9 / 20
神の泉
しおりを挟む
エアリスに向かう道には地震の影響か、沢山の土砂や岩が転がってきていた。
道が盛り上がってヒビが入っている部分もある、それをなんとか越えながら僕たちは先を急いだ。
「思ったより被害が大きいな」
チヒロさんが呟くと、オネストさんも頷く。
ここまで一時間程歩いてきただろうか。
なんだかとても疲れた。
「カムイ、少し休もう。
みんなの消耗が激しい」
「そうだな」
土砂崩れしそうな場所からは離れて、僕たちはそれぞれ地面に座り込んだ。
「これを持ってきてよかった」
オネストさんが、肩掛けカバンから何かを取り出した。薬のカプセルのような形をしている。それを軽く放るとお弁当箱になった。他のも放る。
それが水筒になったり、食器に変わる。
「え、すごい」
思わず言うと、オネストさんが笑う。
「災害時に使うものなんだ。
まさかここで役に立つとはな」
お弁当箱の蓋を開けると、ぎっしりサンドイッチが詰められている。
「わあ、美味しそう!」
「母が作ってくれた。さぁ、食べよう!」
僕たちは熱いお茶を飲みながらサンドイッチを摘んだ。
中の具もたっぷりで、食べごたえがある。
お腹が膨れると、少し元気になった。
僕たちは再び、エアリスに向けて歩き出した。
エアリスの看板を見つける。
ようこそ、芸術の国エアリス、なんて書いてある。
「そんな....」
彼方姫が小声で呟いた。
僕にもそれが見えていた。
町中、がれきが転がっている。
もっと中に入ると、あちこち家は壊れて、車が何台もひっくり返っている。
地震の被害だけではこうはならないだろう。
オネストさんが少し先を歩いて町を確認しはじめた。そしてこう言う。
「ここで暮らしている人が見当たらないな、遺体もない」
一体どうなっているんだろう?
突然、彼方姫が息を呑む。
僕もつられてそちらを見た。
30メートル程の緑色の巨人が、こちらに向かってゆっくり歩いてくる。
巨人のお腹には人が沢山入っていた。まさか。
「なんだあれは!」
「姫、下がってください!」
初めての戦闘がこんな相手だなんて。
でも、迷っている場合じゃない。
僕たちは巨人の前に飛び出した。近付くとますます大きい。さすがに巨人も僕たちに気がついたらしい。
右手をゆっくり僕たちに向けて差し出してきた。
それをチヒロさんが刀で断ち切る。切られた腕は蒸発するように消えた。
「気を付けろ!食べられてしまうぞ!」
「どうやら、戦いは免れないようだな」
オネストさんを光が包む。
大きな12枚の翼が彼の背中から現れた。彼が持っていた本を開くと、魔法陣が浮かび上がる。
なんて心強いんだろう。
「さぁ行くぞ!カムイ!」
「頼んだぞ、オネスト!」
巨人の動きはものすごくゆっくりだった。
おかげで僕たちは確実に相手にダメージを与えていけた。
なんだかおかしい気がする。
簡単すぎるような。
巨人はチヒロさんの一閃で消失した。中にいた人たちも無事だったようだ。よかった。
「おい、姫がいないぞ」
「え?」
千尋に言われて、僕は慌てて辺りを見回した。
彼方姫はどこに?
エアリスの町はほぼ全壊で、建物がほとんど残っていなかった。
おかげで近くにある、岩肌がむきだしになった山もよく見える。僕は無意識に魔力を目元にこめていた。
視力を一時的に上げるためだ。でもなんで僕はこんなことができるって知っているんだろう。
疑問に思いながら僕は目を凝らした。
「千尋、彼方姫がいた」
特に目立つ大きな山にはトンネルが掘られていた。
その横に、巨大な重機が何台か停めてある。
彼方姫はそのトンネルの中に消えていった。
早く追いかけないと。
チヒロさんが駆け寄ってくる。
彼もまた気が付いたらしい。
「二人共!姫は?!」
「姫はあのトンネルに入っていきました」
僕は指をさして示した。
「行こう!」
(大きいトンネルだな)
トンネルの中に入ると、向こう側まで穴が開通していなかった。まだ作っている最中なんだろうか。薄暗いしひんやりしていてなんだか怖い。
「加那、エレベーターがあるぞ」
「本当だ!」
電気は通っているらしい。
少しホッとした。
「おそらく地下を調査する時に使ったんだろう。気を付けろ。エネルギー源がありそうだ」
チヒロさんが言いながらボタンを押した。ここからは下の階にしかいけないようだ。
エレベーターに乗り込むと、狭くてなんとなく息苦しい。
僕たちは最下層についた。
「姫!!」
彼方姫がいた!
