24 / 33
仮初めの恋人と過ごす日々※なぜか相手はノリノリ
18
しおりを挟む
カイロスの父親は現国王陛下であり、母親は小国の姫。でも本当の母親は神殿に仕える巫女。
すなわちこれ、王族の大スキャンダルである。
平和なはずのランラード学園において、好きな人が卒業するまでのんびりに暮らす為の仮初の恋人となったというだけでもなかなかの秘密であるが、それに加えて、知ってはいけない王族の秘密まで抱えてしまったアンナは強い眩暈を覚えた。
「熱は下げたが体力までは戻してない。まだ辛いだろう?少し寝ろ」
アンナが青ざめているのは、風邪のせいだろうとカイロスは判断したようだ。
「はい……そうですね。寝ます。でも、部屋で」
「寝ろ」
「……はい」
どうせ寝るなら部屋で寝たい。
何一つ望んではいないというのに急に命の危険にさらされてしまった今、安心できる場所を求めるのは当然の流れなのだが、カイロスはちっとも気付いてくれない。
それどころか寝やすいように、毛布をめくって横になるのを手助けしてくれる。いや、違う。強制的に寝るよう圧をかけてくる。
王族にしか出せない威圧的なオーラを、病み上がりの身体で受けてしまったアンナは、しぶしぶながら観念することにした。ただ、これだけは譲れない。
「それでは、失礼して休ませていただきますが、一つお願いが……」
「ん?元気になったら島でも鉱山でも買ってやるから、おねだりは後にしろ」
「いえ、そんなのいりません。ただ、寝顔を見られるのは困るので席を外してください」
「やなこった」
「……えー」
島と鉱山を買い与えるより、よっぽどここを出て行く方が簡単だ。
なのにカイロスはとんでもなく理不尽な要求を突き付けられたような顔をする。彼の思考は、今日も安定のわからなさだ。
ベッドに横たわっているアンナは、毛布を鼻先まであげて困惑する。
そんなアンナをじろりと見たカイロスは、威圧的に口を開く。
「恋人がちゃんと寝るのを見届けるのが彼氏の役割だ。俺の特権を奪うなら、」
「……なら?」
「こうする」
ニヤッと含み笑いをしたカイロスはアンナに手を伸ばす。
「ひぇ……ご、ご容赦を」
「はん、困らせるお前が悪い」
強引に毛布をめくったカイロスは、アンナの胸元に手を伸ばす。
保健室のベッドに寝かされていたアンナは、今、上着を脱がされた状態でいる。つまり薄いシャツ一枚しか着ていない。
そうなると、迷いなく伸びてくる大きな手は、このままボタンに触れる……のかと思いきや。
──シュル、シュルル、シュル
だらしなく結んでいたネクタイを外しただけだった。
「貰っておくぞ。この後のために」
「へ?……え?じゃあ、庭園パーティーは」
「お前はおあずけ。俺も参加する気は無いが、これを付けておけばいらん誘いを受けなくて済む」
そう言いながらカイロスは、己のネクタイを外すと素早くアンナのネクタイを締めた。
もとよりガタイの良いカイロスの首に女性用のネクタイは少々短い。
しかし器用にトリニティノット型に結んだ彼の胸元は、まるでクラヴァットを着けたのように華やいでいた。
「どうだ?お前に喰われた俺らしく、しっかり首輪に見えるよう結んでみた」
「もうっ、カイロスさん!」
ネクタイの端をピロピロと揺らしながらからかうカイロスに、アンナが声を上げる。
それでもカイロスはどこ吹く風といった感じでネクタイの端に口付ける。
悔しいがこの男、王子だけあって言葉遣いは悪いが仕草は洗練されている。
そして顔まで良い。
加えて自分の片思いの相手となれば、どうあっても勝てるはずがない。
こんな状態でまさかネクタイを渡す羽目になるとは思ってなかったし、目の前で身に付けてくれるなんて数時間前までは想像すらしてなかったアンナは顔が赤くなるのを止められない。
ただ、なんとなく二人の間の空気が以前のように戻ったような気がして、アンナは勇気を出してカイロスに聞いてみる。
「ネクタイを付けてくれたなら、仲直りしたってことで良いですか?」
「ああ」
そっけない答えであったが、食い気味だった。
アンナはむぎゅっと口を噤んで毛布を被る。嬉しくて泣きそうな自分を隠す為に。
すなわちこれ、王族の大スキャンダルである。
