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3章【第二の予知と】
※社交界デビュー
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「本日、デビュタントを迎えた目出度き日に神の祝福があらんことを」
陛下の言葉に城の外では空砲がそして会場内には大きな拍手が鳴り響く。
俺は騎士服の正装でヴィヴィをエスコートした。
順番を待ってヴィヴィの手を取り伯父と伯母である陛下と王妃の前に一歩前に出て礼を取り頭を下げた。
「ヴィヴィアン、立派な淑女になったな。デビュタントおめでとう」
「本当に綺麗よヴィヴィアンちゃん、アクセルといつまでも仲良くね」
両陛下からのお言葉は一言ずつで終わるのが常であり祝いの言葉を頂戴し下がる。
振り向けば両陛下への挨拶の列はまだまだ繋がっていた。
ファーストダンスの相手はもちろん婚約者の俺だ。
日頃の母の指導のおかげでそつなく踊ることが出来た。
踊りながら愛しい婚約者と見つめ合う、
これ程の幸福感は味わったことはなかった。
皆、ヴィヴィの美しさに見惚れている。
「驚きましたわね。モントレー公爵家のご養女が加護をお持ちなのは知られておりますが、こんなに美しいご令嬢とは」
「ヴィヴィアン嬢とアクセル様との年の差は十二で御座いますわよ」
「でも貴族間ではそのくらいの年の差はよくある事ですわ」
「それにしてもヴィヴィアン嬢のあの銀の御髪は本当に綺麗ですわね」
「ええ、本当に愛らしいご令嬢ですこと」
「アクセル様も愛しそうに御婚約者を見つめられて・・・」
「本当にお美しく絵になるお二人ですわね」
ご婦人方は二人の見目の話が尽きない。
殿方からは
「何時ぞやの馬車の衝突事故では「治癒の加護」の力で瀕死の者を救われた。本当に素晴らしい事ですな」
「できれば我が侯爵家にお迎えしたかった」
「いやいや、大公殿と公爵殿のご子息がお相手では勝ち目がありませんよ」
などの言葉があちらこちらから聞こえて来たのでした。
デビュタントの儀は夕方前に行われ、そのまま舞踏会へ移行する。
王太子となったジュリアスと王子のカミラも出席し場を盛り上げた。
二人の殿下と踊れるチャンスは限られているが当然のごとくヴィヴィは二人から誘いを受け順に踊ることになった。
ジュリアスは凛として王太子としての姿勢を崩すことはないがカミラは・・・
ヴィヴィを見る目があまりにも熱を帯びていてそれに気づいた側近たちに注意を受けたのは言うまでもないことだった。
◇◇◇
その夜モントレー公爵家でもささやかなパーティーが開かれた。
「王城では気を使って疲れただろう?ゆっくり食べる事もできなかったからな」
「ええ、そう思いまして我々でささやかですがお祝いをさせて頂きたくヴィヴィアン様のお好きなお料理をご用意してお待ちしておりました」
父の言葉にトーマスが笑顔で答えた。
食堂のテーブルには彼女の好きな料理が並んでいると思われる。
「おっそれは良いな。流石はトーマスだ。よし、みんなで食堂へ・・・ん、ヴィヴィアンどうした?」
「お父様、私ドレスを着替えてきます。汚したら大変だし、コルセットを外さないとせっかくのお料理が・・・」
「ははは、そうだな。あんな物を付けていたら食えんわな(笑)」
そんな訳けでそれぞれがリラックスした服に着替えて食堂に集まった。
「ジャンさんのハンバーグ大好きです!」
ヴィヴィの言葉を聞いて料理長のジャンが嬉しそうに小さくガッツポーズをとっている。
「ヴィヴィアンお嬢さまがお好きなアップルパイはドリーが焼いてくれました」
マギーに言われてドリーが頬を染める。
「お嬢様は小さい頃からアップルパイがお好きでしたので」
「ドリーありがとう。あの小屋に閉じ込められている時もアップルパイを焼いて持って来てくれたものね。嬉しいわ」
ヴィヴィは嬉しそうに言っているが「閉じ込められていた」という言葉にその場にいた全員が一瞬凍り付いた。
「ヴィヴィ」
彼女の手を握り微笑みかける。
「これからは何の杞憂もない。ここにいるみんなが君の味方だ」
ヴィヴィはぐるりと両親、トーマスとマギーそしてドリーと使用人たちを見回し
「ありがとうございます」と頭を下げた。
「ほらほら、もうしんみりしないで戴きましょう。それはそうとこれでもう将来のお嫁ちゃん決定なんだから本邸の手直しもしなくちゃ。それとも二人用に別邸を建てる?ええ、それが良いかも。最初は新婚の二人が使い、あたくし達が引退したらそちらに隠居。ナイスアイディアですわ!ねぇ、旦那様?」
「おお、それは良いな」
「いやいや、母上。婚姻は成人を迎えてからですから・・・」
「いいのよ、考えるだけでも楽しいじゃないの」
母がこう言い出したらもう止められないのを知っている者たちはニコニコしながら聞き流していた。
母は上機嫌でワインを何杯も煽っており少し酔いが回り始めているように見える。その隣で父も底なしの蟒蛇ぶりを発揮していた。
「ヴィヴィちゃん、良かったわね。これから堂々とアクセルと腕を組んで夜会にも出られるわ、ドレスも新調しなくちゃね」
「はい、お義母様。嬉しいです♪」
「ねっねっ、どうする?今夜から一緒の寝室にする?」
とんでもないことを言い始める母に俺は慌てて否定した。
「母上、それはもう少し先という事で・・・」
「あら、でもデビュタントを迎えたら成人を待たずに婚姻を結ぶ令嬢も多いのよ?」
冗談はやめてくれ、そういう令嬢がいるにしてもヴィヴィと婚姻を結べるのは彼女が成人してからなのだ。それなのに、これから毎晩ヴィヴィが隣にいたら俺が困る。
もちろん当然の事ながらヴィヴィに最後までするつもりは毛頭ないが、傍に居たらギリギリの所まで行きそうな自分が怖いし、毎夜生殺し状態は勘弁してほしい。
ヴィヴィもどう答えてよいか分からず顔を赤くして俯いているじゃないか!
「あらそう?つまんないの。でも今度お買い物行ったら可愛いナイティとか見ちゃいましょうね」
「あー、もう。そういう話はまだ早いですし、したいならヴィヴィと二人だけの時にしてください!」
こんな大勢の使用人がいる前でする会話ではないだろう。何なんだこの母は!!!
俺は食事もそこそこにヴィヴィの手を引き急いで二階へ逃げていったのだった。
「ほんと、揶揄い甲斐があるわね、うちの愚息は。もう二十七ですのよ」
「あいつは良いがヴィヴィアンがかわいそうだからもう少しお手柔らかに頼むよマリア」
「あら、ご自分だって結構楽しんでいるくせに」
「あはは、君には敵わんな」
息子を肴に楽しんだ後、いきなりマリアを抱き寄せ濃厚なキスをする熊将軍は使用人たちの目の前で愛する妻に平手打ちを食らうのでありました。
奥方の一撃のあと主役の当人たちがいないまま二人の今後を祝う宴となり使用人たちも一緒に夜遅くまで続いたのだった。
_____________________________
※男女ともに成人は18歳と決められており、男子はその年にならないと婚姻できないが、女子は相手が成人なら15歳でデビュタントを迎えれば婚姻できる。ヴィヴィの場合は加護のことがあるので18歳までお預けとなります。
それとは別に「考えるだけでも」と言っていた義母マリアの言葉通りまもなくして侯爵邸の広い敷地の中、本邸の東側に新たに新居の建設が始まったのでした。
陛下の言葉に城の外では空砲がそして会場内には大きな拍手が鳴り響く。
俺は騎士服の正装でヴィヴィをエスコートした。
順番を待ってヴィヴィの手を取り伯父と伯母である陛下と王妃の前に一歩前に出て礼を取り頭を下げた。
「ヴィヴィアン、立派な淑女になったな。デビュタントおめでとう」
「本当に綺麗よヴィヴィアンちゃん、アクセルといつまでも仲良くね」
両陛下からのお言葉は一言ずつで終わるのが常であり祝いの言葉を頂戴し下がる。
振り向けば両陛下への挨拶の列はまだまだ繋がっていた。
ファーストダンスの相手はもちろん婚約者の俺だ。
日頃の母の指導のおかげでそつなく踊ることが出来た。
踊りながら愛しい婚約者と見つめ合う、
これ程の幸福感は味わったことはなかった。
皆、ヴィヴィの美しさに見惚れている。
「驚きましたわね。モントレー公爵家のご養女が加護をお持ちなのは知られておりますが、こんなに美しいご令嬢とは」
「ヴィヴィアン嬢とアクセル様との年の差は十二で御座いますわよ」
「でも貴族間ではそのくらいの年の差はよくある事ですわ」
「それにしてもヴィヴィアン嬢のあの銀の御髪は本当に綺麗ですわね」
「ええ、本当に愛らしいご令嬢ですこと」
「アクセル様も愛しそうに御婚約者を見つめられて・・・」
「本当にお美しく絵になるお二人ですわね」
ご婦人方は二人の見目の話が尽きない。
殿方からは
「何時ぞやの馬車の衝突事故では「治癒の加護」の力で瀕死の者を救われた。本当に素晴らしい事ですな」
「できれば我が侯爵家にお迎えしたかった」
「いやいや、大公殿と公爵殿のご子息がお相手では勝ち目がありませんよ」
などの言葉があちらこちらから聞こえて来たのでした。
デビュタントの儀は夕方前に行われ、そのまま舞踏会へ移行する。
王太子となったジュリアスと王子のカミラも出席し場を盛り上げた。
二人の殿下と踊れるチャンスは限られているが当然のごとくヴィヴィは二人から誘いを受け順に踊ることになった。
ジュリアスは凛として王太子としての姿勢を崩すことはないがカミラは・・・
ヴィヴィを見る目があまりにも熱を帯びていてそれに気づいた側近たちに注意を受けたのは言うまでもないことだった。
◇◇◇
その夜モントレー公爵家でもささやかなパーティーが開かれた。
「王城では気を使って疲れただろう?ゆっくり食べる事もできなかったからな」
「ええ、そう思いまして我々でささやかですがお祝いをさせて頂きたくヴィヴィアン様のお好きなお料理をご用意してお待ちしておりました」
父の言葉にトーマスが笑顔で答えた。
食堂のテーブルには彼女の好きな料理が並んでいると思われる。
「おっそれは良いな。流石はトーマスだ。よし、みんなで食堂へ・・・ん、ヴィヴィアンどうした?」
「お父様、私ドレスを着替えてきます。汚したら大変だし、コルセットを外さないとせっかくのお料理が・・・」
