もてあそんでくれたお礼に、貴方に最高の餞別を。婚約者さまと、どうかお幸せに。まぁ、幸せになれるものなら......ね?

当麻月菜

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静かに始まる復讐、そして餞別

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 その後もフレデリックは、足繫くイルアの元に通った。

 そしてイルアの虚言を真に受けたフレデリックは、女性に対して思いやりの欠片もない情事を重ね続けた。

 時には娼婦ですら拒むようなことをフレデリックはイルアに要求した。対してイルアは笑って受け入れた。そして必ず「女性は皆、こうされると喜ぶのですよ」とフレデリックに囁いた。

 また、これまでフレデリックは、イルアの家で好き勝手に飲み食いをしていたが、イルアは更に手の込んだ料理を出し、自ら酌をし、かいがいしくフレデリックに尽くした。




「フレデリック様、女性は身分の差に関係なく皆、男性に尽くすのが好きなのです。ですから身を固めた後は、もっと横柄に命じてあげてくださいませね」

「フレデリック様、女性は妻となったと同時に身を飾ることを嫌うのです。だって伴侶を得たのに着飾ったら、まるで他の殿方を意識しているように見えるでしょ?ですから、夫が先回りして慎み深い衣装を選んであげてくださいませ」

「フレデリック様はとても素晴らしいお方です。貴方はとても聡明で、語る言葉はすべて正しいと思いますわ。他の誰からの意見にも耳を貸す必要なんてないですわ」

「フレデリック様、他に何を召し上がりたいですか?御酒の銘柄も気兼ねなく仰ってくださいませ。……女性と言うのは、少し難しいことをお願いされるほうが嬉しいのです。貴方の役に立てていると思えて。さぁ、何でも仰ってくださいませ」




 イルアは会うたびに笑顔でそれらをフレデリックに言い続けた。

 内心、彼が「そんなわけないだろう」と訝しむことを不安に思っていた。しかしそれは杞憂に終わった。

 余程、イルアの語る言葉はフレデリックにとって都合がよく、理想としたものだったのだろう。彼は「確かにそうだ」と素直に受け入れ、そしてイルアの言葉通り、傍若無人な態度を取り続けた。

 それは日に日にエスカレートしていった。

 いつの間にかフレデリックはイルアに向け「愛してる」と言わなくなった。
 かいがいしく世話を焼くイルアのことを「お前」と呼ぶようになった。
 あからさまに身体だけの関係だということを口にするようになった。

 時折、婚約者になる予定の王都に住む貴族令嬢とイルアを比べ、そしてイルアを何の教養も無い田舎者だとコケ下ろした。
 
 しかしイルアは、手が付けれなくなってしまったフレデリックがどんな言動をしても、慈愛の籠った眼差しを向け下僕のように尽くし続けた。


 どれだけ辛い言葉を放たれても、この先、フレデリックがどんな未来を歩むのかを知っているから、何一つ心に傷がつくことはなかった。


 そして一ヶ月が経過し、二ヶ月が経過し─── あと半月で社交シーズンを迎える季節となった。
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