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二十六章
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1・精霊。それは妖精とも言われることがある。神聖な存在であり、俺たちは滅多に遭遇できない。彼らは生や死というものを自在に操れる。シャオの語り口はそこから始まった。
「俺たちは丸い世界の半分に暮らしている。精霊はもうその半分。いわゆる、陰と陽だ。俺たちの世界とその精霊世界は、陰と陽を交互に繰り返しながら暮らしている」
シャオの話は難しくて、正直よく分からなかった。でも、一つ確実に分かったことがある。それは俺たちの暮らす世界以外に、もう一つ世界がある、ということだ。
それが精霊界と呼ばれる所らしい。そこに誤って足を踏み入れたが最期、ここには二度と戻ってこられないのだと言う。その世界で何かが起きて、死ぬから戻ってこられないのか、住み心地がよくて幸せのあまり戻ってこられないのか、誰にも分からないのだと言う。まるでおとぎ話のようだ。この事実は世間には伏せられている。シャオのような王族や高い位の騎士なんかにはなんとなく伝えられるらしいけれど、知らない者も少なくないのだと言う。シャオがこの事実を知らされた時、まだ八つにも満たなかったと皮肉そうに笑った。王族だからという理由だけで、知らない世界があるなんて聞かされても信じられないだろうし、怖いだけだと思う。
シャオは頭がいいし元々の能力も高い。幼い頃からなんとなく精霊界の存在を感じ取っていたという。
「ましろ、お前にはあまりこのことを報せたくなかったが、そいつらが動き出したらしいからな。クラリスもいるんだろ?あー、めんどくせえな」
シャオは心底面倒くさいらしい。
バタリと座っていたベッドに背中から倒れ込んだ。
「ましろー、頼む、膝枕しろー」
シャオが甘えた声で言う。疲れちゃったんだな。俺の膝に頭を載せたシャオの髪の毛を撫でていると、気持ちよさそうにしている。シャオの黒髪は艶があってサラサラだ。睫毛も長い。可愛いな。
「シャオ、よしよし」
しばらくしたらシャオは寝落ちしていた。疲れてるんだよな。少しでも休めますように。シャオの額に手を乗せて、調和の白魔法をかけておいた。この魔法は体と心のバランスを整えてくれる。気休めなんて言われてしまう魔法の一つだけど、俺は好きだ。そのヒトを思った優しい魔法だとおもうから。
ふと気が付くと、俺は寝かされていた。隣にシャオがいる。つまり、添い寝状態だ。
「起きたか?ましろ」
「ごめん、寝ちゃった」
「何で謝る?お前も疲れてるだろ?」
シャオが不思議そうに言った。優しいなぁ。
「そうだ、いいものがある!」
パッと顔を輝かせたシャオが、どこからともなくなにかを取り出した。なんだろう?紙袋?
「睡蓮が街でパンを買ってきてくれた!!」
確かに袋からいい匂いがする。口の中にじゅわりと唾液が溢れる。今、めちゃくちゃお腹が空いていることに気が付いた。
「いい匂いだね」
笑ったらシャオも笑った。マシャは今頃、どうしてるだろう。ふと、彼の泣き顔が頭を過る。シャオにもそれが伝わったらしい。顔を歪めた。
「心配だよな…」
「うん」
シャオと二人でパンを食べた。大きなリンゴがごろっと入ったアップルパイと、チーズが中でとろけている大きなパンだ。どちらも温かくて美味しい。
「うん、悪くないな」
シャオがもりもり食べている。しばらくパンを咀嚼して飲みこんだ。
「ましろ、実は今、フギたちに頼んで他の祠を探ってもらっている」
「封印は?」
「今のところまだ解かれていない。異神は基本的に若い神々だからな。封印を解くには力が足りないんだろうな」
「その子達が今回の騒動を起こしたの?それがクラリスっていう集団?」
「そうみたいだな。それに、調べてみたら神々が起こす事件は珍しくないらしい。結構クラリスのやつらが旧い神々にちょっかいを出しているみたいだな。クラリスなんて名前は初めて聞いたけど」
「そう…なんだ」
シャオによれば昔ながらの神々と異神と呼ばれる若い神々の争いは頻繁に起きているようだ。世代交代をしろ、というのが異神、クラリスの要求らしい。
だからって世界を巻き込む必要はないだろう。ヒト騒がせだな。
「とりあえず、お前の武器が直り次第やつらのアジトに向かう。マシャを連れていった理由もわかるはずだ」
「分かった」
「ましろ、お前、まだ疲れてそうだな」
シャオが俺の腕を掴んでモミモミしてくる。痛いけど気持ちいい。
「いつもお前は自分を後回しにするから心配になる」
「シャオだってそうじゃない」
「俺は最強だからいいんだ。ましろはもっと俺を頼れ」
「ありがとう」
シャオのマッサージは気持ちいい。ふと気が付いたら変な場所にいた。周りが暗い。なんだか前もこんなことがあった気がする。足元には水が張ってあるのか冷たかった。でも、周りの外気が暖かいからそんなに気にならない。それにしてもここ、どこだろう?
