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嵐(クリスティーナ)が去った後に⑴

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 ようやくクリスティーナが帰ってくれた事に安堵し、私は深い溜め息をつくと目の前のカモミールティーを一口飲んだ。

 あぁー、心が浄化されるー。

 クリスティーナの訪問から数刻。
 私と旦那様は人払いをしたサロンで向かい合わせに座っていた。
 旦那様は帰宅したばかりだったし、私は私であんな事があったばかりだったので、お互い準備が整ってから改めて話をしようという事になったのだ。

「……フェアファンビル公爵令嬢のあの振る舞い。おまえ、公爵家ではいつもあんな扱いを受けていたのか?」

 旦那様が言いにくそうに口を開く。

『いや、あんなのまだまだ可愛い物で、実際の公爵家での暮らしはもっととんでもない物でしたよ!!』

 と本当の事は流石に言えず、どうしたものかと考えているアナスタシアの手元にチラチラと先程の精霊達が寄って来た。

 そう、さっきクリスティーナが投げた紅茶からアナスタシアを守ってくれたのは、実はこの精霊達なのだ。

 クリスティーナがアナスタシア目掛けてティーポットを投げ付けて来た時はもう駄目かと思った。思わず手で顔を庇ったその瞬間、いつもより強い光を放ちながら飛び込んで来たこの精霊達がティーポットを叩き落としたのだ。

 素    手    で

 そう。素手でティーポットにチョップした。

 もっと精霊的な何かの力で助けるのを想像していたので、あの光景を思い出すと正直未だにジワジワと可笑しさが込み上げで来る。

 精霊達を見て思わずふふふ、と思い出し笑いをしそうになっていると、ふと旦那様が驚いた顔をしてこちらを見ているのに気付いた。
 とっさに寄って来た精霊達を手で覆い隠す。

 え? やっぱり旦那様にも見えてるの!? 嘘、なんで!!?


 今まで自分と両親以外、精霊の姿が見える者に出会った事は無かった。

 魔力が高い人にしか見えないのかな? と漠然と考えていた時期もあったが、かなりの高魔力保持者でも精霊達は見えていなかったのだ。

 さっきもクリスティーナは光に気付いた様子も無かったし、一体見える人間と見えない人間にはどういう違いがあるのだろうか?

 ちなみにだが、クリスティーナもかなりの高魔力保持者だ。さすが根性腐っても公爵令嬢である。

「その光はなんだ? さっきも同じ様な光が飛んでいたがやはりお前が何かしているのか?」
「……旦那様にも見えるのですか?」
「そりゃ見えるだろう。それだけ光っていれば嫌でも目に入る。新種の魔道具か何かか?」

 いや、えーっと……精霊の事って話していいのかな?

 小さい頃はお母さんに、
『他の人には見えないから話しちゃダメよ。変な子だと思われるから』
 と言われて納得していたが、この場合どうなんだろうか?

 私も精霊について詳しい訳じゃないしなー。

 どうしたらいい? と当人達の意見を聞こうと手のひらの間から精霊達を覗き見るが、キョトンとした顔をして首を傾けているだけだ。

 ーーよし、とりあえず誤魔化そう。

「えーっと、そうですね。はい、多分魔道具です!!」
「多分って何だよ…………」
「実は、私自身も良く分かっていないんですよ」
「…………」
「ほら、私は自分の素性すら知らずに暮らしていた位ですし。両親についても、自分についても、この件についても、正直わからない事だらけなんです」

 ……これは、本当にそうなのだ。正直わからない事だらけだ。
 私の方が誰かに教えて欲しい。

「そういえば前から気にはなっていたのだが、お前いつも同じペンダントをしていないか? もしやそれが魔道具なのか?」
「あ、コレですか? よく気が付きましたね!」

 今日は珍しくドレスなんか着ているから目立つが、普段出来るだけ服の中に隠す様に付けていたペンダントの存在に気付かれているとは思わなかった。
 洋服のデザインによっては見えてたし、それで気付いたのかな?

「これは確かに、御守りだから絶対にいつも身に付けておく様にと言われていた魔道具のペンダントです。
 ……でも、壊れちゃったんですよ」
「そうなのか? もう使えないと言う事か?」
「そうですね、もう効果は無いと思います。ほら、ペンダントの真ん中のこの部分に窪みがあるでしょう? 本当はここに魔石がはまっていたんです」
「魔石か……。どんな効果がある物だったんだ?」
「瞳と……髪の色を変える効果です」

 旦那様はハッと気付いた顔をした。
 そう、今の私のこの金色の髪は、王家か筆頭公爵家の血を引いた人間である証。こんな姿で平民として暮らせる訳が無い。

「物心付いた頃には、このペンダントを付けていました。その頃は瞳も髪も茶色くて。それが普通に自分の色なんだと思ってました」



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