もてあそんでくれたお礼に、貴方に最高の餞別を。婚約者さまと、どうかお幸せに。まぁ、幸せになれるものなら......ね?

当麻月菜

文字の大きさ
8 / 16
魔女が授ける、復讐方法

4

しおりを挟む
「叔母様、私……どんな復讐をしたら良いかわからないの」

 イルアは叔母が淹れてくれたお茶を一口飲んでから、そう切り出した。

「彼……フレデリックが一番困るのって何だと思います?一番辛いのはどんなことなのかしら?……私、一年以上、彼と関係を続けてたけれど、あの人のこと何もわかっていなかったの」

 ─── 馬鹿みたい。

 一気に言い終えたイルアは、心の中で吐き捨てた。

 フレデリックが自分が住まう領地の次期領主であること。そして彼が自分より少し年上で、会えば性急に身体を重ねようとしていたこと。

 現役の父親が厳しく、自由になるお金が無いからという理由で、贈り物をもらうことも、菓子といった手土産すら一度ももらったことがないこと。

 どんな幼少時代を過ごしていたのか、何が好きで何が嫌いなのか、自分と会えない時はどんなことを学んでいるのか。そんなことを何気なく尋ねれば、途端に不機嫌になること。

 この程度しか、イルアはフレデリックのことを知らない。

 つまりフレデリックは、イルアに自分のことを知られるのを極端に恐れていたのだ。それはきっと後々のことを考えて。

「馬鹿だわ、私」

 少し考えれば、フレデリックが身体しか求めていないことはすぐにわかることだった。

 でも、自分がそれを知りたくなかった。都合の悪いことは頭の中で消去して、ただただ彼の温もりを求めていただけ。

 ……もう少し、自分の気持ちをちゃんと彼に伝えていたら。
 ……不機嫌になる彼を恐れず、強く問いただしてみたら。
 ……もっと堂々と彼との付き合いを公言していたら。

 何かが、変わっていたのだろうか。

 そんな詮無いことを、つい考えてしまう。
 
「イルア、復讐ってのはね、相手が一番辛いことを与えることなんじゃないさ。する側がやりたいことをするのが一番なのさ」

 俯き深いため息を吐いたイルアに叔母は静かに言った。

「する側が一番やりたいこと?」

 目から鱗が落ちるとはまさにこのこと。そんな発想などまったく持ち合わせていなかった。

「復讐を受ける側っていうのは、何をされても辛いもんさ。だって、全てが身に覚えがないのに厄災が降ってくるようなもんだからね。だから復讐をするなら、絶対に忘れちゃいけないことがある」

 最後は昔話を語るような柔らかな口調から一変して、魔女の口調になった叔母はきっぱりとこう言った。

「罪悪感を持たないこと。それと、自分の思いを明確にすることだ」
「自分の思いを……明確に?」
「そうさ。復讐のやり方なんて100人いれば、100通りのやりかたがある。傍から見ればそんなもんが復讐なのか?と思うものもあるだろう。でもね、する側が納得して実行すればそれは完璧な復讐になる。イルア、四角四面で考えなくて良いんだよ。あんたは今、その馬鹿男になにをしてやりたい?どうしたら胸がすく思いができる?無理なことでも言ってくれ。あたしは魔女だ。あんたの願いは、無償で叶えてやるよ」

 魔女は人が不可能だと思ったことを、簡単に可能に変えてしまう不思議な呪術を使う。

 ゾワリ、とイルアは怖気が立った。

 今更ながら叔母が魔女だったことを実感したのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

ハイパー王太子殿下の隣はツライよ! ~突然の婚約解消~

緑谷めい
恋愛
 私は公爵令嬢ナタリー・ランシス。17歳。  4歳年上の婚約者アルベルト王太子殿下は、超優秀で超絶イケメン!  一応美人の私だけれど、ハイパー王太子殿下の隣はツライものがある。  あれれ、おかしいぞ? ついに自分がゴミに思えてきましたわ!?  王太子殿下の弟、第2王子のロベルト殿下と私は、仲の良い幼馴染。  そのロベルト様の婚約者である隣国のエリーゼ王女と、私の婚約者のアルベルト王太子殿下が、結婚することになった!? よって、私と王太子殿下は、婚約解消してお別れ!? えっ!? 決定ですか? はっ? 一体どういうこと!?  * ハッピーエンドです。

裏切者には神罰を

夜桜
恋愛
 幸せな生活は途端に終わりを告げた。  辺境伯令嬢フィリス・クラインは毒殺、暗殺、撲殺、絞殺、刺殺――あらゆる方法で婚約者の伯爵ハンスから命を狙われた。  けれど、フィリスは全てをある能力で神回避していた。  あまりの殺意に復讐を決め、ハンスを逆に地獄へ送る。

第一王子に裏切られた私は意外と身近に転生しました。さぁ復讐を始めましょう……

水城ゆき
恋愛
公爵令嬢のメリアンナは知ってしまった。婚約者である第一王子アストレアが自分の屋敷のメイドであるミレーナにラブレターを送った事を。 憤怒したメリアンナは二人の恋を実らせまいと行動するが、その作戦が上手くいきかけた時。 突然現れたミレーナを見て、思わずアストレアは抱きしめていたメリアンナを突き飛ばした。 メリアンナは階段を転落する事になり、そのまま命を落としてしまう。 しかし次に目覚めた時、メリアンナは第二王子の長女として以前の記憶を保ったまま生まれ変わっていたのだ。 ここからメリアンナの復讐が始まる。

【完結】時戻り令嬢は復讐する

やまぐちこはる
恋愛
ソイスト侯爵令嬢ユートリーと想いあう婚約者ナイジェルス王子との結婚を楽しみにしていた。 しかしナイジェルスが長期の視察に出た数日後、ナイジェルス一行が襲撃された事を知って倒れたユートリーにも魔の手が。 自分の身に何が起きたかユートリーが理解した直後、ユートリーの命もその灯火を消した・・・と思ったが、まるで悪夢を見ていたように目が覚める。 夢だったのか、それともまさか時を遡ったのか? 迷いながらもユートリーは動き出す。 サスペンス要素ありの作品です。 設定は緩いです。 6時と18時の一日2回更新予定で、全80話です、よろしくお願い致します。

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~

緑谷めい
恋愛
 ドーラは金で買われたも同然の妻だった――  レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。 ※ 全10話完結予定

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

【完結】さよなら、馬鹿な王太子殿下

花草青依
恋愛
ビーチェは恋人であるランベルト王太子の傍らで、彼の“婚約破棄宣言”を聞いていた。ランベルトの婚約者であるニナはあっさりと受け入れて去って行った。それを見て、上手く行ったと満足するビーチェ。しかし、彼女の目的はそれだけに留まらず、王宮の平和を大きく乱すものだった。 ■主人公は、いわゆる「悪役令嬢もの」の原作ヒロインのポジションの人です ■画像は生成AI (ChatGPT)

処理中です...