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続話
新婚生活はままならない*後編
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そして二日後。
ヴィヴィアンはアクセルとともに謁見室にて陛下より瘴気浄化に置ける任命を受けていた。
「辺境地でヴィヴィアンおまえの加護の力を必要としている。頼むぞ」
「はい、陛下。全力を尽くし瘴気の浄化と封印をして参ります」
「うむ。アクセルもしっかり「加護の乙女」を守るように」
「はい」
陛下との謁見を済ませ、王城の長い廊下の一番奥の部屋へ向かうアクセルとヴィヴィアン。
その後ろにはアゼムとチェルシーが続く。
普段開けられることのない扉が開かれると中央には大きな魔法陣が描かれており、その周りには四人の騎士が二人を待っていた。
「準備良いかな?俺たちが先に向かうよ」
そう声を発したのは騎士団長のエリオスだった。
一日に転移魔法が使えるのは二回だけで、一回の転移で移動できるのは四人だけだ。
第一陣は二人の護衛を務めるために騎士団からエリオス団長と部下三名が選ばれていた。その中にはエリオス付きだったマルスの姿もあった。
「ええ、お願いします。エリオス団長」
アクセルの言葉に頷き、四人が魔法陣の中へと足を踏み入れる。
するとどこからともなく風が吹き、魔法陣が光り出した。白い靄が四人の体を包み込み竜巻のように周囲を回るといつの間にか彼らの姿は消え去っていた。
ゴクリと唾を飲むヴィヴィアン。
魔法陣の光が消えるのを待ち、アクセルがヴィヴィアンの手を取って「行くよ」と告げる。
二人のあとに続いてアゼムとチェルシーも入っていく。
「慣れない内は目を閉じていたほうが良いぞ。魔力酔いしてしまうからな」
アクセルに言われ、三人ともギュッと力を込めてまぶたを閉じた。
団長たちの時と同じような風を感じたので、瞳を閉じていても自分たちは今靄に包まれているのだろうと想像できる。頭を少し締め付けるような妙な圧迫感を感じたのもほんの一瞬。
アクセルの「着いたよ」の声に安堵し、瞑っていた瞼を開けて周りを見渡せば、そこは寒々とした薄暗い建物の中。
「無事に転移できたようだな」
ほんの数秒で馬車では一週間掛かる辺境の地に着いてしまったことに驚きを隠せないヴィヴィアンと公爵家の使用人二人。
どうやらアゼムとチェルシーは移転の最中に魔力酔いをしてしまったようで、しゃがみ込んでいる。ヴィヴィアンはというと、彼女は魔力を秘め持っているので何の支障もなくケロリとしている。先に着いていたエリオスが手を振っているのを見てニコリと笑っていた。
王都からの八人を待っていた案内役の兵士にそれぞれの部屋に案内され、荷物を置くと休む間もなく辺境伯のもとへと向かった。
砦の中を移動する際に見えた広間では、瘴気を吸い込み倒れた兵士たちが寝かされており、治癒師たちが懸命に処置をしている姿が目に入ってきた。
「私もお手伝いを」
ヴィヴィアンが申し出るが、
「彼らは治癒師の施術でなんとか出来ます。これ以上被害者を出さぬように「加護の乙女」殿には瘴気を断つ事を優先していただきたいのです」
兵士の言葉にうしろ髪を引かれながらヴィヴィアンは足を進めるしかなかった
その後、ガイザール辺境伯から現在の状況を聞く。
瘴気は砦の北にある森より出てきている事がわかった。そこには五十年近く前に魔物を討伐して投げ入れた底なしの沼があり、現在その周辺は瘴気が強すぎて近寄れないという。
このまま放って置けば沼より新たな魔物が生まれる可能性があった。迅速に瘴気を払い、沼を封印することが求められていたのだった。
「明日、応援の部隊が砦に到着します。もしかするともう下等の魔物が湧いているかもしれません。皆さんは部隊と一緒に森へ行っていただきたい」
ガイザール辺境伯の言葉に背中に冷たいものが走るヴィヴィアンであったけれど、先程の倒れ苦しむ兵士たちの姿が浮かび、怯える心に活を入れる。
