最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ

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二十七章

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1・イサールは更に跳ぶスピードを上げた。建物や壁を蹴りながら、どんどん先に進む。地上ではモウカがサルを追い込んでくれている。この先は三叉路になっているので、袋小路になっている道にサルをうまく誘導する必要がある。イサールは更に先を急いだ。ピエロや着ぐるみたちの一団が道の隅でショーを行っている。だいぶ賑やかだ。それを周りで見ているヒトもいる。

「すまないが、もう少しこっちへきて欲しい」

「イサール様?どうされたんで?」

「姫のロッドが盗られた。協力してくれると助かる」

「姫様の?!もちろんです!」

イサールはルシファー騎士団に入ったことで、いつの間にか魔界で有名人になっている。はじめはそれに戸惑っていたイサールだったが、こんな時は好都合だ。ピエロたちはイサールの言う通り、道を塞ぐ形でショーを続けてくれている。これならモウカから逃げているサルは一瞬、怯むはずだ。イサールは集中してモウカの気配を辿った。うまく追いかけてくれているようだ。イサールは更に跳んだ。三叉路の中央の道が袋小路になっているので、もう一か所はイサール自身が塞ぐ必要がある。モウカもそのつもりでサルを追い込んでくれているようだ。

「キキっ」

「待て!チビザル!!逃げるな!」

モウカは街ゆくヒトの邪魔にならないよう上手く身を躱しながら走る。彼は、最近行ったスカーとの訓練を思い出していた。
スカーが次々に投げるゴム製のクナイを全て自分の身だけで避けるというものである。避けながら目標地点、つまり敵の懐に辿りつかねばならないというのが課題だった。モウカは魔剣を使うため、飛び道具や魔法を使う者より、リーチが短い。そのため、いかに素早く敵と距離を縮められるかが勝負の鍵となる。スカーや、他のルシファー騎士団の面々と訓練したあとは自分があまりに上手く出来ず、悔しくて泣いてしまう時もある。そんなモウカを周りの騎士団員は暖かく見守ってくれる。ましろに至っては、いつもより子供扱いになる。だが、それがモウカには嬉しい。自分は幼い頃から周りの大人たちから放置されてきた。だからこそ、誰かに優しく見守られたり、自分を思って叱られたり、甘やかされる経験が全て初めてで嬉しい。はじめは恥ずかしかったが、時間が経つにつれ、すっかり慣れてしまい、ここぞとばかりにましろにべったり甘えて、王からげんこつされるのが定番と化している。

「スカーの兄貴との訓練を無駄にしねえ!」

モウカは更に走るスピードを上げる。

「キキキ」

モウカとの距離が縮まったのを見て、サルは一瞬怯んだ。更に逃げる速度を速めようとして失敗する。目の前にイサールがいたからだ。

「キキ!」

もう一方の道にはピエロたちがいる。サルは二人の狙いどおり、中央の道を走り出した。この先は行き止まりだ。モウカとイサールがサルを追いかける。ようやく捕まえられそうだ。

「リズ、おいで」

袋小路に入るとそこには金髪の少女がいた。今朝、王から共有された情報の中にあった人物、『まくろ』という少女に酷似している。モウカとイサールは彼女の存在に当然警戒した。サルが彼女の肩に乗る。

「ごめんなさい。あなた方の力を試したかった。あたしは精霊の長、まくろ。精霊界はあなた方の力を必要としている」

「一体なんだってんだ?」

モウカの疑問は最もだ。イサールはまくろと名乗った少女から、ましろのロッドを受け取った。

「まくろ、君の話を詳しく聞く必要がある」

イサールの言葉に彼女はコクリと頷いたのだった。

2・「わぁ。よかった。二人共ありがとう」

モウカとイサールが無事に俺のロッドを取り返してきてくれて、俺は心底ホッとした。新しいロッドを改めて装備すると、能力が格段に上がったのを感じる。師匠が作ってくれたロッドを基礎に、上手くパワーアップしてくれたらしい。今度から、あの武器職人さんに武器のメンテナンスをお願いしようかな。

「ましろ」

のんびりそんなことを思っていたら、イサールの陰からまくろちゃんが現れた。金髪のツインテールが風に揺れている。不思議な感覚だった。明らかにヒトとは違う雰囲気。魔力素もヒトとは違う。精霊はみんなこうなの?

「まくろちゃん、俺たちに一体何をして欲しいの?」

改めて問いかけると、彼女はこくりと頷く。

「い…あ、お腹空いた…」

彼女はなにか言いかける。キュルルルルという可愛らしい音。まくろちゃんがお腹を抑えて顔を赤らめている。どうやら鳴ったのは彼女のお腹らしい。精霊にも空腹っていう感覚があるんだな。ちょっとホッとした。

