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1章【我が家に天使がやって来た】

※3天使

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「……分かりました。これからヴィヴィアンが18の成人を迎えるまでの10年間私が彼女を守れば良いのですね」
「そういうことだ」
「ではこのまま行けばあの可愛いヴィヴィアンちゃんは愚息のお嫁ちゃんになるのね」
「愚息とは酷いですね母上」
「だってアナタももう20歳でとっくに成人を迎えているのにいくら釣書を持って来ても見もしないし。どうせ結婚する気はないというんでしょう?後10年長いけどあたくしがヴィヴィちゃんを可愛がって、加護が1つになろうと貴方のお嫁ちゃんになってくれるように導くわ」
「先の事は分かりませんよ母上」
 そう言いながら母の言う通り俺は結婚願望と云うものが無かったので「加護持ち」の子を守る為に婚約者になれというのならそれでもいいと思っていた。

 こちらの話が落ち着いたところでフレイアが湯あみを済ませた少女を連れて執務室にやってきた


 フレイアとドリーに綺麗に磨かれたその子は3年間の軟禁の為小柄で痩せており年よりももっと幼く見えはしたが、先ほど外套から零れ落ちた銀色の髪は背中の中ほどまで伸びていて大きな菫色の瞳がまるで天使が舞い降りて来たのはないかと思わせた。

ーーーかっ、可愛いーーー俺の胸の中で何かが弾けたような気がした。
 しかしその瞳は少し怯えるように揺れ元からのメイドであったというドリーのお仕着せを握り締めている。

「まぁ、可愛く綺麗になって。ヴィヴィアンちゃん、怖がらなくてもいいのよ。こちらにいらっしゃいな」
 母が手を差し伸べると少し戸惑いながらもゆっくりと母の傍にやって来た。
「はい、ここに座りましょうね」
 自分と俺の間に天使を座らせ小さな手を握っている。
 ぴったりと横についた天使からは湯あみで少し香油を使って貰ったらしく銀色の髪からはほんのり甘い花の香りがし俺の鼻を擽った。
 チラリと隣に座る少女を見下ろすとつむじが見えた。

ーーー何なんだ。何か分かんがつむじも可愛く見えて来たーーー

「ヴィヴィアンちゃん、今まで辛かったわね。今日からここが貴女のお家よ。前に座ってる熊みたいのがお義父様になるの。そしてわたくしがお義母様よ。よろしくね」
 母上はいつもの作り笑顔ではなく素の笑顔で少女に優しく微笑んだ。
「熊とはなんだ!」
 父がふて腐れながらテーブルの向こうから手を伸ばし少女をヒョイと持ち上げると自分の膝の上に座らせる。少女はきょとんとしたまま固まっていていたが父の顔をじっと見つめた後、
「こ、ここが今日からヴィヴィのお家になる?」
 と母上に向かい不安げに聞いて来た。
「ええそうよ」
「お前をあの小屋に閉じ込めていた両親は火事で死んでしまったのだ。今日からはうちの子になる。お父様と呼びにくかったらパパでも良いんだぞ」

 火事で死んだと云ってはいるが実際は自分が首を落としたと云うのに父は目尻を下げヴィヴィアンの頭をごつい手で撫でている。

「おとう様とおかあ様はあの火事で死んで……新しいお、おとう様……?」
「ああそうだ。うんうんいいなぁ娘って」
「まぁだらしないお顔をなさって。ヴィヴィアンちゃん、こっちはあなたのお義兄さまのアクセルね。でもお義兄さまとは呼ばずアクセルと名前で呼ぶといいわ。それと暫くは身体を休めて健康を取り戻しましょう。元気になったら色々お勉強もしましょうね」
「は。はい……か、かごのこと……は」
「そんなこと気にしなくていいんだぞ」
「ええそうよ。貴方は普通のお嬢さんで良いのよ」
「うっ、、、、」
 緊張の糸が切れのかヴィヴィアンは泣きだしてしまった。
「おいおい。泣くな」
 膝の上で泣き出した少女にオロオロする熊。
 父はいきなりテーブル越しの彼女が元座っていた場所ではなく俺の膝に抱き上げたヴィヴィアンを降ろしてきた。

「えっ?」
 少女は場所を移動されたことも気にもせず言葉を続けた。

「か、加護のこと……ずっとずっと言われて……こわか……った。みんな怖い顔して」

 膝の上の少女の軽さに驚く。
 物ごごろ付いたころからずっとプレッシャーを掛けられ辛い思いをしてきたんだと思った。自分で力を封印する程だったのだから。
 俺はその小さな体を気付かない内に抱きしめていた。
 そして背中を摩りながらなるべく優しく言う。

「この家には君に無理な事をいう人は誰もいないよ。普通に暮らせるんだ」
「おにいさま?」
「お義兄様ではなくアクセルでいいよ」
「ア、アクセルさま……」

 ヴィヴィアンは俺にしがみ付いて泣いた。
 泣く事で今までの思いを吐き出してしまえばいい。
 俺はこの天使を嫌な思いから守ってやるそう心に決めた。
 暫くして泣きやんだ少女を立たせその手をとり跪く。

「ヴィヴィアン、君はまだ幼いが、今から私が婚約者となった。君の事は成人になるまでいやもっとその先までになるか分からないが、傍に居る限りこの命と騎士の剣に掛けて守ると誓おう」

 掴んでいた指先に触れるだけの口づけを落とす。

「アクセルさま・・・ヴィヴィのこんやくしゃ?」

「ああ、そうだよ。婚約者となったからこれからはヴィヴィと呼んで良いかな?」

「はい、ヴィヴィでいいです」

「ヴィヴィ私の可愛い婚約者どの」

 ヴィヴィは菫色の瞳に涙を潤ませたまま頬をそめ笑顔を見せた。
 その笑顔はまるで年頃の娘を思わせる笑みだった。

 俺とヴィヴィの様子を見て父と母は涙を浮かべたのち頷き、生まれた頃より世話をしていたという傍付きのドリーは膝から崩れ落ちるように床に座り両手で顔を覆った。

「良かったです。これでお嬢様もお幸せになれるんですね」

 ドリーがすすり泣くとヴィヴィアンは駆け寄り膝をついていた彼女を小さな身体で抱き締めたのだった。







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