僕らのもう一つの物語

はやしかわともえ

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神の泉

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エアリスに向かう道には地震の影響か、沢山の土砂や岩が転がってきていた。
道が盛り上がってヒビが入っている部分もある、それをなんとか越えながら僕たちは先を急いだ。

「思ったより被害が大きいな」

チヒロさんが呟くと、オネストさんも頷く。
ここまで一時間程歩いてきただろうか。
なんだかとても疲れた。

「カムイ、少し休もう。
みんなの消耗が激しい」

「そうだな」

土砂崩れしそうな場所からは離れて、僕たちはそれぞれ地面に座り込んだ。

「これを持ってきてよかった」

オネストさんが、肩掛けカバンから何かを取り出した。薬のカプセルのような形をしている。それを軽く放るとお弁当箱になった。他のも放る。
それが水筒になったり、食器に変わる。

「え、すごい」

思わず言うと、オネストさんが笑う。

「災害時に使うものなんだ。
まさかここで役に立つとはな」

お弁当箱の蓋を開けると、ぎっしりサンドイッチが詰められている。

「わあ、美味しそう!」

「母が作ってくれた。さぁ、食べよう!」

僕たちは熱いお茶を飲みながらサンドイッチを摘んだ。
中の具もたっぷりで、食べごたえがある。
お腹が膨れると、少し元気になった。

僕たちは再び、エアリスに向けて歩き出した。
エアリスの看板を見つける。
ようこそ、芸術の国エアリス、なんて書いてある。

「そんな....」

彼方姫が小声で呟いた。
僕にもそれが見えていた。
町中、がれきが転がっている。
もっと中に入ると、あちこち家は壊れて、車が何台もひっくり返っている。
地震の被害だけではこうはならないだろう。
オネストさんが少し先を歩いて町を確認しはじめた。そしてこう言う。

「ここで暮らしている人が見当たらないな、遺体もない」

一体どうなっているんだろう?
突然、彼方姫が息を呑む。
僕もつられてそちらを見た。
30メートル程の緑色の巨人が、こちらに向かってゆっくり歩いてくる。
巨人のお腹には人が沢山入っていた。まさか。

「なんだあれは!」

「姫、下がってください!」

初めての戦闘がこんな相手だなんて。
でも、迷っている場合じゃない。
僕たちは巨人の前に飛び出した。近付くとますます大きい。さすがに巨人も僕たちに気がついたらしい。
右手をゆっくり僕たちに向けて差し出してきた。
それをチヒロさんが刀で断ち切る。切られた腕は蒸発するように消えた。


「気を付けろ!食べられてしまうぞ!」

「どうやら、戦いは免れないようだな」

オネストさんを光が包む。
大きな12枚の翼が彼の背中から現れた。彼が持っていた本を開くと、魔法陣が浮かび上がる。
なんて心強いんだろう。

「さぁ行くぞ!カムイ!」

「頼んだぞ、オネスト!」

巨人の動きはものすごくゆっくりだった。
おかげで僕たちは確実に相手にダメージを与えていけた。
なんだかおかしい気がする。
簡単すぎるような。

巨人はチヒロさんの一閃で消失した。中にいた人たちも無事だったようだ。よかった。

「おい、姫がいないぞ」

「え?」

千尋に言われて、僕は慌てて辺りを見回した。
彼方姫はどこに?
エアリスの町はほぼ全壊で、建物がほとんど残っていなかった。
おかげで近くにある、岩肌がむきだしになった山もよく見える。僕は無意識に魔力を目元にこめていた。
視力を一時的に上げるためだ。でもなんで僕はこんなことができるって知っているんだろう。
疑問に思いながら僕は目を凝らした。

「千尋、彼方姫がいた」

特に目立つ大きな山にはトンネルが掘られていた。
その横に、巨大な重機が何台か停めてある。
彼方姫はそのトンネルの中に消えていった。
早く追いかけないと。
チヒロさんが駆け寄ってくる。
彼もまた気が付いたらしい。

「二人共!姫は?!」

「姫はあのトンネルに入っていきました」

僕は指をさして示した。

「行こう!」





(大きいトンネルだな)

トンネルの中に入ると、向こう側まで穴が開通していなかった。まだ作っている最中なんだろうか。薄暗いしひんやりしていてなんだか怖い。

「加那、エレベーターがあるぞ」

「本当だ!」

電気は通っているらしい。
少しホッとした。

「おそらく地下を調査する時に使ったんだろう。気を付けろ。エネルギー源がありそうだ」

チヒロさんが言いながらボタンを押した。ここからは下の階にしかいけないようだ。
エレベーターに乗り込むと、狭くてなんとなく息苦しい。
僕たちは最下層についた。

「姫!!」

彼方姫がいた!
僕たちは彼女のそばに駆け寄った。そこにプールのようなものがある。それは緑色の液体で満たされていた。なんだろう、これ。 

「チヒロ、覚えている?ここは神の泉。
あたしから能力を奪った泉。」

「姫。わかっています」

「この泉はあたしから貴方さえも奪おうとしたわ」


チヒロさんは辛そうに目を伏せる。
ここで、二人に何があったんだろうか。

「あたしは今日、この力を打ち消すの」

彼方姫はしゃがんで緑色の水に片手を浸けた。
それをくるくるかき回す。

グラ、と地面が波打つように揺らいだ。
地響きまでし始める。

「姫!!」

「加那!カムイ!逃げるぞ!」

「待って!彼方姫が!」

彼方姫は揺れで転倒してしまっていた。天井からパラパラと砂や石が落ちて来ている。

僕は千尋の背中を押していた。
とっさのことだった。
大きな岩がすぐ目の前に落ちてくる。危なかった。

(道が埋まっちゃった)


「加那!!」

向こう側から千尋が岩を叩く音がする。

「千尋!先に逃げて!早く!」

まだ地面は揺れている。
ここもまた崩れるかもしれない。僕は立ち上がった。
迷っている暇はない。

「彼方姫、こっちへ!」

彼女の手を掴んで僕は辺りを見回した。
ここからなんとか逃げなくちゃいけない。ふと、泉の中に目が行った。どうやら人工物らしい。一か八かやってみるしかない。

「彼方姫、泉の排水口はどこに繋がっていますか?」

彼方姫は何を言われているのか分かったらしい。

「あたしの記憶が正しければ、エアリスの地下に流れている川に繋がっているわ」

僕は泉に飛び込んだ。彼方姫も後に続く。
排水口のバルブは壁ぎわにある。それを力いっぱい回した。
水が少しずつ抜けていく音がする。ここから帰る。絶対に。

「加那太、あたしがいたら足手まといになる、置いていって」

「何を言ってるんですか?
足手まといなんかじゃ!」

「チヒロを守れないあたしなんて」

僕はもう聞かないことにした。

「彼方姫、先に謝っておきます」
 
「?」

僕は彼方姫を魔力で眠らせた。
こんなことばかり得意になっていけない。
僕はまた無意識でやっていた。

(こんな使い方、知らないはずなのに)

僕は彼方姫をおぶって泉の排水口に向かって潜った。
水が外に抜けていくのを感じる。
それから、水流にもみくちゃになりながらも、僕たちはなんとか陸に上がる。あたりは真っ暗だった。

(着いた、死ぬかと思った。
ここがエアリスの地下の川か)

目が慣れてきて、辺りが少し見えるようになってきた。
彼方姫の体を揺らすと、何度か水を吐きながら意識を取り戻した。

「大丈夫ですか?」

「バカ」

なんだか嫌われてしまったらしい。何かが鳴っている。
それがズボンのポケットに入れていた通信端末だとわかるまで、しばらくかかった。

「加那!無事なのか?」

千尋の声に泣きそうになりながら僕は頷いた。
すごく怖かった。
勢いとはいえ、ちゃんと逃げられてよかった。

「加那、よく頑張ったな。
お前の場所がわかった。すぐ行くからな」

僕たちがいたのはエアリスの町のすぐ下に流れる川のそばだったらしい。その川は整備され、水道として使われていた。

(よかった)

「加那ー!」

車の音とライトの灯りと共に、千尋の声が聞こえる。
ようやく僕たちは地上へ上がれた。

服を着替えて熱いお茶を飲んだら、少し落ち着いた。
どうやらオネストさんが近くの医療機関に連絡してくれたらしい。
地面にあった一部のがれきは避けられて、大きな白いテントが2つ建てられていた。
そこで怪我の手当てをしてもらったり、僕と同じようにお茶を飲んでいる人もいる。

(みんな生きていてよかった)

調べたところ、奇跡的に死者はいなかったらしい。

本当に怖かった。
もし、少しでも判断が遅かったら僕自身もどうなっていたかわからない。

「加那」

隣りにいた千尋に抱き寄せられた。
ここは人も大勢いるし、少し恥ずかしい。

「千尋、恥ずかしいよ」

千尋は笑いながら僕のほっぺたを摘んでぎゅう、と引っ張ってきた。
怖い。これ、やばいやつだ。

「いひゃいよ?千尋」

「俺は今、めちゃくちゃ怒っている」

「いだだだだ!」

更に強く引っ張られる。
千尋が怒るなんてものすごく珍しい。

さすがに痛くて涙が出てきた。

「お前、無茶するよな!
わかってんのかよ、自分が何したか!」

僕は必死に頷いてみせた。
なんとか千尋の怒りを抑えたい。

千尋はしばらく僕の両頬を引っ張って、満足したのか放してくれた。
うぅ、ひりひりする。

「加那太、大丈夫か?」

チヒロさんがやってくる。
オネストさんも一緒だった。

「姫を助けてくれたこと、感謝する、本当にありがとう」

チヒロさんに深々と頭を下げられる。

「いえ、そんな。
あの彼方姫は?」

「ここにいるわ」

大きいチヒロさんとオネストさんの後ろに彼女はいた。

「加那太、助けてくれて本当にありがとう。
あたしの目的は達したわ」

やっぱり彼女はさっき何かしたらしい。

「姫、あそこでなにをされたんですか?」

「癒やしの力が強過ぎても、生物にとっては害になってしまう。
だから、その力を薄め続ける薬を入れたわ」

また地響きがする。
地面が波打つように揺れた。
悲鳴が上がる。

ー許さないー

そんな声が聞こえたような気がした。
どこからだろう。
ふと気が付くと、僕は不思議な場所にいた。

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