一度それぞれの部屋に戻った一行は、夕食を済ませアクセルとヴィヴィアンの部屋に集まっていた。
「魔物か・・・対峙するのは数年ぶりだな」
「下等だからといって油断は出来ない。まずは瘴気にやられないような対策をしなくては」
アクセルとエリオスの話を横で聞いていたヴィヴィアンが、自分が瘴気避けの加護を皆に掛けると言ってきた。
今までやったことはないが、治癒魔法で予防を展開し、それに加護を付ければ良いのではないかと考えていたのだった。
怪我を治したり瀕死の人を救ってきた事は今までに何度かある。でも、これほど大掛かりに加護を使うのは初めてだ。言葉ではやりますと言ったものの、部屋に戻り一息つくと自分に本当にそれらの事をやり遂げる力があるのだろうかという不安が押し寄せてきた。
「ヴィー、俺がそばに付いているから自信を持って」
両肩に手を置かれ、俯いた顔を上げるとしっかりと二人の目が合う。そこには幼い頃からいつ何時も優しく見守られてきたアクセルの瞳があった。
「はい、アクセル様」
ヴィヴィアンの不安を感じ取ったアクセルに抱きしめられて不安は少しずつ溶けていく。
部屋にはツインのベッドが用意されていたが、その夜二人は一つのベッドで抱き合いながら眠りについたのだった。
翌日の早朝にアベル隊長が率いる部隊が到着した。
「加護の乙女殿、よろしくお願い致します」
「ご期待に添えるよう頑張ります」
五十を超えているガイザール辺境伯が深々と頭を下げた。
「ヴィヴィアン様くれぐれもお気をつけてくださませ」
「ええ、ありがとうチェルシー。アクセル様もエリオス団長もいるから心配しないで待っていてね。できたら、治癒師さんのお手伝いを。兵士の皆さんのお世話をしてくれると嬉しいわ」
「はい、仰せの通りに」
侍女のチェルシーは横たわる兵士たちの様子を目の当たりにして不安で涙目になっていた自分を奮い立たせた。
「アクセル様、奥さまをよろしくお願い致します」
「ああ、アゼム任せておけ」
それでも不安を隠せない二人に見送られながら「加護の乙女一行」は北の森へと馬を走らせて行った。
「加護の乙女一行」はヴィヴィアンと付き添い兼、護衛のアクセル。その二人の専属護衛にエリオスを含む騎士団四名。前方と後方支援にアベル部隊十名ずつがついた。
森を進むにつれて瘴気が濃くなってきたのか、前方を行く兵士が咳き込む様になってくる。
アクセルの指示で一旦休憩に入り、部隊全員にヴィヴィアンから予防の加護を掛けることを告げる。アベル部隊の兵士たちは半信半疑の面持ちのまま彼女の前と集まってきた。
まずは咳き込んでいた数人が呼ばれた。
ヴィヴィアンは彼らの前に立ち両手を握りしめ瞳を閉じる。
頭の中で彼らの全身を瘴気から守るための膜に加護を混ぜ込むんだ光をイメージする。
数秒後、開いた手からは細かい光の粒が溢れ出す。
見ていた全員が目を見開き、ついでに口も開けたままその様を見ていた。
ヴィヴィアンは屈強な男たちの頭の上から光の粒をふりかけていく。加護の乙女から降り注がれる光に包まれた男たちの咳は立ちどころに止まり顔色も元に戻ってきた。
その後も数人ずつ彼女の前に並び加護の光を受けていく。
それが終わると自身も光を纏い予防の加護に全員が包まれたのだった。
「不思議だ、今までの息苦しさが一気に消えた。乙女の加護に感謝いたします」
アベル隊長が胸に手を当て騎士としての礼を取ると部隊全員がそれに習った。
休憩を終え、気持も新たに森の中を進む。目的地の沼に近づいて来たのだろうか、足元の草の殆どが枯れている。木も立ち枯れたその先に直径八メートルほどの沼が見えてきた。
周辺の空気は淀み沼の上には歪んだ瘴気で溢れて表面はボコボコと泡立っている。
「酷いな」
「ええ、これ程とは」
アクセルとエリオスが会話していると突然沼から魔物が数体飛び出してきた。
アクセルは直ぐにヴィヴィアンを後ろに庇い、その四方を騎士団四人が囲む。
アクセルが手を伸ばして結界を張ると下等魔物はそれにぶつかり弾き飛ばされた。
飛ばされた魔物をアベルの部隊が魔石を練り込んだ剣で鮮やかに叩き切る。
アベル隊長が率いる彼らは、この国における第三魔物討伐部隊だった。
沼からは湧き上がるように魔物が生まれ出てくる。
いくら精鋭の魔物討伐部隊でも次々に出てくる敵を相手にするのには限界がある。
アクセルの背に守られていたヴィヴィアンが前に出て結界の壁を消すと沼に向けて手を翳した。
『瘴気よ失せよ!』
彼女の手から金色の光が沼に向けて放たれる。それは徐々に沼を覆っていくが、魔物たちは隙間を縫って沼から飛び出してくる。
――もっと強い力を送らないと駄目だわ――
体内の気と魔力を集中して浄化の光を送り出す。
彼女の体力と魔力が消耗していくを感じ取ったアクセルが後ろからヴィヴィアンの体を支えた。
その間にも魔物たちと兵士たちの戦いは続いている。
ヴィヴィアンを目掛けて襲ってくる魔物はエリオスたちが切り落とす。
それぞれが各自の役割を忠実にこなしていた。
沼の上全体にまで浄化の光が広がると徐々に湧き出る魔物の数は減り、最後の一匹をアベル隊長が剣で切り裂く頃には周辺から瘴気も消え、穏やかな空気が流れ始めた。
部隊一同は勝どきをあげるが、ヴィヴィアンの仕事はまだ終わっていなかった。
最後に沼を封印する。
体力も魔力もギリギリだった。それでも最後までやり遂げなければ数十年後にはまた瘴気が積もり魔物が生まれてしまう。
渾身の力を振り絞り封じるための魔法陣を沼の上に描いた。
しかし魔力が足りず魔法陣の円が少し歪んでしまう。アクセルは後ろからヴィヴィアンを抱えた状態のまま魔法陣に向けて伸ばしている彼女の手首を握ると、自分の魔力を重ね合わせた。
歪み始めていた円はきれいな円型に戻り輝きを増していった。
その美しさにその場にいた全員が目を奪われた。
「終わったわ・・・」
ヴィヴィアンは掠れる声で呟くと、そのままアクセルの腕の中で意識を手放した。
瘴気の浄化と魔物の沼の封印は、誰一人怪我を負うこともなく無事に終了したのだった。
________________________
※少し長くなってしまいましたね(汗)
ヴィヴィアンはアクセルとともに謁見室にて陛下より瘴気浄化に置ける任命を受けていた。
「辺境地でヴィヴィアンおまえの加護の力を必要としている。頼むぞ」
「はい、陛下。全力を尽くし瘴気の浄化と封印をして参ります」
「うむ。アクセルもしっかり「加護の乙女」を守るように」
「はい」
陛下との謁見を済ませ、王城の長い廊下の一番奥の部屋へ向かうアクセルとヴィヴィアン。
その後ろにはアゼムとチェルシーが続く。
普段開けられることのない扉が開かれると中央には大きな魔法陣が描かれており、その周りには四人の騎士が二人を待っていた。
「準備良いかな?俺たちが先に向かうよ」
そう声を発したのは騎士団長のエリオスだった。
一日に転移魔法が使えるのは二回だけで、一回の転移で移動できるのは四人だけだ。
第一陣は二人の護衛を務めるために騎士団からエリオス団長と部下三名が選ばれていた。その中にはエリオス付きだったマルスの姿もあった。
「ええ、お願いします。エリオス団長」
アクセルの言葉に頷き、四人が魔法陣の中へと足を踏み入れる。
するとどこからともなく風が吹き、魔法陣が光り出した。白い靄が四人の体を包み込み竜巻のように周囲を回るといつの間にか彼らの姿は消え去っていた。
ゴクリと唾を飲むヴィヴィアン。
魔法陣の光が消えるのを待ち、アクセルがヴィヴィアンの手を取って「行くよ」と告げる。
二人のあとに続いてアゼムとチェルシーも入っていく。
「慣れない内は目を閉じていたほうが良いぞ。魔力酔いしてしまうからな」
アクセルに言われ、三人ともギュッと力を込めてまぶたを閉じた。
団長たちの時と同じような風を感じたので、瞳を閉じていても自分たちは今靄に包まれているのだろうと想像できる。頭を少し締め付けるような妙な圧迫感を感じたのもほんの一瞬。
アクセルの「着いたよ」の声に安堵し、瞑っていた瞼を開けて周りを見渡せば、そこは寒々とした薄暗い建物の中。
「無事に転移できたようだな」
