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暫くした後、彼は右手に天球儀――惑星アールネロズから見える天体の動きを再現する道具――を持って、奥の部屋から出てきた。
実に精巧な造りをしているそれ。数多の神を尊崇する教会がわざわざ彼のために用意したものだ。五年に一度は新たに造られており、かれこれ六台目の代物だ。
教会ご謹製と銘打つだけあって、神々からの託宣を受けるのにはもってこいだ。
彼の仕事道具にはこうした教会ご謹製の代物がいくつもあるのだ。
ちなみに、天球儀がこの星に登場してから、かれこれ千年以上も経過している。
その頃には星々の運航などの天文学的理論も完成されていた。当然、公転、自転などの理論も完成されているし、地動説は既に確立されている。
メンティスは天球儀を机の手前側に乗せてから、椅子に座る。奥の部屋から出てきてから椅子に座るまでの動きに、これといって緊張感は見受けられない。
天球儀を置いた位置はあくまでも仮の位置。
むしろ、ここからが本番であろう。
彼は背筋をピンと伸ばし、呼吸を整える。口を開かずに、何度もゆっくりと腹筋を前後させる。
自然と心が落ち着いてくるのが彼自身にも感じ取れていた。
天球儀を机の中央へと徐に置いた――
その瞬間のことであった。
ああ、神々の奇跡とはこのことを指すのであろう。
自ずと部屋が暗くなっていった。薄暮よりやや明るい、夕焼け時くらいの明るさだろうか。
壁に描かれた空の色も同じように変化した。
天井の色は変わらない。
これこそが占いを司る神様が起こす奇跡。
――さあ、まずは女神イリスティーリア様へのご挨拶からしなければね。心してかからねば。
メンティスの面持ちに幾分か硬さが見えてきた。
占い。それは『神々との対話』だと常日頃から思っている彼。
女神イリスティーリアは流星の動き、夢占い、星占いなどを司る。
メンティスが昨晩から今朝にかけて見た夢。これから占うこと。
それらはイリスティーリアの担当領域であるのだ。
「あな麗しきイリスティーリア様。先程に賜った夢による託宣。誠に有り難き仕儀に存じ奉ります」
今、天球儀を前にして述べたメンティスの御礼の口上。実に恭しさ満点である。
おや? 不思議なことに天球儀の天球が妖しく明滅を二度ほど繰り返しているでないか。
「あな麗しきイリスティーリア様。此度もまた、貴女様の御業に委ねたく言上仕る次第であります。どうかお力添えをば」
星占いを始めるにあたってのお願いの為の口上もまた恭しい。
またしても、天球が一度明滅した。
これは如何なることだろうか。恐らくはイリスティーリアが返事をしているということなのだろう。
――ご挨拶も済んだ。ここからが占い。イリスティーリア様の思し召しを心して受け止める準備は整っているかい? ねえ、僕?
緊張の度合いがより深まってきた。
胸の中心、その内側で規則正しく叩かれる音。その音が俄に速さを帯び始めている。
どんなに長い間、この生業をしていたとしても、占いをする直前というのは緊張をするのだ。
――落ち着こう。今こそ深く深く呼吸を整えよう。
先程、呼吸を整えた時よりも、よりゆったりと深く。吐く息を空気に馴染ませるかのように。
深呼吸を重ねるにつれ、あんなにも激しかった鼓動もゆったりとしたものになっていった。
§ § § § §
実に精巧な造りをしているそれ。数多の神を尊崇する教会がわざわざ彼のために用意したものだ。五年に一度は新たに造られており、かれこれ六台目の代物だ。
教会ご謹製と銘打つだけあって、神々からの託宣を受けるのにはもってこいだ。
彼の仕事道具にはこうした教会ご謹製の代物がいくつもあるのだ。
ちなみに、天球儀がこの星に登場してから、かれこれ千年以上も経過している。
その頃には星々の運航などの天文学的理論も完成されていた。当然、公転、自転などの理論も完成されているし、地動説は既に確立されている。
メンティスは天球儀を机の手前側に乗せてから、椅子に座る。奥の部屋から出てきてから椅子に座るまでの動きに、これといって緊張感は見受けられない。
天球儀を置いた位置はあくまでも仮の位置。
むしろ、ここからが本番であろう。
彼は背筋をピンと伸ばし、呼吸を整える。口を開かずに、何度もゆっくりと腹筋を前後させる。
自然と心が落ち着いてくるのが彼自身にも感じ取れていた。
天球儀を机の中央へと徐に置いた――
その瞬間のことであった。
ああ、神々の奇跡とはこのことを指すのであろう。
自ずと部屋が暗くなっていった。薄暮よりやや明るい、夕焼け時くらいの明るさだろうか。
壁に描かれた空の色も同じように変化した。
天井の色は変わらない。
これこそが占いを司る神様が起こす奇跡。
――さあ、まずは女神イリスティーリア様へのご挨拶からしなければね。心してかからねば。
メンティスの面持ちに幾分か硬さが見えてきた。
占い。それは『神々との対話』だと常日頃から思っている彼。
女神イリスティーリアは流星の動き、夢占い、星占いなどを司る。
メンティスが昨晩から今朝にかけて見た夢。これから占うこと。
それらはイリスティーリアの担当領域であるのだ。
「あな麗しきイリスティーリア様。先程に賜った夢による託宣。誠に有り難き仕儀に存じ奉ります」
今、天球儀を前にして述べたメンティスの御礼の口上。実に恭しさ満点である。
おや? 不思議なことに天球儀の天球が妖しく明滅を二度ほど繰り返しているでないか。
「あな麗しきイリスティーリア様。此度もまた、貴女様の御業に委ねたく言上仕る次第であります。どうかお力添えをば」
星占いを始めるにあたってのお願いの為の口上もまた恭しい。
またしても、天球が一度明滅した。
これは如何なることだろうか。恐らくはイリスティーリアが返事をしているということなのだろう。
――ご挨拶も済んだ。ここからが占い。イリスティーリア様の思し召しを心して受け止める準備は整っているかい? ねえ、僕?
緊張の度合いがより深まってきた。
胸の中心、その内側で規則正しく叩かれる音。その音が俄に速さを帯び始めている。
どんなに長い間、この生業をしていたとしても、占いをする直前というのは緊張をするのだ。
――落ち着こう。今こそ深く深く呼吸を整えよう。
先程、呼吸を整えた時よりも、よりゆったりと深く。吐く息を空気に馴染ませるかのように。
深呼吸を重ねるにつれ、あんなにも激しかった鼓動もゆったりとしたものになっていった。
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