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バレンタインデー
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小学校中学年をなんとか乗り切った僕は、六年生になっていた。
この頃は、周りの子達が随分大人びて見えた。
僕だけが幼いまま取り残されているみたいだった。体だって小さいままだったし、声変わりなんてまだまだだった。
この時、調度2月で、僕は偶然、廊下で話している女の子達の話を聞いてしまった。
皆、「千尋」にチョコレートを渡して告白するとか言っている。
バレンタインデーというイベントを僕はそこで改めて意識した。
告白されたら千尋はそのうちの誰かと付き合うのだろうかという暗い気持ちが過る。
もう子供じゃないんだってはっきり自覚した。
千尋と誰かが付き合う。
そんなのは絶対に嫌だった。
千尋にはずっと僕の傍にいて欲しかった。
ワガママなのは承知している。
だから僕は決めた。
自分もチョコレートを作ろうって。
告白なんてするつもりはなかったけど、話のタネくらいにはなるだろう、という安易な気持ちだった。
気持ち悪いのなんて承知している。
でも千尋のことだから笑い飛ばしてくれるっていう確信があった。
家に帰って、僕はお小遣いを握り締めて、近くのスーパーに向かった。
チョコレートは比較的安価で買える。
型ならお母さんが持っているだろう。
問題はラッピングだ。
そんなこと、今までやったことがない。
それはお母さんに頼ることにして、僕は家に帰った。
「加那、もしかしてチョコレート作るの?」
「う、うん。千尋にいつものお礼したいから」
本当はお礼とは真逆だ。呪いに近い。
でもお母さんは信じてくれたみたいだ。
型や可愛い袋をすぐ用意してくれた。
「加那、火には気を付けてね」
「はーい」
そういえば千尋になんと言ってこれを渡せばいいか考えてなかった。
でもこの頃の僕は、周りに対して割と明るく振る舞えるようになっていたから冗談という体で渡そうと思ったのだ。
千尋はどんな顔をするだろうか。もしかしたら引くかもしれない。
男の僕にチョコレートをもらうんだもん、当然だよね。
そんなモヤモヤを抱えながら僕は星型のチョコレートを作り上げた。
本当は、ハート型が良かった。
でも絶対引かれると思ったから妥協したのだ。
明日、朝イチで渡そう。僕は誓ったのだった。
小学校にも部活がある。
千尋はサッカー部に所属している。
練習が嫌いでよくサボっていると千尋から聞いた。なんでも、お父さんに勧められて部活に入ったらしい。
千尋は運動神経が良かったから、練習しなくても同年代の子より動けた。
体育の時もそうだ。
でも千尋にはサッカーへの興味はまるでなかった。中学生になってもサッカー部に入ると千尋は言っていた。
次の日、そう、バレンタインデー当日。
千尋と一緒に学校へ向かうと、千尋の下駄箱から何かがはみ出ている。
千尋は舌打ちして、それを取り出した。
全部チョコレートだ。
「要らないのに」
千尋は呟いてチョコレートを鞄にしまっていた。
「それ、どうするの?」
「返す。要らないから」
千尋は本気のようだった。
「泣いちゃうよ」
「俺は別に嫌われていい」
千尋を見上げると、彼はふっと笑った。
「なんでお前が泣きそうなんだよ」
僕は困ってしまった。
自分のチョコレートも要らないって言われたらどうしよう、なんて思っていた。
でも。
「あの、僕も作ってみたかったから…その、チョコレート」
僕はほぼお母さんが作ってくれたチョコレートを取り出した。
「加那が作ったのか?」
千尋が僕からチョコレートを受け取ってくれる。
「ありがとう、めちゃくちゃ嬉しい」
ニッと千尋が笑ってくれて僕は嬉しかったんだ。
この頃は、周りの子達が随分大人びて見えた。
僕だけが幼いまま取り残されているみたいだった。体だって小さいままだったし、声変わりなんてまだまだだった。
この時、調度2月で、僕は偶然、廊下で話している女の子達の話を聞いてしまった。
皆、「千尋」にチョコレートを渡して告白するとか言っている。
バレンタインデーというイベントを僕はそこで改めて意識した。
告白されたら千尋はそのうちの誰かと付き合うのだろうかという暗い気持ちが過る。
もう子供じゃないんだってはっきり自覚した。
千尋と誰かが付き合う。
そんなのは絶対に嫌だった。
千尋にはずっと僕の傍にいて欲しかった。
ワガママなのは承知している。
だから僕は決めた。
自分もチョコレートを作ろうって。
告白なんてするつもりはなかったけど、話のタネくらいにはなるだろう、という安易な気持ちだった。
気持ち悪いのなんて承知している。
でも千尋のことだから笑い飛ばしてくれるっていう確信があった。
家に帰って、僕はお小遣いを握り締めて、近くのスーパーに向かった。
チョコレートは比較的安価で買える。
型ならお母さんが持っているだろう。
問題はラッピングだ。
そんなこと、今までやったことがない。
それはお母さんに頼ることにして、僕は家に帰った。
「加那、もしかしてチョコレート作るの?」
「う、うん。千尋にいつものお礼したいから」
本当はお礼とは真逆だ。呪いに近い。
でもお母さんは信じてくれたみたいだ。
型や可愛い袋をすぐ用意してくれた。
「加那、火には気を付けてね」
「はーい」
そういえば千尋になんと言ってこれを渡せばいいか考えてなかった。
でもこの頃の僕は、周りに対して割と明るく振る舞えるようになっていたから冗談という体で渡そうと思ったのだ。
千尋はどんな顔をするだろうか。もしかしたら引くかもしれない。
男の僕にチョコレートをもらうんだもん、当然だよね。
そんなモヤモヤを抱えながら僕は星型のチョコレートを作り上げた。
本当は、ハート型が良かった。
でも絶対引かれると思ったから妥協したのだ。
明日、朝イチで渡そう。僕は誓ったのだった。
小学校にも部活がある。
千尋はサッカー部に所属している。
練習が嫌いでよくサボっていると千尋から聞いた。なんでも、お父さんに勧められて部活に入ったらしい。
千尋は運動神経が良かったから、練習しなくても同年代の子より動けた。
体育の時もそうだ。
でも千尋にはサッカーへの興味はまるでなかった。中学生になってもサッカー部に入ると千尋は言っていた。
次の日、そう、バレンタインデー当日。
千尋と一緒に学校へ向かうと、千尋の下駄箱から何かがはみ出ている。
千尋は舌打ちして、それを取り出した。
全部チョコレートだ。
「要らないのに」
千尋は呟いてチョコレートを鞄にしまっていた。
「それ、どうするの?」
「返す。要らないから」
千尋は本気のようだった。
「泣いちゃうよ」
「俺は別に嫌われていい」
千尋を見上げると、彼はふっと笑った。
「なんでお前が泣きそうなんだよ」
僕は困ってしまった。
自分のチョコレートも要らないって言われたらどうしよう、なんて思っていた。
でも。
「あの、僕も作ってみたかったから…その、チョコレート」
僕はほぼお母さんが作ってくれたチョコレートを取り出した。
「加那が作ったのか?」
千尋が僕からチョコレートを受け取ってくれる。
「ありがとう、めちゃくちゃ嬉しい」
ニッと千尋が笑ってくれて僕は嬉しかったんだ。
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