絶対にやだからね!!
「お嬢、お久しぶりですね」
あたしは誰かの急な出現に驚いてよろめいた。その人があたしを抱き留めてくれる。うわあ、イケメンー。
「あたしを知ってるの?」
恐る恐る尋ねると、その人は寂しそうに笑った。
「あなたはお嬢によく似ている」
それって過去のあたしかな?この人と親しかったみたいだ。
「あたしはサリア。エルフよ。あなたは?」
「私は竜人のマクベス。私は自分の力を制御できなくなって…」
「あなたがさっきの龍?」
「そうです。本当に申し訳ない、怖い思いをさせましたね。私はある組織から逃げ出してきたのです」
どうやら訳ありのようだな。
「マクベスさん、ここは?」
「私の精神世界です。お嬢、いや、サリアさんの力でここに来られた。私の龍化は解けています。安心してください」
「それはもちろん大事なことなんだけど…。その組織について詳しく教えて欲しいの」
「そんな危ないことは…」
マクベスさんが目を見開いた。やっぱり怪しい組織なんじゃない。竜人を無理やり龍化させて暴れ回らせるやつら。ケインくんのお父さんが言っていた家系図はきっとそいつらが持ってるのね。
「大丈夫、あたし、こう見えて結構強いのよ?」
「お嬢は変わらないですね」
ふわっと彼が笑うと雰囲気が優しくなる。
「とりあえずここを出ましょう。あたしのウチ、喫茶店なの。美味しいコーヒーが出せるわ」
「わかりました」
あたしが気が付くとエミリオに抱えられていた。やば、顔がめちゃくちゃ近かった。停電も直ったみたいだ。
「大丈夫?サリアちゃん!」
「エミリオ、もう大丈夫よ。そうだ!マクベスさん!」
あたしはヨロヨロ立ち上がった。
「もしかして、この人ですか?」
ケインくんがソファに寝かされたボロボロの男の人を示す。ひどい、こんなに怪我をしていたなんて。
「手当てはしたけれど、病院に行ったほうがいいわ。サリアちゃん、あなたは怪我してない?確認させて頂戴」
お姉ちゃんが毅然と言う。逆らうなってことだ。
あたしはお姉ちゃんの前に立った。お姉ちゃんに体を触られて確認される。お姉ちゃんがホッとしたように笑った。
「よかった、大丈夫そうね」
あたしは思わずお姉ちゃんに抱き着いていた。
「マクベスさんが言ってたの。竜人さんを無理やり龍化させる組織があるんだって」
「それ、僕も噂で聞いたことあります。気を付けろってみんな言ってました」
ケインくんも竜人だ。出来ることならなんとかしたい。でもあたしに何が出来る?
「組織のことを探ることなら俺でも出来る」
エミリオが呟いた。
「ええ、そうね。私も周りの人になにか知らないか色々聞いてみるわ」
お姉ちゃんがあたしの頭を撫でながら言ってくれる。
「僕もお父さんや村のみんなに、なにか見てないか聞いてみますね!」
そうだ、あたしは一人じゃない。こんなに頼りになる人たちがいる。あたしは嬉しくてみんなにお礼を言った。
マクベスさんはしばらくして意識を取り戻した。それからお姉ちゃんが焼いてくれたお肉をむしゃむしゃ食べていた。久しぶりの食事だったらしい。
ご飯も食べさせてくれないなんて、本当に酷い。
マクベスさんはエミリオの部屋にいてもらうことになった。とにかく怪我がひどい。明日は病院だ。
朝イチで駆け込もう。
「お姉ちゃん…これ」
あたしが指で缶を示すと、お姉ちゃんが笑った。
「あら、見つかっちゃったわね」
「なにこれ?このお茶すごく美味しかったんだけど、どうしたの?ウチ、コーヒーやめないよね?」
「大丈夫よ、サリアちゃん。それは交易のお礼にリンカさんから頂いたの。リンカさんのお家、お茶農家さんなんですって」
なんと。リンカさんのスラッとした立ち姿をあたしは思い浮かべた。美女とお茶…いい!!
