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05:アポカリプスまであと何秒
閑話.これを読んでいる方へ
しおりを挟むこれを読んでいる方へ
初めまして、俺は渡來翼と言います。
これを預かってくれて読んでいると言うことは、俺が信頼して預けた相手だと思いますので、大変申し訳ないですが幾つかお願いがあります。
まず、これは遺書です。紛うことなき、渡來翼の書き残した遺書になります。
これを読んでいる方は、大変なことと存じますが、この手紙の筆跡鑑定を行なっていただけないでしょうか。
必要な費用と手順書は俺の部屋の入って右側のクロゼットの中、そこに収められた小さな本棚の漫画を底上げしている箱の中に入っています。
そして、筆跡鑑定を行い確実にこれが俺のものだと分かった時点で、俺の親族には見せずに不特定多数が見れる場所(SNS、動画サイト、紙媒体等手段は問いません)に公表していただけますでしょうか。
死後なおご迷惑とお手数をおかけしてしまい本当に申し訳ないのですが、俺が預けるに値すると見込んだ貴方なら、きっとやり遂げてくれると信じています。
俺は優しい貴方を利用するのです。どうか全てが終わった後は恨み、仔細全てを忘れ、そのまま健やかに生きていただけると大変助かります。
さて、つまらない身の上話にはなりますが、一応これでも遺書なので簡潔に俺のことを書かせていただきます。
俺は他者からすると何でも持っている人間なのだと思います。
家は裕福で、何かに困ったことはなく、父と母の血を引いた容姿は世間的に言うと整っていて、身体能力も脳の出来もそれなりです。
だからこそ俺は誰にも求められます。でも彼らが欲しがっているのは俺じゃない、『渡來翼』というトロフィーです。完璧で美しいものだから世界は俺を肯定する。
でもそうじゃなかったら? いつも眠れない夜はそんなことを考えます。
例えば俺の持ちうるものの何か一つでも欠けていたら、俺を熱烈に欲する人たちは一瞬で冷めてその手を伸ばすのをやめるのではないか。
俺の価値は、どこまで削っていったら保てなくなるのでしょうか。
俺は他人から見ると何でも持っているかもしれないけれど、俺からすると毎日切り崩されて生きているような心地なのです。
俺は生まれた時から全てを名前も顔も知らない他人に晒されている。俺の知らない俺のことまで、ネットにたむろする人たちは知っている。
その恐怖をあなた方は知っているでしょうか。
俺の人生は他人のエンタメです。初めて喋った言葉も、幼稚園の頃好きだった女の子のことも、小学校の時の自由研究の内容も、その全てが包み隠さず全世界に発信されてきました。
渡來翼という人間は日々消費されていっています。俺という人間がしゃぶり尽くされて味がしなくなった時、俺はどんな風に捨てられてしまうのか。それがいつ来るのかわからず、ただただ怯える毎日が続いているうちに、思ったんです。
いずれ来る終わりに怯えて毎日が儘ならないのなら、いっそのこと終わりを定めて思いっきり人生を過ごそうと。
俺はきっと完璧な息子だったでしょう。
美しく聡明で、でも純真で家族のことを大切にしている、最近の高校生とは思えない品行方正な男の子。
そう在るように努めました。誰が見てもこの子は幸せなんだと思われるように毎日を演じました。
俺が自殺した時、みんなを絶望に突き落とせるように。
俺は大人になりたくありません。
誰かの大事なものを奪ったり、誰かの大切なものを壊したり、誰かの人生を見せ物にしても何も思わないような人間と同じにはなりたくありません。
人のものを奪ってなおのうのうと新しい獲物を探す母親が悍ましくて気色悪くて仕方がありません。
自己保身のためだけに愛した女性を捨て、その果てに浮気をされても追及することも出来ずにいるどこまでも自分のことしか考えていない父親が恥ずかしくて仕方がありません。
親のことをちらつかせて俺を消費しようとしてくるメイクアップアーティストのあの男も、母親と愛し合うふりをして貢がれたものを全部換金しているマネージャーのあの男も、誰も彼もに反吐が出ます。
いつか大人になった俺もまた、誰かをいつかの俺のように消費してしまうとするのなら。それ程悍ましくて恐ろしいことはないでしょう。
痛みを経験した果てにどんな大人でもああなってしまうというのなら、俺は今感じるこの痛みを抱えたままこの世界から離脱します。
だから、十八歳の誕生日。完璧な子供が大人というグロテスクなものになる寸前に、死ぬことにしたのです。
これを読んでいる方へ。
俺を見つけてくれてありがとうございます。これを渡すくらいなので、俺は多分、貴方の隣でだけ息が出来ていたのだと思います。
俺を消費しないでいてくれる貴方が、どうかどんな大人にも消費されませんように。
早々に離脱しこんなことを頼んでいる俺が言えることではないですが、どうか、何があっても絶望に苛まれず前に進めることを祈っております。
渡來 翼
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