〚完結〛アポカリプスまで宜しく

狗空堂

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01:滅亡のはじまり

二回目の隣人 4

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「……渡來はなんでも知ってるな」
「そう?」
「関先生のことも、この校舎裏のことも、絵の描き方も。ご兄弟がここに通っていたのか?」

 渡來の口ぶりは玄人のそれで、入学して二ヶ月しか経っていない子供なら知らないであろうことまで知っている。ここまで精通しているのは兄弟がここに通っていたからか、と踏んだのだが。

「……それ、本気?」
 ポカンと口を開けた後、ぎこちなく口を動かしてそう聞いてくる。明呉は何を持ってして本気と言っていいのか分からないまま、曖昧に頷いた。

「明呉って、他人に全然興味ないんだ」
「そんなことはない」
 反射で否定したが自信はなかった。明呉は大分自分のことで手一杯なので、自分が思っている以上に他人に興味が持てていないのかもしれない。
 他者への興味は娯楽だ。他者へ感情を向けるということは一種の嗜好品である。他人を味わうどころじゃない明呉は、他の多感な十代の子供に比べて他者への興味が薄いのかもしれない。

「俺、二回目なんだよ」
「二回目?」
「一年生がさ。だから色々知ってるの」
「留年って事?」
「そう」
 頭悪そうには見えないけど、という明呉の視線を察した渡來は、「出席日数が足りなかったの」とやんわり否定した。

「母親の仕事の都合でね、色々。知らない? シュリって言うインフルエンサー」
 名前を出されてもピンと来なくてきゅっと口を引き結ぶ。この口ぶりだとかなりの有名な人物なのだろう。春先から渋々持たされたスマホは最低限のプランしか登録されていない。必然的にSNSの類にも疎かった。

「……あ、ホントに知らない感じ? やだな、なんか恥ずかしい」
「いや、多分皆は知ってると思う。俺はSNSとかそういうの、あんまりやってないから……」

 恐らく教室でその名前を出せば色んな人が群がってくるのだろう。この男を産んだ女性だ、きっと大層美しく俗人離れしている空気を纏っているに違いない。
 それでも別に一目見たいとかは思わないのだから、明呉は花の男子高校生とは思えぬ俗世離れした思考回路をしていることがよく分かる。

「いやほんとに、俺が世間に疎いだけだ、お母様のことは多分みんな知ってる」
「フォローありがと……。でも、なんか分かったかもしれない。明呉が他と違って見えるの」
「違って見える?」

 そんな変な振る舞いはしていない、と思いたい。入学して二ヶ月、特に親しい友達もできないままバイトに明け暮れ始めているが、省かれているわけでもないし、遠巻きにもされていない……はずである。

「変な意味じゃないよ。なんていうか、輪郭がしっかりしてるっていうか……。流されるように生きてない、みたいな。ミーハーさがないのかもね」

 いつも通りにやんわりと微笑むその瞳の奥に疲労を見た。もしかしたら『有名インフルエンサーの息子』という肩書きは彼の気道をじんわりと狭くさせているのかもしれない。

 誰からも注目されるということは、いつ何時も気を抜けないということだ。身内の仕事が表に出ているようなものなら尚更、下手な振る舞いは出来ないのだろう。


「ちょっと嬉しいな。俺、明呉のこと好きになれそう」
「……恐縮です」
「あは、あんま嬉しくなさそう」

 なんて言えばいいのか分からない。クラスの中心人物で、留年している年上の同級生で、多分席が隣同士でなければ一年間喋ることはなかったであろう相手。そんな相手からそんな言葉を受け取ったとて、居心地が悪いようないいようなでむず痒かった。

「あ、ていうか、その。年上なら敬語の方がいい……ですか?」
「やめて。距離を取られると結構傷つく。普通にタメでいいよ」
「分かった」

 会話を続けながらも渡來はシャカシャカと鉛筆を進めていく。クリーム色だったはずの紙面はいつの間にかモノクロの景色がざっくりと描かれている。

 絵の中では木の根元に放置されている空き缶が、すっかりなかったことにされていた。あ、都合の悪いものが削ぎ落されている。



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