どうか、幸せになれますように

はやしかわともえ

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同棲

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「わぁ、部屋広いんだね」

「社宅だよ、家族で住んでるとこもあるから」

「へえ」

お母さんに連絡して、今日は千尋の家に泊まると言ったら、千尋にすぐ代わるように言われた。
しばらく千尋はお母さんと話をして、僕にスマートフォンを手渡してきた。

「加那、千尋くんに迷惑掛けないようにね」

お母さんは多分心配だったんだろうな。
僕は頷いて通話を切った。
僕をもう少し信頼してもらいたい。
それに千尋に何かを確認していたな。
二人で何を話していたんだろう?

「里奈さん、相変わらずだな」

千尋が楽しそうに言う。
里奈というのはお母さんの名前だ。

「お母さんは僕がまだ園児だと思ってるから」

千尋が笑い出す。

「ウチもそうだよ。たまに電話すると、次はいつ帰ってくるかってうるさい」

「そうなんだ」

どこの家もそんなもんなんだな、なんて思った。

「どうする?軽く飲むか?」

「そっかあ、もうお酒飲めるんだもんね」

「お前、飲めるのか?」

僕は首を横に振った。
少しなら飲めるけど、すぐ酔っ払う。
疲れていると尚更だ。

「じゃあ今度にしとくか」

明日、たまたま僕は休みだった。
千尋はどうなんだろう?

「加那、お前疲れてるだろ?
ちょっと待ってろ、寝れるようにする」

千尋にソファに座っているように言われて、僕は腰掛けた。
ソファがふかふかで驚く。
僕はそのまま眠ってしまった。

「ん…あれ?」

気が付くと、辺りは真っ暗だった。
ここ、どこだっけ?なんて思って慌てて飛び起きて千尋の家だと気が付く。

いつの間にかベッドに寝ていたから、千尋が運んでくれたのかな。

「加那、起きたのか?」

千尋の声が向こうの部屋からする。
ふすまの間から明かりが漏れていた。
この部屋と、千尋のいる部屋が和室なのかもしれない。床を見ると畳だった。
僕はベッドから下りて、襖を開けた。

「千尋?ごめん、寝ちゃった」

「起こしちまったか?」

「ううん」

今の季節は夏から秋に移り変わろうとしている。暑かったり涼しかったりと色々困る季節だ。
その部屋にはすでにこたつが置いてある。
千尋は座椅子に座ってノートPCのキーボードを叩いていた。

「お茶飲むか?」

「う…うん」

千尋の部屋に、こんなに生活感が溢れていることに、僕は驚いていた。

「千尋って人間だったんだ」

「何言ってんだ、お前は」

こたつに入って千尋が淹れてくれたお茶を飲む。今は深夜を回って一時半を指している。

「千尋は何してるの?」

「ん?遊んでる」

さっきチラッと見たけれど、とても遊んでいるようには思えなかった。
なにか数字を打ち込んでいたような。

「加那、お試しでもいいけど着替えとかないと困るだろ?
明日取りに行こうぜ。里奈さんが荷物用意してくれるって」

「さっきの確認、それ?」

「あぁ。チャレンジしてみて欲しいってさ。
駄目なら帰ってくればいいって」

お母さんにいつの間にか心配をかけてしまっていたらしい。

「加那だって持ってきたいものあるだろ?」

「ゲームとかでもいい?」

「いいよ」

千尋がお茶のお代わりを注いでくれた。

「加那、急に連れてきちまってごめんな」

千尋は何を謝ってるんだろう。
僕はすごく嬉しい。

「千尋が来てくれて嬉しい」

そう素直に言ったら、千尋も笑ってくれた。
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