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押し付ける男
しおりを挟むふ、と意識が浮上して最初に認識したのは、見慣れない白い天上だった。
「こ、こは……」
吐き出した声が酷く掠れている。乾ききった唇が音を立ててパリ、と裂けた。随分と長い間眠っていたらしい。
顔だけを動かして状況を把握する。広いけれど簡素な部屋だ。カーテンは閉め切られていて、今が朝なのか夜なのかはわからない。
自分を見下ろす。ベッドに寝かされている自分の身体は、見える部分が殆ど包帯で覆われている。その下で今も尚肉体が再生しているのか、絶え間ない鈍痛が全身を走り回っていた。いつものことだ、もう慣れた。
一番酷いのは両腕だろうか。滲んだ組織液と血とで包帯が汚らしく湿っている。溶かされた状態で無理やり盾を振るい続けていたからダメージが酷いのだろう。これはしばらくは戦えないな。
痛みで上手く働かない脳に鞭打って記憶を掘り起こす。嘆きの森での任務、想定外の魔物、囮として奮闘したものの死にかけて。
「…………ハイン、リヒ……」
そう、ハインリヒ。名前だけはよく聞いていたが、知り合いではない。だけどあの男は何故か俺を知っているような口ぶりだった。どこで俺を知ったのだ?
アウレイ国に君臨する女王は自らが治める国のことを庭と称して愛で、圧倒的な力で管理している。
力、というのは様々だ。彼女自身の魔力量もさることながら、彼女に従う軍隊や公的機関が持つ魔力と権力は並々ならない。
故にこの国は一度も他国との戦に負けたことはなく、覇権王国として近隣諸国より恐れられてきた。
そんな彼女が私兵として抱え込んでいるのが『剪定者』と呼ばれる者たち。ギルドに所属しない・所属できないが能力はある人間を選び抜き、彼女の望む成果を上げ『庭』の秩序安寧に務めるのが役目だ。
魔力量と質がものを言うこの世界で、俺は並外れた耐久値と自己治癒能力だけを有して生まれた。魔力量はそこまで多くは無く、生成される魔力の質も粗悪。故に適正のある職業は盾役だけ。
それでも冒険者を夢見て片田舎の村から都会にやって来たが、俺に集団行動は向いていなかった。
俺自身は頑丈で死なない。だが、かといって反撃や援護が出来る程の魔力量は持ち合わせていない。
必然、新入りだらけのパーティーだと俺だけが無駄に生き残る。盾役だけが生き残ってしまったら、あとは根気比べの長期耐久戦だ。
救援に気づいた他の奴らが駆け付けてくれれば儲けものだが、酷い時は三日間一人で戦い続ける回もあった。蘇生魔法を使用できる者は限られているし、蘇生可能なのは死後から数時間まで。俺は俺が無駄に頑丈なせいで、幾人もの仲間の命を犠牲にしてきたのだ。
いつの間にか俺は『アイツと組んだら身代わりにさせられる』と噂され、死を『押し付ける男』という不名誉な二つ名を頂き、誰もパーティーを組んで貰えなくなるようになった。
盾役は攻撃者が居ないとお話にならない。かといって、安い仕事だけ続けていたら食いっぱぐれる。
絶望している俺に声をかけたのが女王だった。彼女の耳にも『押し付ける男』の噂は届いていたらしい。
彼女が提示する条件に飛びついた俺は、晴れて彼女の、ひいてはこの国の飼い犬となったのだ。
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