不健全な契約から始まる、健全な男女交際~ふしだら令嬢と、喰われた王子のたった一つの隠し事~

当麻月菜

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”待て”を強いられる王子と、換気をお願いする従者

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 ワイトは城から派遣されたカイロスの護衛兼お目付け役であり、当然、片時も護衛対象から目を離さないよう魔法科を選択している。

 そんな彼は真面目であるが融通の利く性格であり優等生でもない。一番大事なのは王子の身の安全と心の安寧。そのためには校則を破るのだって厭わない。

 だから今日も学校行事より片思いの相手と過ごす時間を選んだ殿下の為に、幻影魔法を使って周りの目を誤魔化していた。

 その気遣いはカイロスもわかているので、ワイトから頭ごなしに不満をぶつけられても、にこにこと穏やかに微笑むだけ。
 
「お前の魔法技術は自分が思っている以上に素晴らしい。今日の俺は、それを知っているからこその行動だ。だが改めて言わせてくれ。感謝する」
「へえ?」

 褒めて誤魔化そうとするカイロスに、ワイトが肩をすくませる。
 
 ただ、まんざらでもない様子で照れくさそうに頬をかきながら幻影魔法で作り出したもう一つのカイロスを指先一つで消す。

 それから両手を後ろに組んで、ニコッと満面の笑みを浮かべるとカイロスを覗き込んだ。

「で、どうでした?保健室は大人の階段を上がるのに最高に適した場所でしたけれど?」
「病人相手に何をしろというんだ」
「それはそれは、病気で弱っているときこそチャンスだというのが世間一般の常識ですが」
「そんな常識、燃やしてしまえ」
「へいへい」

 残念な子を見る目になった護衛に、カイロスはくそっ、と苛立ちを吐き出す。

 アンナの体はお世辞にも肉感的ではない。むしろ色気を感じさせない部類に入る。

 でも既に恋に落ちているカイロスからしたら、華奢な体つきだろうが関係ない。好きな女がそこにいるというのにお預けを食らっている状態なのだ。

 からかい半分で触れる度に、そのままアンナにむしゃぶりつきたくなったことなど数知れない。

 カイロスは顔良し、成績良し。ついでに肩書もランラード学園一の男だ。選ぶことはあっても、我慢などしなくても良いはず。

 だというのに、唯一歯を食いしばりながら我慢をしなくてはならない相手が、皮肉にも恋人であるアンナなのだ。

「あの……殿下、夜に再チャレンジするなら、わたくしめに今宵一晩、幻影魔法を使えと命じてください。規律など無視して喜んで殿下の代理と夜を過ごしましょう」

 意識をよそに向けていれば、心底くだらない提案をされた。

 しかもワイトは、ご丁寧にわざとらしく片足を引いて、胸に手を当て家臣の礼を取る。

 カイロスは腕を組んで睨みつけた。

「お前の気持ちはよくわかった」
「さようですか。それはそれは恐悦至極にございます」
「じゃあ、引き続き代理と過ごしてくれ。俺は寮に戻る」
「へ?……ええっ」

 ぎょっとするワイトを無視して、カイロスはひらひらと手を振って男子寮に向かう。

 どうせ、アンナが参加しないなら行事に参加する意味なんてない。それに、ここぞとばかりに女子生徒から声を掛けられるの鬱陶しい。

 そんなくさくさした気持ちで、早足で男子寮に向かうカイロスに、ワイトは後を追いながら慌てて声を掛けた。

「殿下、後でちゃんと換気しといてくださいよ。同性のあの臭いだけは、マジで勘弁なんで!」

 その意味を理解したカイロスは、額に青筋を立てる。

「誰が抜くか馬鹿っ」

 怒鳴りつけたカイロスに、ワイトは「ひぇえ」っと情けない声を出しながら身震いした。
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