「と、とりあえずご飯いこっか?」

睡蓮の言葉にみんなが頷いた。

***

まくろちゃんのお腹を満足させることが出来るもの。ここからなるべく近場でだ。それならもうここしかない。みんな一致でその店に入る。

「お、陛下と妃殿下か。こんな汚い店にくるたあ、度胸があるな」

「俺はここの定食が好きだからな」

シャオの言葉に、大将がはっと鼻で笑った。

「嬉しいこと言ってくれるねぇ。
ま、とりあえず座んな」

俺たちはテーブル席に着いた。女将さんがすかさず水の入ったグラスを俺たちの前に並べてくれる。

「お、今日は女の子もいるのかい?うちは基本的に量が多いから少なめにも出来るからね」

女将さんが優しく言ってくれる。確かにここの定食の量は半端ない。普通の量で、めちゃくちゃ大盛りが出てくる。

「まくろちゃん、どれにするー?」

睡蓮がメニューを見せながら言う。まくろちゃんは迷わずラーメンチャーハンセットを選んでいた。男性みたいなチョイスが意外だな。

「ラーメン好き…」

ぽそっと彼女が呟く。

「精霊さんもラーメン好きなんだねぇ」

睡蓮がそう言って笑う。
注文の際、量はどうするかと問われて、まくろちゃんは普通サイズを選んでいた。凄まじい量だよ、と女将さんに言われていたけど、彼女は食べると言って聞かない。最終的に女将さんが折れる形になった。

「で、お前の目的を聞きたい」

注文をしてシャオが話を戻した。
まくろちゃんが頷く。彼女は言った。

「現在、異神たちに精霊界を攻撃されている。異神の狙いはマシャに異神最強の神、ラーズを宿らせること。もし奴に攻撃されたら、もう精霊界は耐えられない」

彼女の言葉に俺たちは黙ることしか出来なかった。

「なんでマシャなんだ?」

シャオが尋ねる。

「あの子は器になるために作られた子。力も生命力も申し分ない。あの子を作るため、クラリスはずっと研究をしていた。異神に一部のヒトは協力していたの」

「クッソめんどくせえ話だな」

はぁぁとシャオがため息をついている。

「祠の封印が解かれようとしているのはなんで?」

睡蓮が水を飲みながら尋ねる。

「封印を解いた直後の神々は力が完全に戻っていない。だから倒すのが容易」

「はーい、カツ丼だよー!」

女将さんが頼んだものを運んできてくれた。

「はい、ラーメンとチャーハンね。お嬢ちゃん、もし無理そうなら周りのイケメンたちに食べてもらいな!」

「…はい」

まくろちゃんも女将さんの勢いには敵わないみたいだな。


「姫様、いっぱい食べて陛下を支えてやっとくれよ」

「任せてください」

俺たちは手を合わせて食べ始めた。腹が減っては戦は出来ぬ、だし。これから俺たちはクラリスのアジトに向かう。
ここからはしばらく移動だ。いっぱい食べておこう。まくろちゃんもモリモリ食べている。女の子とは思えない量だ。

「ましろ、これやる、これも」

お食事時、定番のシャオの好き嫌いも発動している。他の騎士団のヒトに注意されて渋々食べるまでがセットらしい。ここに、マシャがいてくれたらって俺はずっと考えてしまう。あの子の存在は俺が思っていたよりずっと大きかった。目を離した自分をいくら悔やんでも責めても、状況は変わらない。俺はこの気持ちをずっと持て余している。

「ましろ」

隣に座っていたシャオにぽむ、と頭を撫でられた。

「考えるな、食え」

「うん…」

シャオは本当に優しいな。

3・俺たちは、街を抜けて山道を歩いている。アジトまでずっと登り道みたいだ。

「フギさん、他の祠はどうだったんですか?」

フギさんが眼鏡を押し上げる。

「何者かが荒らした痕はありましたが、それきりです。異神ラーズの復活も無事に防げればいいのですが…」

「その異神ラーズって、確か、神話になってるよね?」

睡蓮が首を傾げながら言う。

「あぁ、なっていたな」

白蓮も頷いた。俺もその神話は知っている。新時代の神々として知られている彼は、実の父親(現在の王)を殺し、神々の新王になろうとした。それを怖れた他の神々に彼は力ずくで封印されたというものだ。

なんで神話に出てくる神々って、自分の欲望にこんなに忠実なんだろう?しかもすぐ相手を殺すし、簡単に性行為に及びすぎだと思う。白魔導士である俺からすれば感心しない。

「その神、ラーズをマシャさんに憑依させようとしているわけですね。つまり、彼の心を何らかの形で失くすということです。不当極まりない行為です」

フギさんはそう言ってため息を吐く。

「異神たちは精霊世界を滅ぼして、世界全てを自分の物にしようとしているみたいなの」

「世界なんて手に入れてどうするんだ?別に手に入ったってなんにも楽しくないじゃん」

モウカが心底「不思議」という顔をしている。

「モウカに一票だ」

「俺っちもそう思うぜ」

シャオやテンゲさんがモウカに同意する。そうなんだよね、急に世界をあげるって言われても、困ると思う。いくら気を付けていても、自分の好きな世界には絶対にならない。世界は、だから世界なんだと思うから。いろいろな生き物がいて、環境のあるこの世界を、簡単に思い通りになんてできっこない。生きているって、思い通りにならないから楽しいし、苦しい。それが生きるってことなんだ。

しばらく歩いていると、岩肌が現れた。ここを登るのか。大丈夫かな?

「姫、拙者の背中に掴まれ」

スカーさんが屈みながら言ってくれたのでその通りにする。すると俺が落ちないように腕で支えてくれた。ヒョイヒョイと軽々岩肌を登ってしまう。ほぼ直角なのにすごいな。
スカーさんは睡蓮やまくろちゃんも背中に乗せて、上まで運んでくれたのだった。スカーさん、さすがすぎる。
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