ブラーデマーゲスの王宮占術師 ――神より夢に託されし、秘匿された未来――

山村久幸

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(四)

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 暫くしたのち、彼は右手に天球儀てんきゅうぎ――惑星アールネロズから見える天体の動きを再現する道具――を持って、奥の部屋から出てきた。

 実に精巧せいこうな造りをしているそれ天球儀。数多の神を尊崇そんすうする教会がわざわざ彼のために用意したものだ。五年に一度は新たに造られており、かれこれ六台目の代物しろものだ。

 教会ご謹製きんせいめい打つだけあって、神々からの託宣たくせんを受けるのにはもってこいだ。

 彼の仕事道具にはこうした教会ご謹製の代物がいくつもあるのだ。


 ちなみに、天球儀がこの星に登場してから、かれこれ千年以上も経過している。

 そのころには星々の運航などの天文学的理論も完成されていた。当然、公転、自転などの理論も完成されているし、地動説はすでに確立されている。


 メンティスは天球儀を机の手前側に乗せてから、椅子に座る。奥の部屋から出てきてから椅子に座るまでの動きに、これといって緊張感きんちょうかんは見受けられない。

 天球儀を置いた位置はあくまでも仮の位置。


 むしろ、ここからが本番であろう。

 彼は背筋をピンとばし、呼吸を整える。口を開かずに、何度もゆっくりと腹筋を前後させる。

 自然と心が落ち着いてくるのが彼自身にも感じ取れていた。


 天球儀を机の中央へとおもむろに置いた――

 その瞬間のことであった。


 ああ、神々の奇跡とはこのことを指すのであろう。


 おのずと部屋が暗くなっていった。薄暮はくぼよりやや明るい、夕焼け時くらいの明るさだろうか。

 壁に描かれた空の色も同じように変化した。

 天井の色は変わらない。


 これこそが占いをつかさどる神様が起こす奇跡。


 ――さあ、まずは女神イリスティーリア様へのご挨拶あいさつからしなければね。心してかからねば。


 メンティスの面持おももちに幾分いくぶんかたさが見えてきた。

 占い。それは『神々との対話』だと常日頃つねひごろから思っている彼。

 女神イリスティーリアは流星の動き、夢占い、星占いなどを司る。

 メンティスが昨晩から今朝けさにかけて見た夢。これから占うこと。

 それらはイリスティーリアの担当領域であるのだ。


「あなうるわしきイリスティーリア様。先程にたまわった夢による託宣たくせん。誠にがた仕儀しぎに存じたてまつります」

 今、天球儀を前にして述べたメンティスの御礼おんれいの口上。実にうやうやしさ満点である。

 おや? 不思議なことに天球儀の天球があやしく明滅めいめつを二度ほどり返しているでないか。


「あな麗しきイリスティーリア様。此度こたびもまた、貴女あなた様の御業みわざゆだねたく言上ごんじょうつかまつ次第しだいであります。どうかお力添ちからぞええをば」

 星占いを始めるにあたってのお願いの為の口上もまた恭しい。

 またしても、天球が一度明滅した。


 これは如何いかなることだろうか。おそらくはイリスティーリアが返事をしているということなのだろう。


 ――ご挨拶も済んだ。ここからが占い。イリスティーリア様の思し召しを心して受け止める準備は整っているかい? ねえ、ぼく


 緊張の度合いがより深まってきた。

 胸の中心、その内側で規則正しく叩かれる音。その音がにわかに速さを帯び始めている。

 どんなに長い間、この生業をしていたとしても、占いをする直前というのは緊張をするのだ。


 ――落ち着こう。今こそ深く深く呼吸を整えよう。


 先程、呼吸を整えた時よりも、よりゆったりと深く。く息を空気に馴染なじませるかのように。

 深呼吸を重ねるにつれ、あんなにも激しかった鼓動こどうもゆったりとしたものになっていった。


 § § § § §


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