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二十八章
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1・「い…や…!!」
両手首を掴まれて、マシャは必死に全身で抵抗した。自分がどうしてここにいるのかもマシャには分かっていない。ましろの姿を何度も何度も探したが彼はここにはいない。自分はどこにきてしまったのだろう。寂しい、悲しい。ましろに抱き締めてもらいたい。シャオから飴を貰いたい。
「小僧、黙れ」
「ぐっ…」
頬を殴られて、マシャは背中から倒れこんだ。頬はひりひりし、鼻血が出ている。ましろやシャオの元に早く帰りたい。
「ま…しろ…シャ…オ」
「お前はここにいるんだ」
気が付くと、マシャは牢の中に入れられていた。反抗すれば先程のように殴られるのは目に見えている。マシャは大人しく従った。固い古そうなベッドにちょこんと座る。今頃ましろはどうしているだろう。グルル、と凶暴な腹の虫が鳴る。喉だってものすごく乾いている。マシャは悲しい気持ちの中でじっと身を固くしていた。あの時のことを思い出す。いもうとと戦った時のことだ。あの後、自分の意識は途切れており、どうなったのかよく覚えていない。ただ誰かを傷付けてしまった。そう体の感触が覚えていた。もしかしたらましろや、その周りの誰かを傷付けてしまったのかもしれない。
マシャはずっと後悔している。もうああならないように気を付けようと思った。だがそれは急に襲い掛かってくる。
2・山を登ると、建物が建っている。こんなところに、という感じだ。
「クラリスのアジトか。ぶっ潰してやる」
シャオはやる気満々みたいだな。
俺たちは入り口の死角に潜んだ。中には誰もいないようだ。
「全員で動くのは危険です。
表と裏から回りましょう」
フギさんの提案に俺たちは頷いた。今はマシャの無事を確認できればいい。お願い、どうか生きていて。俺は祈った。
シャオ、スカーさん、睡蓮、まくろちゃん、俺が表から侵入を試みることになった。フギさん、テンゲさん、ランスロットさん、イサール、モウカが裏から回る。
「やっぱり反応なし、か」
睡蓮が地図を広げて、マシャの魔力素を辿ってくれている。
「どうもこの建物が怪しい」
ペシペシとシャオが建物を叩く。魔力を感知できないような建物なんて初めて聞く。マシャにラーズを降臨させるなんて絶対に許せるもんか。
「お、ちょうどいい。誰か来たぞ」
シャオがゴキリと拳を鳴らした。
中から出てきたのは獣人のように見える。でも普通の獣人よりはるかに大きい。力だって何倍もありそうだ。
「あ?なんだ、お前ら」
シャオは笑って指を鳴らす。
すると彼の足元が崩れた。もちろん彼は下に落下する。
「く、くそったれ!」
「今のうちに中に入るぞ!」
俺たちは建物内に侵入した。薄暗くて、無機質な場所だ。病院のようだけど、消毒液の匂いはしない。なんか怖いな。
「睡蓮、この建物内のマッピング出来そうか?」
「んー、いつもより時間かかってるー。フギさんの魔力も併用してるんだけどね」
ルシファー騎士団はどんどんパワーアップしているようだ。
「あなたたち?!」
お、普通のヒトがいた。ヒト族の女性のようだ。シャオが彼女の首根っこを掴んでいる。
「おい、銀髪の男の子はどこだ?」
