副団長は次期公爵~幼き婚約者との10年

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3章【第二の予知と】

※お山が怒ってる②

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 少しでも早くヴィヴィの元に戻りたくて急ぎ馬を駆ける。

「お帰りなさいアクセル様」
「えっ⁈」 
 数時間前まで意識もなく寝ていた筈のヴィヴィがトーマスの横に並んで立っている。驚いて一瞬固まってしまった俺だが、直ぐにそれは解けてヴィヴィの体を抱き締めた。「アクセル様、汗くさいです」と笑いながら言われて急に力が抜けてしまった。
「ごめん。シャワーを浴びてくる」
  そう言い残しヴィヴィの身体から離れトーマスには笑われながら浴室へと向かった。

 汗を流し母とヴィヴィに叔父上へ報告した話をして三人で夕餉のテーブルについた時、バタバタと大きな足音が聞こえて来た。

「ヴィヴィアン、大丈夫なのか!」
 大きな熊は埃だらけの髪を乱しヴィヴィを抱き上げると伸びた髭で頬ずりをしている。

「まぁ、なんですのあなた!そんな埃まみれで抱き付いたらヴィヴィちゃんが汚れてしまいますわ!湯あみを済ませてからにして下さいませ」
 母上に叱られ熊も俺同様渋々と浴室に向かったのだった。

 久しぶりの四人揃っての食事。
「ヴィヴィアンが倒れたと聞いた時には仕事が手に付かず直ぐにでも戻りたかったのだがそうもいかず悪かった。でも元気な顔が見れてホッとしたぞ」

「ごめんなさいお義父様。みんなに心配をかけてしまいました」
 ヴィヴィが申し訳なさそうにしゅんとする。
「良いのよヴィヴィちゃんが悪い訳ではないのだから謝らないで頂戴」
「気にするなヴィヴィアン、マリアの言う通りだ」
 両親の安堵の微笑みにヴィヴィも笑顔で応えた。

 食事の後、父の執務室に俺とヴィヴィが呼ばれる。
 応接セットのテーブルの上には大きな地図が広げられていた。

「ヴィヴィアン、怖い夢だったろうがもう一度見た光景を教えて欲しい」
「はい、お義父様」

 地図を指さしながらヴィヴィは淡々と語った。

「お山が怒って口を開けたのがこの辺です。そしてここに赤い川が出来て海に流れていきました」

 彼女の説明によると北の山の海側の側面が噴火し噴火口から流れ出たマグマは溶岩となり二つ壁の間を川のように海に押し流れされて行った。一部関所から溢れ出た溶岩が宿場まで流れ込んだ。雪崩は両国の麓を襲う。
 これによって双方で数千人の人々が犠牲となる様を見た言う。
 しかし、二つの壁が無ければ被害はもっと大きかったと想像できる。
 先人たちが作った壁のお陰で土地の被害は少なく押さえられたようだが逃げ惑う人々は熱と雪崩で行き場を失い命を落としたと思われた。

「救わねばならないな」
「ええ、ひと月あるのですから手立ては色々あると思います」
「明日早朝に城に上がる」
「はい」

 執務室を出て廊下を歩きながらヴィヴィアンに尋ねる。
「ヴィー今夜は俺の部屋で一緒に寝るか?」
 ヴィヴィはこくりと小さく頷いた。

 腕のなかで天使が寝息を立てている。
 ヴィヴィは俺の胸に頭を摺り寄せ直ぐに眠ってしまった。
 きっと恐ろしい予知の夢を見た疲れがまだ残っているのだと思われる。これから先も未来を見て恐怖をこの身で受け止めて行かねばならないのだ。
 俺は何もできないがせめて傍に居て彼女の慰めになろう。

 暫く背中を摩りながらふと気づく。
 初めて二つの加護の力を見せた時以来の添い寝だと。
 この甘い香りは変わらないがいつの間に背も伸び華奢ではあるが身体の線が柔らかくなっていた。
 二年ほどでこんなに変わっているなんて想像もしてなかったと少し焦る。
『ヴィー今夜は俺の部屋で一緒に寝るか?』
 つい以前の感覚で言ってしまったが良かったのだろうか?
 
 否考えるのはよそう。
 俺は銀色の髪を撫でながら数日間の寝不足には勝てず瞳を閉じた。


***

 王の判断は早かった。
 ヴィヴィの二つ目の加護は王家以外には秘密とされているので噴火予告に関しては国王が神より神託を賜ったと告げた。
 大臣たちはその言葉に半信半疑であったけれど具体的な被害の様子を聞き、信じるに至った。

 まずは北の山周辺に住む人々に王命に依り避難勧告出す。猶予はひと月だ。その間に被害が及ばないと思われる近隣の町に避難所を設けそこに移動してもらう。
 游牧民には馬族を使い知らせる事になった。広大な土地を移動して生活する彼らを兵士たちが見つけ知らせるのは難しい。ここは馬で各地を回る馬族にお願いする方が効率が良いという事になったのだ。
 そして隣国には使者を送り神の神託として伝える。
 信じようが信じまいがそれはその国の判断に委ねるしかないが、その使者の役目を大公である父が買って出た。王弟である大公が直々に知らせに来たとなれば信憑性も高まるという判断だ。
 大公が戻り次第関所を封鎖し溶岩が流れ込むのを少しでも軽減する為、熱に強いと言われる岩で埋める。

 指針は決まった。
 父は直ぐに隣国へ旅立つ準備を始め、隣接する町や村に避難民が住めるような小屋やテントを建てる為に軍隊を派遣する準備も同時に行い、彼らを率いり国境へと向かった。
 さすがは将軍と呼ばれた男だ仕事が早い。

 しかし、国王が懸念した通りウェルズ大公が使者として隣国の王と面会し神託を伝えても信じては貰えなかった。
 
 大公はトリアート国の王を前に

「我々は神託を伝え警告をした。民を守る為の準備を我が国は既に始めている。自国の民を守る為にどうすべきかは王である貴殿に委ねるしかない。我々を信じる心が少しでもあるならば直ぐに動かれよ!」

 との言葉を残し、トリアート国を後にした。
 そしてそのまま関所に留まり避難を促しながら関所封鎖の指揮を取り、全員の避難が確認出た時点で王都へ戻ると書かれた手紙が届いたのは、父が隣国へ向かってから十日後の事だった。

「あの人らしいわ」
 母上は心配を隠し気丈に振舞っていた。
 
 半月が過ぎた頃から地の揺れが頻繁に起こる様になって来た。
 漁師からは周辺の海水温が上がっているとの報告が王都にも届く。
 食料などの支援物資も避難先となる地に届けられられ周辺に住む八割の人々が避難を終えていた。

 そして父は全員が安全な地域に移動し終え、馬族の長より游牧民の避難が完了したとの報告を受けると軍隊を山に向かわせた。爆薬を仕掛けて小さな雪崩を幾つも事前に起こし村が大きな雪崩で飲み込まれることを防ぐ為だ。その作業を見届けてからの王都へ帰還となった。

 この時点で隣国がどう対処しているのかは計り知れないが、地の揺れが頻繁になってからでは全員の避難は難しいと思われる。
 使者からの知らせを聞き早急に判断が下されたことを願うしかなかった。





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