僕たちは彼女のそばに駆け寄った。そこにプールのようなものがある。それは緑色の液体で満たされていた。なんだろう、これ。
「チヒロ、覚えている?ここは神の泉。
あたしから能力を奪った泉。」
「姫。わかっています」
「この泉はあたしから貴方さえも奪おうとしたわ」
チヒロさんは辛そうに目を伏せる。
ここで、二人に何があったんだろうか。
「あたしは今日、この力を打ち消すの」
彼方姫はしゃがんで緑色の水に片手を浸けた。
それをくるくるかき回す。
グラ、と地面が波打つように揺らいだ。
地響きまでし始める。
「姫!!」
「加那!カムイ!逃げるぞ!」
「待って!彼方姫が!」
彼方姫は揺れで転倒してしまっていた。天井からパラパラと砂や石が落ちて来ている。
僕は千尋の背中を押していた。
とっさのことだった。
大きな岩がすぐ目の前に落ちてくる。危なかった。
(道が埋まっちゃった)
「加那!!」
向こう側から千尋が岩を叩く音がする。
「千尋!先に逃げて!早く!」
まだ地面は揺れている。
ここもまた崩れるかもしれない。僕は立ち上がった。
迷っている暇はない。
「彼方姫、こっちへ!」
彼女の手を掴んで僕は辺りを見回した。
ここからなんとか逃げなくちゃいけない。ふと、泉の中に目が行った。どうやら人工物らしい。一か八かやってみるしかない。
「彼方姫、泉の排水口はどこに繋がっていますか?」
彼方姫は何を言われているのか分かったらしい。
「あたしの記憶が正しければ、エアリスの地下に流れている川に繋がっているわ」
僕は泉に飛び込んだ。彼方姫も後に続く。
排水口のバルブは壁ぎわにある。それを力いっぱい回した。
水が少しずつ抜けていく音がする。ここから帰る。絶対に。
「加那太、あたしがいたら足手まといになる、置いていって」
「何を言ってるんですか?
足手まといなんかじゃ!」
「チヒロを守れないあたしなんて」
僕はもう聞かないことにした。
「彼方姫、先に謝っておきます」
「?」
僕は彼方姫を魔力で眠らせた。
こんなことばかり得意になっていけない。
僕はまた無意識でやっていた。
(こんな使い方、知らないはずなのに)
僕は彼方姫をおぶって泉の排水口に向かって潜った。
水が外に抜けていくのを感じる。
それから、水流にもみくちゃになりながらも、僕たちはなんとか陸に上がる。あたりは真っ暗だった。
(着いた、死ぬかと思った。
ここがエアリスの地下の川か)
目が慣れてきて、辺りが少し見えるようになってきた。
彼方姫の体を揺らすと、何度か水を吐きながら意識を取り戻した。
「大丈夫ですか?」
「バカ」
なんだか嫌われてしまったらしい。何かが鳴っている。
それがズボンのポケットに入れていた通信端末だとわかるまで、しばらくかかった。
「加那!無事なのか?」
千尋の声に泣きそうになりながら僕は頷いた。
すごく怖かった。
勢いとはいえ、ちゃんと逃げられてよかった。
「加那、よく頑張ったな。
お前の場所がわかった。すぐ行くからな」
僕たちがいたのはエアリスの町のすぐ下に流れる川のそばだったらしい。その川は整備され、水道として使われていた。
(よかった)
「加那ー!」
車の音とライトの灯りと共に、千尋の声が聞こえる。
ようやく僕たちは地上へ上がれた。
服を着替えて熱いお茶を飲んだら、少し落ち着いた。
どうやらオネストさんが近くの医療機関に連絡してくれたらしい。
地面にあった一部のがれきは避けられて、大きな白いテントが2つ建てられていた。
そこで怪我の手当てをしてもらったり、僕と同じようにお茶を飲んでいる人もいる。
(みんな生きていてよかった)
調べたところ、奇跡的に死者はいなかったらしい。
本当に怖かった。
もし、少しでも判断が遅かったら僕自身もどうなっていたかわからない。
「加那」
隣りにいた千尋に抱き寄せられた。
ここは人も大勢いるし、少し恥ずかしい。
「千尋、恥ずかしいよ」
千尋は笑いながら僕のほっぺたを摘んでぎゅう、と引っ張ってきた。
怖い。これ、やばいやつだ。
「いひゃいよ?千尋」
「俺は今、めちゃくちゃ怒っている」
「いだだだだ!」
更に強く引っ張られる。
千尋が怒るなんてものすごく珍しい。
さすがに痛くて涙が出てきた。
「お前、無茶するよな!
