SARAという名の店と恋のお話

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その後のSARA

■真理の思い②

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「ところで、ちょっと聞いてみたい事が」

「ん、なに?」

「ご夫婦だとそういう時って何か合図とかあるんですか?」

真理の問いかけに少しだけ考えて

「合図とか別に無いけど。いつも一緒に寝てるわけだし、したい時はしたいって言うかな。疲れて気が乗らない時は断るし、彼の場合はどこでスイッチが入るのが未だに不明なんだけどね」
 香織が苦笑しながらいう。
「須藤さんてめちゃくちゃかおちゃんに対して甘々じゃないですか!世間では溺愛っていうんでしょう?」
「まぁあれを溺愛と云うのならそうなんでしょうね。本人も言っているし。こっちはめっちゃ恥ずかしいけどお構いなしだしだもの」
「わかります。いつも私たちが見てる須藤さんそうですよ!」
真理が思い出したように笑った。

「あはは、普段からやたらとくっついてきて甘い言葉を囁いてくるから面倒な時もあるけどね」

「面倒って。。。」

  そうなんです。183センチの大型犬の甘え方は半端じゃないんですよ(笑)

「四十を過ぎてるのに元気過ぎて困る時もたまにあるかな(笑)でも散々経験積んで来てる」だけあってそういうムードに持って行くのも確かに上手いわ」
「はぁー。やっぱり大人なんですね。でも四十過ぎても元気って普通?普通じゃない?じゃぁ、かず君の年齢では?」
「二十七歳なんて男盛りだもん、相手がいればしたいのは当然、昔はかなり遊んでたけど今は真理ちゃん一筋だからね・・・性欲を抑えるのにそういうことが出来るお店とか行ってる気配もないみたい。我慢はしていると思うけど、自分で・・・あっ、いや。その辺は大人なので大丈夫だと思う・・・かな」
「男の人ってそうなんですか」
「まぁね。そういえばさっき真剣過ぎて無言が怖いって言ってたでしょう?」
「はい、」
「うん、初めてなら尚更声を掛けてくれたりすると安心するよね。でも今まで大事にしてきた真理ちゃんが自分のものに出来るって思うと嬉し過ぎて無言になっちゃったのかも。たぶん前回の事もきっと踏まえてくれてると思うから今回はかず君に任せて委ねてみたらいいんじゃないかな」

「はい」
そう言うと真理はまたスマホの画面に目をやり考え込んでいる様子だった。

 流石に今年二十七になる和宏にムードを出せとか言えないか・・・でも真理ちゃんは初めてなんだから不安にならないようにしてあげるのが大人の男でしょうにと香織は思った。
    一方で真理は香織と話してスッキリしたのか今度こそ和宏とちゃんと向き合おうと決心をしていた。
スマホのトーク画面を開き、『楽しみにしてます♡』と書き込んだのでした。

 その時が扉がスライドして開いた。

 そうそう、SARAの扉が変わりました。今まで重そうな木の扉から自動扉になったのです。
 理由はお年寄りには重い事と親子連れもカフェ営業の時に来店する事が増えたこと。
 店内が見える方が安心だというので変更されたましたが、今までの乾いた鐘の音がしなくなったのは残念でもあります。

「いらっしゃいませ」香織と真理と同時に振り向く。

 立っていたのは貴史でした。

「あっ、須藤さんこんにちは」真理は笑顔で挨拶をしたが先ほどの夫婦間の話が蘇り思わず顔を赤らめてしまう。
「あれ、どうしたの?こんな時間」と時計を見ると夕方5時を回ったばかりだ。

「真理ちゃんもお疲れ。外に出ていてそのまま直帰したんだけど。いけなかった?」
 貴史は真理がいるのにも構わず香織の腰に手を置き引き寄せる。

「ちょっと、何してるんですか!」
香織は腕で貴史の胸を押し返して引き離そうとするけどびくともしない。

「可愛い奥さんに会いたくて、早く帰って来たのに冷たいな。そう思うよねっ、真理ちゃん?」

貴史は真理にウィンクして見せると真理は両手を口に充てて更に赤くなった。

「はい、はい。分かりました。美味しいコーヒー淹れてあげるから手を離してください」

 香織が宥めるように軽くハグして貴史の背中をパンパンと叩いてあげると、渋々と彼女から離れカウンターの席に着いた。
 そんな貴史を見て何となくさっき『面倒な時もある』と言ったのも分かる気がしたのでした。
 そしてそんな二人の姿を見て納得したかのように貴史の為にコーヒーを落とし始めた香織に向かい手の平を合わせ声を上げた。

「かおちゃん、分かりました。こう云うところですね!」

「ぷっ」

 香織が思わず吹き出してしまう。貴史はというと真理の方を振り向き、何のことか分からずきょとんとしていたのでした。

『かおちゃんと須藤さんは素敵なカップルで憧れる。人前でもかおちゃんに対する愛情表現が出来る須藤さんは凄いといつも思う。でも須藤さんの大好き攻撃をいとも簡単にあしらうことが出来るかおちゃんはもっと凄い。自分がかず君に人前でこんな事されたら恥ずかしくて居たたまれないかもしれない。』
 自分に置き換えて想像しただけでも顔を赤らめてしまう真理なのでした。

 香織にコーヒーを入れて貰った貴史が「ビールの方が良かったな」と呟いたのちに思い出したように

「あっ、明後日の夜ね、会社の同僚を二人連れてきますから」
「えっ、部下の人たち?」
今まで会社の人たちをSARA迄連れて来たことが無かったので香織は驚いた。

「いや、数年前に大阪支社に転勤になった同期のやつだからあんまり気にしなくても大丈夫」
「そうなんだ」
「ああ、結婚式に呼べなかったからね。明日二人で本社に来るから香織に会わせろって煩いんだよ」
「あたしを見に・・・わかりました」

 面倒臭そうな顔をしてブラックコーヒーを飲んでいる貴史をカウンター越しに見ながらどんな人が来るのか少し不安にも思う香織でした。




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 不定期に投稿させて頂いております。


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