じゃぶじゃぶと水しぶきをあげながらしばらく歩くと光が見えてくる。俺はトンネルみたいな所にいたらしい。
「ましろ…」
名前を呼ばれて、俺は驚いた。目の前にいるその子に。
だってセレアにすごく似ていたからだ。でも、その子は間違いなく女の子だった。長い金髪をツインテールにした女の子。服装は黒のワンピースだけ。
「君は誰なの?」
「まくろ。精霊」
彼女はそれだけ言ってじっとこちらを見つめてきた。赤い瞳にドキリとする。全てを見透かされているような感覚を覚える。
「まくろちゃん、精霊たちは何をしようとしてるの?」
「探してる…」
「探してる?何…」
何を?と問おうとしたら、ざああっと目の前が暗くなる。俺をこの世界は拒否しているようだ。気が付くと、シャオがいた。
「大丈夫か?ましろ」
俺は頷いた。どうやらシャオはずっと俺に呼び掛けていてくれたらしい。
「精霊の夢を見たよ」
俺が起き上がるのをシャオは助けてくれた。シャオに詳しく説明するとシャオが言った。
「こちら側から精霊に接触するのはほとんど不可能だ。精霊界は基本的に閉じられているからな」
「じゃあ向こうから接触してきたってこと?」
「おそらくな。しかもかなり強力な力を持っているやつだ。精霊、一人一人は微弱な力しか持たない。まくろ、か。お前に名前が似てるのは偶然か?」
「その子、セレアに似てて」
「んー」
シャオが腕を組んで考え出す。
「とりあえず今の情報はみんなに共有しておくか」
「そんなこと出来るの?」
俺が驚くと、シャオが自慢げに胸を反らす。
「俺は最強魔王だ。そんなのは簡単だぜ」
「さすがシャオだね」
こういう時のシャオは大抵褒めて欲しいと思っている。可愛いな。それにしても寝たり起きたりを繰り返していたら、時間の感覚がおかしくなったな。時計を見ると四時だった。しかも朝らしい。
「もう朝?」
「あぁ。風呂でも入るか?」
「いいかもしれない」
「お、じゃあ一緒に入ろう」
シャオがるんるんしながら湯船にお湯をため始めた。この辺りは温泉が出るらしい。俺はマシャのことを考えていた。いけない、つい悪い方にばかり考えてしまう。
『探してる…マシャ』
澄んだ声が聞こえて、俺は辺りを見回した。もちろんシャオの声じゃない。まくろちゃんだ。間違いない。彼女たちが探しているのもマシャなのか?一体何のために。
***
「ふあー、生き返るな」
俺はシャオと一緒に湯船に浸かっている。温かいし気持ちいい。
この宿は浴室が広々としている。さすが温泉が自慢なだけあるな。シャオがバシャバシャ顔を洗っている。効能、美肌らしい。
「気持ちいいね」
「あぁ。なんか寝て起きたら調子がすこぶるいい」
「疲れてたんだよ」
「そうか」
俺はシャオの方に向き直った。相変わらず素敵な体をしていますね、お兄さん。シャオの額に手を当てる。調和の白魔法を唱えた。
「それ、なんだ?」
シャオが自分の額に手を当てて首を傾げている。
「調和の白魔法だよ。体と心のバランスを整えてくれるの」
「すごいな。俺はましろに会うまで白魔法を唱えてもらったことがなかったから」
「そうだったね」
笑うとシャオもフッと笑う。
「よし、絶対にマシャを取り戻そう!」
「うん」
2・その日の昼、俺たちは宿をチェックアウトした。
「姫、よく休めたみたいだね」
ふふっと睡蓮が笑う。
「睡蓮は休めた?」
睡蓮が真顔になる。
「僕、街にパンとか食糧を買いに行ったじゃない?」
確かそうだった。
「それ以外爆睡。信じられる?」
「睡蓮殿は眠り姫のようだった」
スカーさんがおかしそうに笑う。
「スカーさんは?」
「うむ。新しいクナイを作ってみた。今後の戦いに役に立てばいいのだが」
「スカーさん、体力鬼だもんね。ずっと起きてたでしょ?」
「そんなことはない。拙者も休んだ」
仲良しだなって思う。ルシファー騎士団は基本的にこんな感じだ。お互いをリスペクトし合ってる。
「兄貴!!お迎えに上がりやした!」
「王…無事か?」
モウカとイサールだ。久しぶりに顔が見られてホッとした。
「お前たち、わざわざすまなかったな。これからましろの武器を取りにいく」
「姉御の新しい武器!!楽しみっス!」
モウカ、武器好きだもんな。空いている時間に自分の魔剣を手入れしているのをよく見かける。武器屋に行くと、俺のロッドが綺麗に直っている。
余った鉱石は能力値に付加してくれたらしい。
「いやぁ、元々が素晴らしい出来でしたんで、かなり良いものが出来ましたよ。ではこれを」
ロッドを受け取ろうとしたら、小さい何かがロッドを掠め盗った。
サル?
