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夕方の部
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「ちょっとちょっと、斉藤くん?
美味しいお酒は分かったけど、他の子達は行かないの?夕方の部って一体何なのよ?」
林田が慌てている。
千晶は笑って頷いた。
「そのお店、規模が小さくて、入れても四人が限界なんです。それに林田さんくらいお酒に詳しい方に来て欲しいって、お店のホームページに書いてありました」
(千晶、あくまでとぼけるつもりなんだな)
こっそり笑う真司である。
「そ…そうなの?」
「はい」
千晶がはっきり頷く。
だんだん日が延びて日没が遅くなったとは言え、太陽は傾き始めている。
三人は電車を乗り継いで目的の店に移動した。夜になるとまだ肌寒い。
移動している間に、日が落ちて暗くなっている。
「生ビールから日本酒まで色々そろってるみたいで、しかもリーズナブルなことで人気なお店なんですよ」
千晶が先程から林田にその店についてプレゼンしている。
「じゃあ予約大変だったんじゃない?」
林田はまだ戸惑い気味だ。
何も知らない彼女を少し不憫に思ってしまう真司だが、これからのことを思えば仕方ないと自分に言い聞かせる。
千晶ははっきりこう言った。
「俺、スイーツ系のブログを書いていて、そこでそのお店の大将と知り合ったんです。でも俺はあまりお酒には詳しくないしなかなか行く機会がなくって」
千晶が言っていることは全て真実だ。
真司も林田と同じような質問をしたからである。
「斉藤くん、パワフルねぇ」
ほう…と林田が息をついている。
「だから今日は林田さんに是非来てもらいたいんです」
にっこりと千晶は笑った。
店に着く頃には、体がすっかり冷え切っていた。
引き戸を開けるとこじんまりとした空間が広がっている。確かに四人入ればやっとという感じだ。
「いらっしゃい、千晶さん!来てくれたんだね!」
「大将、遅くなりました。すみません」
「いやいや、よかったよ。ここまで迷わなかった?」
「はい。地図分かりやすかったです」
林田はハッと息を呑む。
「課長?!」
課長が顔を上げて目を細めた。
「こんばんは、林田さん」
「課長もこのお店のこと知ってたんですか?」
「うん。美味しいお店があるって知ってね」
(課長もなかなか役者だな)
真司は思わず、感心してしまった。
もちろんこの時間に店に来るように千晶から彼に伝えてある。
真司は林田と課長が隣の席に座れるようにそっと誘導しておいた。
「千晶さんはビール?そちらさんは?」
「あ、じゃあ俺もビールで」
「あいよ!」
大将という割に彼は若い。真司より少し年下くらいに見える。
「お兄さんが千晶さんの彼氏さん?」
こそっと大将に聞かれて、真司は頷いた。
「本当に仲良しなんですね」
にっこり笑われる。
「お姉さんはどうされますか?」
「あ、じゃあ私は熱燗を」
「あいよ!」
お通しが出されて、酒をちびちび飲みながら料理を楽しむ。
「課長ってば、何か私に隠してません?」
だんだん酒が回り気持ち良くなってきた。
林田がろれつの回らない口調で課長に言う。
「そうだねぇ。僕がここにいるのは偶然じゃないってことかなぁ」
「それって…」
林田が固まる。
おもむろに課長は立ち上がり鞄の下からあるものを取り出す。
それは、一輪の赤いバラだった。
「林田さん、僕と結婚を前提に付き合って欲しい」
「わ…」
林田は小さく叫んでしばらく固まっていた。
「駄目だっただろうか?」
「課長!!嬉しい!!!」
林田が課長に抱き着く。
千晶が真司に向かって親指を立ててみせる。真司もそれに頷いた。
ーーー
千晶と真司はいつものように手を繋いで家まで歩いて帰っている。
「ふー、今日は沢山食べたな」
「日本酒美味しかったですね」
真司はずっと思っていたことを言ってしまうことにした。
「千晶は課長が林田さんを好きって知ってたんだろ?」
「うーん、薄々とは。でも、確信に変わったのは今回お誘いした時です」
「へー」
「課長、今回誘った時、すごく嬉しそうでしたから。何かあるなとは思いました」
「いきなりのプロポーズだもんな」