わかってんのかよ、自分が何したか!」
僕は必死に頷いてみせた。
なんとか千尋の怒りを抑えたい。
千尋はしばらく僕の両頬を引っ張って、満足したのか放してくれた。
うぅ、ひりひりする。
「加那太、大丈夫か?」
チヒロさんがやってくる。
オネストさんも一緒だった。
「姫を助けてくれたこと、感謝する、本当にありがとう」
チヒロさんに深々と頭を下げられる。
「いえ、そんな。
あの彼方姫は?」
「ここにいるわ」
大きいチヒロさんとオネストさんの後ろに彼女はいた。
「加那太、助けてくれて本当にありがとう。
あたしの目的は達したわ」
やっぱり彼女はさっき何かしたらしい。
「姫、あそこでなにをされたんですか?」
「癒やしの力が強過ぎても、生物にとっては害になってしまう。
だから、その力を薄め続ける薬を入れたわ」
また地響きがする。
地面が波打つように揺れた。
悲鳴が上がる。
ー許さないー
そんな声が聞こえたような気がした。
どこからだろう。
ふと気が付くと、僕は不思議な場所にいた。
道が盛り上がってヒビが入っている部分もある、それをなんとか越えながら僕たちは先を急いだ。
「思ったより被害が大きいな」
チヒロさんが呟くと、オネストさんも頷く。
ここまで一時間程歩いてきただろうか。
なんだかとても疲れた。
「カムイ、少し休もう。
みんなの消耗が激しい」
「そうだな」
土砂崩れしそうな場所からは離れて、僕たちはそれぞれ地面に座り込んだ。
「これを持ってきてよかった」
オネストさんが、肩掛けカバンから何かを取り出した。薬のカプセルのような形をしている。それを軽く放るとお弁当箱になった。他のも放る。
それが水筒になったり、食器に変わる。
「え、すごい」
思わず言うと、オネストさんが笑う。
「災害時に使うものなんだ。
まさかここで役に立つとはな」
お弁当箱の蓋を開けると、ぎっしりサンドイッチが詰められている。
「わあ、美味しそう!」
「母が作ってくれた。さぁ、食べよう!」
僕たちは熱いお茶を飲みながらサンドイッチを摘んだ。
中の具もたっぷりで、食べごたえがある。
お腹が膨れると、少し元気になった。
僕たちは再び、エアリスに向けて歩き出した。
エアリスの看板を見つける。
ようこそ、芸術の国エアリス、なんて書いてある。
「そんな....」
彼方姫が小声で呟いた。
僕にもそれが見えていた。
町中、がれきが転がっている。
もっと中に入ると、あちこち家は壊れて、車が何台もひっくり返っている。
地震の被害だけではこうはならないだろう。
オネストさんが少し先を歩いて町を確認しはじめた。そしてこう言う。
「ここで暮らしている人が見当たらないな、遺体もない」
一体どうなっているんだろう?
突然、彼方姫が息を呑む。
僕もつられてそちらを見た。
30メートル程の緑色の巨人が、こちらに向かってゆっくり歩いてくる。
巨人のお腹には人が沢山入っていた。まさか。
「なんだあれは!」
「姫、下がってください!」
初めての戦闘がこんな相手だなんて。
でも、迷っている場合じゃない。
僕たちは巨人の前に飛び出した。近付くとますます大きい。さすがに巨人も僕たちに気がついたらしい。
右手をゆっくり僕たちに向けて差し出してきた。
それをチヒロさんが刀で断ち切る。切られた腕は蒸発するように消えた。
「気を付けろ!食べられてしまうぞ!」
「どうやら、戦いは免れないようだな」
オネストさんを光が包む。
大きな12枚の翼が彼の背中から現れた。彼が持っていた本を開くと、魔法陣が浮かび上がる。
なんて心強いんだろう。
「さぁ行くぞ!カムイ!」
「頼んだぞ、オネスト!」
巨人の動きはものすごくゆっくりだった。
おかげで僕たちは確実に相手にダメージを与えていけた。
なんだかおかしい気がする。
簡単すぎるような。
巨人はチヒロさんの一閃で消失した。中にいた人たちも無事だったようだ。よかった。
「おい、姫がいないぞ」
「え?」
千尋に言われて、僕は慌てて辺りを見回した。
彼方姫はどこに?
