9 / 16
静かに始まる復讐、そして餞別
1
しおりを挟む
───3日後、フレデリックはイルアの家の門を叩いた。
数日前にあれほど心無い言葉を放ったことなど忘れたかのように、軽い足取りで。
「イルア、会いたかったよ」
「ええ、私もです。フレデリック様とお会いできるのを心待ちにしてました」
ふわりと笑ったイルアは、さぁお入りくださいとフレデリックに入室を促す。
「ん?今日はなんか、この部屋暖かいね」
「ええ。めっきり冷え込んできましたから。フレデリック様が風邪など召したら大変だと思って。……暑すぎますか?」
「いや、丁度良いよ。それよりも、さ」
我が物顔で部屋に入り、そして上着を当然のようにイルアに押し付けたフレデリックはチラリと寝室に目を向ける。
「ええ、フレデリック様。まいりましょう」
イルアは丁寧にフレデリックの上着をハンガーにかけると、共に寝室へと向かった。
「───……素敵でした、フレデリックさま」
情事が終わってすぐ、イルアはフレデリックの胸に顔を寄せ吐息交じりに呟いた。
「そうか。……珍しいね、君がそんなことを言うなんて」
「ええ。……でも、ずっとお伝えしたかったんです」
「へぇ。まぁ、それなりのことはしたからね、俺。それにしても今日のイルアは可愛いな。でも、はっきり口にされるとちょっと照れるよ」
「……ふふっ、私は本当のことを言っただけですわ」
イルアから潤んだ目で見つめられたフレデリックは、まんざらでもなさそうに「ま、普通さ、普通」などと言う。
そこでイルアはすかさず口を開く。
「ねえ、フレデリックさま。気を悪くせずに、聞いてください」
「……なんだい」
前置きをしたというのに、フレデリックの口調は途端に固くなる。
しかしイルアは敢えて気付かぬふりをする。
「女性は男性の強引なリードが大好きなんです。嫌、やめて、というのはあくまで建前。だって、淑女は恥じらわなければならないと教育を受けますから。でも、本音は違うのです。それは身分など関係なく、女なら」
遠回しにこれから妻となる女性も、乱暴に抱いた方が喜ぶと伝えれば愚かにもフレデリックは「なるほど」と言って、真面目な顔で頷いた。
イルアはそっとフレデリックの胸に顔をうずめる。噴き出すのをこらえるために。
「……俺は君に謝らないといけないな」
「あら、何をでしょう?」
擦り寄るイルアの髪を撫でながら、フレデリックは掠れた声で続きを語る。
「俺はもしかしたら君が甚だしい勘違いをして、領主の妻になりたかったのだと思っていたんだ」
「まぁ」
「でもイルア、君はまるで熟練の娼婦のように俺に素晴らしいアドバイスをくれた。悪かった。君はちゃんの身の程を弁える人間だったんだな。ああ、つまり俺に見る目があったってことか。……ところで、イルア。君は娼館で働く気はないのか?」
「……なぜですか?」
「わからないのか?意外に君は頭が悪いな。だって関係が終わっても私は客として君に会える。君だってそのほうが割り切れて良い思いができるだろ?」
そんな侮辱でしかない言葉を受けても、イルアは激高することはしない。
黙って受け入れ、そしてどんなふうにでも取れる笑みを浮かべた。
数日前にあれほど心無い言葉を放ったことなど忘れたかのように、軽い足取りで。
「イルア、会いたかったよ」
「ええ、私もです。フレデリック様とお会いできるのを心待ちにしてました」
ふわりと笑ったイルアは、さぁお入りくださいとフレデリックに入室を促す。
「ん?今日はなんか、この部屋暖かいね」
「ええ。めっきり冷え込んできましたから。フレデリック様が風邪など召したら大変だと思って。……暑すぎますか?」
「いや、丁度良いよ。それよりも、さ」
我が物顔で部屋に入り、そして上着を当然のようにイルアに押し付けたフレデリックはチラリと寝室に目を向ける。
「ええ、フレデリック様。まいりましょう」
イルアは丁寧にフレデリックの上着をハンガーにかけると、共に寝室へと向かった。
「───……素敵でした、フレデリックさま」
情事が終わってすぐ、イルアはフレデリックの胸に顔を寄せ吐息交じりに呟いた。
「そうか。……珍しいね、君がそんなことを言うなんて」
「ええ。……でも、ずっとお伝えしたかったんです」
「へぇ。まぁ、それなりのことはしたからね、俺。それにしても今日のイルアは可愛いな。でも、はっきり口にされるとちょっと照れるよ」
「……ふふっ、私は本当のことを言っただけですわ」
イルアから潤んだ目で見つめられたフレデリックは、まんざらでもなさそうに「ま、普通さ、普通」などと言う。
そこでイルアはすかさず口を開く。
「ねえ、フレデリックさま。気を悪くせずに、聞いてください」
「……なんだい」
前置きをしたというのに、フレデリックの口調は途端に固くなる。
しかしイルアは敢えて気付かぬふりをする。
「女性は男性の強引なリードが大好きなんです。嫌、やめて、というのはあくまで建前。だって、淑女は恥じらわなければならないと教育を受けますから。でも、本音は違うのです。それは身分など関係なく、女なら」
遠回しにこれから妻となる女性も、乱暴に抱いた方が喜ぶと伝えれば愚かにもフレデリックは「なるほど」と言って、真面目な顔で頷いた。
イルアはそっとフレデリックの胸に顔をうずめる。噴き出すのをこらえるために。
「……俺は君に謝らないといけないな」
「あら、何をでしょう?」
擦り寄るイルアの髪を撫でながら、フレデリックは掠れた声で続きを語る。
「俺はもしかしたら君が甚だしい勘違いをして、領主の妻になりたかったのだと思っていたんだ」
「まぁ」
「でもイルア、君はまるで熟練の娼婦のように俺に素晴らしいアドバイスをくれた。悪かった。君はちゃんの身の程を弁える人間だったんだな。ああ、つまり俺に見る目があったってことか。……ところで、イルア。君は娼館で働く気はないのか?」
「……なぜですか?」
「わからないのか?意外に君は頭が悪いな。だって関係が終わっても私は客として君に会える。君だってそのほうが割り切れて良い思いができるだろ?」
そんな侮辱でしかない言葉を受けても、イルアは激高することはしない。
黙って受け入れ、そしてどんなふうにでも取れる笑みを浮かべた。
16
あなたにおすすめの小説
地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定
ハイパー王太子殿下の隣はツライよ! ~突然の婚約解消~
緑谷めい
恋愛
私は公爵令嬢ナタリー・ランシス。17歳。
4歳年上の婚約者アルベルト王太子殿下は、超優秀で超絶イケメン!
一応美人の私だけれど、ハイパー王太子殿下の隣はツライものがある。
あれれ、おかしいぞ? ついに自分がゴミに思えてきましたわ!?
王太子殿下の弟、第2王子のロベルト殿下と私は、仲の良い幼馴染。
そのロベルト様の婚約者である隣国のエリーゼ王女と、私の婚約者のアルベルト王太子殿下が、結婚することになった!? よって、私と王太子殿下は、婚約解消してお別れ!? えっ!? 決定ですか? はっ? 一体どういうこと!?
* ハッピーエンドです。
裏切者には神罰を
夜桜
恋愛
幸せな生活は途端に終わりを告げた。
辺境伯令嬢フィリス・クラインは毒殺、暗殺、撲殺、絞殺、刺殺――あらゆる方法で婚約者の伯爵ハンスから命を狙われた。
けれど、フィリスは全てをある能力で神回避していた。
あまりの殺意に復讐を決め、ハンスを逆に地獄へ送る。
第一王子に裏切られた私は意外と身近に転生しました。さぁ復讐を始めましょう……
水城ゆき
恋愛
公爵令嬢のメリアンナは知ってしまった。婚約者である第一王子アストレアが自分の屋敷のメイドであるミレーナにラブレターを送った事を。
憤怒したメリアンナは二人の恋を実らせまいと行動するが、その作戦が上手くいきかけた時。
突然現れたミレーナを見て、思わずアストレアは抱きしめていたメリアンナを突き飛ばした。
メリアンナは階段を転落する事になり、そのまま命を落としてしまう。
しかし次に目覚めた時、メリアンナは第二王子の長女として以前の記憶を保ったまま生まれ変わっていたのだ。
ここからメリアンナの復讐が始まる。
【完結】時戻り令嬢は復讐する
やまぐちこはる
恋愛
ソイスト侯爵令嬢ユートリーと想いあう婚約者ナイジェルス王子との結婚を楽しみにしていた。
しかしナイジェルスが長期の視察に出た数日後、ナイジェルス一行が襲撃された事を知って倒れたユートリーにも魔の手が。
自分の身に何が起きたかユートリーが理解した直後、ユートリーの命もその灯火を消した・・・と思ったが、まるで悪夢を見ていたように目が覚める。
夢だったのか、それともまさか時を遡ったのか?
迷いながらもユートリーは動き出す。
サスペンス要素ありの作品です。
設定は緩いです。
6時と18時の一日2回更新予定で、全80話です、よろしくお願い致します。
10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~
緑谷めい
恋愛
ドーラは金で買われたも同然の妻だった――
レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。
※ 全10話完結予定
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
【完結】さよなら、馬鹿な王太子殿下
花草青依
恋愛
ビーチェは恋人であるランベルト王太子の傍らで、彼の“婚約破棄宣言”を聞いていた。ランベルトの婚約者であるニナはあっさりと受け入れて去って行った。それを見て、上手く行ったと満足するビーチェ。しかし、彼女の目的はそれだけに留まらず、王宮の平和を大きく乱すものだった。
■主人公は、いわゆる「悪役令嬢もの」の原作ヒロインのポジションの人です
■画像は生成AI (ChatGPT)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる