〚完結〛アポカリプスまで宜しく

狗空堂

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05:アポカリプスまであと何秒

約束をして 2

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「えっ! 渡來じゃん?!」
 前方から聞こえてきた声にギョッとしてすぐさま手を離す。名残惜しそうに指先が伸ばされたけど、それをペシリと叩き落として前に目を向けた。

「え~~なんでなんで? 今日用事あるって言ってたじゃん!」
「うわビジュ最強すぎ……。浴衣って最高な日本文化だね」
「待て待て待て、お前まさかデートか?!」
「ええーーっ! ちょっと待ってショックすぎ!」

 姦しい声が聞こえてくる。渡來の背中越しにチラリと覗けば、教室で見る派手な面々が勢揃いしていた。
 女子生徒たちはそれぞれ気合の入った浴衣姿で、突然祭りの会場で出会った渡來に運命を感じているような表情で頬を赤らめている。

「うん、用事。二人で祭り行こうねって、去年から約束してたんだ」
「えっえっえっほんとにマジなやつ?」
「え…………ガチ?」
 デートという単語を全く否定しない渡來に、からかい混じりだった男子生徒たちの勢いが無くなっていく。それと同時に女子生徒の間に動揺が広がっていった。

 あの渡來に、彼女が? この男が選ぶなんてどれほどの美少女なんだ?
 生徒達の間に伝播していく困惑の雰囲気にまずいと思った明呉は、渡來の広い背中からサッと顔を出して自己紹介をした。

「明呉、です。一緒に遊ぼうって話に、なってて」
 さして話したこともないクラスメイトの前に躍り出るのは勇気がいった。それでも今ここで渡來が勘違いされてクラスの中で浮かないように、という一心で体が動いていた。
 明呉を見た生徒達は目を丸くしたあと、ああなんだ、という空気を隠しもしない声音で反応してきた。

「ああ……明呉?」
「あーそうなんだー? え、そこそんな仲良いの?」
「明呉ってこういうトコ来るんだ。興味ないんだと思った」
「ええ~~~二人とか寂しくない?」
 一緒にいるのが同性だと分かった瞬間、女達の囲い込みは早かった。どうせなら一緒に周ろうよ、という親切を装った仮面でグイグイと渡來の腕を引っ張り群れに引き摺り込もうとする。

「ごめんね、今日は二人で周りたい」
「またまた! いいじゃん今日くらい」
「そうだぜ~、お前いっつも付き合い悪いんだからさあ」

 こいつが居た方が盛り上がりそうと察知した男子生徒達も渡來を囲い込む方向で結託し始める。さりげなく渡來との間に割いられた明呉は、されど強く声を上げることも出来ない。

「あっちに射的あった! 私とって欲しいのあるー!」
「いやいやそれより花火見る場所取りしないと」
「リサーチ済みでーす!」
「渡來君の浴衣綺麗だねえ、自分で着付けたの? すごーい!」
 渡來を中心にした巨大な群れになった生徒達は、明呉を置いてするすると人混みの中を進んでいく。明呉の存在なんて無かったようにされている。

 世界はいつもそうだった、と今更ながらに思い出す。都合の悪いものは見なかったことにされるのだ。
 明呉は割と見なかったことにされる側だった。それをすっかり忘れていたのは、ひとえに渡來が都度都度振り返って手を差し伸ばしてくれていたからだ。


「ま、っ……!」
 そのスピードに追いつこうと明呉も足を早めようとするが、勢いをつけた結果指の股は砂利との摩擦で悲鳴を上げる。日頃味うことのないタイプの痛みに顔を顰めているうちに、どんどんとグループとの距離は開いていく。


「……浴衣なんて、調子乗るもんじゃないな……」
 ついに耐えきれなくなって、足を止めた。迷惑そうな顔をする人の流れを謝りながら横切って、屋台が連なるその裏の雑木林へと逃げ込んだ。

 着付けて貰った時、喫茶店の店員総出で褒めちぎられた。店長は孫を自慢するような勢いで絶賛したし、名黒はきゃーきゃー騒ぎながら写真を撮りまくって、白塚は親戚の子供を見るような柔らかな視線で「よく似合っている」と言ってくれた。

 その時ちょっと調子に乗ったのだ。きっと渡來は洒落た浴衣を着てばっちり決めてくるだろうけど、この姿ならその隣に立っても見苦しくはないんじゃないのかと。

 そんなのは恥ずかしい思い違いだったのだ。どれだけ装飾を変えたとて明呉の内側が変わることはないし、今まで積み重ねてきた明呉自身の印象を覆すことはなかなか出来ない。
 現に、教室で毎日のように顔を突き合わせているはずのクラスメイト達は、明呉の浴衣姿にほとんど反応しなかった。どうでもいいのだ、彼らにとって、明呉大地という存在は。



 遠くで明呉、と呼ばれた気がした。でももうどこにも見当たらない。煌々と光る屋台通りはどこか遠い世界のように見えて、ああやっぱり渡來と自分は住む世界が違うんだなと思い知らされた。


 ジクジクと足が痛む。この下駄を脱ぎ捨ててしまえたら楽なのに、と思いながらも、店長の嬉しそうな顔がよぎってそれは絶対に出来なかった。
 人生、こんな事ばかりだな。




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