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イラスト①
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◆イラスト
九条さんは「三崎さんとつき合う」とかではなく「一緒にいること」と言った。
「どうしてなんだ?」
訊かずにはいられない。
僕の問いに九条さんはこう答えた。
「たぶん、傷つくのは、北原くんだと思うから」
「僕が傷つく? 一体どうして?」
僕が訊ねると九条さんは、
「どうしてもなのっ」と言葉を投げ出すように言った。
九条さんの声は冷静さを欠いている。ひょっとすると、三崎さんに嫉妬しているのかもしれない。
「そんなことを言われても、全然分からないじゃないか!」僕も感情的になりそうだ。
九条さんが黙っているので、
「どうして、そんなことを九条さんに言われなくちゃいけないんだ。僕の勝手じゃないか!」と続けて言った。
それに、もう後戻りはできない。キスだってしたんだ!
九条さんがしゅんとしてしまうと、言い過ぎだった気がして、今度は僕が黙った。
数秒後、九条さんは口を開いた。
「私ね、三崎さんと同じ高校だったの」
「えっ、そうなんだ」
九条さんは、三崎涼子と同じ神戸高校なのか。
それは知らなかった。
「もしかして、九条さんも高校で文芸部に入っていたの?」僕は訊いた。
三崎さんは高校時代に文芸部に入っていたということだし、九条さんは現在、大学の文芸部だ。九条さんが高校の時、三崎さんと同じ部にいたとしても何ら不思議ではない。
「九条さんも、ってどういうこと?」
「だって、三崎さんは文芸部に入っていた、って言っていたから」
僕がそう言うと、九条さんは「はあっ」と深い溜息をついて、
「三崎さん、そんなことを北原くんに言っているのね」と言った。
「えっ、違うのか?」
何かが崩れていく・・そんな気がした。
「あのね、北原くん」九条さんは一呼吸ついて、「例えば、今日、北原くんがこの部を辞めても、文芸部に入っていた、っていうことになるわよね」と言った。
「それはそうだけど」
「三崎さんが、クラブに入っていたのは確かよ。でもそれは数か月だけのこと」
九条さんはそう言った。
三崎涼子が文芸部に入部していたのは、僅か数か月間だけだった。
「それ、本当なのか?」
「ちなみに私は、一年生の時から卒業するまで、ずっと文芸部に属していたわ」
普通はそうかもしれないが、
三崎さんは決して嘘をついたわけではない。入部期間が短かっただけのことだ。
何かあって辞めたただけのことだろう。
「何か」・・それは何だろう?
「でも、三崎さんは、イラストを描いていて、部員が出した詩集の表紙も担当したって言っていたよ」
確かにそう言っていた。短期間の在籍でそんな事にまでなるものだろうか。
「イラスト?」九条さんは怪訝な表情をとった。
「イラストだよ」僕は繰り返し言った。
すると九条さんは、「ああ、あのことね」と言って、
「三崎さん、北原くんに、そんなことまで言っているの?」と訊いた。
「どういう意味だ?」
また声を上げそうになった
「北原くん、三崎さんのイラストとか見たことあるの?」
「いや、まだない。今度見せてくれるって、言っていたけど」
「私、あの人の描く絵、嫌いだわ」
吐き捨てるように言った。普段の九条さんからは想像でもできない言い方だった。
何もそんな言い方をしなくてもいいと思うが、
九条さんは、「北原くん、小説も詩集も、文学なのよ」と言った。
「それはそうだけど」
「そして、文芸部員の発刊する詩集も、それなりに文学なの」
そう九条さんは前置きした上で、
「あれは、詩集に添付するようなイラストではなかったわ」と過去を振り返るように言った後、
「彼女は文学のことなんて分かっていないのよ」と断定するように言った。
「でも、それは見る人によるんじゃないか?」
僕が反論に、九条さんは「それはイラストを見てから言ってちょうだい」と返された。
このままでは九条さんとの只の喧嘩になる、と思い、僕は会話の流れを変えることにした。
本当のことが知りたい、そう思ったのだ。九条さんは何かを知っている。九条さんの言葉を否定ばかりしていてはダメだ。
九条さんは僕の気を鎮めようと思ったのか、日本茶を出してくれた。
僕は給湯室に常備している安い日本茶を飲みながら、
「九条さん・・」と小さく呼んだ。
「何?」九条さんは湯呑から顔を上げた。
「三崎さんって、部内ではどんな人だったの?」
僕の質問に九条さんは、
「うーん、どんな人って言われてもねえ」と考えた後、「部内では目立たない人だったから」と言った。
それでは何も分からない。僕は三崎さんのことを知りたい。僕の知らない三崎さんを知りたいんだ。
九条さんは「三崎さんとつき合う」とかではなく「一緒にいること」と言った。
「どうしてなんだ?」
訊かずにはいられない。
僕の問いに九条さんはこう答えた。
「たぶん、傷つくのは、北原くんだと思うから」
「僕が傷つく? 一体どうして?」
僕が訊ねると九条さんは、
「どうしてもなのっ」と言葉を投げ出すように言った。
九条さんの声は冷静さを欠いている。ひょっとすると、三崎さんに嫉妬しているのかもしれない。
「そんなことを言われても、全然分からないじゃないか!」僕も感情的になりそうだ。
九条さんが黙っているので、
「どうして、そんなことを九条さんに言われなくちゃいけないんだ。僕の勝手じゃないか!」と続けて言った。
それに、もう後戻りはできない。キスだってしたんだ!