彼女はシャオの威圧にすっかり怯んだようだ。
「わ、私だってこんなことになるなんて!し、知らなかったのよ!」
シャオが笑って彼女に手を差し出す。
「カードキーあるんだろ?寄越せ」
「っ…」
彼女はシャオにカードキーを渡してくれた。これで全部の場所を見て回れるのかな。シャオが彼女を離すと一目散に逃げていった。
「フギ」
「は」
シャオが呼び掛けるとフギさんの顔が空間に映る。
「カードキーを入手した。そっちの状況は?」
「はい、神々と戦闘中です。
なるべく早く加勢に来ていただけると…っ!」
どうやら苦戦しているみたいだな。神々と名乗るだけあって強力な力を持っているようだ。
「王、僕とスカーさんでフギさんたちと合流するよ」
マッピングが出来たと睡蓮が共有してくれた。
「分かった、頼む」
「すぐ追い掛けるからね!」
睡蓮たちが手を振って走っていく。
「ここ」
地図を見ていたまくろちゃんが一点を指差した。シャオがそれに反応する。
「あ?変な空間だな?」
2階から3階に向かう階段の下に空洞がある。
「マシャ…」
「可能性はあるな。行ってみよう」
今、俺たちは1階にいる。目指すは上か。ズウウウンという大きな音が響いた。なんだろう。
上になにかがいる。
「ましろ、来るぞ!」
天井からパラパラと砂埃が落ちてくる。ドシィィンと巨大な何かが落ちてくる。
ナマズみたいな形をしている。そいつの頭から人が生えている。まさか。
「マシャ!!」
俺が叫ぶと人がもがいている。マシャは抵抗してくれている。
「あれは、ラーズなのか?」
「いいえ。でもかなり上位の神」
俺たちは戦闘モードに入った。 マシャを助け出すためにはどうしたら。
「ましろ!考えるな、やられるぞ!」
「うん!」
ズウウウンとナマズが両手を地面に叩きつける。それだけでかなりのダメージが入る。
俺の役割を忘れるな。俺は白魔導士だ。まくろちゃんが長い杖を掲げている。
「アースプラント」
ギュルっとナマズに蔦が絡み付く。ナマズが怯んだところをシャオがロザリアで斬りかかる。
キィンっとロザリアは弾かれた。
「チッ、かってえな。魔力をもうちょい込めてみるか」
「シャ…オ…」
「!」
明らかにマシャの声だ。シャオが怯む。こんなことは初めてだ。
「シャオ!!!」
ナマズが大きな手でシャオに殴りかかってくる。それを寸でのところでロザリアで防ぐ。
「なかなか趣味悪いじゃねえか」
シャオが笑う。俺はシャオに回復魔法をかけた。
「サンキュー、ましろ。もうしくじらねえ」
「シャオ、頑張ろう」
「あぁ」
「ラインボルト」
まくろちゃんが一定のペースで魔法を打ってくれている。相手がよろめいた。こつこつ蓄積していたダメージがようやく効いてきたらしい。
「精霊の光よ…」
俺も詠唱を始める。シャオは魔力を込め直して斬りかかる。今度は剣が突き刺さる。
「いた…いよ…」
マシャの声でこんな風に訴えられると攻撃しづらい。こいつを倒したらマシャを助けられるのか?それすらも分からない。一体どうしたらいいんだ。
「マシャ。もしお前が本物のマシャなら耐えられるはずだ。俺はお前を信じている」
シャオがナマズの頭にどすっと剣を深々と突き立てる。
「グギュルアアア」
ナマズが体をのたうち回らせながら苦しみだす。
ナマズの原型がなくなっていく。泥が溢れだしてきた。マシャは?
