僕らのもう一つの物語

はやしかわともえ

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ミユとチヒロ

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小さいミユは小さい翼で飛んでいる。僕たちはそれを走って追っていた。

「加那太、今暴走してるのは僕だ。それを止めるためにこの僕がいる」

「ワケがわからないよ」

「だろうね」

ミユが笑う。
僕達が走っているのは普通の場所ではないようだ。
周りの景色がどんどん変わる。

「ミユ、これからどこに行くの?」

「彼方のところだよ。君のためにペンダントを作ってくれただろ。彼女は僕の指令で、ある薬を作ってくれたんだ」

「姫はこうなることを知っていたってのか?」

千尋の言葉に彼は唸った。

「まあいろいろ事情はあるんだけど。できればもっと早く止めたかった」

見慣れた景色が広がっている。それは確かにプラチナだった。
いつもの森のそばにある、お屋敷に僕たちは飛びこんだ。
彼方姫がいる。彼女はずっとここで待っていたらしい。

「ミユ、待っていた」

「彼方、いつもすまない。君の力が要るんだ」

「分かっている。あたしにはそれしか出来ない」

彼方姫が差し出したのは黒い手のひら大のケースだった。

「薬はここに」

僕がそれを受け取る。ケースを開けると、中には赤色のカプセルが二粒。

「ミユが集めてきてくれた上質な材料で、良い薬を作れたの」

彼方姫はニコニコしながら言う。 今は仮面ではなく、黒い眼帯をしていた。
なんだか雰囲気も違う気がする。
彼女なりに前に進めたんだろうか?

「彼方、本当にありがとう。兄さんを僕は助けたいんだ」

彼方姫は頷いた。

「ミユ、あたしはいつも祈っているわ」

「ありがとう。さあ、二人とも行こうか」

僕たちはまた来た道を引き返していた。
正直、事情がよくわかっていない。
でも今はそれどころじゃない。
早く暴走しているミユを止めないと。


先程の場所に戻ってきたらしい。まだ二人は戦っていた。
これでは薬を飲ませるどころではない。
僕の疑問を察したのか、ミユは笑う。

「どうやって薬を飲ませるのかわからないみたいだね、加那太?」

「うん、全然見当もつかないよ」

「そこで君達に頼みたいことがあるんだ」

「?」

ミユは笑う。

「二人には過去に遡って欲しいんだ」

まったく訳が分からない。千尋も同じようで、僕を見て肩をすくめた。

「説明している時間はないよ。でも必ず君たちなら出来る。
信じている」

ミユの声が遠くなっていく。僕が気が付くと、ベッドに横になっていた。

(あれ?僕、なんでここに?)

「加那!大丈夫か?」

「千尋?」

千尋が僕を心配そうにのぞき込んでいた。
ここは学校の保健室だ。
それに何故か学校の制服を着ている。しかも夏服だった。
保健室の中は空調が利いてないのか蒸し暑い。僕はあたりを見回した。窓が開いている。保健室の壁に貼ってあるカレンダーを見ると七月だった。

(あれえ?さっきの全部夢だったのかな?)

ふと気になって胸元を探る。
あの赤いペンダントがきらめいている。

(夢じゃない。現実だったんだ)

