〚完結〛アポカリプスまで宜しく

狗空堂

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02:ひとりぼっち二人、夏

死んでいる家 2

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 ホテルのロビーと見間違うようなエントランスを抜けてエレベーターに乗り込む。いつ他の住人とすれ違ってしまうのかとそわそわした。そんな明呉の不安をよそにエレベーターは無事渡來の居住階につき、あっという間に共用廊下を抜けて部屋にたどり着いた。

「ただいまー」
「お、邪魔します……」
 開けたドアの空間の白さに目がチカチカする。汚れやシミ一つない玄関は不思議な香りがただよっていて、大理石が自分たちを映すぐらいピカピカと輝いていた。

 途端、チャカチャカチャカ! とフローリングを滑る音がして、真っ白な物体が渡來の足元へと突進してきた。
「ぅわふ!」
「うん、ただいま」
「い、犬……?」

 渡來がしゃがみ込んでその塊を撫でまわしてやっているのを見て、ようやくそれが真っ白なマルチーズなのだと理解した。短い舌を出してへふへふと必死で息をする様は可愛らしい。

「うん。人懐っこい子だよ、明呉が大丈夫なら撫でてあげて」
 そう促されてしゃがみ込めば、『お連れ様ですか』という真っ黒な目で明呉を見つめた後、くるくると周囲を回って匂いを嗅がれる。踏み潰してしまいそうな小さな命を前にして明呉は固まった。

 身辺調査を済ませて気の済んだらしい犬は、湿った息を吐きながらぶふふと音を立てて明呉の手の甲を嗅ぐ。恐る恐る頭を撫でてやれば『ようこそいらっしゃいました』と言わんばかりに目を細めて満足げに擦り寄って来た。

「か、かわいい……」
「可愛いでしょ」
「名前は?」
「すあま」
「す…………」
「白くてなんか似てるでしょ」

 絶対似てない。どういう顔をしていいか分からない明呉をよそに、「はいすあま、お家入らせてねー。番犬出来て偉いねー」と言いながら犬をどかしてスリッパを差し出して来た。

 明呉もそれに倣って靴を脱いで差し出されたスリッパを履く。家でスリッパなんて履いたことがない。輝く大理石の上で居心地悪そうに佇む薄汚れたスニーカーが哀れでならなかった。

 優美な足取りでリビングまで案内される。すあまは短い手足を一生懸命動かして来客の周りをうろちょろと付き纏いもてなそうと必死だ。
 驚くほどに物と色味が少なくて、統一感のあるモデルルームのような部屋だった。


「あーっ! 翼どこ行ってたの?!」
 借りてきた猫のように身を竦めていた明呉が、奥から飛んできた鋭い声にもっと身を細くする。驚いて細くなるフクロウのようだ。
「友達迎えに行くって言ったじゃん」
「えーそうだっけ?」
 廊下の奥からひょっこりと顔を出してきたのは、薔薇にも負けないほど華やかな顔立ちのすっきりとした美人だった。

「え、何ほんとに友達?」
「初めまして、渡來くんにお世話になっています。明呉大地と申します」
「やだー翼に友達なんていたの?! 嬉しい、来てくれてありがとう! ねえ言っといてよ、なんも用意してないじゃん」
「言ったよ、三日前くらいに」

 女性はくっきりと描かれた濃い眉を跳ね上げてそうだっけ、と再度溢した。外国人のようなメリハリのあるしなやかな体と、それにピッタリと張り付く黒のパンツと真っ赤なジャケット。溢れるような豊かな巻き髪は彼女がくるくると動くたびに絹のように滑らかに揺れた。

「こんにちは、翼の母親の珠莉です。いつも息子がお世話になってますー」
 にっこりと笑う笑顔は少しだけ渡來と似ていた。渡來もかなりの長身だが、母親もそれに追いつくくらい長身で足が長い。二人がこのモデルルームの様な部屋の中で並ぶだけで、別世界の人間のような気がした。




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