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さぁ、パーティーの始まりだ!

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 私達が夜会の会場である迎賓館に到着した時は、既に半数以上の参加者が集まっている様子だった。

 ミシェルに受けた事前のレクチャーに寄ると、こういった貴族の集まりでは基本的に爵位が下の者から入場するらしい。正式な夜会だと、厳密に入場の順番が決められているというから驚きだ。

 今日は設定上は『内々の夜会』らしいので、入場の順番までは決められていない。

 資産上は恐らく国内で5本の指に入るハミルトン家も、爵位の上では伯爵位。つまりは男爵家子爵家が入場し終わってから、侯爵家が入場する前に会場に入ればいい訳だ。
 もちろんこの順番をミスると悪評が立つ。こっわ!


『ハミルトン伯爵ご夫妻がご入場されます』


 扉が開かれた瞬間、中から眩いシャンデリアの光と高揚感溢れる貴族達の声が洪水の様に押し寄せて来た。

 その想像以上の熱気に飲まれそうになり、思わず旦那様の腕に添える手に力が入る。

「アナ、大丈夫だ」

 見上げれば、優しく微笑む旦那様。
 ……不覚にも結婚してから初めて旦那様を頼もしいと感じてしまった。

 『む、何か悔しいな』と思った瞬間、いつもの自分のペースが戻って来る。旦那様、グッジョブです。


 私と旦那様の姿が見える様になると、会場は一気に騒ついた。

 政略結婚で不仲と噂される美貌の若き伯爵と元平民娘が、一目でそれと分かる程揃えられた素晴らしいドレスで現れたのだ。貴族達の動揺が凄い。

 そして、やはりここでも一番注目されたのが——

 私の髪色だ。

 私のこの金色の髪は社交界では武器になる。
 ミシェルにそう言われ、それならばと髪は敢えて全てを結い上げず、後れ毛を多めに残して巻くアレンジにしてある。

 私が歩く度にふわふわ揺れる金色の髪は貴族達の視線を釘付けにした。

『ハミルトン伯爵夫妻は政略結婚だったのでは?』
『あの美しい奥様が平民育ち? 信じられませんわ』
『むしろ、何処かに隠されて大切に育てられていたのでは?』
『まさか髪色が金色とは知らなかった』
『それよりあのドレス! あんな素晴らしいドレスを何処で仕立てたのかしら?』
『宝石も素晴らしいわ。流石ハミルトン伯爵家ね』

 私達が一歩進む度に、さざ波の様に貴族の噂話が広がっていく。

『あんなの、髪色が派手なだけだわ』
『メイクとドレスのお陰よね』
『これ見よがしにユージーン様にエスコートされて許せないわ。政略結婚の癖に』

 うむ。安定の陰口も聞こえますな。ご令嬢方、顔は覚えたぞ! それと人の旦那様を名前呼びすな!

 敢えてその令嬢方と視線を合わし、ニッコリと微笑んでおく。相手側は慌てて扇子で顔を隠してコソコソと移動していった。
 そんなすぐ逃げる位なら悪口なんて言わなきゃいいのに。

 侯爵家と公爵家は数自体が少ないので、私達の入場後すぐに招待客の入場は終わった。


 後はいよいよ、主催者と主賓がご登場だ。


 高らかなファンファーレと共に、壇上に現れた1人の貴公子——

 彼こそがこのフェアランブル王国の王太子。
 アルフォンス・フォン・フェアランブルその人である。

 ホールにいた貴族達は皆、一切に男性は頭を下げ、女性はカーテシーの姿勢になった。

「ありがとう、皆顔を上げてくれ。急な夜会であったにも関わらず、この様に沢山の者が駆け付けてくれた事を嬉しく思う」

 殿下の言葉を受け、顔を上げる。

 壇上では私と同じ眩いばかりの金色の髪の美青年が爽やかな笑顔で皆に語りかけていた。

 この人が王太子殿下か。パッと見は文句の付けようもない好青年ぶりだけど……胡散臭いな。

 ドレスの件もあるし、私の本能がコイツはヤバいと告げている。絶対関わり合いにならない方がいい。

 ふと隣を見上げれば、旦那様も射る様な目で殿下を見据えている。自国の王太子を見る目ではない。流石にいかん。

『旦那様、旦那様、目が怖いです』
『……すまん』

 周りに聞こえない様な小さな声でコソコソ話している内に、挨拶は終わりに差し掛かっていた。

「それでは、今日の主役に登場して貰おう。我が良き友人、アレクサンダー・フォン・フェアファンビルだ」

 一段と拍手が大きくなる中、アレクサンダーお義兄様と、その後ろにフェアファンビル公爵夫妻とクリスティーナが現れる。

 クリスティーナは相変わらずにこにこと嫋やかな笑顔を絶やさないが、壇上に出るやいなや私を見つけた様で、笑顔のまま目をクワッと見開いた。

 早いし怖いし器用だな!!

 クリスティーナが何を考えてるのかは手に取る様に分かるのだが、私としてはこちらとも関わり合いになりたくない。

 私は目線をスススッと動かしてアレクサンダーお義兄様の方を見た。私達の結婚式にも参列出来なかったお義兄様とお会いするのは、ほぼ1年ぶりだ。

 お変わり無さそうでホッとしたが、精悍さは増した様な気がする。私がアレクサンダーお義兄様を見ていると向こうも私に気が付いた様で、少し驚いた顔をした後に小さく手を振ってくれた。

 嬉しくなって私も手を振り返そうとしたら、何故か私より早く旦那様が手を振り返す。しかも無表情で。

 何でだよ!??

 思わず突っ込みそうになったが何とか耐えて、しかしそのせいでお義兄様には手を振り返せなかった。

 壇上の挨拶が終わると、そのまま主催者と主賓は私達のいるフロアより一段高い主賓席へと座り、ここからが本格的な夜会の始まりとなる。

 つまり、ここからが勝負という事だ。

 私の勝利条件は、まず第一に必要以上に目立たず上手くやり過ごす事。

 第二に、ドレスに興味を持って話しかけてくるであろう貴族達にハミルトン・シルクを印象付ける事。

 そして……上手くアレクサンダーお義兄様と接触して、情報を引き出す事。


 よし! ここまで引っ張り出して来られたからには、しっかりお土産は頂いていきますからね!

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