大好きなお姉ちゃんとモンスター喫茶店、始めました!

はやしかわともえ

文字の大きさ
10 / 11

十話・プリンセス

しおりを挟む
1・「☓☓☓ちゃん、探したのよ。何処に行っていたの?」

ドレスを着たお姉ちゃんが目の前にいて、驚いた。あたしもまたドレスを着ている。ナニコレ、どうゆうこと?もしかして、あの子が言っていた過去の世界に来ちゃったの?つまりあの子がお姫様?しかもあたしの名前と思われる部分だけ雑音が入って上手く聞き取れない。多分、お姫様が記憶を失ってるせいだと思うんだけど。お姉ちゃんがあたしの顔を覗き込んでくる。いつの時代でもお姉ちゃんは美人さんだな、じゃなくて。

「お姉ちゃん、あたしね!」

「急にどうしたの?ほら、お父様たちが待っているわ。行きましょうか」

お姉ちゃんがあたしの腕を優しく掴んだ。

「きっと、疲れちゃったのよね」

よしよし、と頭を撫でられる。駄目だ、ちゃんと話を聞いて貰えそうにない。お姫様はどんな子だったんだろう?さっき会って話した限りでは、あまり明るい子ではなかったのかなって思った。なんだか感情が薄くて、少し仄暗さのある女の子。あたしはその子の生まれ変わり?うーん、良く分からなくなってきた。

「☓☓☓ちゃん、こっちよ」

お姉ちゃんに手を引かれるまま歩く。そこにいたのは立派な体躯をした男性と綺麗な女性が立っていた。まさか、この人たち…。

「お母様、お父様、お待たせ致しました」

お姉ちゃんが声を掛ける。両親が美男美女!もう耐えられない!

「☓☓☓、また龍と話していたのかな?」

にっこりと男性が笑いながら甘い低い声であたしに言う。なにこれ、やっっば。とりあえず情報を得ないとね。

「え、えーと、龍と話していたような、いなかったような…そもそもあたしはなんで龍と話してるんですかね?」

うっわ、あたし、情報探るの下手すぎか。テンパったら余計怪しまれる。気を付けないと。

「☓☓☓は龍と友達だと言っていたじゃない」

お母様、と呼ばれていた女性が言う。

「あ、そう、お友達!その通りですわ!オホホ」

あれ?なんかいまいちキャラが違うような。みんな、あたしをしらっとした目で見ている。まあ普通そうなるわな。

「☓☓☓ちゃん、大丈夫?」

お姉ちゃんに気遣わしげに言われて、あたしは汗をだらだらさせながらも頷いた。駄目だ、あたしにはお姫様キャラなんて分からない。せいぜい分かっても今時流行りの悪役令嬢くらいなもんだ。そこならしっかり履修してるからね。どうやればうまく処刑を免れられるか、よく知っている。

「とにかく城で休みなさい。きっと久しぶりに出掛けて疲れたんだろう」

あ、あれか、もしかしたらあたしは普段引きこもりなのかも。名探偵だからね、あたしは。もう辛いからそう言い聞かせるしかない。
ラディア城に戻ると、あまりのピカピカ具合にあたしは小さく悲鳴をあげてしまった。豪華絢爛とはまさにこのこと。ラディア王室がいかに力のある王室だったかがよく分かる。

お姉ちゃんはあたしをお姫様のものである部屋まで連れて行ってくれた。よかった、一人じゃ自分の部屋がどこか、とても分からなかったから。なんせ城が広すぎる。こんなに立派だったお城が今では空っぽなんてやっぱり不思議だなぁ。

「☓☓☓ちゃん、なにかあったんでしょう?」

「!」

部屋に入るなり、お姉ちゃんが心配そうに言う。やっぱりこういう時に頼りになるのはお姉ちゃんなんだよね。あたしは正直に事の顛末を話した。

「そう、サリアちゃんは未来から」

「原理はよく分からないんだけど、気が付いたらここにいて」

「☓☓☓ちゃんは私たちに心を閉ざしているの。自分の力が怖いって、ずっとこの部屋に閉じこもっていたのよ」

「今日はどうして外に?」

引きこもっていたなら部屋から外に出るのはかなり勇気が要るはずだ。

「龍と会いたいからって☓☓☓ちゃんは言っていたけど」

その龍とお姫様は親しいのかもしれないな。あたしは心に刻んだ。もしかしたらそこから何か分かるかもしれない。

「ねえ、お姉ちゃん。あたし、これからどうしたらいいのかな?お姫様はあたしに何かをして欲しいみたいなの」

お姉ちゃんがうーんと唸って、ぽむ、と手を打った。

「それなら明日、私とクエストに行ってみましょうか?龍さんも明日までなら近くにいるみたいだし」

お姉ちゃん、一応お姫様なのに戦えるんだ。素敵。
そうだ、あたしの武器は…。

「サリアちゃん、弓は使える?」

どうやらお姫様もあたしと同じ弓使いらしい。お姉ちゃんが渡してくれたのは、かなり軽い弓だった。あたしの使っているものよりパワーは劣る。その代わり毒を付与する特殊能力付きのレアリティの高い弓だ。お姫様もなかなか強いらしいな。

「どうかしら?」

「うん、これでバシバシ敵を毒にしてあげる!」

「サリアちゃんは頼もしいわね」

「お姫様は違うの?」

あたしの言葉に、お姉ちゃんは少し考えて言った。

「☓☓☓ちゃんが龍と話せるようになったのはまだ最近のことなの。偶然龍の涙の結晶を手に入れて、龍と話すことにのめり込んだわ。私やお父様、お母様も公務だったりであの子に構ってあげられなかったせいもあると思う。きっと、寂しかったのよね」

「そっか…じゃあお姉ちゃんたちの気持ちをお姫様に伝えればいいわけね!」

「サリアちゃんは思いきりがいいわね」

ふふ、とお姉ちゃんが笑う。とりあえず龍さんと話して、お姫様のこともっと知らなくちゃ!あたしはふとエミリオのことを思い出していた。危ない目に遭っていなければいいけれど。あたしにできることはそれを祈ること。エミリオともう一度会ったら頬を引っ叩いてやるんだから。あたしはそう決意している。

「さ、今日はもう遅いし休みましょうか」

「お姉ちゃん…」

お姉ちゃんがなあに?とあたしの顔を覗き込んでくる。

「あたしのこと、信じてくれてありがとう」

お姉ちゃんが笑った。

「大事な妹ですもの。当たり前じゃない。おやすみなさい、サリアちゃん」

「うん、おやすみなさい」

あたしはベッドに寝転がった。あれ?と思う。お姉ちゃんが言っていたお姫様の力ってなんだろう。
龍と話す以外のことなんだろうか。あぁ、なんかすごく疲れた。寝よう。あたしは目を閉じた。

2・「ふあっ!お店!!」

あたしは叫びながら飛び起きた。あれ?ここ何処?辺りを見回して、自分の状況をようやく把握する。そうだ、あたし、過去の世界に来ていたんだっけ。って落ち着いている場合じゃない。あたしは絶対に元の世界に帰るんだからね。
お姫様なんてあたしに務まるわけないじゃない。

「お姫様、服借りるわ。ちゃんと洗濯するから許してね」

昨日の夜もパジャマを拝借した。あたしとお姫様は背格好も似ているらしい。服はぴったりだった。
とりあえず動きやすそうな服をタンスから探し出す。お姫様の服ときたら、ほとんどがドレスだった。
こんなヒラヒラしたもの、あたしが着られる訳ないでしょ! とりあえず着替えも終わったし、装備を整える。背中に弓を背負って完了。

「サリアちゃん」

コンコン、と部屋をノックされた。あたしは返事をする。よし、クエストにいくぞー!

2・クエストに出てから、あたしはしまったーと思った。ラディアでクエストに出るのはこれが初だ。地形なんて当然頭に入っていない。どうしよう。

「サリアちゃん、こっちよ。私についてきて」

「お姉ちゃん…」

お姉ちゃんが嬉しそうに笑う。

「お姉ちゃんなんて、久しぶりに呼ばれたわ」

「お姫様はそう呼ばないの?」

あたしは走りながら尋ねた。

「最後に話したのはいつだったかしら」

お姉ちゃんの横顔が翳る。そんな寂しい話ある?あたしは驚きと衝撃でしばらく何も言えなかった。しばらく走ると、大きな龍がいる。あれ?なんだか見覚えあるな。

「マクベスさんじゃない!!」

「知っているの?」

あたしたちが龍に近付くと、彼は人の姿になった。

「お嬢、また来てくださったのですね」

「あ、えーと…」

さて、一体どう事情を説明したものか。
お姉ちゃんが進み出る。

「この子はサリアちゃんよ。☓☓☓ちゃんとは別人で…」

マクベスさんの表情が驚きに変わる。そりゃあそうなるわよね。

「サリア嬢は私を知っておられる?」

「あなたはあたしのいる世界でも存在しているから」

龍は長命だ、おかしな話じゃない。

「お嬢になにかあったのでしょうか?」

「あたしが知りたいくらいよ。お姫様に急に呼ばれたの。そしたらこの世界にいて。お姫様は周りの人に心を閉ざしてるみたいだし?なにがあったのかなって」

マクベスさんの表情が曇った。なんか知っているみたいね。ここはよく聞いておかないと。

「お嬢と知り合ったのはつい最近のことです。彼女は龍の涙の結晶を手に入れて、周りを警戒していた私に話し掛けてきてくれました」

「それって、これ?」

それはエミリオがくれた石だ。いつの間にか持ってきていたみたいだ。不思議だよねー。分かったことといえば、龍の姿だとヒトと話せなくなるみたいね。

「はい。お嬢は自分の力で悩んでいるようでした」

「お姫様の力ってナニ?」

あたしは二人を交互に見つめた。お姉ちゃんもマクベスさんも困ったという顔をしている。

「☓☓☓ちゃんの力はもうないの」

「え?」

あたしはますます訳が分からない。お姫様の力がもうない?どうゆうこと?お姉ちゃんが続ける。

「☓☓☓ちゃんの力はある組織によって奪われたわ。そう、それは生命を与える力。ずっと王室で継承されてきた力よ。でも拐われて、奪われた。☓☓☓ちゃんはそれで感情を…」

ぎゅ、とお姉ちゃんが拳を握る。苦しそうな表情にあたしも苦しくなった。

ライアット…。その名前があたしの中を過る。そうだ、やつらは名前を変えてずっと悪さをしてきているんだった。きっとお姫様を拐ったのも。

「サリア」

ふと気が付くとあたりが暗くなっている。最初にお姫様と鏡越しに会った場所だ。

「サリア、もう過去は変えられない。王室が滅びたのは、生物兵器のせい。あなたは近付いちゃいけない。あいつは人に取り憑く。私の力で生物兵器は生まれたの。全部私のせいなの」

「どうしたら倒せるの?」

「神龍の血を飲ませること。誰も神龍に敵わなかった…」

「お姫様、あなたはずっと苦しんできたのね。あたし、その神龍を探すわ」

「サリア…駄目よ」

「大丈夫。エミリオも必ず探し出してやるんだから」

あたしが拳をぐっと握るとお姫様はきょとん、として柔らかく笑った。

「なんだ、あなた笑えるんじゃない。王室は滅びたかもしれない。でもあたしとお姉ちゃんは今もここにいるのよ!絶対に大丈夫!」

お姫様にギュッと抱き着かれた。あたしは彼女の背中に手を回す。

「サリア、ありがとう」

あたしが気が付くと自分のベッドの上だった。不思議な体験だった。そうだ、エミリオを探すんだったわね。
外はもう明るくなっている。あたしは自分の部屋を出た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

異世界転生してしまった。どうせ死ぬのに。

あんど もあ
ファンタジー
好きな人と結婚して初めてのクリスマスに事故で亡くなった私。異世界に転生したけど、どうせ死ぬなら幸せになんてなりたくない。そう思って生きてきたのだけど……。

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

処理中です...