「はい。お二人には幸せになってもらいたいですね」
真司も千晶と同じ気持ちだった。
美味しいお酒は分かったけど、他の子達は行かないの?夕方の部って一体何なのよ?」
林田が慌てている。
千晶は笑って頷いた。
「そのお店、規模が小さくて、入れても四人が限界なんです。それに林田さんくらいお酒に詳しい方に来て欲しいって、お店のホームページに書いてありました」
(千晶、あくまでとぼけるつもりなんだな)
こっそり笑う真司である。
「そ…そうなの?」
「はい」
千晶がはっきり頷く。
だんだん日が延びて日没が遅くなったとは言え、太陽は傾き始めている。
三人は電車を乗り継いで目的の店に移動した。夜になるとまだ肌寒い。
移動している間に、日が落ちて暗くなっている。
「生ビールから日本酒まで色々そろってるみたいで、しかもリーズナブルなことで人気なお店なんですよ」
千晶が先程から林田にその店についてプレゼンしている。
「じゃあ予約大変だったんじゃない?」
林田はまだ戸惑い気味だ。
何も知らない彼女を少し不憫に思ってしまう真司だが、これからのことを思えば仕方ないと自分に言い聞かせる。
千晶ははっきりこう言った。
「俺、スイーツ系のブログを書いていて、そこでそのお店の大将と知り合ったんです。でも俺はあまりお酒には詳しくないしなかなか行く機会がなくって」
千晶が言っていることは全て真実だ。
真司も林田と同じような質問をしたからである。
「斉藤くん、パワフルねぇ」
ほう…と林田が息をついている。
「だから今日は林田さんに是非来てもらいたいんです」
にっこりと千晶は笑った。
店に着く頃には、体がすっかり冷え切っていた。
引き戸を開けるとこじんまりとした空間が広がっている。確かに四人入ればやっとという感じだ。
「いらっしゃい、千晶さん!来てくれたんだね!」
「大将、遅くなりました。すみません」
「いやいや、よかったよ。ここまで迷わなかった?」
「はい。地図分かりやすかったです」
林田はハッと息を呑む。
「課長?!」
課長が顔を上げて目を細めた。
「こんばんは、林田さん」
「課長もこのお店のこと知ってたんですか?」
「うん。美味しいお店があるって知ってね」
(課長もなかなか役者だな)
真司は思わず、感心してしまった。
もちろんこの時間に店に来るように千晶から彼に伝えてある。
真司は林田と課長が隣の席に座れるようにそっと誘導しておいた。
「千晶さんはビール?そちらさんは?」
「あ、じゃあ俺もビールで」
「あいよ!」
大将という割に彼は若い。真司より少し年下くらいに見える。
「お兄さんが千晶さんの彼氏さん?」
こそっと大将に聞かれて、真司は頷いた。
「本当に仲良しなんですね」
にっこり笑われる。
「お姉さんはどうされますか?」
「あ、じゃあ私は熱燗を」
「あいよ!」
お通しが出されて、酒をちびちび飲みながら料理を楽しむ。
「課長ってば、何か私に隠してません?」
だんだん酒が回り気持ち良くなってきた。
林田がろれつの回らない口調で課長に言う。
「そうだねぇ。僕がここにいるのは偶然じゃないってことかなぁ」
「それって…」
林田が固まる。
おもむろに課長は立ち上がり鞄の下からあるものを取り出す。
それは、一輪の赤いバラだった。
「林田さん、僕と結婚を前提に付き合って欲しい」
「わ…」
林田は小さく叫んでしばらく固まっていた。
「駄目だっただろうか?」
「課長!!嬉しい!!!」
林田が課長に抱き着く。
千晶が真司に向かって親指を立ててみせる。真司もそれに頷いた。
ーーー
千晶と真司はいつものように手を繋いで家まで歩いて帰っている。
「ふー、今日は沢山食べたな」
「日本酒美味しかったですね」
真司はずっと思っていたことを言ってしまうことにした。
「千晶は課長が林田さんを好きって知ってたんだろ?」
「うーん、薄々とは。でも、確信に変わったのは今回お誘いした時です」
「へー」
「課長、今回誘った時、すごく嬉しそうでしたから。何かあるなとは思いました」
「いきなりのプロポーズだもんな」
「はい。お二人には幸せになってもらいたいですね」
真司も千晶と同じ気持ちだった。
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