副団長は次期公爵~幼き婚約者との10年

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3章【第二の予知と】

※お山が怒っている①

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 ヴィヴィも十四歳になり、来年デビュタントを迎える年齢になると予想通り貴族からのお茶会などの申し込みが後を絶たず、母上は返事を書く作業にうんざりしていた。
 公爵家の養女で俺と結婚すれば将来の公爵夫人となるのだから今から繋がりを作って置きたいという事だろう。

 そんな中、楽しい学院での話をしていた彼女が突然倒れたのは家族で食事をしている最中だった。

 隣に座っていた彼女が急に頭を抱えたかと思ったら椅子から崩れ落ちそうになり慌てて支えた。ヴィヴィがテーブルクロスを握ったまま意識を失ったので辺りは料理のソースやらスープまみれになり惨事となってしまったがそれどころではない。
 そのまま抱き上げて部屋へ運びドリーに着替えを頼んだ。
 トーマスが主治医を呼びつける。
 父は留守だったが同席していた母は真っ青な顔でその場に座り込んでいたと後から知った。

 ヴィヴィは今日で三日、意識は戻っていない。
 主治医は呼吸、脈拍ともに異常はなく魔力で体内の気の流れを見ても正常に流れていると言ったが、倒れた原因は分からないと首を傾げた。
 俺は心配でたまらず三日間ヴィヴィの傍を離れず声を掛け続けていた。寝顔が時折曇り眉間に皺を寄せて苦しそうにしている様子は見ていて胸が痛んだ。俺は小さな手を握ったり摩ったりしながら呼び掛けた。
 このまま目覚めなかったら・・・

「アクセルさま」

 聞きなれた声で目を覚ます。
 いつの間にかベッドの横で椅子に座ったままうたた寝をしていたらしい。
 呼ばれて気付くと手を握り返えされていて目の前には愛しいヴィヴィの顔があった。
「ああ、良かった。気が付いたんだな」
 俺は安堵しヴィヴィの頬を優しく撫でる。
「心配かけてごめんなさい」
「いや、いいんだ。どこか苦しいとか痛いところはないか?」
「はい、大丈夫です。あっ、でもちょっとお腹が空きました」
 かすかに笑いながら空いている手で分厚い毛布の上からお腹をさすった。

「そうか、三日も寝ていたからな。粥でも用意させよう」
 額から頬、そして色味が戻った唇にリップ音を立てて口づける。心配し、ドリーと交代でドアの外に立っていたマギーを呼びヴィヴィが目覚めたことと食事の用意を頼むと伝えると、マギーの沈んでいた顔が綻ぶ。五十を過ぎた侍女頭にあるまじき行為ではあるが、スカートを持ち上げそのまま走り出してヴィヴィの無事を知らせに行った。

 程なくして母が部屋に飛び込んできた。

「ああ、ヴィヴィちゃん良かったわ」
 彼女に抱き付き泣き出してしまう母。
「お義母さま。心配をお掛けしてごめんなさい」
「ええ、ええ。心配しましたとも。でもこうして目覚めてくれたんだからいいわ。神様ありがとうございます」
 ヴィヴィの額に何度も口づけてから微笑む。
 そんな二人を見ながらこの三日間でヴィヴィを失う事が俺にとってどれほど苦しく絶望に値する事かと身に沁みて分った。

 マギーの持って来たミルク粥を半分ほど食べ、落ち着くと少し厳しい表情をして俺と母に話があると言ってきた。
 ヴィヴィを見守っていたマギーとドリーを下がらせベットの横に椅子を並べる。

「わたし夢を見たんです」
「夢を?」
「はい、とても恐ろしい夢。北のお山が怒って……」
「北の山とは今は雪で覆われている国境の山の事か?」
 ヴィヴィは一つ息を吐いた。
「はい。火を噴き赤い溶岩は海に流れて他の所では雪崩が人々を襲う夢でした」

 母と顔見合わせ一瞬身震いした。

 北の山は隣国であるトリアート国との境にあるアピリオ山の事だ。その山が噴火するとヴィヴィが予知をしてきた。
 アピリオ山から海まで数キロに渡り両国の間には二枚の壁が建てられている。百年以上前に戦争が起き、終戦後に建てられたもので両壁の間は数十メートルありそこは無国籍の場所なっていた。現在は平和条約結び双方の壁の一部を壊し関所を設けてある。関所周辺には温泉宿も作られ商人たちの旅の疲れを癒してくれていた。
 また北の山は二つの山からなりその麓には村が点在し遊牧民も多くいる。
 その場所で山が噴火し溶岩と雪崩に襲われたら大惨事だ。両国ともに多くの犠牲者を出すことになるだろう。

「ヴィヴィ、それは数日内に起きるのか?」
「ううん、まだ一月ほど先だと思う」
 首を横に振り毛布を両手で握り締めている。

「分かった、俺はこれから陛下に会って来る。母上ヴィヴィの事をよろしくお願います」
「ええ、任せなさい。旦那様の所にも直ぐに馬を走らせるようトーマスに伝えてちょうだい」
「はい、では!」
 ヴィヴィの半身を抱き締め頬に口づけをすると彼女は無言で頷いた。


 正直寝不足で馬を走らせるのは辛かったがそんな悠長なことは言ってられない。
 俺は王家専用の門から城内へと馬で駆け込んでいった。

***

 陛下の居場所を確認し、王妃とお茶をしている専用サロンへと護衛を蹴散らしながら入って行く。

「何事だアクセル!」
「伯父上取り急ぎ報告させて頂きたい事があります。どうかお人払いを」
 俺は片膝をつき頭を下げる。
 その様子に何か危機感を感じ取った伯父上が俺の要望に応え、今サロンにいるのは俺と伯父上、そして伯母上である王妃の三人となった。

「何があった?」
「はい、三日前にヴィヴィアンが突然倒れ、先ほど目を覚ましたのですが」
「何、ヴィヴィアンが?それで大丈夫なのか?」
「はい、彼女は大丈夫です。それで意識を失っている間に夢を見たと申しまして」
「・・・夢?・・・先読みか?」
「ええ、ヴィヴィの予知では約一月後となりますが、国境のあるアピリオ山が怒って大規模な噴火が起こると申しております」

「まぁ何てこと!三百年以上も穏やかだった北の山がお怒りになるなんて!」
 王妃の顔色が見る見るうちに青ざめていく。

「ここ最近地の揺れが多かったのはその影響か」
 三百年以上前に噴火の記録があり温泉も湧き出ているのだから北の山は活火山である。
 アクセルはヴィヴィが夢で見た光景を詳しく二人に伝えた。
 溶岩は海に流れると言っていた。
 雪崩が麓の村や遊牧民を襲う。

 噴火までには一か月ある。
 その間に壁の周辺と麓に暮らす人々を非難させなくてはならない。
 もちろん隣国にも同じように被害が出ると思われるが、加護を持つ者が先読みの力で予知をしたとは言えない。 
 ただ山が怒っており危険が迫っていると言って信じて貰えるのか・・・
 
 短い時間で伯父上である国王は考える。

「良く伝えてくれた。直ぐに大臣を集め会議を行う。
 誰か直ぐに宰相を呼べ!」

 大きく張り上げた陛下の声に扉の外で控えていた従者が「畏まりました」と答え走り出した足音が聞こえて来た。

「ウィルは呼んであるか?」
「はい、すでに早馬にて」
「うむ。帰ったら直ぐに、あっ、明日の朝で良い。儂の元へ来るように伝えてくれ」
「はい。では私は邸に帰らせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「ああ、ヴィヴィアンに礼を言ってくれ」
「はい」

 俺は両陛下に騎士の礼を取りその場を後した。




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