「千尋?さっきまでのこと、覚えてる?」

「当たり前だろ。忘れようがない」

本当に僕たちは過去に遡ったらしい。
でもヴァーズの世界にここからどうやって行けばいいのかもわからない。

「なあ加那?ここ、日本じゃないよな」

「へ?」

千尋は一体何を言い出すんだろう。ここは間違いなく、大平高校の保健室だ。
千尋は続けてこう言った。

「さっき、確認したけど、ここ学校じゃねえよ?外はプラチナの図書館になってる」

「はあ?」

僕は飛び起きて保健室の入り口のドアを開けた。外にはぎっしり本棚が並んでいる。

「本当だ。でもなんで?」

「さあな。とりあえずこここから出ようぜ」

「うん」

保健室を出て、中を探索していると見覚えのある人の姿が目に入った。
架良さんだ。

「架良さん!」

思わず声をかけると、彼女が気が付いて駆け寄ってきた。
今日は袖の部分が透けているセクシーなワンピースを着ている。

「まあ、お二人ともごきげんよう」

架良さんはにこっと笑う。
つい勢いで声をかけてしまったけれど、彼女がなんで僕たちのことを知っているんだろう?
ここは半年前の世界のはずなのに。

「架良さん?どうして僕たちのこと」

「お二人とも、困っているようですわね?」

質問の答えをはぐらかされた。
彼女が唇の前に人差し指を立てる。

「お二人は今、次元の狭間にいます。ここから抜け出す方法を知りたいですか?」

そんなの決まっている。

「知りたいです」

彼女は頷いた。

「では、私の力をお貸ししましょう。お二人のお役に立てて何よりです」

架良さんはそう言って、右手に杖を出した。
彼女は一体何者なんだろう。

「えい」

そう言って彼女が杖を振る。僕たちは下に落ちていた。
架良さんの声が響く。

「加那太さま、千尋さま。
あなた達は知らなくてはいけません。今まで何が起きたのかを」

「あなたは何者なんですか?」

僕の問いに彼女はくすり、と笑った。

「私はどこにでもいるOLですわ」

ふわり、と僕たちは地面に降り立った。目の前には木製の扉。ここは。

「リバーズって書いてある」

「ここがヴァーズの前の世界か」

僕はぎゅ、とドアノブを握って回した。
中へ入るとドアが消えてしまう。
リバーズもヴァーズ同様、普通の世界だった。
誰かがこちらへ走ってくる。
僕たちは慌てて木の陰に隠れた。
小声で千尋が言う。

「なあ加那、ここに俺たちがいるのってすごくマズくないか?」

「僕もそう思うよ」

でももう来てしまったし仕方ない。
誰が走ってきたのか、確認する。

「ミユだ」

「ああ」

彼の背中から白い翼が生えている。どうやら僕の知っているいつものミユのようだ。
彼が大きな屋敷に入っていくのが見える。僕たちも門をくぐって、近くの茂みに隠れて様子をうかがう。
中にはチヒロさんもいた。二人の声が聞こえる。

「兄さん!」


「ミユ、もうここには来るなと言ったはずだ」


「どうしてさ?僕だってリバーズを守りたい!兄さんだってそうだろ?」


チヒロさんがミユを抱きしめる。


「分かっている。でも俺はお前の兄だ。お前に病気になって欲しくない」

「兄さん」

話からすると、リバーズにうすれ病が流行り始めた頃らしい。

「おい、お前たちはなんなんだ?」

チヒロさんがこちらを見て言う。
バレてる。

「えっと、僕たちは・・・」

「兄さん、この子達、僕の友達だよ?まだ紹介してなかったよね」

ミユの意外な言葉に僕達は驚いた。
チヒロさんもそうか、と頷く。

「なら家でおやつでも食べていくといい。ミユ、もうここには来るなよ」

「わかった。行こう」

ミユに続いて僕たちも歩き出した。

「ね、君たち誰?初めて見る顔だね。他の国から来たの?」

ミユは楽しそうに話しかけてきた。こうして話してみるとミユはどこにでもいる普通の子だ。

「うん、そんな感じ。えっと、僕、加那太」

「オレは千尋だ」

「え?、兄さんと同じ名前。珍しいな。それにかなたって」

「うん、知ってるよ。お姫様の名前もかなただもんね」

僕がそう言うと、彼は嬉しそうに笑った。



ミユの家はマンションの一階だった。
部屋に入ると中は広い。チヒロさんと一緒に暮らしているんだろうか。

ソファで座って待つように言われる。

「カムイはあそこで何をしていたんだろうな」

ぽつと千尋が呟く。
確かに。

「二人とも、マフィンは好き?兄さんが買ってきてくれてたよ。
僕、これ大好きなんだよね」

それはエアリスに行く前に食べた大きなマフィンだった。
チヒロさんはあの時、きっとミユを思って買ったのに違いなかった。

「ねえ、二人って本当にどこから来たの?僕にだけ教えてよ」

ミユが目をキラキラさせながら言う。
話しても大丈夫かな。

「俺たちは人助けでここに来たんだ」

「え、何それ?ほんとなの?」

それは間違っていない。
ミユがもきゅ、と一口、マフィンを頬張る。

「ひみはひもたへてね」(君達も食べてね)

ミユの一口が大きすぎてほっぺが、リスみたいになっているのがおかしくて、僕は思わず笑ってしまった。

「ミユ、君は信じないかもしれないけれど」

僕は話し始めた。


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