「マシャ!!マシャ!!」
俺は泥をかき分けた。でもどこにもマシャの姿はない。どうしよう。絶望が俺に襲い掛かる。
「ましろ、落ち着け」
「!」
シャオに後ろから呼び掛けられる。
「マシャはこんなによわっちいやつじゃねえだろ?」
俺は立ち上がった。そうだ。マシャは強い子だ。こんな簡単に倒されるはずがないんだ。
「とりあえず上に行こう。なにかいる」
シャオがそう言うのだから間違いない。俺たちは階段を駆け上がった。
***
「はぁ、王ではないですが面倒ですね」
時は半刻ほど遡る。フギははぁ、とため息を吐きながらぼやいた。泥人形に取り囲まれているのだ。倒しても倒してもやつらは復元する。
「どうだ、俺様の力は」
胡座をかいて不適に笑うのは少女だった。この泥人形は彼女の力らしい。
「アイシクルランス!!」
睡蓮の声が響いた。
「フギさん!お待たせ!!」
「フンッ!」
スカーがすかさずクナイを少女に
向かって投げ付ける。彼女はそれを素手で受け止めた。
「おいおい、鈍くて欠伸がでるぜ」
「むぅぅ…」
「あんたたちには悪いけど俺は時間稼ぎを頼まれてるんでな。
簡単にここを通すわけにはいかないんだ」
彼女の事情など知ったことではない。
「弓よ、魔力を纏え」
白蓮が魔力を込めて矢を放つ。泥人形が一体崩れる。
「あはは、どんなにやったって無駄だぜ。ラーズ様は確実に復活に向かっているからな」
「あなた方はラーズがどんな神なのかご存知じゃないんですか?」
フギの言葉に彼女は目を丸くした。
「最強の新神って聞いてるけど」
彼女は素直な性格らしい。フギの言葉に首を傾げた。
「はあ、あなたはなにも分かってらっしゃらないようですね」
「え?」
「ラーズは性欲にまみれた乱暴な神です。もしかしたらあなたも標的にされるかもしれませんよ」
「なんだそれ、絶対にやだぞ」
彼女は鳥肌が立っているのか自分を抱き締めている。
「それならこの攻撃をやめてください」
「…わかった」
彼女は渋々といった様子で泥人形を消した瞬間だった。
「え…」
ずる、と彼女の首から上が下に落下する。彼女は蒸発するように消えていく。
「裏切りはよくねえよな。それに我はガキに興味はねえ」
「ラーズ!!」
まさかここでとフギは身構えた。
「おいおい、ここで暴れるつもりはないぜ。我が欲しいのは世界だからな」
ブンっと彼は跳んだ。おそらく向かったのは精霊界だろう。
「早く王に報せないと」
「そうですね」
一行は建物内に急いだ。
3・俺たちは建物内の散策をしている。牢屋があったからもしかして、と思った。
「マシャの髪の毛じゃないか?」
確かに銀髪だった。マシャのもので間違いないだろう。こんなところに閉じ込めるなんてひどすぎる。
「ましろ、シャオ、精霊界にラーズが近付いてきている」
「なんだって?じゃあマシャは」
「多分…ラーズの器にされている」
まくろちゃんがぎゅ、と杖を握った。
「まくろ、俺たちを精霊界に連れていけ」
「王!大変だよ!ラーズが!」
睡蓮たちが走りよってくる。
まくろちゃんはこくん、と頷いた。
「行く…みんなで」
彼女から光が溢れだしてくる。俺たちはそれに包まれた。
気が付くと空を飛んでいる。ここはどこだ?目の前にあるのは確かに世界だった。まるで箱庭みたいに小さい。
「精霊界の入り口は基本的に閉じられている。ラーズでもなかなか入れない」
なら、まだ間に合うかもしれない。精霊界が壊れたら世界のバランスが崩壊する。そして、力を得た新しい神々はきっと旧い神々の封印を解いて倒すだろう。
そんなことは絶対にさせない。でも異神たちはみんな敵なのかな?俺の中でそんな疑問が生まれてきている。フギさんたちと戦った異神はラーズに殺されたらしい。そんなに簡単に仲間を殺せるのか?
