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続話
侍女ドリーの回想(後)
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※侍女ドリーの回想(後)
あらすじにのままですが、今まであまり出番がなかった侍女ドリー。十年ヴィヴィアンに寄り添ってきたドリーのお話を聞いてやって下さませ。
___________________________
その後の展開に私はまた驚くことになります。
なんとウェルズ大公様は保護者ではなく、お嬢様を養女にしてくださるというのです。
そして、ご子息のアクセル様の婚約者として迎えてくださると。
もう平民の私の思考はついていけません!
加護持ちであるお嬢様をお守りするためとはいえ、二十歳のアクセル様が八歳のお嬢様のご婚約者になるなんて信じられませんでした。
アクセル様のお膝の上に抱かれ泣きじゃくるお嬢様。
軟禁されてからこれ程声を上げて泣かれるお嬢様を見るのは初めてでした。
ああ、これからは普通のお嬢様らしく暮らしていけるのですね。
それから数日ウェルズ様のお屋敷で過ごしたのち、婚約を公示されたアクセル様とご一緒にモントレー公爵家へと向かいました。
今日からこちらのお屋敷でアクセル様とご一緒に生活されるのです。
執事頭のトーマス様、侍女長のマギー様、そして使用人の皆さんも暖かく迎えてくださいました。
当初幼いお嬢様とどう接して良いか分からないご様子だったアクセル様でしたが、知らずの内に庇護欲に目覚められたようです。騎士団のお仕事の無い日はいつもお嬢様をお膝の上に乗せ、甲斐甲斐しくお世話をされるようになりました。
見ている私達も思わず頬が緩みます。
ある朝いつものようにお嬢様のお部屋を尋ねると、お嬢様のベッドはもぬけの殻ということがありまして。
奥さまとアクセル様のお部屋を訪ねてみると・・・
ベッドの中にはアクセル様に抱えられるようにして眠るお嬢様の姿があったのです。
奥さまは笑いながら放って置きましょうと仰いました。
その日をきっかけに、アクセル様とお嬢様の週一の添い寝が始まったのです。
アクセル様のお嬢様に対する溺愛っぷりときたら、それはもう微笑ましいを通り越して見ている方が恥ずかしいと思うほどで(笑)
当時を思い出しますと、お嬢様は優しく素敵なお兄様に甘えているという感じで、まだまだ恋に芽生えるのには早いお年頃のようでしたね。
お嬢様に変化が見られるようになったのは、貴族学院に通われるようになってから。学院で異性と接触する機会が増えるにつれて、アクセル様を男性として意識されるようになったのです。
どちらかというと、のほほんとされているお嬢様ですが、私達使用人はそんなお嬢様を見てワクワクドキドキしたものです。
そんな初々しいお嬢様が見られるようになってすぐ、事故に遭遇されます。それは、学院での新入生歓迎パーティーの帰り道のことでした。
お嬢様は先読みの加護の力を発揮されたのです。事故を回避したうえ、けが人を治癒の力で助けた事で一躍時の人となってしまわれました。
ですが、公爵家の護りは万全です。
お嬢様の害になるような輩は一切、視界にも入れないという徹底ぶり。
でも、その隙間を抜けたのがカミラ第二王子殿下でした。
義理とはいえ従兄妹となるカミラ様。初めてお嬢様と会った時から興味を持たれたようで、都度ちょっかいを出して来ました。
お嬢様は気にも止めていませんでしたが、アクセル様の嫉妬心は十分に煽られていたようです。
忘れていけないのが、学院生活においてお嬢様の親友となられたマリン様です。
伯爵令嬢でありますマリン様も心強いお味方になってくださいました。お嬢様はマリン様と健やかな学院生活を楽しまれる中、第二の予知に目覚められます。
突倒れられたお嬢様が夢で見たというアピリオ山の噴火予知。
私はカリアス領の津波の予知を思い出し、身が震えました。
この先、お嬢様は予知をされる度に倒れてしまわれるのでしょうか・・・
そう思うと心配でなりませんでした。
そして翌年十五歳になったお嬢様。
デビュタントでのお姿を見て私も感極まり、思わず涙で頬を濡らしてしまいました。
お嬢様がまだ小さい頃に「ヴィヴィは俺の天使」とアクセル様はよく仰っておられましたが、この時のお嬢様は女神ではないかと思うほど眩しく輝いておられましたね。
二十七歳になられたアクセル様も幼かったお嬢様が女性らしくなり、お気持ちを抑えきれくなってきているのは傍から見ていても分かりました。
お傍付きの私と侍女長のマギー様、そして義母となられた公爵夫人は気付いておりましたよ。
お二人の関係に変化が起き始めていることに。
この国の正式な成人は十八です。でも貴族のお嬢様たちはデビュタントが終わると成人とみなされ、嫁ぐご令嬢も多くいます。
お二人はご婚約もされておりますので、いつそういう関係になっても咎められられることはないのですが・・・
お嬢様の場合、複雑な事情で婚姻は成人を迎え、最後の加護鑑定を受けてからという決まりになっています。ですので、そのような関係になっても成人までは身籠ること無いようにと、アクセル様は奥さまより念を押されております。でもそう仰りながらも、お嬢様にアクセル様を煽るようなナイトドレスをプレゼントされる奥さま。
奥さまは大人であるご子息の反応を見て楽しんでおられましたね。
少しずつお二人の関係が深まっていく中、二つ事件が起こりました。
一つ目は学院祭でのキス事件。
カミラ様の行いに堪忍袋の緒が切れたアクセル様。カミラ様は従兄であるアクセル様に頬を殴られ(こちらは手加減あり)、お嬢様にも平手打ち(こちら本気モード)で報復を受けたのです。もちろん両陛下からもお叱りを受けました。短い期間でしたが謹慎命令を出されて、カミラ様はフェードアウト。
不敬となりますのでここだけのお話、王子とはいえお調子者のカミラ様如きがアクセル様の溺愛に勝てる訳がございません。
二つ目は、ヴィヴィアンお嬢様誘拐未遂事件。
教会で連れ去られそうになったお嬢様。護衛であるアクセル様に救われましたが、そうなった経緯にアクセル様は責任を感じてしまわれたのです。
そして、お嬢様との距離を少し開け、週一の添い寝も止められてしまわれました。
あとから奥さまに聞いたお話では
『万が一、同じ間違いを起こしたら、ヴィヴィアンはおまえとの婚約を解消して俺の妾にする』
と、お父上である大公様に宣言されてしまったからだそうです。
まさか旦那様が本気でそんな事をとは思いませんが、アクセル様にはきついお仕置きとなられたようです。
それとお嬢様の護衛の見直しもされました。今までお嬢様のお世話がお屋敷内だけだった私も、外出時には付き添うことが決まりました。
実は私、お嬢様が学院に行っている時間にやっていることがありました。
旦那様にお願いして、護衛侍女になるべく密かに訓練を受けていたのです。
私はお嬢様を護るべく、護衛の出来る侍女へとなるために必死に頑張りました。
私の気持ちに答えてくださった旦那様。最低限の攻撃と防御術を旦那さまから直接ご指導いただきました。
最低限と言いましても、元は将軍と言われた旦那様です。
そのようなお方から合格点を頂いたと申せば私の実力は・・・ふふ、言わずもがなということです。
アクセル様が婚約者としてではなく、護衛騎士に専念するため距離を置かれて寂しそうなお嬢様。これからは外でもお嬢様の護衛侍女としていつもお傍におりますからね。
お嬢様がモントレー公爵家のご養女となられて十年。
とうとう成人の日を迎えられました。そして、最後の加護鑑定に挑まれます。
結果は・・・どちらの加護も消えておらず【二つの加護持ち】と認められたのでした。
卒業後の婚姻も確定となり、アクセル様の長年の思いが叶うこととなるのです。使用人一同、心から喜び合い涙を流しました。
『おめでとうございます。私の愛しきお嬢様』
神の祝福を得て結ばれたお嬢様とアクセル次期公爵様。
思いを遂げられたアクセル様がお嬢様を開放されたのは、初夜から二日後のことでした。沢山の印をお体に付けられて恥ずかしそうに頬を染めるお嬢様。
アクセル様程々になさってくださいねと言わずにはいられませんでした。
そんな新婚生活真っ只中のお二人に、陛下より加護の力を貸して欲しいの要請が参りました。お嬢様にとってはお国からの初めてのお仕事です。
それなのに・・・護衛侍女も兼ねる私が妊娠中ということで、今回の遠征のお供ができない!こんな悔しいことはありませんでした。
遠征から数日後、お嬢様がお仕事を終えて辺境地の地よりご帰還されたとの報告が届きました。
お嬢様の笑顔とご無事な姿を早く見たいと、私たちは東の館の玄関前でお帰りをお待ちしていたのです。
ところが、馬車から降りてこられたお姿を見て血の気が引く思いをしたのでございます。
アクセル様に抱かれたお嬢様の意識はなく、ぐったりと身を投げ出された状態で・・・
涙ぐむ私にアクセル様は、
「大丈夫だ。魔力切れを起こしているだけだから、数日休めば目を覚ます。他に怪我などは無いから安心しろ、ドリー」
と、お声を掛けてくださいました。
でもそのお顔をはとても悲しそうで、そこまでさせてしまったご自分を責めているかのようにも見えたのでした。
お嬢様が目を覚まされたのはそれから五日後のこと。
お仕事の方は大奥様にお任せし、アクセル様はその間一時もお嬢様のお傍から離れることはありませんでした。
これまでにお嬢様がこのようにお倒れになったのはこれで二度目です。
一度目はお嬢様が十四の年。
北のお山の噴火を『先読みの加護』で予知をされ、お力を使われた時の事でした。
お食事中に倒れたお嬢様はそのまま昏睡状態に陥ってしまわれて。三日後に意識を取り戻されました。その時もアクセル様は今回と同じくお傍で見守られておられたのです。
二十歳の時に八歳のお嬢様と婚約をされてから、ずっと溺愛してこられたお方です。どんなに心配をされていたことか。
今回は魔力切れということなので、それが満ちれば目を覚まされると聞きやっと体の強張りが取れた気がいたしました。
アクセル様は一日数回手を握りお嬢様に魔力を送られています。
お部屋に私が一人の時は、口付けで魔力を流されていることもありました。
「これが一番手っ取り早いからね」
独り言のように呟きながら優しく口付けされるそのお背中を見て、私は何故か涙を堪えることが出来ませんでした。
数日後、何事もなかったようにお目覚めになったお嬢様。
アクセル様の安堵したお顔。本当に、本当に良かったです。
お嬢様、貴女に万が一のことがあった場合、私が結婚し妊娠した意味がないのですからね。
私はこちらのお屋敷にお嬢様と一緒にお世話になった時から、一生独身でお嬢様にお仕えすると決めておりました。
それがまさか十年後、騎士団長でありますエリオス様から求婚されることになるなんて思いもよらない出来事が起きたのです。
団長様がとても素敵なお方でオモテになることはお嬢様から聞いておりました。でもいくら男爵家の三男とはいえ、私は平民の娘・・・それもとうに婚期を過ぎた二十八になる私なんかと。
初めはお嬢様のお傍を離れるつもりはなく、結婚願望もないとお断りしてまいりました。それでも エリオス様は構わずグイグイ迫ってこられるのです。
今思えばお嬢様も私とエリオス様をくっつけようと、陰でコソコソと動いておられましたね。
「君が仕事を辞める必要はないでしょう?僕と結婚してもヴィヴィアンちゃんの侍女を続ければいいじゃない。いずれはアクセルたちにも子供が出来る。その子たちの世話もできるんだよ」
最終的にはそう言ってくださったエリオス様の言葉に甘えて結婚を決意いたしました。
そして、結婚後すぐに私はエリオス様にお願いしたのです。
「私はずっとお嬢様にお仕えするつもりです。出来ればお嬢様よりも先に子供を産み、その経験を活かしてお二人のお子様のお世話をさせていただきたいと思います。エリオス様、子作りのご協力よろしくお願いいたしますね?」
と。
私の言葉にエリオス様は驚かれたようですが、すぐに笑顔になりました。
「僕もいい年だからね、すぐにでも子供は欲しい。でもドリーは仕事優先だと思っていたから・・・正直驚いている。
そうか、そういう事ならいくらでも協力させてもらう。覚悟してね」
笑顔の中になにか含みを持たせたエリオス様。私はその夜から自分の言った言葉に後悔する事となってしまった訳ですが・・・。
エリオス様、伊達に何年も騎士団長を続けて来られておりませんでした。
何というか、その・・・逞しく・・・・絶倫でございました。
そんな訳で私の念願はすぐに叶い、現在妊娠五カ月を迎えております。
元気になられたお嬢様は今日もアクセル様とイチャイチャ仲良くされています。
そのお姿を見て半ば呆れることもございますが、実のところ癒やされているというのが使用人一同の本音でありましょう。
仲良き事とは良い事です。美男美女のお二人のお子様を誰もが心待ちにしているのですから。
さて、呼び鈴が鳴りました。アクセル様が目を覚まされたようです。
私はチェルシーを伴いお二人のお部屋と向かいます。
後ろを歩くチェルシーが、何気にソワソワしているのを背中で感じます。
彼女はお嬢様がまだ起きておられないことを願っているのです。
チェルシー曰く、『お二人が素肌を少しだけ露わにしたままシーツに包まっている姿を見る』のが【眼福】なのだそうですから。
私は見慣れていますけれどね。
ふふ、今朝はどうでしょうか?
本日も良き一日でありますように。
___________________________
※文字数が5000文字を超えてしましました(汗)
スマホの方ごめんなさい。
あらすじにのままですが、今まであまり出番がなかった侍女ドリー。十年ヴィヴィアンに寄り添ってきたドリーのお話を聞いてやって下さませ。
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その後の展開に私はまた驚くことになります。
なんとウェルズ大公様は保護者ではなく、お嬢様を養女にしてくださるというのです。
そして、ご子息のアクセル様の婚約者として迎えてくださると。
もう平民の私の思考はついていけません!
加護持ちであるお嬢様をお守りするためとはいえ、二十歳のアクセル様が八歳のお嬢様のご婚約者になるなんて信じられませんでした。
アクセル様のお膝の上に抱かれ泣きじゃくるお嬢様。
軟禁されてからこれ程声を上げて泣かれるお嬢様を見るのは初めてでした。
ああ、これからは普通のお嬢様らしく暮らしていけるのですね。
それから数日ウェルズ様のお屋敷で過ごしたのち、婚約を公示されたアクセル様とご一緒にモントレー公爵家へと向かいました。
今日からこちらのお屋敷でアクセル様とご一緒に生活されるのです。
執事頭のトーマス様、侍女長のマギー様、そして使用人の皆さんも暖かく迎えてくださいました。
当初幼いお嬢様とどう接して良いか分からないご様子だったアクセル様でしたが、知らずの内に庇護欲に目覚められたようです。騎士団のお仕事の無い日はいつもお嬢様をお膝の上に乗せ、甲斐甲斐しくお世話をされるようになりました。
見ている私達も思わず頬が緩みます。
ある朝いつものようにお嬢様のお部屋を尋ねると、お嬢様のベッドはもぬけの殻ということがありまして。
奥さまとアクセル様のお部屋を訪ねてみると・・・
ベッドの中にはアクセル様に抱えられるようにして眠るお嬢様の姿があったのです。
奥さまは笑いながら放って置きましょうと仰いました。
その日をきっかけに、アクセル様とお嬢様の週一の添い寝が始まったのです。
アクセル様のお嬢様に対する溺愛っぷりときたら、それはもう微笑ましいを通り越して見ている方が恥ずかしいと思うほどで(笑)
当時を思い出しますと、お嬢様は優しく素敵なお兄様に甘えているという感じで、まだまだ恋に芽生えるのには早いお年頃のようでしたね。
お嬢様に変化が見られるようになったのは、貴族学院に通われるようになってから。学院で異性と接触する機会が増えるにつれて、アクセル様を男性として意識されるようになったのです。
どちらかというと、のほほんとされているお嬢様ですが、私達使用人はそんなお嬢様を見てワクワクドキドキしたものです。
そんな初々しいお嬢様が見られるようになってすぐ、事故に遭遇されます。それは、学院での新入生歓迎パーティーの帰り道のことでした。
お嬢様は先読みの加護の力を発揮されたのです。事故を回避したうえ、けが人を治癒の力で助けた事で一躍時の人となってしまわれました。
ですが、公爵家の護りは万全です。
お嬢様の害になるような輩は一切、視界にも入れないという徹底ぶり。
でも、その隙間を抜けたのがカミラ第二王子殿下でした。
義理とはいえ従兄妹となるカミラ様。初めてお嬢様と会った時から興味を持たれたようで、都度ちょっかいを出して来ました。
お嬢様は気にも止めていませんでしたが、アクセル様の嫉妬心は十分に煽られていたようです。
忘れていけないのが、学院生活においてお嬢様の親友となられたマリン様です。
伯爵令嬢でありますマリン様も心強いお味方になってくださいました。お嬢様はマリン様と健やかな学院生活を楽しまれる中、第二の予知に目覚められます。
突倒れられたお嬢様が夢で見たというアピリオ山の噴火予知。
私はカリアス領の津波の予知を思い出し、身が震えました。
この先、お嬢様は予知をされる度に倒れてしまわれるのでしょうか・・・
そう思うと心配でなりませんでした。
そして翌年十五歳になったお嬢様。
デビュタントでのお姿を見て私も感極まり、思わず涙で頬を濡らしてしまいました。
お嬢様がまだ小さい頃に「ヴィヴィは俺の天使」とアクセル様はよく仰っておられましたが、この時のお嬢様は女神ではないかと思うほど眩しく輝いておられましたね。
二十七歳になられたアクセル様も幼かったお嬢様が女性らしくなり、お気持ちを抑えきれくなってきているのは傍から見ていても分かりました。
お傍付きの私と侍女長のマギー様、そして義母となられた公爵夫人は気付いておりましたよ。
お二人の関係に変化が起き始めていることに。
この国の正式な成人は十八です。でも貴族のお嬢様たちはデビュタントが終わると成人とみなされ、嫁ぐご令嬢も多くいます。
お二人はご婚約もされておりますので、いつそういう関係になっても咎められられることはないのですが・・・
お嬢様の場合、複雑な事情で婚姻は成人を迎え、最後の加護鑑定を受けてからという決まりになっています。ですので、そのような関係になっても成人までは身籠ること無いようにと、アクセル様は奥さまより念を押されております。でもそう仰りながらも、お嬢様にアクセル様を煽るようなナイトドレスをプレゼントされる奥さま。
奥さまは大人であるご子息の反応を見て楽しんでおられましたね。
少しずつお二人の関係が深まっていく中、二つ事件が起こりました。
一つ目は学院祭でのキス事件。
カミラ様の行いに堪忍袋の緒が切れたアクセル様。カミラ様は従兄であるアクセル様に頬を殴られ(こちらは手加減あり)、お嬢様にも平手打ち(こちら本気モード)で報復を受けたのです。もちろん両陛下からもお叱りを受けました。短い期間でしたが謹慎命令を出されて、カミラ様はフェードアウト。
不敬となりますのでここだけのお話、王子とはいえお調子者のカミラ様如きがアクセル様の溺愛に勝てる訳がございません。
二つ目は、ヴィヴィアンお嬢様誘拐未遂事件。
教会で連れ去られそうになったお嬢様。護衛であるアクセル様に救われましたが、そうなった経緯にアクセル様は責任を感じてしまわれたのです。
そして、お嬢様との距離を少し開け、週一の添い寝も止められてしまわれました。
あとから奥さまに聞いたお話では
『万が一、同じ間違いを起こしたら、ヴィヴィアンはおまえとの婚約を解消して俺の妾にする』
と、お父上である大公様に宣言されてしまったからだそうです。
まさか旦那様が本気でそんな事をとは思いませんが、アクセル様にはきついお仕置きとなられたようです。
それとお嬢様の護衛の見直しもされました。今までお嬢様のお世話がお屋敷内だけだった私も、外出時には付き添うことが決まりました。
実は私、お嬢様が学院に行っている時間にやっていることがありました。
旦那様にお願いして、護衛侍女になるべく密かに訓練を受けていたのです。
私はお嬢様を護るべく、護衛の出来る侍女へとなるために必死に頑張りました。
私の気持ちに答えてくださった旦那様。最低限の攻撃と防御術を旦那さまから直接ご指導いただきました。
最低限と言いましても、元は将軍と言われた旦那様です。
そのようなお方から合格点を頂いたと申せば私の実力は・・・ふふ、言わずもがなということです。
アクセル様が婚約者としてではなく、護衛騎士に専念するため距離を置かれて寂しそうなお嬢様。これからは外でもお嬢様の護衛侍女としていつもお傍におりますからね。
お嬢様がモントレー公爵家のご養女となられて十年。
とうとう成人の日を迎えられました。そして、最後の加護鑑定に挑まれます。
結果は・・・どちらの加護も消えておらず【二つの加護持ち】と認められたのでした。
卒業後の婚姻も確定となり、アクセル様の長年の思いが叶うこととなるのです。使用人一同、心から喜び合い涙を流しました。
『おめでとうございます。私の愛しきお嬢様』
神の祝福を得て結ばれたお嬢様とアクセル次期公爵様。
思いを遂げられたアクセル様がお嬢様を開放されたのは、初夜から二日後のことでした。沢山の印をお体に付けられて恥ずかしそうに頬を染めるお嬢様。
アクセル様程々になさってくださいねと言わずにはいられませんでした。
そんな新婚生活真っ只中のお二人に、陛下より加護の力を貸して欲しいの要請が参りました。お嬢様にとってはお国からの初めてのお仕事です。
それなのに・・・護衛侍女も兼ねる私が妊娠中ということで、今回の遠征のお供ができない!こんな悔しいことはありませんでした。
遠征から数日後、お嬢様がお仕事を終えて辺境地の地よりご帰還されたとの報告が届きました。
お嬢様の笑顔とご無事な姿を早く見たいと、私たちは東の館の玄関前でお帰りをお待ちしていたのです。
ところが、馬車から降りてこられたお姿を見て血の気が引く思いをしたのでございます。
アクセル様に抱かれたお嬢様の意識はなく、ぐったりと身を投げ出された状態で・・・
涙ぐむ私にアクセル様は、
「大丈夫だ。魔力切れを起こしているだけだから、数日休めば目を覚ます。他に怪我などは無いから安心しろ、ドリー」
と、お声を掛けてくださいました。
でもそのお顔をはとても悲しそうで、そこまでさせてしまったご自分を責めているかのようにも見えたのでした。
お嬢様が目を覚まされたのはそれから五日後のこと。
お仕事の方は大奥様にお任せし、アクセル様はその間一時もお嬢様のお傍から離れることはありませんでした。
これまでにお嬢様がこのようにお倒れになったのはこれで二度目です。
一度目はお嬢様が十四の年。
北のお山の噴火を『先読みの加護』で予知をされ、お力を使われた時の事でした。
お食事中に倒れたお嬢様はそのまま昏睡状態に陥ってしまわれて。三日後に意識を取り戻されました。その時もアクセル様は今回と同じくお傍で見守られておられたのです。
二十歳の時に八歳のお嬢様と婚約をされてから、ずっと溺愛してこられたお方です。どんなに心配をされていたことか。
今回は魔力切れということなので、それが満ちれば目を覚まされると聞きやっと体の強張りが取れた気がいたしました。
アクセル様は一日数回手を握りお嬢様に魔力を送られています。
お部屋に私が一人の時は、口付けで魔力を流されていることもありました。
「これが一番手っ取り早いからね」
独り言のように呟きながら優しく口付けされるそのお背中を見て、私は何故か涙を堪えることが出来ませんでした。
数日後、何事もなかったようにお目覚めになったお嬢様。
アクセル様の安堵したお顔。本当に、本当に良かったです。
お嬢様、貴女に万が一のことがあった場合、私が結婚し妊娠した意味がないのですからね。
私はこちらのお屋敷にお嬢様と一緒にお世話になった時から、一生独身でお嬢様にお仕えすると決めておりました。
それがまさか十年後、騎士団長でありますエリオス様から求婚されることになるなんて思いもよらない出来事が起きたのです。
団長様がとても素敵なお方でオモテになることはお嬢様から聞いておりました。でもいくら男爵家の三男とはいえ、私は平民の娘・・・それもとうに婚期を過ぎた二十八になる私なんかと。
初めはお嬢様のお傍を離れるつもりはなく、結婚願望もないとお断りしてまいりました。それでも エリオス様は構わずグイグイ迫ってこられるのです。
今思えばお嬢様も私とエリオス様をくっつけようと、陰でコソコソと動いておられましたね。
「君が仕事を辞める必要はないでしょう?僕と結婚してもヴィヴィアンちゃんの侍女を続ければいいじゃない。いずれはアクセルたちにも子供が出来る。その子たちの世話もできるんだよ」
最終的にはそう言ってくださったエリオス様の言葉に甘えて結婚を決意いたしました。
そして、結婚後すぐに私はエリオス様にお願いしたのです。
「私はずっとお嬢様にお仕えするつもりです。出来ればお嬢様よりも先に子供を産み、その経験を活かしてお二人のお子様のお世話をさせていただきたいと思います。エリオス様、子作りのご協力よろしくお願いいたしますね?」
と。
私の言葉にエリオス様は驚かれたようですが、すぐに笑顔になりました。
「僕もいい年だからね、すぐにでも子供は欲しい。でもドリーは仕事優先だと思っていたから・・・正直驚いている。
そうか、そういう事ならいくらでも協力させてもらう。覚悟してね」
笑顔の中になにか含みを持たせたエリオス様。私はその夜から自分の言った言葉に後悔する事となってしまった訳ですが・・・。
エリオス様、伊達に何年も騎士団長を続けて来られておりませんでした。
何というか、その・・・逞しく・・・・絶倫でございました。
そんな訳で私の念願はすぐに叶い、現在妊娠五カ月を迎えております。
元気になられたお嬢様は今日もアクセル様とイチャイチャ仲良くされています。
そのお姿を見て半ば呆れることもございますが、実のところ癒やされているというのが使用人一同の本音でありましょう。
仲良き事とは良い事です。美男美女のお二人のお子様を誰もが心待ちにしているのですから。
さて、呼び鈴が鳴りました。アクセル様が目を覚まされたようです。
私はチェルシーを伴いお二人のお部屋と向かいます。
後ろを歩くチェルシーが、何気にソワソワしているのを背中で感じます。
彼女はお嬢様がまだ起きておられないことを願っているのです。
チェルシー曰く、『お二人が素肌を少しだけ露わにしたままシーツに包まっている姿を見る』のが【眼福】なのだそうですから。
私は見慣れていますけれどね。
ふふ、今朝はどうでしょうか?
本日も良き一日でありますように。
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※文字数が5000文字を超えてしましました(汗)
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