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02:ひとりぼっち二人、夏
約束 4
しおりを挟む「ねえ、明呉は夏休みどうするの?」
「バイト」
「だろうね」
朝も昼もバイトである。昼前から夜にかけては基本的にここのカフェで、夏休み期間中も朝の新聞配達は毎日続け、このカフェの定休日には日雇いでイベントスタッフでもやろうかと考えているところだった。
明呉の口から語られるハードスケジュールに、心なしか引き攣った笑いを浮かべる渡來。高校一年生の夏季休暇とは思えぬ鉄腕アルバイターっぷりに、渡來は感心よりも心配の方が勝っていた。
「じゃあ夏休みの課題いつやるの?」
「基本夜だろうな。まあ若いから無茶すればなんとかなるだろ」
「それじゃあ体壊すよ……」
「でも、日中家じゃエアコンつけらんないから。だったら外出て涼しいところで金稼いだほうが、一石二鳥」
その言葉に少年は少しだけ悲しい顔をした。あ、まずったかも。自分の家庭環境が特殊であるということを忘れてうっかり口を滑らせると、渡來はいつも少しだけ難しい顔をする。
その表情を見る度に申し訳ない気持ちと、だからもっと別の奴とつるめよ、という気持ちがないまぜになる。
だけど渡來はその先に絶対に踏み込んでこない。普通の子供ならびっくりした末に明呉の傷に触れるようなことを言ってくるが、この男は絶対にそれをしない。
「ねえ、じゃあ数日だけうちにおいでよ。一緒に課題やろう。俺、それなりに頭いいから教えてあげられるよ。うちならクーラーも効いてるし」
学年主席が嫌味のようなことを言ってのける。渡來は先日行われた期末考査で学年一位を取っていた。本人は「まあ二回目だから」なんてヘラヘラしていたが、そうは言っても半分以上は実力だろう。
「…………」
静かに脳内でスケジュール帳をめくった。まだ日雇いのバイトはどこにも入れていない。空けようと思えば空けられる日は何日かある。
それに、心のどこかで課題は全部は終わらないだろうなという諦めもあった。少なくとも夏休み明けに行われる小テストは厳しい結果になるだろうと。
だが、一年生二回目で、その上頭も要領もいいこの男が面倒を見てくれるというのなら望みはあるのかもしれない。ただそれを行って、果たして渡來に何の得があるのかが分からなかったが。
「だめ、かな」
「……八月の第二週は、店長がバカンスに行くから一週間まるまる空いてる。朝の配達の後なら……」
「! そうしよう。一週間あれば課題なんて終わるよ、明呉頭いいもん」
嬉しいな、俺友達と勉強会なんて初めて。ゆらゆらと横に揺れてはしゃぐ渡來の姿は幼く見える。
お前くらい交友関係が広ければ、一言声かければ沢山の奴が集まってくるだろうに。
そう思うのに、何故かそれは口に出せなかった。学校ではない場所で見せてくるこの無邪気な笑顔を、他の奴らに知られたくないのかもしれない。
明呉はそこら辺の心の機微に疎いので、その結論までは辿り着けない。ただ漠然とした疑問と優越感だけが胸を占めている。
七月なのに到底初夏とは呼べない程の灼熱の光が、ガラス越しに渡來の満面の笑みをキラキラと照らす。
その笑顔が心底嬉しそうで、何でこいつは招き入れる側で教える側で、要するに『差し出す側』なのに笑顔で居られるのだろうと不思議に思った。
いつも差し出す側に立たされている明呉にとって、渡來がなぜそんなに喜んで笑うのかがどうしても分からなかった。
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