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1章【我が家に天使がやって来た】
※二人の王子
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「アクセルさまお帰りなさい」
ヴィヴィがやってきてひと月が過ぎた。
5日に一度騎士団の寮から帰宅する俺を出迎え玄関まで走って来る天使が今は可愛くて堪らない。
息を整えヴィヴィの為に居残った母上の教えの通りスカートを両手で摘み、ちょこんと腰を落とす天使が下半身をプルプルと震わせているのを俺は知っている。そんな彼女を抱き上げ頬にただいまのキスをする。
母上と三人で食事をとり翌日の休みは一日ヴィヴィに付き合う。
手を繋ぎ広い庭を散歩し、時には芝生の上で寝転がり本を読んだりして。
一人っ子の自分は伯父上の息子である王子二人の面倒は見て来たが、叔母上のところの娘二人とは余り接点が無かったから女の子をどう扱って良いか分からなかった。
でもヴィヴィは無条件で可愛いと一目見て思ってしまったのだ。この腕のカに閉じ込めてしまいと思う程に。
それは自分でもどう説明して良いのか分からない感情としか言えない。
そんな訳で一月前まで殆ど使用人だけだった屋敷が天使の降臨で穏やかな空気に包まれている。
しかし婚約してしまえば寄って来る令嬢たちから逃れられるという俺の考えは甘かった。
ヴィヴィが余りにも年少の為、直ぐに婚約は解消するのではないかという噂さが広がり、次は自分と以前にも増して令嬢が寄ってくるようになってしまったのだ。
まだヴィヴィを同伴できないお茶会やパーティーなどの招待状が途切れることなく送られて来てウンザリされられた。
そんな俺の癒しはやはり一緒に暮らすようになった天使の存在だ。
健康を取り戻したヴィヴィに母上は公爵令嬢としての立ち振る舞い礼儀作法も教え始めた。
王女ではないのだから10歳くらいからで良いのではないかと進言するも、いずれは公爵夫人になるのだからそれに相応する教育が必要だという。子供らしさが失われるのではないかと心配すると「アナタが帰って来た時に目一杯甘えさせてあげなさい」と言われてしまった。
それでも自分が留守をしている間の事が気にかかりそれとなくマギーに尋ねれば
「ああは仰って居られますが、奥様は思いの外お嬢さまには甘いのでアクセル様のご心配には及びませんよ」
と笑い、アクセル様は過保護ですねと返って来たので安堵した。
そう、俺は今ヴィヴィに対して異常なほどの庇護欲が芽生え時折それが暴走し、母の手から奪い取ると腕の中に閉じ込めるという行動に出てしまう。
「いくら婚約者が可愛くても溺愛し過ぎは駄目ですわ!アクセル」
そう言いながらい背後から後頭部に母上の扇の鉄拳が落ちて来るのだった。
◇ ◇ ◇
伯父上から王城へヴィヴィと共に呼び出しが来たのは彼女が我が家の生活にも慣れ落ち着いた頃で、母上に着飾らせられた天使をエスコートし向かった先は王の謁見室ではなくやはり伯父上の私室。
「お久しぶりです。伯父上」
「ああ、アクセル。ヴィヴィアンも二月振りになるかな?」
「はい、陛下」
母に習った淑女の礼を取るヴィヴィアン。
「なに、そんなに畏まるな。ヴィヴィアン其方もウィルとマリアの養女となった故、儂は伯父上と呼んで欲しいのだがな」
「陛下にお、おじうえさまなんて……」
しり込みしてしまうヴィヴィに伯父上は目じりを下げる。
「ほら遠慮せずに」
ヴィヴィは緊張しながらやっとのことで言葉に出した。
「おじうえさ……ま?」
「うんうん。それでよい」
ますます甘い顔になる。なんだ?この狸オヤジは、そんな顔俺は子供頃から見た事がないぞ。。
「失礼します」
そこへ二人の王子がやって来た。
「おお、参ったか」
「アクセル兄上お久しぶりです」
王家の髪色を持つ二人の王子は少しくせ毛の兄とサラサラ直毛の弟王子だった。
二人は従弟になるが小さい頃から面倒を見ているので俺の事をそのまま兄上又は兄様と呼んでくる。
「ヴィヴィアン、第一王子のジュリアスと第二王子のカミラだ。従兄妹通し仲良くしておくれ」
ヴィヴィは年の近い子と普段接点がない上に男子という事もあり俺の袖を掴み一歩下がってしまう。
「私はジュリアス15歳だ。宜しくヴィヴィアン」
「はい……」
「僕はカミラ10歳だよ。よろしくね」
「はい……」
15のジュリアスは三年後成人を迎えれば正式に王太子となる。
一方のカミラはやんちゃ盛りで振る舞いもまだまだと言ったところなのだが。
「可愛い妹が出来たみたいで嬉しいな」
カミラが王子スマイルをしながらヴィヴィに近づき手を取った。
驚いたヴィヴィは咄嗟にその手を振り払い俺の後ろに隠れてしまう。
「あれ~もしかして僕嫌われちゃったの?」
冗談ぽく言いながらヴィヴィの事を覗き込もうとしてくるのでそれを制し
「カミラ、ヴィヴィはまだ人に慣れていないのだよ」
と彼の肩に手掛け少し引き離すようにした。
「あまり執拗くすると本当に嫌われちゃうぞカミラ」
兄ジュリアスの言葉に首を竦めるカミラ。
「そうか、ごめんね」
「わ、わたしも手を払ってごめんなさい」
ぺこりと頭を下げるヴィヴィにカミラは嬉しそうに微笑む。
「ねえ、アクセル兄様は君の事ヴィヴィって呼んでるんだね。僕もそう呼んでいい?」
「駄目だ」
ヴィヴィの代わりに即答する俺。
「えー、なんで?こんな可愛い従妹が出来たんだもん。可愛い愛称で呼びたいじゃん」
「ヴィヴィアンと呼べばいい」
こんなやり取りを聞いていた伯父が笑い出す。
「くくく、マリアから聞いていたがお前がこんなに独占欲が強いとは。諦めろカミラ。ヴィヴィアンはアクセルの宝物だからな」
「えー良く分かんないけど、婚約者だからってずるくない?」
ふて腐れるカミラを見て伯父とジュリアスが笑い出した。
いや、何となくだがもしかして笑われているのは俺なのか?
「そう言えばアクセルの所で良い子にしているとマリアから聞いておるぞ」
「はい、お義母さまもトマじいもマギーもみんな優しくして下さいます」
「とまじい?」
俺が思わずぷっと小さく吹き出すと不思議そうにしている伯父。
「執事のトーマスの事ですよ」
「ああ、あのトーマスの事か。ふっ、そうなのか。ヴィヴィアン、トマ爺は好きかい?」
「はい、時々叱られるけど好きです」
「そうか、皆に大切にして貰っているようで良かったな」
伯父上に頭を撫でられ嬉しそうにしているヴィヴィ。
ーーちっ、トーマスの事が好きなのか……
何故かもやっととしてまた心の中で呟く。
狸オヤジに人たらしな末っ子王子。少し離れて含みを持たせ笑うジュリアス。
面白くないな。
二人の王子との挨拶を終え部屋を後にした。
ヴィヴィがやってきてひと月が過ぎた。
5日に一度騎士団の寮から帰宅する俺を出迎え玄関まで走って来る天使が今は可愛くて堪らない。
息を整えヴィヴィの為に居残った母上の教えの通りスカートを両手で摘み、ちょこんと腰を落とす天使が下半身をプルプルと震わせているのを俺は知っている。そんな彼女を抱き上げ頬にただいまのキスをする。
母上と三人で食事をとり翌日の休みは一日ヴィヴィに付き合う。
手を繋ぎ広い庭を散歩し、時には芝生の上で寝転がり本を読んだりして。
一人っ子の自分は伯父上の息子である王子二人の面倒は見て来たが、叔母上のところの娘二人とは余り接点が無かったから女の子をどう扱って良いか分からなかった。
でもヴィヴィは無条件で可愛いと一目見て思ってしまったのだ。この腕のカに閉じ込めてしまいと思う程に。
それは自分でもどう説明して良いのか分からない感情としか言えない。
そんな訳で一月前まで殆ど使用人だけだった屋敷が天使の降臨で穏やかな空気に包まれている。
しかし婚約してしまえば寄って来る令嬢たちから逃れられるという俺の考えは甘かった。
ヴィヴィが余りにも年少の為、直ぐに婚約は解消するのではないかという噂さが広がり、次は自分と以前にも増して令嬢が寄ってくるようになってしまったのだ。
まだヴィヴィを同伴できないお茶会やパーティーなどの招待状が途切れることなく送られて来てウンザリされられた。
そんな俺の癒しはやはり一緒に暮らすようになった天使の存在だ。
健康を取り戻したヴィヴィに母上は公爵令嬢としての立ち振る舞い礼儀作法も教え始めた。
王女ではないのだから10歳くらいからで良いのではないかと進言するも、いずれは公爵夫人になるのだからそれに相応する教育が必要だという。子供らしさが失われるのではないかと心配すると「アナタが帰って来た時に目一杯甘えさせてあげなさい」と言われてしまった。
それでも自分が留守をしている間の事が気にかかりそれとなくマギーに尋ねれば
「ああは仰って居られますが、奥様は思いの外お嬢さまには甘いのでアクセル様のご心配には及びませんよ」