平和なはずのランラード学園において、好きな人が卒業するまでのんびりに暮らす為の仮初の恋人となったというだけでもなかなかの秘密であるが、それに加えて、知ってはいけない王族の秘密まで抱えてしまったアンナは強い眩暈を覚えた。
「熱は下げたが体力までは戻してない。まだ辛いだろう?少し寝ろ」
アンナが青ざめているのは、風邪のせいだろうとカイロスは判断したようだ。
「はい……そうですね。寝ます。でも、部屋で」
「寝ろ」
「……はい」
どうせ寝るなら部屋で寝たい。
何一つ望んではいないというのに急に命の危険にさらされてしまった今、安心できる場所を求めるのは当然の流れなのだが、カイロスはちっとも気付いてくれない。
それどころか寝やすいように、毛布をめくって横になるのを手助けしてくれる。いや、違う。強制的に寝るよう圧をかけてくる。
王族にしか出せない威圧的なオーラを、病み上がりの身体で受けてしまったアンナは、しぶしぶながら観念することにした。ただ、これだけは譲れない。
「それでは、失礼して休ませていただきますが、一つお願いが……」
「ん?元気になったら島でも鉱山でも買ってやるから、おねだりは後にしろ」
「いえ、そんなのいりません。ただ、寝顔を見られるのは困るので席を外してください」
「やなこった」
「……えー」
島と鉱山を買い与えるより、よっぽどここを出て行く方が簡単だ。
なのにカイロスはとんでもなく理不尽な要求を突き付けられたような顔をする。彼の思考は、今日も安定のわからなさだ。
ベッドに横たわっているアンナは、毛布を鼻先まであげて困惑する。
そんなアンナをじろりと見たカイロスは、威圧的に口を開く。
「恋人がちゃんと寝るのを見届けるのが彼氏の役割だ。俺の特権を奪うなら、」
「……なら?」
「こうする」
ニヤッと含み笑いをしたカイロスはアンナに手を伸ばす。
「ひぇ……ご、ご容赦を」
「はん、困らせるお前が悪い」
強引に毛布をめくったカイロスは、アンナの胸元に手を伸ばす。
保健室のベッドに寝かされていたアンナは、今、上着を脱がされた状態でいる。つまり薄いシャツ一枚しか着ていない。
そうなると、迷いなく伸びてくる大きな手は、このままボタンに触れる……のかと思いきや。
──シュル、シュルル、シュル
だらしなく結んでいたネクタイを外しただけだった。
「貰っておくぞ。この後のために」
「へ?……え?じゃあ、庭園パーティーは」
「お前はおあずけ。俺も参加する気は無いが、これを付けておけばいらん誘いを受けなくて済む」
そう言いながらカイロスは、己のネクタイを外すと素早くアンナのネクタイを締めた。
もとよりガタイの良いカイロスの首に女性用のネクタイは少々短い。
しかし器用にトリニティノット型に結んだ彼の胸元は、まるでクラヴァットを着けたのように華やいでいた。
「どうだ?お前に喰われた俺らしく、しっかり首輪に見えるよう結んでみた」
「もうっ、カイロスさん!」
ネクタイの端をピロピロと揺らしながらからかうカイロスに、アンナが声を上げる。
それでもカイロスはどこ吹く風といった感じでネクタイの端に口付ける。
悔しいがこの男、王子だけあって言葉遣いは悪いが仕草は洗練されている。
そして顔まで良い。
加えて自分の片思いの相手となれば、どうあっても勝てるはずがない。
こんな状態でまさかネクタイを渡す羽目になるとは思ってなかったし、目の前で身に付けてくれるなんて数時間前までは想像すらしてなかったアンナは顔が赤くなるのを止められない。
ただ、なんとなく二人の間の空気が以前のように戻ったような気がして、アンナは勇気を出してカイロスに聞いてみる。
「ネクタイを付けてくれたなら、仲直りしたってことで良いですか?」
「ああ」
そっけない答えであったが、食い気味だった。
アンナはむぎゅっと口を噤んで毛布を被る。嬉しくて泣きそうな自分を隠す為に。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
獅子王の運命の番は、捨てられた猫獣人の私でした
天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:女性HOT3位!】
狼獣人のエリート騎士団長ガロウと番になり、幸せの絶頂だった猫獣人のミミ。しかしある日、ガロウは「真の番が見つかった」と美しい貴族令嬢を連れ帰り、「地味なお前はもう用済みだ」とミミを一方的に追い出してしまう。
家族にも見放され、王都の片隅の食堂で働くミミの前に現れたのは、お忍びで街を訪れていた最強の獣人王・レオンハルトだった。
彼は一目でミミが、数百年ぶりの『運命の番』であることを見抜く。心の傷を負ったミミを、王は包み込むように、そして激しく溺愛していく――。
「もう誰にもお前を傷つけさせない」
一方、ミミを捨てた元夫は後悔の日々を送っていた。そんな彼の元に、次期王妃の披露パーティーの招待状が届く。そこで彼が目にしたのは、獅子王の隣で誰よりも美しく輝く、ミミの姿だった――。
これは、不遇な少女が本当の愛を見つけ、最高に幸せになるまでの逆転溺愛ストーリー。
※気を抜くと読点だらけになることがあるので、読みづらさを感じたら教えてくれるとうれしいです。
祝:女性HOT69位!(2025年8月25日4時05分)
→27位へ!(8/25 19:21)→11位へ!(8/26 22:38)→6位へ!(8月27日 20:01)→3位へ!(8月28日 2:35)
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される
絵麻
恋愛
桐島花は父が病没後、継母義妹に虐げられて、使用人同然の生活を送っていた。
父の財産も尽きかけた頃、義妹に縁談が舞い込むが継母は花を嫁がせた。
理由は多額の結納金を手に入れるため。
相手は二十五歳も歳上の、海軍の大佐だという。
放り出すように、嫁がされた花を待っていたものは。
地味で冴えないと卑下された日々、花の真の力が時東邸で活かされる。
【完結】前世の記憶があっても役に立たないんですが!
kana
恋愛
前世を思い出したのは階段からの落下中。
絶体絶命のピンチも自力で乗り切ったアリシア。
ここはゲームの世界なのか、ただの転生なのかも分からない。
前世を思い出したことで変わったのは性格だけ。
チートともないけど前向きな性格で我が道を行くアリシア。
そんな時ヒロイン?登場でピンチに・・・
ユルい設定になっています。
作者の力不足はお許しください。
(本編完結)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?
水無月あん
恋愛
本編は完結してます。8/6より、番外編はじめました。よろしくお願いいたします。
私は、公爵令嬢のアリス。ピンク頭の女性を腕にぶら下げたルイス殿下に、婚約解消を告げられました。美形だけれど、無表情の婚約者が苦手だったので、婚約解消はありがたい! はれて自由の身になれて、うれしい! なのに、なぜ、近づいてくるんですか? 私に興味なかったですよね? 無表情すぎる、美形王子の本心は? こじらせ、ヤンデレ、執着っぽいものをつめた、ゆるゆるっとした設定です。お気軽に楽しんでいただければ、嬉しいです。
幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない
ラム猫
恋愛
幼い頃に、セリフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セリフィアはそれを喜んで受け入れた。
その後、十年以上彼と再会することはなかった。
三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セリフィアはその場を離れた。
しかし治療師として働いているセリフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。
それどころか、シルヴァードはセリフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。
「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」
「お願い、セリフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」
※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。
※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる