どうか、幸せになれますように

再会

大学を無事に卒業した僕は、市内にある割と大きめな図書館で働き始めていた。
初め、慣れない司書の仕事はなかなか忙しかった。

莫大な本の管理や整理、利用者さんへの対応、全てが僕にとっては大変だった。
でもここでも人に恵まれて、僕はなんとか働くことができていた。

図書館は午後七時には閉館する。
もうすぐ閉館するという頃、ふらっと現れたのが千尋で驚いた。
僕は彼にどう反応したものか困った。
大人になった千尋はますますかっこよくなっていたからだ。
周りの職員さん達もざわめいていたから、相当だよね。

千尋は二冊小説を借りていった。
どちらも英語が原文のものだ。
千尋の頭が良すぎて、正直ついていけない。

「入り口で待ってるから」

と千尋に言われて、僕はドキドキした。
少し気まずいのと、嬉しさの二律背反だ。
閉館の為の作業が終わって僕は千尋の元へ急いだ。

「加那、久しぶりだな」

「ひ…久しぶり」

他に何を話したのか正直記憶がない。
でも千尋が奢ってくれるからとファミリーレストランに入ったのは覚えている。
料理が来て僕達は食べ始めた。他愛もない話をしながら。

「一緒に暮らさないか？」

ちょうど熱々のピザを頬張っていた所だったので、その言葉に僕は驚いてしまった。
なんとかピザを飲み込んで、ジュースで流し込む。

千尋は僕の返事をじっと待っていてくれた。
一緒に暮らす、それがどうゆうことか、僕は考えた。
この頃の僕はお母さんに身の回りのことを全て任せていた。
だから安心して働けていたのもある。
千尋と暮らしたらこれからの生活はどうなるんだろうと純粋に思った。

「千尋、僕家事出来ない」

ここは正直に言ったほうが良いと思った。
千尋が笑う。

「大丈夫。お前ならすぐ出来るようになる」

千尋は前と変わらず僕のことを信頼してくれているようだった。

「そ…そうかな？」

「そりゃ、すぐには出来るようにはならないさ。
誰だってそうだよ」

千尋はやっぱり優しかった。
僕は急に不安になった。
千尋の期待を裏切るかもしれない、なんて思ったんだ。
でも前に僕は千尋のことを信じようと決めていたし、できるなら僕も千尋のそばにいたかった。

「お試しでもいい？」

そっと言ったら千尋が驚いたような顔をした。そして笑ってくれた。

「お前、随分たくましくなったな？」

確かに僕は今まで、自分の希望を人に伝えるのが苦手だった。
でもそれじゃいけなかったんだって大学生になってようやく気が付いた。
大人になると、誰かが褒めてくれるということもあまりない。

それも全部、今まで働いてきて分かったことだ。
自分がどうなりたいか、はっきり周りに伝える。少しずつでもいいからそうなれるように頑張ろうって思うようになった。

「ん」

チャリ、と千尋は鍵を僕の目の前に置いた。
これってもしかして。

「一応合鍵作った。
今日、一回来てみないか？」

「う、うん！」

僕は嬉しかった。
千尋はずっと僕のことを忘れないでいてくれたんだ。