ほんの数秒で馬車では一週間掛かる辺境の地に着いてしまったことに驚きを隠せないヴィヴィアンと公爵家の使用人二人。
どうやらアゼムとチェルシーは移転の最中に魔力酔いをしてしまったようで、しゃがみ込んでいる。ヴィヴィアンはというと、彼女は魔力を秘め持っているので何の支障もなくケロリとしている。先に着いていたエリオスが手を振っているのを見てニコリと笑っていた。
王都からの八人を待っていた案内役の兵士にそれぞれの部屋に案内され、荷物を置くと休む間もなく辺境伯のもとへと向かった。
砦の中を移動する際に見えた広間では、瘴気を吸い込み倒れた兵士たちが寝かされており、治癒師たちが懸命に処置をしている姿が目に入ってきた。
「私もお手伝いを」
ヴィヴィアンが申し出るが、
「彼らは治癒師の施術でなんとか出来ます。これ以上被害者を出さぬように「加護の乙女」殿には瘴気を断つ事を優先していただきたいのです」
兵士の言葉にうしろ髪を引かれながらヴィヴィアンは足を進めるしかなかった
その後、ガイザール辺境伯から現在の状況を聞く。
瘴気は砦の北にある森より出てきている事がわかった。そこには五十年近く前に魔物を討伐して投げ入れた底なしの沼があり、現在その周辺は瘴気が強すぎて近寄れないという。
このまま放って置けば沼より新たな魔物が生まれる可能性があった。迅速に瘴気を払い、沼を封印することが求められていたのだった。
「明日、応援の部隊が砦に到着します。もしかするともう下等の魔物が湧いているかもしれません。皆さんは部隊と一緒に森へ行っていただきたい」
ガイザール辺境伯の言葉に背中に冷たいものが走るヴィヴィアンであったけれど、先程の倒れ苦しむ兵士たちの姿が浮かび、怯える心に活を入れる。
一度それぞれの部屋に戻った一行は、夕食を済ませアクセルとヴィヴィアンの部屋に集まっていた。
「魔物か・・・対峙するのは数年ぶりだな」
「下等だからといって油断は出来ない。まずは瘴気にやられないような対策をしなくては」
アクセルとエリオスの話を横で聞いていたヴィヴィアンが、自分が瘴気避けの加護を皆に掛けると言ってきた。
今までやったことはないが、治癒魔法で予防を展開し、それに加護を付ければ良いのではないかと考えていたのだった。
怪我を治したり瀕死の人を救ってきた事は今までに何度かある。でも、これほど大掛かりに加護を使うのは初めてだ。言葉ではやりますと言ったものの、部屋に戻り一息つくと自分に本当にそれらの事をやり遂げる力があるのだろうかという不安が押し寄せてきた。
「ヴィー、俺がそばに付いているから自信を持って」
両肩に手を置かれ、俯いた顔を上げるとしっかりと二人の目が合う。そこには幼い頃からいつ何時も優しく見守られてきたアクセルの瞳があった。
「はい、アクセル様」
ヴィヴィアンの不安を感じ取ったアクセルに抱きしめられて不安は少しずつ溶けていく。
部屋にはツインのベッドが用意されていたが、その夜二人は一つのベッドで抱き合いながら眠りについたのだった。
翌日の早朝にアベル隊長が率いる部隊が到着した。
「加護の乙女殿、よろしくお願い致します」
「ご期待に添えるよう頑張ります」
五十を超えているガイザール辺境伯が深々と頭を下げた。
「ヴィヴィアン様くれぐれもお気をつけてくださませ」
「ええ、ありがとうチェルシー。アクセル様もエリオス団長もいるから心配しないで待っていてね。できたら、治癒師さんのお手伝いを。兵士の皆さんのお世話をしてくれると嬉しいわ」
「はい、仰せの通りに」
侍女のチェルシーは横たわる兵士たちの様子を目の当たりにして不安で涙目になっていた自分を奮い立たせた。
「アクセル様、奥さまをよろしくお願い致します」
「ああ、アゼム任せておけ」
それでも不安を隠せない二人に見送られながら「加護の乙女一行」は北の森へと馬を走らせて行った。
「加護の乙女一行」はヴィヴィアンと付き添い兼、護衛のアクセル。その二人の専属護衛にエリオスを含む騎士団四名。前方と後方支援にアベル部隊十名ずつがついた。