エアリスの町はほぼ全壊で、建物がほとんど残っていなかった。
おかげで近くにある、岩肌がむきだしになった山もよく見える。僕は無意識に魔力を目元にこめていた。
視力を一時的に上げるためだ。でもなんで僕はこんなことができるって知っているんだろう。
疑問に思いながら僕は目を凝らした。
「千尋、彼方姫がいた」
特に目立つ大きな山にはトンネルが掘られていた。
その横に、巨大な重機が何台か停めてある。
彼方姫はそのトンネルの中に消えていった。
早く追いかけないと。
チヒロさんが駆け寄ってくる。
彼もまた気が付いたらしい。
「二人共!姫は?!」
「姫はあのトンネルに入っていきました」
僕は指をさして示した。
「行こう!」
(大きいトンネルだな)
トンネルの中に入ると、向こう側まで穴が開通していなかった。まだ作っている最中なんだろうか。薄暗いしひんやりしていてなんだか怖い。
「加那、エレベーターがあるぞ」
「本当だ!」
電気は通っているらしい。
少しホッとした。
「おそらく地下を調査する時に使ったんだろう。気を付けろ。エネルギー源がありそうだ」
チヒロさんが言いながらボタンを押した。ここからは下の階にしかいけないようだ。
エレベーターに乗り込むと、狭くてなんとなく息苦しい。
僕たちは最下層についた。
「姫!!」
彼方姫がいた!
僕たちは彼女のそばに駆け寄った。そこにプールのようなものがある。それは緑色の液体で満たされていた。なんだろう、これ。
「チヒロ、覚えている?ここは神の泉。
あたしから能力を奪った泉。」
「姫。わかっています」
「この泉はあたしから貴方さえも奪おうとしたわ」
チヒロさんは辛そうに目を伏せる。
ここで、二人に何があったんだろうか。
「あたしは今日、この力を打ち消すの」
彼方姫はしゃがんで緑色の水に片手を浸けた。
それをくるくるかき回す。
グラ、と地面が波打つように揺らいだ。
地響きまでし始める。
「姫!!」
「加那!カムイ!逃げるぞ!」
「待って!彼方姫が!」
彼方姫は揺れで転倒してしまっていた。天井からパラパラと砂や石が落ちて来ている。
僕は千尋の背中を押していた。
とっさのことだった。
大きな岩がすぐ目の前に落ちてくる。危なかった。
(道が埋まっちゃった)
「加那!!」
向こう側から千尋が岩を叩く音がする。
「千尋!先に逃げて!早く!」
まだ地面は揺れている。
ここもまた崩れるかもしれない。僕は立ち上がった。
迷っている暇はない。
「彼方姫、こっちへ!」
彼女の手を掴んで僕は辺りを見回した。
ここからなんとか逃げなくちゃいけない。ふと、泉の中に目が行った。どうやら人工物らしい。一か八かやってみるしかない。
「彼方姫、泉の排水口はどこに繋がっていますか?」
彼方姫は何を言われているのか分かったらしい。
「あたしの記憶が正しければ、エアリスの地下に流れている川に繋がっているわ」
僕は泉に飛び込んだ。彼方姫も後に続く。
排水口のバルブは壁ぎわにある。それを力いっぱい回した。
水が少しずつ抜けていく音がする。ここから帰る。絶対に。
「加那太、あたしがいたら足手まといになる、置いていって」
「何を言ってるんですか?
