副団長は次期公爵~幼き婚約者との10年

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続話

新婚生活はままならない*前編

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※番外編と言うより今回のお話は続編となります。
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「いってらっしゃいませ」
「いってくるよ、ヴィー」
 軽く唇を合わせ東の館から本邸へと執務に向かうアクセル。

 二人の挙式から半年後、アクセルは騎士団を退団し、モントレー公爵代理として執務に励んでいた。
 長い年月自分を抑制してきた彼はヴィヴィアンへの愛情が溢れすぎて溺愛が止まらない。
 本邸での執務から二人の住まいである東の館へ戻ってくると片時もヴィヴィアンのことを離そうとしないのだ。
 これには使用人たちも呆れて意見さえ言う者もいなかった。

 ヴィヴィアンに見送られて公爵家の敷地内専用の馬車に乗リ込むと大きくため息をつく。

「アクセル様。そのタメ息はやめてもらえませんか?」
「アゼム、俺はまだ東の館にいたい・・・」
「何を言っておられるんですか!昼には戻られて奥様とランチされるんですから、いい年をして駄々を捏ねないでください」

 毎朝繰り返されるこのやり取りに侍従であるアゼムもいい加減うんざりしていた。
 そんな情けない姿を見せているアクセルだが、本邸の玄関前で馬車から一歩降りると同時に表情が一変する。
「アクセル様おはようございます」
「おはよう、トーマス」
 本邸執事のトーマスに出迎えられて執務室に向かうアクセルは、公爵代理としての顔へと一瞬にして変わるのだった。

 執務室の扉がノックされ少し慌てた様子でトーマスが入ってくる。
「アクセル様、王城よりお手紙が届いております」
 封書には王家の封蝋が押されている。
「何かの招待状か?」
「いえ、通信箱に届きましたので、火急の要件かと存じます」

 連絡箱とは王宮からの至急の連絡がある場合に使われている宝石箱のような箱で中に手紙を入れると瞬時に相手の箱に届くという魔道具の箱である。
 手紙が届くと箱についている宝石が点滅して知らせる仕組みになっている。

「通信箱が使われるとは珍しいな。よほどの件なのだろう」
 アクセルはペーパーナイフで封を切り折り畳まれた手紙の内容を確認する。
 トーマスはほんの少しだが眉間にシワを寄せたアクセルの表情を見逃していなかった。
「なにか面倒事でございましょうか?」
「ああ、辺境伯の砦で良からぬことが起きているらしい。兵士たちが次々に倒れ治癒師が派遣されているのだが、砦の周辺に瘴気が現れたというのだ」
「なんですと!瘴気が」
「国を守る要の地だ。見過ごす訳にはいかない。兵士の治療は治癒師に任せるとしても瘴気の浄化のためにヴィヴィアンとともに現地に向かってほしいと書かれてある」
「さようでございますか。若奥さまのお力が必要なのでございますね」
「ヴィヴィの力を使わないでいられればと思っていたが、瘴気が広まっては国の一大事となる。
 トーマス、直ぐに館に使いを出してヴィヴィを呼んでくれ」
「畏まりました」

 トーマスが部屋をあとにするとアクセルは重厚な椅子の背もたれに体を預けて天井を仰いだ。
 ヴィヴィアンは「治癒」と「先読み」の二つの加護を持っている。国内には「治癒の加護」のみが公表されており、国王の命においてその力を提供する事になっていた。
 「治癒の加護」には悪しき物の浄化も含められている。危険な場所へ連れて行きたくはないが治癒の乙女として生まれたからにはその使命を果たさなくてはならないのだ。
 アクセルはすぐに騎士団に使いを出し、護衛として同行する団員を用意してもらえるよう要請を出した。


 その頃ヴィヴィアンは、アクセルと入れ違いに本邸より来ていた義母のマリアと領地経営に関する勉強を始めようとしていたところだった。

「失礼します。ヴィヴィアン様へアクセル様より至急本邸の方へとの使いがございました」
 東の館でも以前と同じくヴィヴィアンに付いている侍女のドリーが知らせを受け、急ぎ取り次いできた。
「あら、至急なんて何かあったのかしら?
 寂しいからヴィヴィちゃん来て~なんて事は・・・ありませんわね。ヴィヴィちゃんすぐに向かいましょう」
「はい、お義母さま」

***

「辺境地へですか」
「ああ、陛下からの要請だ」
「分かりました。いつ出立いたしますか?」
「これから伯父上に会って詳細を確認してくるが、出立は二日後と思って準備をしてほしい」
「はい、ではそのように」
「アクセル、ヴィヴィちゃんが行って危険はないの?」
「母上、危険がないとは言えません。しかし、早めに浄化をしないと被害は拡大していく一方です。ヴィヴィのことは私が必ず守りますので」
「お願いするわ、アクセル」
「はい、必ず」

 二人に話をした後アクセルは急ぎ王城に向かった。
 東の館に戻った二人は早々に辺境地へ遠征に向かう準備に入った。

「お義母さま、辺境地へは馬車で一週間程でしょうか?」
 馬車での長旅はしたことがないヴィヴィアンが不安そうに聞いてきた。
「あら、ヴィヴィちゃんにはまだ教えてなかったのね。辺境地には転移魔法で行くからあっという間よ」
「えっ、転移魔法って実際に使われているんですか?」
「ええ、緊急を要する場合だけ認められているわ。普段アクセルが王城に向かう時は馬車で移動するけど、緊急時に王城へ向かう時に使うのよ。本邸の執務室の奥の部屋に転移用の魔法陣があって王城の一室に繋がっているのよ」
「凄い、信じられないわ」
「王城にある部屋の魔法陣の扉は、大公邸、三大公爵家、そして東、西、北にある辺境伯の砦と繋がっているの」
「ここからそれぞれの場所にも移動できるんですか?」
「それは出来ないわ。それぞれの邸からは王城へのみ。辺境地へ赴くためには、ヴィヴィちゃんも王城へ行ってそこから転移することになるわね」
「そうなんですね」

 転移魔法の存在は知っていたが、その様な方法で実際に使われていることに驚きを隠せないヴィヴィアンでありました。

 それからヴィヴィアンたちと一緒に行く人選が始まる。
「こちらから連れて行けるのは二人だけですから・・・そうね、侍従のアゼム、それから・・・チェルシーあなたが行って頂戴」
 ドリーのすぐ下の立場となる次女のチェルシーが一歩前に出て頭を下げた。
「はい」
「大奥様、私も「ドリーあなたは留守番よ」し、しかし」
 ドリーが前に出て同行を訴えるがマリアに言葉半ばであっさりと拒否されてしまう。

「いくら安定期に入ったからといって、瘴気のある場所に妊婦を連れていけるわけがないでしょう?」
「でも、ヴィヴィアン様の護衛が・・・」
「大丈夫よ、アクセルがいるんですもの。それに騎士団からも当然護衛が付きますからね」
 女主人に言われ、ドリーはがっくりと肩を落としながら自分のお腹に手をあてた。

 そうなのです。ヴィヴィアンたちより一カ月早く結婚した騎士団長エリオスとの子がお腹にいるのです。五カ月を迎えたドリーに負担の掛かることはさせられないのは当然のこと。

「そうよドリー。あなたは赤ちゃんと自分の体を労らなくてはだめなのよ。私は大丈夫だから留守の間ゆっくり休んで頂戴」
「お嬢様・・・」

 ドリーに笑顔を向けるヴィヴィアンにドリーは同行できない出来ない歯がゆさでいっぱいになるのでした。




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