どうか、幸せになれますように

はやしかわともえ

文字の大きさ
14 / 15

お試し期間開始!

しおりを挟む
お試し期間の為に僕の荷物を実家に取りに行った。

お母さんはかなりコンパクトに僕の荷物を作ってくれていた。好きなゲームや、やりかけのレゴやプラモデルなんかも入れたら結構な量になった。

お母さんはその日、始終嬉しそうだったし、千尋もニコニコしながら荷物を運んでくれた。
僕もなんだかふわふわしたような気持ちだった。新しい生活が始まる、という実感がようやく湧いてきていた。

「千尋くん、これミートソース作ったから」

「すみません」

お母さんが大きなタッパーを千尋に渡している。このミートソーススパゲッティーが食べたいという常連さんは多い。
僕の大好物の一つだ。
オムハヤシライスも人気で、よく食べている人を見かける。
お母さんの手料理が食べられなくなることに、僕は今更ながら気が付いた。

「じゃあね、加那。
また連絡頂戴」

僕は車の窓を開けて、お母さんに手を振った。

「加那、一度荷物置いて、昼飯食べたら他の必要な物も買いに行こう」

「う、うん」

ちらりと不安が湧いたけど、僕はそれを慌てて追い出した。
まだ始まってすらいないことだ。
判断するには早い。


僕の荷物を部屋に全て運び込んだら、大分くたびれた。
千尋は台所でお湯を沸かしている。

「加那、昼飯スパゲッティーでいいだろ?
お前、沢山食べられるよな?」

「え、千尋。自炊してるの?」

僕はびっくりしてしまった。

「そうだな、割と」

千尋が考えながら言う。
千尋さん、ハイスペックなのにも程がありませんか?

「千尋ってばなんでも出来てずるい!!」 

むくれてみせたら千尋が噴き出す。

「スパゲッティーなんて簡単だよ。
お湯さえ沸かせばすぐ出来る」

「そうなの?」

鍋がグツグツ言い出している。

「タイマーで時間測るだけだ、簡単だろ?」

確かにそれなら僕でも出来そうだ。
千尋が麺の束を鍋に入れた。
しばらくかき混ぜている。

「加那、ミートソース、温めてくれ」

「はぁい」

電子レンジでミートソースを温めていると、いい匂いがしてくる。
千尋はその間にキュウリやトマトを刻んで、サラダまで作ってしまった。

「え…千尋。あのさ、どうやってお料理覚えたの?」

「ん?動画サイト観た」

知ってたよ、千尋ってこうゆうやつだよね!
お母さんの作ったミートソースは変わらず絶品だったし、サラダもシャキシャキで美味しかった。

「なあ、加那」

千尋が突然難しい顔をする。
どうしたんだろう?
僕は不安になった。

やっぱり僕とは暮らせないって思ったのかな。

「旅行行かないか?」

「はい?」

知ってたよ、千尋って(以下略)

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

偽物勇者は愛を乞う

きっせつ
BL
ある日。異世界から本物の勇者が召喚された。 六年間、左目を失いながらも勇者として戦い続けたニルは偽物の烙印を押され、勇者パーティから追い出されてしまう。 偽物勇者として逃げるように人里離れた森の奥の小屋で隠遁生活をし始めたニル。悲嘆に暮れる…事はなく、勇者の重圧から解放された彼は没落人生を楽しもうとして居た矢先、何故か勇者パーティとして今も戦っている筈の騎士が彼の前に現れて……。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

【完】君に届かない声

未希かずは(Miki)
BL
 内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。  ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。 すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。 執着囲い込み☓健気。ハピエンです。

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

処理中です...