「キキキ」
長い尻尾でロッドを器用に掴んでいる。そのまま走り出した。
「姉御の武器が!!」
モウカが走り出す。
「姫、任せてくれ」
イサールが上に跳ぶ。俺も追いかけようとしたら、シャオが俺を手で制した。
「待て。ここは二人にやらせてみよう」
シャオ、完全に楽しんでるよね?
***
サルをは人波を器用にすり抜けながら走っていく。一方でモウカは人にぶつかりそうになりながら先を急いだ。
「くそっ、あのちびザル!!」
悪態をついてみてもサルとの距離が縮まるわけではない。
モウカはヒトにぶつからないように気を付けながら走った。
ここは街だ。買い物を楽しむヒトで賑わっている。サルとの距離は縮むどころか広がっていく。
「キキキ」
サルが挑発するようにこちらを見て笑っている。モウカはそれを見て頭に来た。カッと頭に血が上る
「モウカ、落ち着け」
ハッとなって上を見るとイサールがいる。
「あのサルはただのサルじゃない気がする。このまま行けばやつに逃げられてしまう。この先にある袋小路に追いこむぞ」
イサールの言葉にモウカは頷いた。
「俺たちは丸い世界の半分に暮らしている。精霊はもうその半分。いわゆる、陰と陽だ。俺たちの世界とその精霊世界は、陰と陽を交互に繰り返しながら暮らしている」
シャオの話は難しくて、正直よく分からなかった。でも、一つ確実に分かったことがある。それは俺たちの暮らす世界以外に、もう一つ世界がある、ということだ。
それが精霊界と呼ばれる所らしい。そこに誤って足を踏み入れたが最期、ここには二度と戻ってこられないのだと言う。その世界で何かが起きて、死ぬから戻ってこられないのか、住み心地がよくて幸せのあまり戻ってこられないのか、誰にも分からないのだと言う。まるでおとぎ話のようだ。この事実は世間には伏せられている。シャオのような王族や高い位の騎士なんかにはなんとなく伝えられるらしいけれど、知らない者も少なくないのだと言う。シャオがこの事実を知らされた時、まだ八つにも満たなかったと皮肉そうに笑った。王族だからという理由だけで、知らない世界があるなんて聞かされても信じられないだろうし、怖いだけだと思う。
シャオは頭がいいし元々の能力も高い。幼い頃からなんとなく精霊界の存在を感じ取っていたという。
「ましろ、お前にはあまりこのことを報せたくなかったが、そいつらが動き出したらしいからな。クラリスもいるんだろ?あー、めんどくせえな」
シャオは心底面倒くさいらしい。
バタリと座っていたベッドに背中から倒れ込んだ。
「ましろー、頼む、膝枕しろー」
シャオが甘えた声で言う。疲れちゃったんだな。俺の膝に頭を載せたシャオの髪の毛を撫でていると、気持ちよさそうにしている。シャオの黒髪は艶があってサラサラだ。睫毛も長い。可愛いな。
「シャオ、よしよし」
しばらくしたらシャオは寝落ちしていた。疲れてるんだよな。少しでも休めますように。シャオの額に手を乗せて、調和の白魔法をかけておいた。この魔法は体と心のバランスを整えてくれる。気休めなんて言われてしまう魔法の一つだけど、俺は好きだ。そのヒトを思った優しい魔法だとおもうから。
ふと気が付くと、俺は寝かされていた。隣にシャオがいる。つまり、添い寝状態だ。
「起きたか?ましろ」
「ごめん、寝ちゃった」
「何で謝る?お前も疲れてるだろ?」
シャオが不思議そうに言った。優しいなぁ。
「そうだ、いいものがある!」
パッと顔を輝かせたシャオが、どこからともなくなにかを取り出した。なんだろう?紙袋?