と笑い、アクセル様は過保護ですねと返って来たので安堵した。
そう、俺は今ヴィヴィに対して異常なほどの庇護欲が芽生え時折それが暴走し、母の手から奪い取ると腕の中に閉じ込めるという行動に出てしまう。
「いくら婚約者が可愛くても溺愛し過ぎは駄目ですわ!アクセル」
そう言いながらい背後から後頭部に母上の扇の鉄拳が落ちて来るのだった。
◇ ◇ ◇
伯父上から王城へヴィヴィと共に呼び出しが来たのは彼女が我が家の生活にも慣れ落ち着いた頃で、母上に着飾らせられた天使をエスコートし向かった先は王の謁見室ではなくやはり伯父上の私室。
「お久しぶりです。伯父上」
「ああ、アクセル。ヴィヴィアンも二月振りになるかな?」
「はい、陛下」
母に習った淑女の礼を取るヴィヴィアン。
「なに、そんなに畏まるな。ヴィヴィアン其方もウィルとマリアの養女となった故、儂は伯父上と呼んで欲しいのだがな」
「陛下にお、おじうえさまなんて……」
しり込みしてしまうヴィヴィに伯父上は目じりを下げる。
「ほら遠慮せずに」
ヴィヴィは緊張しながらやっとのことで言葉に出した。
「おじうえさ……ま?」
「うんうん。それでよい」
ますます甘い顔になる。なんだ?この狸オヤジは、そんな顔俺は子供頃から見た事がないぞ。。
「失礼します」
そこへ二人の王子がやって来た。
「おお、参ったか」
「アクセル兄上お久しぶりです」
王家の髪色を持つ二人の王子は少しくせ毛の兄とサラサラ直毛の弟王子だった。
二人は従弟になるが小さい頃から面倒を見ているので俺の事をそのまま兄上又は兄様と呼んでくる。
「ヴィヴィアン、第一王子のジュリアスと第二王子のカミラだ。従兄妹通し仲良くしておくれ」
ヴィヴィは年の近い子と普段接点がない上に男子という事もあり俺の袖を掴み一歩下がってしまう。
「私はジュリアス15歳だ。宜しくヴィヴィアン」
「はい……」
「僕はカミラ10歳だよ。よろしくね」
「はい……」
15のジュリアスは三年後成人を迎えれば正式に王太子となる。
一方のカミラはやんちゃ盛りで振る舞いもまだまだと言ったところなのだが。
「可愛い妹が出来たみたいで嬉しいな」
カミラが王子スマイルをしながらヴィヴィに近づき手を取った。
驚いたヴィヴィは咄嗟にその手を振り払い俺の後ろに隠れてしまう。
「あれ~もしかして僕嫌われちゃったの?」
冗談ぽく言いながらヴィヴィの事を覗き込もうとしてくるのでそれを制し
「カミラ、ヴィヴィはまだ人に慣れていないのだよ」
と彼の肩に手掛け少し引き離すようにした。
「あまり執拗くすると本当に嫌われちゃうぞカミラ」
兄ジュリアスの言葉に首を竦めるカミラ。
「そうか、ごめんね」
「わ、わたしも手を払ってごめんなさい」
ぺこりと頭を下げるヴィヴィにカミラは嬉しそうに微笑む。
「ねえ、アクセル兄様は君の事ヴィヴィって呼んでるんだね。僕もそう呼んでいい?」
「駄目だ」
ヴィヴィの代わりに即答する俺。
「えー、なんで?こんな可愛い従妹が出来たんだもん。可愛い愛称で呼びたいじゃん」
「ヴィヴィアンと呼べばいい」
こんなやり取りを聞いていた伯父が笑い出す。
「くくく、マリアから聞いていたがお前がこんなに独占欲が強いとは。諦めろカミラ。ヴィヴィアンはアクセルの宝物だからな」
「えー良く分かんないけど、婚約者だからってずるくない?」
ふて腐れるカミラを見て伯父とジュリアスが笑い出した。
いや、何となくだがもしかして笑われているのは俺なのか?
「そう言えばアクセルの所で良い子にしているとマリアから聞いておるぞ」
「はい、お義母さまもトマじいもマギーもみんな優しくして下さいます」
「とまじい?」
俺が思わずぷっと小さく吹き出すと不思議そうにしている伯父。
「執事のトーマスの事ですよ」
「ああ、あのトーマスの事か。ふっ、そうなのか。ヴィヴィアン、トマ爺は好きかい?」
「はい、時々叱られるけど好きです」
「そうか、皆に大切にして貰っているようで良かったな」
伯父上に頭を撫でられ嬉しそうにしているヴィヴィ。
ーーちっ、トーマスの事が好きなのか……
何故かもやっととしてまた心の中で呟く。
狸オヤジに人たらしな末っ子王子。少し離れて含みを持たせ笑うジュリアス。
面白くないな。
二人の王子との挨拶を終え部屋を後にした。
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