森を進むにつれて瘴気が濃くなってきたのか、前方を行く兵士が咳き込む様になってくる。
アクセルの指示で一旦休憩に入り、部隊全員にヴィヴィアンから予防の加護を掛けることを告げる。アベル部隊の兵士たちは半信半疑の面持ちのまま彼女の前と集まってきた。
まずは咳き込んでいた数人が呼ばれた。
ヴィヴィアンは彼らの前に立ち両手を握りしめ瞳を閉じる。
頭の中で彼らの全身を瘴気から守るための膜に加護を混ぜ込むんだ光をイメージする。
数秒後、開いた手からは細かい光の粒が溢れ出す。
見ていた全員が目を見開き、ついでに口も開けたままその様を見ていた。
ヴィヴィアンは屈強な男たちの頭の上から光の粒をふりかけていく。加護の乙女から降り注がれる光に包まれた男たちの咳は立ちどころに止まり顔色も元に戻ってきた。
その後も数人ずつ彼女の前に並び加護の光を受けていく。
それが終わると自身も光を纏い予防の加護に全員が包まれたのだった。
「不思議だ、今までの息苦しさが一気に消えた。乙女の加護に感謝いたします」
アベル隊長が胸に手を当て騎士としての礼を取ると部隊全員がそれに習った。
休憩を終え、気持も新たに森の中を進む。目的地の沼に近づいて来たのだろうか、足元の草の殆どが枯れている。木も立ち枯れたその先に直径八メートルほどの沼が見えてきた。
周辺の空気は淀み沼の上には歪んだ瘴気で溢れて表面はボコボコと泡立っている。
「酷いな」
「ええ、これ程とは」
アクセルとエリオスが会話していると突然沼から魔物が数体飛び出してきた。
アクセルは直ぐにヴィヴィアンを後ろに庇い、その四方を騎士団四人が囲む。
アクセルが手を伸ばして結界を張ると下等魔物はそれにぶつかり弾き飛ばされた。
飛ばされた魔物をアベルの部隊が魔石を練り込んだ剣で鮮やかに叩き切る。
アベル隊長が率いる彼らは、この国における第三魔物討伐部隊だった。
沼からは湧き上がるように魔物が生まれ出てくる。
いくら精鋭の魔物討伐部隊でも次々に出てくる敵を相手にするのには限界がある。
アクセルの背に守られていたヴィヴィアンが前に出て結界の壁を消すと沼に向けて手を翳した。
『瘴気よ失せよ!』
彼女の手から金色の光が沼に向けて放たれる。それは徐々に沼を覆っていくが、魔物たちは隙間を縫って沼から飛び出してくる。
――もっと強い力を送らないと駄目だわ――
体内の気と魔力を集中して浄化の光を送り出す。
彼女の体力と魔力が消耗していくを感じ取ったアクセルが後ろからヴィヴィアンの体を支えた。
その間にも魔物たちと兵士たちの戦いは続いている。
ヴィヴィアンを目掛けて襲ってくる魔物はエリオスたちが切り落とす。
それぞれが各自の役割を忠実にこなしていた。
沼の上全体にまで浄化の光が広がると徐々に湧き出る魔物の数は減り、最後の一匹をアベル隊長が剣で切り裂く頃には周辺から瘴気も消え、穏やかな空気が流れ始めた。
部隊一同は勝どきをあげるが、ヴィヴィアンの仕事はまだ終わっていなかった。
最後に沼を封印する。
体力も魔力もギリギリだった。それでも最後までやり遂げなければ数十年後にはまた瘴気が積もり魔物が生まれてしまう。
渾身の力を振り絞り封じるための魔法陣を沼の上に描いた。
しかし魔力が足りず魔法陣の円が少し歪んでしまう。アクセルは後ろからヴィヴィアンを抱えた状態のまま魔法陣に向けて伸ばしている彼女の手首を握ると、自分の魔力を重ね合わせた。
歪み始めていた円はきれいな円型に戻り輝きを増していった。
その美しさにその場にいた全員が目を奪われた。
「終わったわ・・・」
ヴィヴィアンは掠れる声で呟くと、そのままアクセルの腕の中で意識を手放した。
瘴気の浄化と魔物の沼の封印は、誰一人怪我を負うこともなく無事に終了したのだった。
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※少し長くなってしまいましたね(汗)
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