「キキキ!」
ずっと大人しくしていたサル『リズ』が騒ぎだした。
「こちらにラーズがいるみたい」
まくろちゃんの先導で俺たちはそこに向かった。そこにいたのは精霊界に突っ込もうとしているラーズだ。
「おやおや、精霊界の長が地上の虫けらと一緒とは」
完全に俺たちを馬鹿にしているな。でもこいつの体はマシャのものだ。なんとかして取り返したい。
「長よ、精霊界を渡せ。そして我に忠義を誓うのだ」
そんなの、はいそうですかなんて聞けるはずがない。
「嫌」
まくろちゃんが首を横に振る。
「俺は今、機嫌がいい。素直に聞けば楽に殺してやる」
「あたしは…あたしたちは負けない」
「ほう、ならやってみるといい。力の差がお前たちにもよく分かるはずだ」
絶対に負けない。
両手首を掴まれて、マシャは必死に全身で抵抗した。自分がどうしてここにいるのかもマシャには分かっていない。ましろの姿を何度も何度も探したが彼はここにはいない。自分はどこにきてしまったのだろう。寂しい、悲しい。ましろに抱き締めてもらいたい。シャオから飴を貰いたい。
「小僧、黙れ」
「ぐっ…」
頬を殴られて、マシャは背中から倒れこんだ。頬はひりひりし、鼻血が出ている。ましろやシャオの元に早く帰りたい。
「ま…しろ…シャ…オ」
「お前はここにいるんだ」
気が付くと、マシャは牢の中に入れられていた。反抗すれば先程のように殴られるのは目に見えている。マシャは大人しく従った。固い古そうなベッドにちょこんと座る。今頃ましろはどうしているだろう。グルル、と凶暴な腹の虫が鳴る。喉だってものすごく乾いている。マシャは悲しい気持ちの中でじっと身を固くしていた。あの時のことを思い出す。いもうとと戦った時のことだ。あの後、自分の意識は途切れており、どうなったのかよく覚えていない。ただ誰かを傷付けてしまった。そう体の感触が覚えていた。もしかしたらましろや、その周りの誰かを傷付けてしまったのかもしれない。
マシャはずっと後悔している。もうああならないように気を付けようと思った。だがそれは急に襲い掛かってくる。
2・山を登ると、建物が建っている。こんなところに、という感じだ。
「クラリスのアジトか。ぶっ潰してやる」
シャオはやる気満々みたいだな。
俺たちは入り口の死角に潜んだ。中には誰もいないようだ。
「全員で動くのは危険です。
表と裏から回りましょう」
フギさんの提案に俺たちは頷いた。今はマシャの無事を確認できればいい。お願い、どうか生きていて。俺は祈った。
シャオ、スカーさん、睡蓮、まくろちゃん、俺が表から侵入を試みることになった。フギさん、テンゲさん、ランスロットさん、イサール、モウカが裏から回る。
「やっぱり反応なし、か」
睡蓮が地図を広げて、マシャの魔力素を辿ってくれている。
「どうもこの建物が怪しい」
ペシペシとシャオが建物を叩く。魔力を感知できないような建物なんて初めて聞く。マシャにラーズを降臨させるなんて絶対に許せるもんか。
「お、ちょうどいい。誰か来たぞ」
シャオがゴキリと拳を鳴らした。
中から出てきたのは獣人のように見える。でも普通の獣人よりはるかに大きい。力だって何倍もありそうだ。
「あ?なんだ、お前ら」
シャオは笑って指を鳴らす。
すると彼の足元が崩れた。もちろん彼は下に落下する。
「く、くそったれ!」
「今のうちに中に入るぞ!」
俺たちは建物内に侵入した。薄暗くて、無機質な場所だ。病院のようだけど、消毒液の匂いはしない。なんか怖いな。
「睡蓮、この建物内のマッピング出来そうか?」
「んー、いつもより時間かかってるー。フギさんの魔力も併用してるんだけどね」