「睡蓮が街でパンを買ってきてくれた!!」
確かに袋からいい匂いがする。口の中にじゅわりと唾液が溢れる。今、めちゃくちゃお腹が空いていることに気が付いた。
「いい匂いだね」
笑ったらシャオも笑った。マシャは今頃、どうしてるだろう。ふと、彼の泣き顔が頭を過る。シャオにもそれが伝わったらしい。顔を歪めた。
「心配だよな…」
「うん」
シャオと二人でパンを食べた。大きなリンゴがごろっと入ったアップルパイと、チーズが中でとろけている大きなパンだ。どちらも温かくて美味しい。
「うん、悪くないな」
シャオがもりもり食べている。しばらくパンを咀嚼して飲みこんだ。
「ましろ、実は今、フギたちに頼んで他の祠を探ってもらっている」
「封印は?」
「今のところまだ解かれていない。異神は基本的に若い神々だからな。封印を解くには力が足りないんだろうな」
「その子達が今回の騒動を起こしたの?それがクラリスっていう集団?」
「そうみたいだな。それに、調べてみたら神々が起こす事件は珍しくないらしい。結構クラリスのやつらが旧い神々にちょっかいを出しているみたいだな。クラリスなんて名前は初めて聞いたけど」
「そう…なんだ」
シャオによれば昔ながらの神々と異神と呼ばれる若い神々の争いは頻繁に起きているようだ。世代交代をしろ、というのが異神、クラリスの要求らしい。
だからって世界を巻き込む必要はないだろう。ヒト騒がせだな。
「とりあえず、お前の武器が直り次第やつらのアジトに向かう。マシャを連れていった理由もわかるはずだ」
「分かった」
「ましろ、お前、まだ疲れてそうだな」
シャオが俺の腕を掴んでモミモミしてくる。痛いけど気持ちいい。
「いつもお前は自分を後回しにするから心配になる」
「シャオだってそうじゃない」
「俺は最強だからいいんだ。ましろはもっと俺を頼れ」
「ありがとう」
シャオのマッサージは気持ちいい。ふと気が付いたら変な場所にいた。周りが暗い。なんだか前もこんなことがあった気がする。足元には水が張ってあるのか冷たかった。でも、周りの外気が暖かいからそんなに気にならない。それにしてもここ、どこだろう?
じゃぶじゃぶと水しぶきをあげながらしばらく歩くと光が見えてくる。俺はトンネルみたいな所にいたらしい。
「ましろ…」
名前を呼ばれて、俺は驚いた。目の前にいるその子に。
だってセレアにすごく似ていたからだ。でも、その子は間違いなく女の子だった。長い金髪をツインテールにした女の子。服装は黒のワンピースだけ。
「君は誰なの?」
「まくろ。精霊」
彼女はそれだけ言ってじっとこちらを見つめてきた。赤い瞳にドキリとする。全てを見透かされているような感覚を覚える。
「まくろちゃん、精霊たちは何をしようとしてるの?」
「探してる…」
「探してる?何…」
何を?と問おうとしたら、ざああっと目の前が暗くなる。俺をこの世界は拒否しているようだ。気が付くと、シャオがいた。
「大丈夫か?ましろ」
俺は頷いた。どうやらシャオはずっと俺に呼び掛けていてくれたらしい。
「精霊の夢を見たよ」
俺が起き上がるのをシャオは助けてくれた。シャオに詳しく説明するとシャオが言った。
「こちら側から精霊に接触するのはほとんど不可能だ。精霊界は基本的に閉じられているからな」
「じゃあ向こうから接触してきたってこと?」
「おそらくな。しかもかなり強力な力を持っているやつだ。精霊、一人一人は微弱な力しか持たない。まくろ、か。お前に名前が似てるのは偶然か?」
「その子、セレアに似てて」
「んー」
シャオが腕を組んで考え出す。
「とりあえず今の情報はみんなに共有しておくか」
「そんなこと出来るの?」
俺が驚くと、シャオが自慢げに胸を反らす。
「俺は最強魔王だ。そんなのは簡単だぜ」
「さすがシャオだね」
こういう時のシャオは大抵褒めて欲しいと思っている。可愛いな。それにしても寝たり起きたりを繰り返していたら、時間の感覚がおかしくなったな。時計を見ると四時だった。しかも朝らしい。