「ははは、そうだな。あんな物を付けていたら食えんわな(笑)」
そんな訳けでそれぞれがリラックスした服に着替えて食堂に集まった。
「ジャンさんのハンバーグ大好きです!」
ヴィヴィの言葉を聞いて料理長のジャンが嬉しそうに小さくガッツポーズをとっている。
「ヴィヴィアンお嬢さまがお好きなアップルパイはドリーが焼いてくれました」
マギーに言われてドリーが頬を染める。
「お嬢様は小さい頃からアップルパイがお好きでしたので」
「ドリーありがとう。あの小屋に閉じ込められている時もアップルパイを焼いて持って来てくれたものね。嬉しいわ」
ヴィヴィは嬉しそうに言っているが「閉じ込められていた」という言葉にその場にいた全員が一瞬凍り付いた。
「ヴィヴィ」
彼女の手を握り微笑みかける。
「これからは何の杞憂もない。ここにいるみんなが君の味方だ」
ヴィヴィはぐるりと両親、トーマスとマギーそしてドリーと使用人たちを見回し
「ありがとうございます」と頭を下げた。
「ほらほら、もうしんみりしないで戴きましょう。それはそうとこれでもう将来のお嫁ちゃん決定なんだから本邸の手直しもしなくちゃ。それとも二人用に別邸を建てる?ええ、それが良いかも。最初は新婚の二人が使い、あたくし達が引退したらそちらに隠居。ナイスアイディアですわ!ねぇ、旦那様?」
「おお、それは良いな」
「いやいや、母上。婚姻は成人を迎えてからですから・・・」
「いいのよ、考えるだけでも楽しいじゃないの」
母がこう言い出したらもう止められないのを知っている者たちはニコニコしながら聞き流していた。
母は上機嫌でワインを何杯も煽っており少し酔いが回り始めているように見える。その隣で父も底なしの蟒蛇ぶりを発揮していた。
「ヴィヴィちゃん、良かったわね。これから堂々とアクセルと腕を組んで夜会にも出られるわ、ドレスも新調しなくちゃね」
「はい、お義母様。嬉しいです♪」
「ねっねっ、どうする?今夜から一緒の寝室にする?」
とんでもないことを言い始める母に俺は慌てて否定した。
「母上、それはもう少し先という事で・・・」
「あら、でもデビュタントを迎えたら成人を待たずに婚姻を結ぶ令嬢も多いのよ?」
冗談はやめてくれ、そういう令嬢がいるにしてもヴィヴィと婚姻を結べるのは彼女が成人してからなのだ。それなのに、これから毎晩ヴィヴィが隣にいたら俺が困る。
もちろん当然の事ながらヴィヴィに最後までするつもりは毛頭ないが、傍に居たらギリギリの所まで行きそうな自分が怖いし、毎夜生殺し状態は勘弁してほしい。
ヴィヴィもどう答えてよいか分からず顔を赤くして俯いているじゃないか!
「あらそう?つまんないの。でも今度お買い物行ったら可愛いナイティとか見ちゃいましょうね」
「あー、もう。そういう話はまだ早いですし、したいならヴィヴィと二人だけの時にしてください!」
こんな大勢の使用人がいる前でする会話ではないだろう。何なんだこの母は!!!
俺は食事もそこそこにヴィヴィの手を引き急いで二階へ逃げていったのだった。
「ほんと、揶揄い甲斐があるわね、うちの愚息は。もう二十七ですのよ」
「あいつは良いがヴィヴィアンがかわいそうだからもう少しお手柔らかに頼むよマリア」
「あら、ご自分だって結構楽しんでいるくせに」
「あはは、君には敵わんな」
息子を肴に楽しんだ後、いきなりマリアを抱き寄せ濃厚なキスをする熊将軍は使用人たちの目の前で愛する妻に平手打ちを食らうのでありました。
奥方の一撃のあと主役の当人たちがいないまま二人の今後を祝う宴となり使用人たちも一緒に夜遅くまで続いたのだった。
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※男女ともに成人は18歳と決められており、男子はその年にならないと婚姻できないが、女子は相手が成人なら15歳でデビュタントを迎えれば婚姻できる。ヴィヴィの場合は加護のことがあるので18歳までお預けとなります。
それとは別に「考えるだけでも」と言っていた義母マリアの言葉通りまもなくして侯爵邸の広い敷地の中、本邸の東側に新たに新居の建設が始まったのでした。
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