ルシファー騎士団はどんどんパワーアップしているようだ。
「あなたたち?!」
お、普通のヒトがいた。ヒト族の女性のようだ。シャオが彼女の首根っこを掴んでいる。
「おい、銀髪の男の子はどこだ?」
彼女はシャオの威圧にすっかり怯んだようだ。
「わ、私だってこんなことになるなんて!し、知らなかったのよ!」
シャオが笑って彼女に手を差し出す。
「カードキーあるんだろ?寄越せ」
「っ…」
彼女はシャオにカードキーを渡してくれた。これで全部の場所を見て回れるのかな。シャオが彼女を離すと一目散に逃げていった。
「フギ」
「は」
シャオが呼び掛けるとフギさんの顔が空間に映る。
「カードキーを入手した。そっちの状況は?」
「はい、神々と戦闘中です。
なるべく早く加勢に来ていただけると…っ!」
どうやら苦戦しているみたいだな。神々と名乗るだけあって強力な力を持っているようだ。
「王、僕とスカーさんでフギさんたちと合流するよ」
マッピングが出来たと睡蓮が共有してくれた。
「分かった、頼む」
「すぐ追い掛けるからね!」
睡蓮たちが手を振って走っていく。
「ここ」
地図を見ていたまくろちゃんが一点を指差した。シャオがそれに反応する。
「あ?変な空間だな?」
2階から3階に向かう階段の下に空洞がある。
「マシャ…」
「可能性はあるな。行ってみよう」
今、俺たちは1階にいる。目指すは上か。ズウウウンという大きな音が響いた。なんだろう。
上になにかがいる。
「ましろ、来るぞ!」
天井からパラパラと砂埃が落ちてくる。ドシィィンと巨大な何かが落ちてくる。
ナマズみたいな形をしている。そいつの頭から人が生えている。まさか。
「マシャ!!」
俺が叫ぶと人がもがいている。マシャは抵抗してくれている。
「あれは、ラーズなのか?」
「いいえ。でもかなり上位の神」
俺たちは戦闘モードに入った。 マシャを助け出すためにはどうしたら。
「ましろ!考えるな、やられるぞ!」
「うん!」
ズウウウンとナマズが両手を地面に叩きつける。それだけでかなりのダメージが入る。
俺の役割を忘れるな。俺は白魔導士だ。まくろちゃんが長い杖を掲げている。
「アースプラント」
ギュルっとナマズに蔦が絡み付く。ナマズが怯んだところをシャオがロザリアで斬りかかる。
キィンっとロザリアは弾かれた。
「チッ、かってえな。魔力をもうちょい込めてみるか」
「シャ…オ…」
「!」
明らかにマシャの声だ。シャオが怯む。こんなことは初めてだ。
「シャオ!!!」
ナマズが大きな手でシャオに殴りかかってくる。それを寸でのところでロザリアで防ぐ。
「なかなか趣味悪いじゃねえか」
シャオが笑う。俺はシャオに回復魔法をかけた。
「サンキュー、ましろ。もうしくじらねえ」
「シャオ、頑張ろう」
「あぁ」
「ラインボルト」
まくろちゃんが一定のペースで魔法を打ってくれている。相手がよろめいた。こつこつ蓄積していたダメージがようやく効いてきたらしい。
「精霊の光よ…」
俺も詠唱を始める。シャオは魔力を込め直して斬りかかる。今度は剣が突き刺さる。
「いた…いよ…」
マシャの声でこんな風に訴えられると攻撃しづらい。こいつを倒したらマシャを助けられるのか?それすらも分からない。一体どうしたらいいんだ。
「マシャ。もしお前が本物のマシャなら耐えられるはずだ。俺はお前を信じている」
シャオがナマズの頭にどすっと剣を深々と突き立てる。
「グギュルアアア」
ナマズが体をのたうち回らせながら苦しみだす。
ナマズの原型がなくなっていく。泥が溢れだしてきた。マシャは?
