沈みゆく恋 ~ 触れ合えば逃げていく者へ ~

小原ききょう(TOブックス大賞受賞)

文字の大きさ
8 / 40

学生会館ラウンジ②

しおりを挟む
 小山は女子の信頼があるのだろうか? 
 小山は見かけは服装も含めて野暮ったく見えるが、僕の知らない小山の良い所があるのかもしれない。もしくは女の子慣れしている男はそういうものなのか。
 普段から漱石ばかり読んでいる小山の見方が少し変わった。
 僕がコクリと頷くのを見た小山が、
「丁度、良かったよ」とニコリを微笑み、
「北原くんに、ミサキさんを紹介するよ」と言った。
 頷いただけなのに、話が勝手に進んでいく。
 それに「ミサキ」という苗字・・生協の書店で会った美少女と同じ苗字だ。
 他の男子が、彼女のことを「ミサキリョウコ」と言っていた。
「そのミサキさんて、どんな人なの?」
 僕が訊ねると小山は、彼女の説明を始めた。
 まず、名前は「三崎涼子」と言う。
 小山の話を聞く限り、その女性は書店で見かけた女の子にほぼ間違いはなかった。
 だがどうも腑に落ちない。
 僕の抱いている彼女のイメージと異なるからだ。
 彼女は、「男子を紹介して欲しい」と自ら言ってくる女の子にはどうしても見えなかったからだ。

 小山の簡単な説明が終わった時、
「何々~、小山くんと北原くん、さっきから何やら良いお話をしてない~?」佐伯先輩が僕たちの話に強い興味を示した。
「小山と北原は、さっきから如何わしい話をしているみたいですよ」と伊藤が言うと、小山は、「違いますよ。僕は北原くんに、三崎さんを紹介しようとしていたんです」と言った。
「それも如何わしいじゃん。というか羨ましい話じゃんか」と伊藤が返した。
 この話に一番反応を示したのは、佐伯先輩だった。
 缶コーヒーをテーブルにドンと置き、
「ええっ、ちょっと待って! 三崎さんが、なんでなんで?」佐伯先輩の驚く様子は不自然なほどだった。
「小山くんが三崎さんの知り合いだったことも驚きだけど」佐伯先輩はそう言って、
「あの子、彼氏、いないの?」と、佐伯先輩は目を丸くして驚いている。
 伊藤が、「三崎さんていう人、佐伯先輩は知っているんですか?」と訊いた。
「知っているわよぉ。彼女、有名だもの。私の知り合いも、一回生の中にすごい美少女がいるって言っていたから」 佐伯先輩はそう言った。「すごい美少女」と。
「佐伯先輩の知り合いって、それ、男子でしょ?」と伊藤が訊いた。
「そうよ、私の周りって、変な男ばかりだんだから、綺麗な子を見つけると、みんな、すぐに名前を調べちゃうんだから。困ったものよねえ」
 小山は、佐伯先輩の話を聞きながら、僕をチラリと見て、「詳しくは後で」と言った。

「いいなあ、北原は」と伊藤が羨ましそうに言うと、小山が「君は彼女がいるじゃないか」と戒めた。
 その後、中垣が、「そんな話、どうでもいいよ」と話の腰を折るように言うと、場が白けムードになって、そのまま散会となった。
 中垣は、男女の浮いた話には全く興味を示さない男なのだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

不思議な夏休み

廣瀬純七
青春
夏休みの初日に体が入れ替わった四人の高校生の男女が経験した不思議な話

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

処理中です...