不健全な契約から始まる、健全な男女交際~ふしだら令嬢と、喰われた王子のたった一つの隠し事~

当麻月菜

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仮初めの恋人と過ごす日々※なぜか相手はノリノリ

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『言ってくれるじゃねえか』



 そう言ったカイロスは、明らかに苛立っていた。

「お前はこれまで俺と接してきて、そんなふうに思っていたのか」
「……」
「それとも、それがお前の本心か?」
「……え?」

 抽象的過ぎて何を聞かれているのかわからない。

 顎を掴まれたまま、うっかり首を傾げたアンナに、カイロスは苦し気な表情になる。

「お前がさっき言った台詞は、リアルに好きな人がいなきゃ出てこない言葉だ」
「……っ」
「お前、好き奴がいるんだろう?」
「いない!!」

 咄嗟に首を横に振ったアンナだけれど、内心、心臓がバクバクしている。

 まさか自分がひた隠しにしていた気持ちを当の本人に気付かれるなんて最悪だ。

 苦々しい気持ちから、アンナは思わず唾をゴクリと呑んでしまう。

 それは遠回しな肯定で、カイロスは目を細める。

「お前と付き合い始めてすぐに、アレクが部屋に押しかけてきて言ったんだ。お前は好きな奴がいるって。だから俺が無理矢理脅して付き合うことになっているなら、どうかやめてくれって」
「なっ……!!」

 なんてことを言ってくれるんだ、あの馬鹿!!

 アンナはここには居ない一つ年上の仲良し先輩に悪態を吐く。そうして思い出す。確かに自分は何かの弾みでポロっとアレクに喋ってしまったことを。

 ただあの時、実名を出さなかった。カイロスに片思いをしているのはマチルダだけが知ること。

 その結果、今、カイロスは大いなる誤解をしてしまっているのだ。

 もちろんアレクの行動は良かれと思ってのこと。自分の為に、王族に物申してくれた友人に感謝の気持ちだってある。

 だがしかし、こんなややこしい事態になってしまえば、アレクをお喋りだと罵りたくなる気持ちを捨てきれないでいる。

「ア、アレクに言ったのは、その……随分前のことで……い、今は、好きな人なんて、いっ、いません」
「ふぅーん」

 明らかに動揺しているアンナの発言なんて、嘘にしか聞こえないのだろう。カイロスの探るような視線が痛い。

「入学してすぐに助けてもらったんだって?そいつ良いやつだな。で、誰なんだ?」
「い、言えませんっ。っていうか……な、名前なんてわかりませんよっ」
「特徴ぐらいわかるだろう?言えよ。そうしたら俺が褒美をくれてやる」
「は?」

 最後に言ったカイロスの言葉が信じられなくて、アンナは間抜けな声を出すことしかできない。

 カイロスは、そんなアンナを見て力無く笑う。顎を掴んでいた手は、滑り落ちて己の膝の上にある。

「俺が仲を取り持ってやるって言ってるんだ」  

 何かを誤魔化すような、早口な言い方だった。

「そいつに婚約者でも恋人でもいるなら、どんな手を使ってでも引き剥がしてやる。俺との関係だってそいつにだけは喋っても良い。何なら俺から言ってやる。お前が望むまま、全て叶うように何だってしてやる」

 次第に力を帯びるカイロスの口調と眼差しは、理性で感情を抑えているかのようで、また、痛みを誤魔化しているようだった。

 でもアンナだって精一杯、暴れまわる感情を理性で抑えているし、胸はナイフでめった刺しにされたみたいに痛くて苦しい。

 カイロスの口ぶりだと、入学当初に自分を救ってくれたことなど奇麗さっぱり忘れている。

 それだけでも残酷なのに、加えて好きな人から、仲を取り持つと言われてどんな顔をすれば良いのかわからない。
  
 アンナは唇を噛んで、立ち上がる。

 だがカイロスは素早く腕を掴んで引き留めた。そして、こう言った。

「ただし……褒美をやるのは、俺が卒業してからだ。それまでは、お前は俺の傍にいろ」
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