「もう朝?」
「あぁ。風呂でも入るか?」
「いいかもしれない」
「お、じゃあ一緒に入ろう」
シャオがるんるんしながら湯船にお湯をため始めた。この辺りは温泉が出るらしい。俺はマシャのことを考えていた。いけない、つい悪い方にばかり考えてしまう。
『探してる…マシャ』
澄んだ声が聞こえて、俺は辺りを見回した。もちろんシャオの声じゃない。まくろちゃんだ。間違いない。彼女たちが探しているのもマシャなのか?一体何のために。
***
「ふあー、生き返るな」
俺はシャオと一緒に湯船に浸かっている。温かいし気持ちいい。
この宿は浴室が広々としている。さすが温泉が自慢なだけあるな。シャオがバシャバシャ顔を洗っている。効能、美肌らしい。
「気持ちいいね」
「あぁ。なんか寝て起きたら調子がすこぶるいい」
「疲れてたんだよ」
「そうか」
俺はシャオの方に向き直った。相変わらず素敵な体をしていますね、お兄さん。シャオの額に手を当てる。調和の白魔法を唱えた。
「それ、なんだ?」
シャオが自分の額に手を当てて首を傾げている。
「調和の白魔法だよ。体と心のバランスを整えてくれるの」
「すごいな。俺はましろに会うまで白魔法を唱えてもらったことがなかったから」
「そうだったね」
笑うとシャオもフッと笑う。
「よし、絶対にマシャを取り戻そう!」
「うん」
2・その日の昼、俺たちは宿をチェックアウトした。
「姫、よく休めたみたいだね」
ふふっと睡蓮が笑う。
「睡蓮は休めた?」
睡蓮が真顔になる。
「僕、街にパンとか食糧を買いに行ったじゃない?」
確かそうだった。
「それ以外爆睡。信じられる?」
「睡蓮殿は眠り姫のようだった」
スカーさんがおかしそうに笑う。
「スカーさんは?」
「うむ。新しいクナイを作ってみた。今後の戦いに役に立てばいいのだが」
「スカーさん、体力鬼だもんね。ずっと起きてたでしょ?」
「そんなことはない。拙者も休んだ」
仲良しだなって思う。ルシファー騎士団は基本的にこんな感じだ。お互いをリスペクトし合ってる。
「兄貴!!お迎えに上がりやした!」
「王…無事か?」
モウカとイサールだ。久しぶりに顔が見られてホッとした。
「お前たち、わざわざすまなかったな。これからましろの武器を取りにいく」
「姉御の新しい武器!!楽しみっス!」
モウカ、武器好きだもんな。空いている時間に自分の魔剣を手入れしているのをよく見かける。武器屋に行くと、俺のロッドが綺麗に直っている。
余った鉱石は能力値に付加してくれたらしい。
「いやぁ、元々が素晴らしい出来でしたんで、かなり良いものが出来ましたよ。ではこれを」
ロッドを受け取ろうとしたら、小さい何かがロッドを掠め盗った。
サル?
「キキキ」
長い尻尾でロッドを器用に掴んでいる。そのまま走り出した。
「姉御の武器が!!」
モウカが走り出す。
「姫、任せてくれ」
イサールが上に跳ぶ。俺も追いかけようとしたら、シャオが俺を手で制した。
「待て。ここは二人にやらせてみよう」
シャオ、完全に楽しんでるよね?
***
サルをは人波を器用にすり抜けながら走っていく。一方でモウカは人にぶつかりそうになりながら先を急いだ。
「くそっ、あのちびザル!!」
悪態をついてみてもサルとの距離が縮まるわけではない。
モウカはヒトにぶつからないように気を付けながら走った。
ここは街だ。買い物を楽しむヒトで賑わっている。サルとの距離は縮むどころか広がっていく。
「キキキ」
サルが挑発するようにこちらを見て笑っている。モウカはそれを見て頭に来た。カッと頭に血が上る
「モウカ、落ち着け」
ハッとなって上を見るとイサールがいる。
「あのサルはただのサルじゃない気がする。このまま行けばやつに逃げられてしまう。この先にある袋小路に追いこむぞ」
イサールの言葉にモウカは頷いた。
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