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1章【我が家に天使がやって来た】

※どう見られているのか①

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 二人が意気揚々と退室した後ワインを飲みながら考える。

 ヴィヴィアンという名の天使がここへやって来るのは1週間後である。
 父は知っての通りこの国の王弟。兄である国王に王子が2人誕生したので継承権を返上し大公となった。
 母は三大公爵家のうちの1つモントレー公爵家の一人娘で爵位を継いだ女公爵だ。その上、大公妃である我が家は三大公爵家の中でも一番格上となる。
 俺は王族の血は引いているが、大公は父が一代限りと宣言しているので母方である公爵家の嫡男となり、将来はモントレー公爵家を継ぐ事になる。現在両親は大公邸と公爵邸を交互に滞在する形だが実際のところ管轄領地を視察して回っているので公爵邸は俺が留守を守り、公爵補佐をしながら14の時から所属する王宮騎士団で今は副団長を務めている。

 俺のところには成人を迎える前から多くの釣書がモントレー家には送られてきていた。
 しかし、俺は元々あまり人付き合いが好きではなく幼い頃から父に鍛えられ騎士団に入った。女性と付き合うより剣を振るっていた方が性に合っていると思う。
 それでもいくら鍛えても将軍と呼ばれた父の様な「熊」みたいな身体にならなかった。俺的には母似で良かったと思っている。
 世間では王家の血を引く金髪と青い瞳の堅物美丈夫騎士と言われているらしく寄って来る令嬢は後を絶たない。面倒事は嫌いなのでそれらは無視し、騎士仲間と時折それなりの遊びに出掛ける事はあったが後腐れないように事を済ませて来た。
 しかし、いくら一人が気楽でいいと思っていても公爵家の跡取りとなるとそうもいかない。いつかは婚姻し跡継ぎを設けなくてはならない。
 『王家の決まりごと』が王命であればそれは当然受け入れる。
 実のところ少し喜んでいる部分もある。どんな相手であろうと婚約してしまえば見合いだなんだとの面倒事から解放されるのだから天使の子守りも悪くはないと。
 ただ、婚約の相手が一回り下の8歳となると……
 今でさえ女に興味がなく実は男色家などと言われているのに、少女趣味、酷ければ幼女趣味と云われ兼ねないと杞憂する。


 三日後に伯父上である陛下との謁見のために王城へと上がった。

 俺は謁見室ではなく伯父上の執務室へと案内される。

「アクセル、長きに渡る遠征ご苦労であったな。どうだゆっくりできているか?」
「遠征への労いのお言葉痛み入ります。
 が、帰還していきなりの騒動の方が……」

「そうか。お主には面倒な役回りを押し付ける事になった」

 伯父である陛下は多少申し訳なさそうなフリはしているが心からそう思っている顔には見えない。
 父が脳筋の熊将軍なら伯父上は策士の狸オヤジだと俺は思っているのだから。

「で、可愛い婚約者であろう?やっと堅物副団長のお主に伴侶となる者が出来たんじゃからな」
「はぁ、何をいっているんだか、婚約者と云ってもまだ子供じゃないですか」
 今はヴィヴィが俺にとって庇護欲の対象となっているので伴侶云々などという話ではない。
「まあ良い。どのみち『王家の決まりごと』によりお前に拒否権はないのだからのう」
「10年後、もし彼女の加護の1つが消え『王家の決まりごと』の縛りが無くなったら、ヴィヴィの方から婚約を解消される事もありうるのですからね」
「はは、そうだな。その時お主は30か。せいぜいあの子の加護が消えても捨てられないように今から媚びを売って置く事だな((笑))」

「勝手な事を。でも彼女が成人するまでの10年、婚約者と護衛騎士としての責任はしっかりと務めさせて頂きます」

「うむ。頼む。国の決まりで『加護持ち』が現れたことは国民に知らせねばならい。もちろん『治癒の加護』だけで『先読みの加護』は公表されないし成人までヴィヴィアンの名前も伏せられるが、万が一それが洩れた場合彼女の身に危険が及ぶ可能性がある。普段からそれを頭に入れ傍について貰いたい」
 伯父上の表情が変わった。

「御意」

 一息つきまた伯父上の表情が緩む。

「そろそろウィルたちも来る頃か?」

 伯父上がベルを鳴らしお茶を持って来させると同時に両親と共にヴィヴィアンが入室してきて一通りの挨拶を済ませる。

 三日ぶりに見るヴィヴィアンは肌艶も少し良くなったように見え安心した。
 空色のワンピースと同素材のリボンが銀の髪によく似合っている。
 うん、やはり可愛い、天使だな。

「おお。ヴィヴィアンよく来たな。どうだ新しい義父と義母ちちとははは、可愛がってくれておるか?」

「はい、お義父さまのウェルズ様もお義母さまのマリア様もとても優しいです」

「そうか、それは良かった」

「まぁ陛下ったら、あたくし達がこんな可愛い子を蔑ろにする訳が御座いませんわ」

「ははは、マリアそう怒るな」

 父も母も養女とはいえまるで孫を見る様な優しい目をしていた。

「そうだアクセル、ヴィヴィアンに王宮の庭でも見せてやったらどうだ?先ほど侍女たちが中庭のバラが綺麗だと廊下で話しておったぞ」

 父に言われヴィヴィの顔を見るとさも行きたそうな目で俺の顔を見上げて来る。

「ヴィヴィは見に行きたいか?」
「はい、行きたいです!」
 間髪入れずに答えが返って来た。
「伯父上宜しいですか??」
「おお。構わぬ、後はウィル達と話を詰めて置くので行って来い」
「ありがとうございます。では失礼します」
 俺はヴィヴィを抱き上げ片腕に座らせると一礼して部屋を後にした。

 そのまま廊下を歩いていくと、前方からくる人々がギョッとした顔をして立ち止まり俺らが通り過ぎるまで固まっている。
 何となく雰囲気を読み取ったヴィヴィが不安そうに俺の顔を見て来たので
「大丈夫だよ」と微笑みかけた。
 その途端、周りから悲鳴のような声が聞こえ

「あの副団長が笑った?」
「信じられない」

 などと、言っているのが聞こえてくる。

ーーーふん、俺だって笑うさーーー

 そんな輩はなるべく視界に入れないように、愛しい天使のぬくもりだけを感じながら中庭へと向かったのだった。



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