「マシャ!!マシャ!!」
俺は泥をかき分けた。でもどこにもマシャの姿はない。どうしよう。絶望が俺に襲い掛かる。
「ましろ、落ち着け」
「!」
シャオに後ろから呼び掛けられる。
「マシャはこんなによわっちいやつじゃねえだろ?」
俺は立ち上がった。そうだ。マシャは強い子だ。こんな簡単に倒されるはずがないんだ。
「とりあえず上に行こう。なにかいる」
シャオがそう言うのだから間違いない。俺たちは階段を駆け上がった。
***
「はぁ、王ではないですが面倒ですね」
時は半刻ほど遡る。フギははぁ、とため息を吐きながらぼやいた。泥人形に取り囲まれているのだ。倒しても倒してもやつらは復元する。
「どうだ、俺様の力は」
胡座をかいて不適に笑うのは少女だった。この泥人形は彼女の力らしい。
「アイシクルランス!!」
睡蓮の声が響いた。
「フギさん!お待たせ!!」
「フンッ!」
スカーがすかさずクナイを少女に
向かって投げ付ける。彼女はそれを素手で受け止めた。
「おいおい、鈍くて欠伸がでるぜ」
「むぅぅ…」
「あんたたちには悪いけど俺は時間稼ぎを頼まれてるんでな。
簡単にここを通すわけにはいかないんだ」
彼女の事情など知ったことではない。
「弓よ、魔力を纏え」
白蓮が魔力を込めて矢を放つ。泥人形が一体崩れる。
「あはは、どんなにやったって無駄だぜ。ラーズ様は確実に復活に向かっているからな」
「あなた方はラーズがどんな神なのかご存知じゃないんですか?」
フギの言葉に彼女は目を丸くした。
「最強の新神って聞いてるけど」
彼女は素直な性格らしい。フギの言葉に首を傾げた。
「はあ、あなたはなにも分かってらっしゃらないようですね」
「え?」
「ラーズは性欲にまみれた乱暴な神です。もしかしたらあなたも標的にされるかもしれませんよ」
「なんだそれ、絶対にやだぞ」
彼女は鳥肌が立っているのか自分を抱き締めている。
「それならこの攻撃をやめてください」
「…わかった」
彼女は渋々といった様子で泥人形を消した瞬間だった。
「え…」
ずる、と彼女の首から上が下に落下する。彼女は蒸発するように消えていく。
「裏切りはよくねえよな。それに我はガキに興味はねえ」
「ラーズ!!」
まさかここでとフギは身構えた。
「おいおい、ここで暴れるつもりはないぜ。我が欲しいのは世界だからな」
ブンっと彼は跳んだ。おそらく向かったのは精霊界だろう。
「早く王に報せないと」
「そうですね」
一行は建物内に急いだ。
3・俺たちは建物内の散策をしている。牢屋があったからもしかして、と思った。
「マシャの髪の毛じゃないか?」
確かに銀髪だった。マシャのもので間違いないだろう。こんなところに閉じ込めるなんてひどすぎる。
「ましろ、シャオ、精霊界にラーズが近付いてきている」
「なんだって?じゃあマシャは」
「多分…ラーズの器にされている」
まくろちゃんがぎゅ、と杖を握った。
「まくろ、俺たちを精霊界に連れていけ」
「王!大変だよ!ラーズが!」
睡蓮たちが走りよってくる。
まくろちゃんはこくん、と頷いた。
「行く…みんなで」
彼女から光が溢れだしてくる。俺たちはそれに包まれた。
気が付くと空を飛んでいる。ここはどこだ?目の前にあるのは確かに世界だった。まるで箱庭みたいに小さい。
「精霊界の入り口は基本的に閉じられている。ラーズでもなかなか入れない」
なら、まだ間に合うかもしれない。精霊界が壊れたら世界のバランスが崩壊する。そして、力を得た新しい神々はきっと旧い神々の封印を解いて倒すだろう。
そんなことは絶対にさせない。でも異神たちはみんな敵なのかな?俺の中でそんな疑問が生まれてきている。フギさんたちと戦った異神はラーズに殺されたらしい。そんなに簡単に仲間を殺せるのか?
「キキキ!」
ずっと大人しくしていたサル『リズ』が騒ぎだした。
「こちらにラーズがいるみたい」
まくろちゃんの先導で俺たちはそこに向かった。そこにいたのは精霊界に突っ込もうとしているラーズだ。
「おやおや、精霊界の長が地上の虫けらと一緒とは」
完全に俺たちを馬鹿にしているな。でもこいつの体はマシャのものだ。なんとかして取り返したい。
「長よ、精霊界を渡せ。そして我に忠義を誓うのだ」
そんなの、はいそうですかなんて聞けるはずがない。
「嫌」
まくろちゃんが首を横に振る。
「俺は今、機嫌がいい。素直に聞けば楽に殺してやる」
「あたしは…あたしたちは負けない」
「ほう、ならやってみるといい。力の差がお前たちにもよく分かるはずだ」
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