29 / 40
長山エリ子②
しおりを挟む
三崎さんの僕を見るその表情は、僕の反応を見て、楽しんでいるように見えた。
「私が、テニス部なんて、入ったりしたら、北原くんは困るでしょ?」
返事に困る僕を覗き込む彼女の雰囲気は、小悪魔的な感じさえした。
三崎涼子という女性の何かが開花しかけている。そう思った。
三崎涼子との関係が深くなると、彼女の趣味嗜好も多く分かってきた。
彼女が高校時代、文芸部に属していたこと、西洋絵画が好きということや、小説が海外文学ばかり読むこと以外にも、色々と知るようになった。
イラストを描いてるせいか、漫画も好きらしい。
だが、漫画にも選り好みがあった。綺麗な漫画が好きなのだ。綺麗とはある種の少女漫画のような煌びやかなタッチの漫画ではなく、シンプルで丁寧な漫画が好きなのだ。
丁寧な漫画であれば、少年漫画のアクションものも読む。
他にも、三崎涼子は、機械類とか好きだった。家でもラジオとか分解して組み立てたりすることもあったらしい。
更には車や二輪車にも興味を示した。自分で運転することではなく、その稼働部の構造や、コックピットとかに関心があるようだった。
確かに、目の前を大型バイクが通ると、彼女の目は吸い寄せられるようにバイクに向かって、
「ハンドルのグリップにあるのは、ブレーキなの? それともクラッチ?」と言った。
二輪の免許を持っていない僕に答えられるはずもない。「ブレーキじゃないかな」と自信なさげに言った。
そう言いながら、バイクに跨る学生を羨ましく思った。
バイクに乗っている人なら、彼女の疑問にすぐ答えられるはずだ。
「これはクラッチだよ。こっちがブレーキ」と。
すると彼女は他の部位にも興味を示す。
「これは何なの?」
三崎さんは大型二輪のコックピットに目を走らせる。その目は好奇心に輝いている。
それは僕の見たことのない三崎涼子という女の子の目だった。
彼女がバイクに近づくと、男の体に触れそうになる。
そこまで想像を膨らませるとハッと我に返った。架空の男に嫉妬してどうするんだ。
そう思いながらも、僕はこう思っていた。
・・僕には三崎涼子を喜ばせるものが何一つない。
何が僕と彼女を繋いでいるのだろうか。
彼女が僕といる理由は何だろう?
何かあるとすれば僕の書いた詩くらいだ。けれど、それすら詩集になるほどの量なない。
それなのに、彼女はこんな僕と同じ時間を過ごしてくれる。
一緒に講義を受け、図書館で椅子を並べ勉強をする。学食に行ったり、お茶を飲んだりする。
火曜日と金曜日の度に、
「また夜の九時に会いましょう」と言って別れ、
夜になると二人きりの時間を迎える。
彼女が家庭教師をしているマンションから家まで送る。
そして、いつものように、手を繋ぎ、途中の公園で抱き合い、キスを交わす。
彼女はそれが分かっていて、僕の行為を迎え入れる。
「家の人が心配するから早く帰らないと」と僕が言うと、「そうだね」と僕の両腕から離れる。決して「時間なら、まだいいよ」とは言わない。
そして、「また明日ね」と彼女は手を振る。
何かがおかしい・・僕たちの関係はいったい何だろう。
そう思っていても、不安より、三崎涼子のような高嶺の花と同じ時間を過ごすことができる満足感の方が勝っていた。
「私が、テニス部なんて、入ったりしたら、北原くんは困るでしょ?」
返事に困る僕を覗き込む彼女の雰囲気は、小悪魔的な感じさえした。
三崎涼子という女性の何かが開花しかけている。そう思った。
三崎涼子との関係が深くなると、彼女の趣味嗜好も多く分かってきた。
彼女が高校時代、文芸部に属していたこと、西洋絵画が好きということや、小説が海外文学ばかり読むこと以外にも、色々と知るようになった。
イラストを描いてるせいか、漫画も好きらしい。
だが、漫画にも選り好みがあった。綺麗な漫画が好きなのだ。綺麗とはある種の少女漫画のような煌びやかなタッチの漫画ではなく、シンプルで丁寧な漫画が好きなのだ。
丁寧な漫画であれば、少年漫画のアクションものも読む。
他にも、三崎涼子は、機械類とか好きだった。家でもラジオとか分解して組み立てたりすることもあったらしい。
更には車や二輪車にも興味を示した。自分で運転することではなく、その稼働部の構造や、コックピットとかに関心があるようだった。
確かに、目の前を大型バイクが通ると、彼女の目は吸い寄せられるようにバイクに向かって、
「ハンドルのグリップにあるのは、ブレーキなの? それともクラッチ?」と言った。
二輪の免許を持っていない僕に答えられるはずもない。「ブレーキじゃないかな」と自信なさげに言った。
そう言いながら、バイクに跨る学生を羨ましく思った。
バイクに乗っている人なら、彼女の疑問にすぐ答えられるはずだ。
「これはクラッチだよ。こっちがブレーキ」と。
すると彼女は他の部位にも興味を示す。
「これは何なの?」
三崎さんは大型二輪のコックピットに目を走らせる。その目は好奇心に輝いている。
それは僕の見たことのない三崎涼子という女の子の目だった。
彼女がバイクに近づくと、男の体に触れそうになる。
そこまで想像を膨らませるとハッと我に返った。架空の男に嫉妬してどうするんだ。
そう思いながらも、僕はこう思っていた。
・・僕には三崎涼子を喜ばせるものが何一つない。
何が僕と彼女を繋いでいるのだろうか。
彼女が僕といる理由は何だろう?
何かあるとすれば僕の書いた詩くらいだ。けれど、それすら詩集になるほどの量なない。
それなのに、彼女はこんな僕と同じ時間を過ごしてくれる。
一緒に講義を受け、図書館で椅子を並べ勉強をする。学食に行ったり、お茶を飲んだりする。
火曜日と金曜日の度に、
「また夜の九時に会いましょう」と言って別れ、
夜になると二人きりの時間を迎える。
彼女が家庭教師をしているマンションから家まで送る。
そして、いつものように、手を繋ぎ、途中の公園で抱き合い、キスを交わす。
彼女はそれが分かっていて、僕の行為を迎え入れる。
「家の人が心配するから早く帰らないと」と僕が言うと、「そうだね」と僕の両腕から離れる。決して「時間なら、まだいいよ」とは言わない。
そして、「また明日ね」と彼女は手を振る。
何かがおかしい・・僕たちの関係はいったい何だろう。
そう思っていても、不安より、三崎涼子のような高嶺の花と同じ時間を過ごすことができる満足感の方が勝っていた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
女子ばっかりの中で孤軍奮闘のユウトくん
菊宮える
恋愛
高校生ユウトが始めたバイト、そこは女子ばかりの一見ハーレム?な店だったが、その中身は男子の思い描くモノとはぜ~んぜん違っていた?? その違いは読んで頂ければ、だんだん判ってきちゃうかもですよ~(*^-^*)
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる