SARAという名の店と恋のお話

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新しい年に

第40話 和宏の受難

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 正月休みも終わりSARAも通常営業になっていた。

「やっと挨拶回りも終わりましたよ」

「営業職は大変ね」

 連日の御得意さん回りでうんざりと言った表情の高村を香織が労っていた。
 新年会続きで春子ママにストップを掛けられた松ちゃんの顔をも無い。
 遠野も奥さんと温泉旅行に行っていて不在です。

「何だか松山さんの毒舌がないと寂しいですね」
「あはは、高村ちゃんいつも松ちゃんに虐められているもんね」
 香織は口に手を当てて笑ってしまう。

「勘弁してくださいよー。でも根は良い人ってわかってるから憎めないんですよ」
「うふふ。それより高村ちゃんこそ独りなんて珍しいじゃん、後輩君は?」
「あいつは新年早々の合コンだと張り切って行きました」
「へぇー、そうなんだ。高村ちゃんも一緒に行けばいいのに」
「あのねぇ、ママ。俺と高梨では合コンに集まる女子のレベルが違うんですよ。あいつのレベルと一緒にして欲しくはないですね」

 香織はそんなものなのかなと首を傾げていた。

「こんばんわ~」近所に住むОLの由美子が入って来た。

「今年もよろしくお願いします」
「由美子さん、こちらこそよろしくお願いします。忘年会には来てくれてありがとうね」
「いえいえ、お仲間に入れて頂いて嬉しかったし、楽しかったです」
嬉しそうに笑いながら高村の隣の席に着いた。

「とりあえず生で!」

「おっ、男前だねぇ」

 高村が冷やかすと照れ笑いをしから

「高村さんはしけた顔をしてますね」
と返した。
 そんな由美子に営業職は大変なのよと散々愚痴をこぼすと、カウンターに額を付けるようしてにうな垂れた。話を聞いてあげた由美子が高村の頭をヨシヨシと撫でて慰めている。
 その光景を見て香織は高村が甘え上手のワンコに見えて笑えた。
『この二人結構いい感じかもね』香織は心の中で呟いていたのでした。

 カランと扉が開き顔を覗かせたのは和宏でした。

「あら、かず君はいらっしゃい」
「今日は車だからコーヒー頂戴」

 そう言えば駐車スペースに入る車の音を聞こえた気がすると思いながら

「珍しいわね。この時間に車で来るなんて」
「んん、ああちょっと」
「あら。真理ちゃん送って来たの?」
「ん、まぁそうなんだけど」

 なんだかはっきりしない和宏の返事が気になります。

 真理は香織たちが住む駅から5駅先に住んでいる。
 彼女たちの通う女子高は駅から30分ほど歩かなくてはならないので、バスもしくは学校で用意された自転車を貸し出して駅からの通学をさせているのです。
 初めてSARAに来た時に3人が乗っていたのも学校所有のものだった。
 彼女は週2日駅前の進学塾に通っているのですが、終わるのが9時を過ぎる事も有り時々和宏が自宅近くまで車で送っている。

「喧嘩でもした?」

 香織の問いかけに和宏は「んー」と気のない返事をする。

「喧嘩はしてないけど、もう送らなくていいと言われちゃって・・・」

「なんで?かず君車の中で襲ったとか!」

 すかさず言葉を挟んできた高村に

「そんなことする訳ないじゃないですか!!!」

声を荒げて和宏に睨みつけられ高村は
「すまん。冗談言って悪かった」としゅーんとなり謝る姿はやっぱり飼い主に怒られ耳を垂らしたワンコだ。

 和宏は事の成り行きを説明した。
 前回塾の前で真理が車に乗り込むところを遊び帰りの同級生に見られ、翌日学校でからかわれたらしい。
 それが以前同じクラスの妊娠未遂でカンパを断ったグループの一人だったらしく、何かにつけて陰湿に嫌味を言ってくるのだという。

「はぁー。例の子たちね」香織はため息を付いた。

 ほっとけばその内に言われなくなるとは思うけれど、今、からわれて辛い思いをしているのは真理ちゃんな訳だし。で。。。
 どうしたもんかなと頭を悩ませているとまだ続きはあったようで、真理の元気が無いのに気づいた未来たちが、話を聞き乗り出した。結局のところ今度真理をからかったりしたら前にカンパを集めていた話を学校にチクるぞと言ったら大人しくなったと云うのだが。
 まぁ未来と優香が反対に脅しを掛けた訳ですね。

「でも、何で解決したのに真理ちゃんそんなこと言ったんだろう?」

「俺もさ、悪い事をしている訳ではないんだから堂々としてればいいよって言ったんだ。それでも『これからまた誰かに見られるかもしれないし、先生だったりもするかもしれないから嫌だ』というんだよ。それに送るどころかしばらく会わないとかまで言われるし、、、」

「まぁ真面目な真理ちゃんの事だから判らないでもないけど、もう会わないって言われた訳ではないし、ちょっとそっとしてあげてたら?」

「ママの言う通り、少し様子を見るしかないだろう。あんまり世話焼きすぎると嫌われちゃうぞ。送るのだって、かず君と付き合う前は一人で帰っていたんだから大丈夫じゃねえの?」

「いや、でも夜9時すぎに女子高生が電車で一人帰るのも心配じゃないか」
 高村に食って掛かるように和宏が言う。

「今どきの女子高生普通に遊んでもっと遅い時間に電車に乗ってたりしてますけど。過保護すぎません?」
 少し呆れて由美子。

「それでも心配なんだよ」

『しばらく会わない言われた自分の事より、遅い時間に一人で帰す事を心配している和宏はそれだけ真理ちゃんを大事に思ってはいるのね、でも少し気持ちに余裕がなくなってるのかな』
ふて腐れている和宏見て

「真理ちゃんと今度話してみるわ」

そう言って宥めると少し安堵したのか「かお姉よろしく頼む」と言って帰っていった。

「やっぱり女子高生っていうか、それだけ年が離れていると可愛くってしょうがないんですかね」
 しみじみと由美子が言う。

「そうなんだろうな。須藤さんだってママに対してそうじゃん。やたら心配するし、独占欲丸出しだし。猫っ可愛がりしてるし」

 高梨の指摘に香織は反論出来ずにいると

「あーあ、俺はそんな年下じゃなくてやっぱり大人の女性で良いわ」

 両手を上げて背伸びをする高村。

「大人の女性ならここにいますけど?」

 由美子が自分を指さしながらウィンクして見せる。

「えっ、だって由美子さん、イケメン怖いでしょう?」





「えっ、イケメン?」(どこに?←これはたぶん由美子と香織の声)

 由美子と香織が同時に声を発しハモった。
 高村は意味もなく得意げな顔をしてハイボールを飲んでいる。
 彼のこの自信は合コン話といい、何処から来るんでしょうか?
 ワンコで言えばシェパード?ドーベルマン?


 いやいや、どう見ても・・・まっいいか(笑)



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