足手まといなんかじゃ!」
「チヒロを守れないあたしなんて」
僕はもう聞かないことにした。
「彼方姫、先に謝っておきます」
「?」
僕は彼方姫を魔力で眠らせた。
こんなことばかり得意になっていけない。
僕はまた無意識でやっていた。
(こんな使い方、知らないはずなのに)
僕は彼方姫をおぶって泉の排水口に向かって潜った。
水が外に抜けていくのを感じる。
それから、水流にもみくちゃになりながらも、僕たちはなんとか陸に上がる。あたりは真っ暗だった。
(着いた、死ぬかと思った。
ここがエアリスの地下の川か)
目が慣れてきて、辺りが少し見えるようになってきた。
彼方姫の体を揺らすと、何度か水を吐きながら意識を取り戻した。
「大丈夫ですか?」
「バカ」
なんだか嫌われてしまったらしい。何かが鳴っている。
それがズボンのポケットに入れていた通信端末だとわかるまで、しばらくかかった。
「加那!無事なのか?」
千尋の声に泣きそうになりながら僕は頷いた。
すごく怖かった。
勢いとはいえ、ちゃんと逃げられてよかった。
「加那、よく頑張ったな。
お前の場所がわかった。すぐ行くからな」
僕たちがいたのはエアリスの町のすぐ下に流れる川のそばだったらしい。その川は整備され、水道として使われていた。
(よかった)
「加那ー!」
車の音とライトの灯りと共に、千尋の声が聞こえる。
ようやく僕たちは地上へ上がれた。
服を着替えて熱いお茶を飲んだら、少し落ち着いた。
どうやらオネストさんが近くの医療機関に連絡してくれたらしい。
地面にあった一部のがれきは避けられて、大きな白いテントが2つ建てられていた。
そこで怪我の手当てをしてもらったり、僕と同じようにお茶を飲んでいる人もいる。
(みんな生きていてよかった)
調べたところ、奇跡的に死者はいなかったらしい。
本当に怖かった。
もし、少しでも判断が遅かったら僕自身もどうなっていたかわからない。
「加那」
隣りにいた千尋に抱き寄せられた。
ここは人も大勢いるし、少し恥ずかしい。
「千尋、恥ずかしいよ」
千尋は笑いながら僕のほっぺたを摘んでぎゅう、と引っ張ってきた。
怖い。これ、やばいやつだ。
「いひゃいよ?千尋」
「俺は今、めちゃくちゃ怒っている」
「いだだだだ!」
更に強く引っ張られる。
千尋が怒るなんてものすごく珍しい。
さすがに痛くて涙が出てきた。
「お前、無茶するよな!
わかってんのかよ、自分が何したか!」
僕は必死に頷いてみせた。
なんとか千尋の怒りを抑えたい。
千尋はしばらく僕の両頬を引っ張って、満足したのか放してくれた。
うぅ、ひりひりする。
「加那太、大丈夫か?」
チヒロさんがやってくる。
オネストさんも一緒だった。
「姫を助けてくれたこと、感謝する、本当にありがとう」
チヒロさんに深々と頭を下げられる。
「いえ、そんな。
あの彼方姫は?」
「ここにいるわ」
大きいチヒロさんとオネストさんの後ろに彼女はいた。
「加那太、助けてくれて本当にありがとう。
あたしの目的は達したわ」
やっぱり彼女はさっき何かしたらしい。
「姫、あそこでなにをされたんですか?」
「癒やしの力が強過ぎても、生物にとっては害になってしまう。
だから、その力を薄め続ける薬を入れたわ」
また地響きがする。
地面が波打つように揺れた。
悲鳴が上がる。
ー許さないー
そんな声が聞こえたような気がした。
どこからだろう。
ふと気が付くと、僕は不思議な場所にいた。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
隊長さんとボク
ばたかっぷ
BL
ボクの名前はエナ。
エドリアーリアナ国の守護神獣だけど、斑色の毛並みのボクはいつもひとりぼっち。
そんなボクの前に現れたのは優しい隊長さんだった――。
王候騎士団隊長さんが大好きな小動物が頑張る、なんちゃってファンタジーです。
きゅ~きゅ~鳴くもふもふな小動物とそのもふもふを愛でる隊長さんで構成されています。
えろ皆無らぶ成分も極小ですσ(^◇^;)本格ファンタジーをお求めの方は回れ右でお願いします~m(_ _)m
過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます
水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。
家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。
絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。
「大丈夫だ。俺がいる」
彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。
これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。
無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
悪役令息の兄って需要ありますか?
焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。
その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。
これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
