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「そんな! 私達はクビって事ですか!?」
激昂するメイドの女性の問いに、執事長の男性は静かにうなずいた。
「そう言う事だ。明日にもこの家は国の立ち合いのもと接収される。荷物をまとめて今日中に出て行ってくれ」
「そんな……」
私が働いていた男爵家が、なんらかの悪事を働き地位を剥奪されたという。
よってお家は没落。
この家も国に接収されるみたい。
この家で働く全ての人が一斉に解雇。
突然路頭に迷う事になった。
「あの……私はどうなるのでしょうか?」
この家に買われた奴隷は三人。
下男二人に下女の私。
私は奴隷を代表して、自分達がどうなるのか、執事長だった男性へ尋ねた。
「うむ、奴隷は国が別の買い手を探してくれるようだ。君はあと4年ほど奴隷期間があるから、他で働く事になる」
奴隷の期間は契約によって定められていた。
契約期間は様々だけど、生まれながらに奴隷の場合、20歳を迎えるまでと決まっている。
私の場合はこれに当てはまるので、他の所であと4年働けば奴隷から解放されるのだ。
「ちっ、あんたなんか豚小屋で働いて豚の餌になってしまえば良いんだ!」
メイドの女性が捨て台詞を吐いて去っていく。あの人は最後まで私に冷たかったなぁ。
まあでも、もう会うこともないし、せいぜい路頭に迷っちゃえ!
そんなわけで、突然他の所に買われる事になった私だけど、実際不安でいっぱいだった。
現代日本より職場ガチャの酷い世界。
どんな環境で働くのか気が気ではない。
せめて、今より酷くならないように祈るだけだった。
そして、その日はやってきた。
「僕が君を買おう」
当日現れた男性が、私の手を引いて爽やかな笑みを浮かべる。
この世界では珍しい黒髪黒目。
長いまつ毛とパッチリした切れ長の瞳。
整った鼻筋とぷっくりした唇。
容姿端麗を絵に描いたような男性だった。
なんかいい香りがするし、身長も高くて、180センチはありそうだ。これが現代日本なら、ファンが何万人も出来そう。
爽やかな笑みも相まって、王子様みたいな人だ。
名前はグラヴィス様。
歳は私より二つ上で18歳だって。
馬車の中で色んなお話を聞かせてくれた。
「えっ、ご主人様は、侯爵家のご嫡男様なんですかっ!?」
「だからって、そう畏まらないでほしいな」
聞けば、エルナス侯爵家のご嫡男というグラヴィス様。
奴隷の私なんかが同じ馬車に同乗なんて畏れ多い事態だった。
「わ、私、走って追いかけます!」
動転した私は、馬車から飛び降りようとしていた。
「ま、待って! 危ないから座って。大丈夫、安心して。君を咎める人なんて僕が許さないから」
「ご主人様……」
グラヴィス様の手が私の手を包む。
暖かなお風呂に浸かったような安心感。
ああ、どうしようっ。
正直惚れそう。
頭がクラクラしてきた。
「だ、大丈夫かい!?」
ふらついた私を支えてくれたグラヴィス様。
腰に手が回り心臓がバクンッと高鳴る。
「大丈夫ですっ! ちょっとふらついただけでふがっ」
あ、噛んじゃった。
「きっと栄養が足りていないんだね。家に着いたらたくさん食事を用意させるからね! お風呂もベッドも用意する! だから安心して我が家に来て欲しい」
ギュッと握られた手。
安心を与えてくれる手。
「そ、そんな滅相もないです! お風呂もベッドも嬉しいけど……私はただの奴隷ですので!」
私がそう言うと、グラヴィス様は潤んだ瞳で私を抱きしめた。
「辛かったねアミナ。でも大丈夫。君の奴隷期間は後4年。その間、君を奴隷扱いなんて僕が絶対させない! 僕が絶対に君を守るから!」
「ご主人様っ……うう、うわぁぁー!」
私は人目も憚らず泣き叫んでいた。
グラヴィス様の広い懐でわんわんと恥ずかしげもなく。
辛かったに決まってる。
でもしょうがないと諦めていた。
辛い事があっても、我慢するしかない。
だって、私はただの奴隷だから。
そんな私を、なぜグラヴィス様はこうも優しくしてくれるのか。
グラヴィス様の優しさに触れながらも、なぜという疑念は晴れなかった。
もしかしたら騙されているのかもしれない。今よりもっと過酷な労働が待っているのかもしれない。
そんな不安が胸に押し寄せる。
でも、そんな私の不安は、爽やかに笑うグラヴィス様の手によって、澄んだ空のように晴れていく事になるなんて、この時の私は思ってもいなかったーー
激昂するメイドの女性の問いに、執事長の男性は静かにうなずいた。
「そう言う事だ。明日にもこの家は国の立ち合いのもと接収される。荷物をまとめて今日中に出て行ってくれ」
「そんな……」
私が働いていた男爵家が、なんらかの悪事を働き地位を剥奪されたという。
よってお家は没落。
この家も国に接収されるみたい。
この家で働く全ての人が一斉に解雇。
突然路頭に迷う事になった。
「あの……私はどうなるのでしょうか?」
この家に買われた奴隷は三人。
下男二人に下女の私。
私は奴隷を代表して、自分達がどうなるのか、執事長だった男性へ尋ねた。
「うむ、奴隷は国が別の買い手を探してくれるようだ。君はあと4年ほど奴隷期間があるから、他で働く事になる」
奴隷の期間は契約によって定められていた。
契約期間は様々だけど、生まれながらに奴隷の場合、20歳を迎えるまでと決まっている。
私の場合はこれに当てはまるので、他の所であと4年働けば奴隷から解放されるのだ。
「ちっ、あんたなんか豚小屋で働いて豚の餌になってしまえば良いんだ!」
メイドの女性が捨て台詞を吐いて去っていく。あの人は最後まで私に冷たかったなぁ。
まあでも、もう会うこともないし、せいぜい路頭に迷っちゃえ!