九条さんがしゅんとしてしまうと、言い過ぎだった気がして、今度は僕が黙った。
数秒後、九条さんは口を開いた。
「私ね、三崎さんと同じ高校だったの」
「えっ、そうなんだ」
九条さんは、三崎涼子と同じ神戸高校なのか。
それは知らなかった。
「もしかして、九条さんも高校で文芸部に入っていたの?」僕は訊いた。
三崎さんは高校時代に文芸部に入っていたということだし、九条さんは現在、大学の文芸部だ。九条さんが高校の時、三崎さんと同じ部にいたとしても何ら不思議ではない。
「九条さんも、ってどういうこと?」
「だって、三崎さんは文芸部に入っていた、って言っていたから」
僕がそう言うと、九条さんは「はあっ」と深い溜息をついて、
「三崎さん、そんなことを北原くんに言っているのね」と言った。
「えっ、違うのか?」
何かが崩れていく・・そんな気がした。
「あのね、北原くん」九条さんは一呼吸ついて、「例えば、今日、北原くんがこの部を辞めても、文芸部に入っていた、っていうことになるわよね」と言った。
「それはそうだけど」
「三崎さんが、クラブに入っていたのは確かよ。でもそれは数か月だけのこと」
九条さんはそう言った。
三崎涼子が文芸部に入部していたのは、僅か数か月間だけだった。
「それ、本当なのか?」
「ちなみに私は、一年生の時から卒業するまで、ずっと文芸部に属していたわ」
普通はそうかもしれないが、
三崎さんは決して嘘をついたわけではない。入部期間が短かっただけのことだ。
何かあって辞めたただけのことだろう。
「何か」・・それは何だろう?
「でも、三崎さんは、イラストを描いていて、部員が出した詩集の表紙も担当したって言っていたよ」
確かにそう言っていた。短期間の在籍でそんな事にまでなるものだろうか。
「イラスト?」九条さんは怪訝な表情をとった。
「イラストだよ」僕は繰り返し言った。
すると九条さんは、「ああ、あのことね」と言って、
「三崎さん、北原くんに、そんなことまで言っているの?」と訊いた。
「どういう意味だ?」
また声を上げそうになった
「北原くん、三崎さんのイラストとか見たことあるの?」
「いや、まだない。今度見せてくれるって、言っていたけど」
「私、あの人の描く絵、嫌いだわ」
吐き捨てるように言った。普段の九条さんからは想像でもできない言い方だった。
何もそんな言い方をしなくてもいいと思うが、
九条さんは、「北原くん、小説も詩集も、文学なのよ」と言った。
「それはそうだけど」
「そして、文芸部員の発刊する詩集も、それなりに文学なの」
そう九条さんは前置きした上で、
「あれは、詩集に添付するようなイラストではなかったわ」と過去を振り返るように言った後、
「彼女は文学のことなんて分かっていないのよ」と断定するように言った。
「でも、それは見る人によるんじゃないか?」
僕が反論に、九条さんは「それはイラストを見てから言ってちょうだい」と返された。
このままでは九条さんとの只の喧嘩になる、と思い、僕は会話の流れを変えることにした。
本当のことが知りたい、そう思ったのだ。九条さんは何かを知っている。九条さんの言葉を否定ばかりしていてはダメだ。
九条さんは僕の気を鎮めようと思ったのか、日本茶を出してくれた。
僕は給湯室に常備している安い日本茶を飲みながら、
「九条さん・・」と小さく呼んだ。
「何?」九条さんは湯呑から顔を上げた。
「三崎さんって、部内ではどんな人だったの?」
僕の質問に九条さんは、
「うーん、どんな人って言われてもねえ」と考えた後、「部内では目立たない人だったから」と言った。
それでは何も分からない。僕は三崎さんのことを知りたい。僕の知らない三崎さんを知りたいんだ。
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