「これ、紅茶だよね?もしかしてお店に置く予定とかあるの?」
お姉ちゃんが笑った。
「リンカさんに調整してもらえるか今、聞いているの。あとね、せっかく色々なお茶があるならソフトクリームも置いて、アフォガードにするのはどうかなって。素敵でしょう?」
「じゅる…」
あ、いけない。よだれ出た。どんどんメニューが増えてきているけど大丈夫かなぁ?でもお姉ちゃんも調理には随分慣れてきたみたいだし、最近はケインくんにも調理方法を教えているから大丈夫かな。あたしだってソフトクリームくらいなら盛り付けられるはずだ。でも、肝心のソフトクリームはどうするんだろう?あたしの疑問が分かったのかお姉ちゃんは笑った。
「これ、見て」
厨房に置いてあった足元のダンボールを示される。
「これ、実は、ソフトクリームの機械なの」
お姉ちゃん、行動が素早すぎるよ?いつものことながら驚く。
「さ、そろそろ出かける準備をしましょうか」
ぽむ、と手を打ってお姉ちゃんが言う。そう、今日はいよいよコース料理を食べに行く日だ。ずっと楽しみにしていたけれど、実際当日になってみるとドキドキするな。あたしは自分の部屋に戻って、この間買った服に着替えた。
白いポシェットを肩から提げる。これでいいかな。変じゃないよね?部屋から出ると、エミリオとケインくんも支度が終わったらしい。
「す、すごく緊張します…!」
ケインくんの気持ち、よく分かるなぁ。レストランというものに不慣れだから尚更だ。昔、家族と良く行ったファミリーレストランとは格が違い過ぎる。
「せっかく食べさせてもらえるんだから美味しく食べよう」
エミリオに宥められるように言われて、あたしたちは頷いた。それもそうだよね。ご馳走になるんだから楽しまないと。
「さ、行きましょうか」
お姉ちゃんが言って、あたしたちは店を目指した。
例の二号店は実を言うと、ウチの店からそんなに離れていない場所に建っている。あのリゾートホテルの出店がきっかけで、ウインディルムに二号店を出そうと店主さんは決めたらしい。こうして新しい姿に土地は変わっていく。ウインディルムという土地とこれからも仲良く生きられたらいいな。
「わぁ…!」
建物を見た瞬間からもうオシャレだと分かった。一面がガラス張りで、中がよく見える。うわあ、これはお料理も高そう!いざ中に入ると、思っていたより席はなかった。一つ一つの席のスペースが広い。これならゆったりできていいなあ。
「こんにちは。アリアさん。ケインくん、あと…」
出てきたのはエプロンを着けたお兄さんだった。エミリオよりは歳上に見える。お姉ちゃんがあたしたちを紹介してくれたので、あたしたちは頭を下げた。
「僕がここのシェフ兼オーナーのスズキだよ。今日はいっぱい食べていってね」
「ありがとうございます!ご馳走さまです」
お姉ちゃんが答えて、あたしたちは案内された席に座った。さて、コース料理か。何が出てくるんだろう。
ドリンクをまずは頼むらしい、あと主菜を何にするかも選べるそうだ。どこがカジュアルなんだってあたしは心の中で突っ込まざるを得なかった。主菜は魚と肉から選べる。どちらも美味しそうで、迷ったけれど、あたしは魚料理をお願いした。
ドリンクにはアイスティーを頼んだ。なかなか新しいメニューに冒険って出来ないわね。エミリオとお姉ちゃんはアイスコーヒー、ケインくんはオレンジジュースを頼んでいた。みんなもあたしと同じようだ。冒険苦手派らしい。
ドリンクがやって来る。一口アイスティーを飲むと、ふわりとフルーティな甘みが広がる。
「ん、美味っ」
「よかったわね、サリアちゃん」
お姉ちゃんがにこにこしながらアイスコーヒーを飲んでいる。
「そのアイスコーヒーはどうなの?」
「美味しいわ」
「その豆はここから遠く離れた島で採られたものなんだ。アイスティーには採れたての桃を漬けてあるよ」
スズキさんがやって来て説明してくれた。こだわってるんだろうし、きっと作り方にも妥協しないんだろうな。なかなかできないことだ。しばらくしてサラダから始まり、最後のデザートまで一気に駆け抜ける。うん、お腹いっぱいで幸せになる。
「これ、美味しい」
ケインくんが食べているもの、それはデザートのティラミスだった。コーヒーにこだわりがあるみたいだったからその選択には納得がいく。
「ティラミス食べたことある?」
「あ、これティラミスっていう名前なんですね。すごく美味しい」
ケインくんが少し頬を赤く染めながら言う。可愛い。ほろ苦いコーヒーと甘みのあるクリームがマッチしている。あぁ、もう残り一口しかない。楽しい時間はすぐ経ってしまうなぁ。悲しい気持ちを堪えて、あたしはティラミスを完食した。本当に美味しかった。スズキさんがやって来て感想を求められた。あたしたち、この為に来てたんだったわね、忘れてた。
お料理の感想を逐一細かく求められたけど、美味しかったからすらすら答えられた。よかった。
「今度はお客としてここに来ますね」
「是非!お待ちしています」
あたしたちのレストラン体験はこうして幕を閉じたのだった。
2・「うーん、ちょっと違うのよね」
今日も無事にお店の営業を終えていたあたしたちはソフトクリームの味見をしている。お姉ちゃんはまだ納得がいかないみたいだ。十分美味しいのに。
「ま、今日はこれくらいにしておきましょ」
ふと電気が消えた。え、停電?窓の外を見るとすごく強い風が吹いているのが見える。びゅうびゅうとすごい音だ。あたしは畑が心配になった。でも、とても外には行けなさそうだ。色々なものが飛んできている。今外に出たら危ないだろう。
「ニュースではこんな天気になるなんて、言ってなかったのに」
お姉ちゃんが呟いた。確かにその通りだ。今日の天気は明日にかけて快晴だったはずだ。それがこの荒れ模様、何かが起きていると思うのが普通だ。
「アリアちゃん、サリアちゃん!」
エミリオとケインくんがやってくる。
「龍が近くにいます」
「え?」
ケインくんの言葉にあたしは驚いた。
「本当なの?」
お姉ちゃんが尋ね返すと、ケインくんが頷く。この強い風は龍のせい?
「俺も龍の気配を感じている。また竜人の龍化かもしれない」
エミリオの言葉に、あたしたちはどうしたらいいかわからなかった。エミリオは冷静に言い放つ。
「龍を相手に戦うのは難しい。特にこの天気じゃ無理だ。龍は天候を自在に操れるとも聞いたことがある」
もしウインディルムを攻撃してきたら、あたしたちにはどうすることも出来ないの?あたしは思わず自分を腕で抱き締めていた。怖い。お姉ちゃんがあたしを抱き寄せてくれる。
「サリアちゃん、私たちにも出来ることがあるじゃない」
そっか。あたしはお姉ちゃんに向かって頷いていた。
「何をするつもりなの?」
支度を始めたあたしたちを見て、エミリオが困惑しながら聞いてきた。
「エルフが出てくるおとぎ話を知っている?」
お姉ちゃんの言葉にケインくんが、そうかと顔を輝かせた。
「エルフは乱暴な龍を止めるために村の周りにみんなで防御壁を張ったんですよね。龍が乱暴になっていたのは木の枝が喉に引っかかっていたから。最後はみんなで一緒にご飯を食べたっていうやつ!」
「おとぎ話が本当の話だったってことか。何か俺に手伝えることはある?」
「僕もやります!他人事じゃありませんから!」
二人の申し出を有り難く受け取って、防御壁を張る準備をした。それは外に出て紋章の書かれた布を括り付けることだ。あたしはエミリオと、お姉ちゃんはケインくんと紋章を張りに行った。防御壁が張られると風の勢いが一気に弱まる。龍相手にこの防御壁がどれだけ有効か分からない。でも攻撃直撃よりは遥かにマシなはずだ。
「サリアちゃん!危ない!」
エミリオがあたしの背中を押した。龍の攻撃がぎりぎり当たらなかった。危ない。エミリオが守ってくれてなかったらと思うと恐ろしいな。
「龍は防御壁のことを分かっているみたいだ」
遠くで悠々と空を飛ぶ巨大な龍の影が見える。龍はなんで急に活動し始めたんだろう。何か原因があるのかな。龍化だとしたら尚更だ。
「話が出来たらいいのに」
あたしは思わず呟いていた。龍の言葉が分かれば、戦わずに済むかもしれない。エミリオがあたしの肩を掴んだ。急なことだったから驚いた。
「そうだよ、サリアちゃん」
「え?」
エミリオは興奮しているらしい。どうしたんだろう?
「石を持ってる?」
「うん」
あたしはポケットから緑色に輝く石を取り出した。なんだかいつもより輝いてない?
「これは龍の涙から出来ているんだ。過去にラディアの王女は龍とこれでコンタクトを取っていたらしい」
「ま、またまたあ」
「サリアちゃん、今は信じて欲しい。君の力が必要なんだ」
エミリオがあまりに必死だったから、あたしは反射的に頷いていた。どうすればいいかなんて、もちろんわからない。でも今はやるしかないんだ。あたしは石を握って願った。なんでウインディルムを攻撃してくるのか聞きたかったから。
「?」
気が付くと、あたしは変な場所にいた。真っ暗などこかだ。でも周りがはっきり見える。どうしよう、このまま帰れなかったら。お姉ちゃんにもう会えないなんて絶対にやだからね!!
「お嬢、お久しぶりですね」
あたしは誰かの急な出現に驚いてよろめいた。その人があたしを抱き留めてくれる。うわあ、イケメンー。
「あたしを知ってるの?」
恐る恐る尋ねると、その人は寂しそうに笑った。
「あなたはお嬢によく似ている」
それって過去のあたしかな?この人と親しかったみたいだ。
「あたしはサリア。エルフよ。あなたは?」
「私は竜人のマクベス。私は自分の力を制御できなくなって…」
「あなたがさっきの龍?」
「そうです。本当に申し訳ない、怖い思いをさせましたね。私はある組織から逃げ出してきたのです」
どうやら訳ありのようだな。
「マクベスさん、ここは?」
「私の精神世界です。お嬢、いや、サリアさんの力でここに来られた。私の龍化は解けています。安心してください」
「それはもちろん大事なことなんだけど…。その組織について詳しく教えて欲しいの」
「そんな危ないことは…」
マクベスさんが目を見開いた。やっぱり怪しい組織なんじゃない。竜人を無理やり龍化させて暴れ回らせるやつら。ケインくんのお父さんが言っていた家系図はきっとそいつらが持ってるのね。
「大丈夫、あたし、こう見えて結構強いのよ?」
「お嬢は変わらないですね」
ふわっと彼が笑うと雰囲気が優しくなる。
「とりあえずここを出ましょう。あたしのウチ、喫茶店なの。美味しいコーヒーが出せるわ」
「わかりました」
あたしが気が付くとエミリオに抱えられていた。やば、顔がめちゃくちゃ近かった。停電も直ったみたいだ。
「大丈夫?サリアちゃん!」
「エミリオ、もう大丈夫よ。そうだ!マクベスさん!」
あたしはヨロヨロ立ち上がった。
「もしかして、この人ですか?」
ケインくんがソファに寝かされたボロボロの男の人を示す。ひどい、こんなに怪我をしていたなんて。
「手当てはしたけれど、病院に行ったほうがいいわ。サリアちゃん、あなたは怪我してない?確認させて頂戴」
お姉ちゃんが毅然と言う。逆らうなってことだ。
あたしはお姉ちゃんの前に立った。お姉ちゃんに体を触られて確認される。お姉ちゃんがホッとしたように笑った。
「よかった、大丈夫そうね」
あたしは思わずお姉ちゃんに抱き着いていた。
「マクベスさんが言ってたの。竜人さんを無理やり龍化させる組織があるんだって」
「それ、僕も噂で聞いたことあります。気を付けろってみんな言ってました」
ケインくんも竜人だ。出来ることならなんとかしたい。でもあたしに何が出来る?
「組織のことを探ることなら俺でも出来る」
エミリオが呟いた。
「ええ、そうね。私も周りの人になにか知らないか色々聞いてみるわ」
お姉ちゃんがあたしの頭を撫でながら言ってくれる。
「僕もお父さんや村のみんなに、なにか見てないか聞いてみますね!」
そうだ、あたしは一人じゃない。こんなに頼りになる人たちがいる。あたしは嬉しくてみんなにお礼を言った。
マクベスさんはしばらくして意識を取り戻した。それからお姉ちゃんが焼いてくれたお肉をむしゃむしゃ食べていた。久しぶりの食事だったらしい。
ご飯も食べさせてくれないなんて、本当に酷い。
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朝イチで駆け込もう。
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