そんなわけで、突然他の所に買われる事になった私だけど、実際不安でいっぱいだった。
現代日本より職場ガチャの酷い世界。
どんな環境で働くのか気が気ではない。
せめて、今より酷くならないように祈るだけだった。
そして、その日はやってきた。
「僕が君を買おう」
当日現れた男性が、私の手を引いて爽やかな笑みを浮かべる。
この世界では珍しい黒髪黒目。
長いまつ毛とパッチリした切れ長の瞳。
整った鼻筋とぷっくりした唇。
容姿端麗を絵に描いたような男性だった。
なんかいい香りがするし、身長も高くて、180センチはありそうだ。これが現代日本なら、ファンが何万人も出来そう。
爽やかな笑みも相まって、王子様みたいな人だ。
名前はグラヴィス様。
歳は私より二つ上で18歳だって。
馬車の中で色んなお話を聞かせてくれた。
「えっ、ご主人様は、侯爵家のご嫡男様なんですかっ!?」
「だからって、そう畏まらないでほしいな」
聞けば、エルナス侯爵家のご嫡男というグラヴィス様。
奴隷の私なんかが同じ馬車に同乗なんて畏れ多い事態だった。
「わ、私、走って追いかけます!」
動転した私は、馬車から飛び降りようとしていた。
「ま、待って! 危ないから座って。大丈夫、安心して。君を咎める人なんて僕が許さないから」
「ご主人様……」
グラヴィス様の手が私の手を包む。
暖かなお風呂に浸かったような安心感。
ああ、どうしようっ。
正直惚れそう。
頭がクラクラしてきた。
「だ、大丈夫かい!?」
ふらついた私を支えてくれたグラヴィス様。
腰に手が回り心臓がバクンッと高鳴る。
「大丈夫ですっ! ちょっとふらついただけでふがっ」
あ、噛んじゃった。
「きっと栄養が足りていないんだね。家に着いたらたくさん食事を用意させるからね! お風呂もベッドも用意する! だから安心して我が家に来て欲しい」
ギュッと握られた手。
安心を与えてくれる手。
「そ、そんな滅相もないです! お風呂もベッドも嬉しいけど……私はただの奴隷ですので!」
私がそう言うと、グラヴィス様は潤んだ瞳で私を抱きしめた。
「辛かったねアミナ。でも大丈夫。君の奴隷期間は後4年。その間、君を奴隷扱いなんて僕が絶対させない! 僕が絶対に君を守るから!」
「ご主人様っ……うう、うわぁぁー!」
私は人目も憚らず泣き叫んでいた。
グラヴィス様の広い懐でわんわんと恥ずかしげもなく。
辛かったに決まってる。
でもしょうがないと諦めていた。
辛い事があっても、我慢するしかない。
だって、私はただの奴隷だから。
そんな私を、なぜグラヴィス様はこうも優しくしてくれるのか。
グラヴィス様の優しさに触れながらも、なぜという疑念は晴れなかった。
もしかしたら騙されているのかもしれない。今よりもっと過酷な労働が待っているのかもしれない。
そんな不安が胸に押し寄せる。
でも、そんな私の不安は、爽やかに笑うグラヴィス様の手によって、澄んだ空のように晴れていく事になるなんて、この時の私は思ってもいなかったーー
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