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はじまりの章
我が家だけ季節外れの春一番が吹いた件について②
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魔術師というのは花形職業で、高位の魔術師になればなるほど富と名声が上がると共に、仕事も忙しくなる。
位に関係なく魔術師の仕事は、大きく分けて二種類ある。
まずアクティブ系では騎士団と共に魔物討伐に参加したり、新種の魔物がいないか調査をしたり。次にインドア系では、各地に点在する魔法学校の試験問題の監修に、他の魔術師の論文の添削なんかも請け負ったりする。
ファルファラは二つ名を持つ<慧眼の魔術師>だ。
そうなると身体が幾つあっても足りないとお思いだろう。だがしかし、実際はさほど忙しくはない。
なぜなら<慧眼の魔術師>は、王命のみに従う王の忠実な番犬だから。言い換えるなら、王からの命令がなければ、どれだけぐうたらしてても後ろ指を差されることは無い。
ただし王様の命令は絶対。どんな汚い仕事でも、どんなに罪悪感を覚えるものであっても、粛々とやり遂げなければならない。
とはいえ現在のナルラータ国は国内外において、きな臭い話は無い。
おかげでファルファラは、専ら昨日のように式典に花を添える仕事が主なものとなっている。
ーー願わくば、このままのんべんだらりと過ごしたい。
そんな野望を抱くファルファラは、ずぼらであるが怠け者ではない。ただ単に人と関わることが嫌なだけ。
人と関わらない仕事なら、いつでも喜んでやらせていただく所存だ。
「......あーあ。昨日……ラバンがあそこに一緒にいてくれたら、どれだけ心強かっただろう」
しみじみと呟いたファルファラは身を起こすと、ぎゅっとラバンの腰に抱きついた。
昨日は枯れたススキのように存在感を消していたその姿は、今は小さな子供のように頼りない。
「私の居場所は、お嬢がいるところです。だから今度はお供させていただきます。たとえ陛下や殿下が何を言っても」
ギリギリのバランスでハンモックに座っているファルファラが落ちないように、ラバンはしっかりと華奢な身体を抱き締める。
「うん。じゃあ、永久的に使える人外入場許可証を出せるように交渉してみるね」
「そうしてください。さすがにお城の結界を破壊して入城するとお嬢に迷惑が掛かりますから」
この会話の通り、ラバンは人間じゃない。ファルファラが大失恋をした後、召喚し契約を結んだ人ならざる者。
だから彼にぎゅっと抱きしめられても温もりは無い。それでも不思議と心がポカポカとなる。
それは精霊や人外の生き物は嘘を付く概念が無いからなのだろうか。それとも契約を結んでいる間は絶対に裏切らないという信頼感からなのだろうか。
もちろんそれも大いにある。だが、どれだけスキンシップを取っても色恋沙汰にならないのが一番の理由だろう。
そんなことをつらつらと考えているファルナを、ラバンは器用にハンモックに横たえた。
「さ、お嬢。許可証の件は後回しにして、お昼までお休みください。それとも昨日食べたいと仰っていたパンケーキをお持ちしましょうか?」
「う、う、ううーん。いいや、っていうか、それはおやつに取っておく」
「さようですか」
食い意地の張ったファルファラの発言に苦笑するラバンであったが、すぐにブランケットをかけ直して、ファルファラが寝やすいようパラソル代わりとなる。
「子守唄でも歌いましょうか?」
「ううん、それはいいや」
ラバンの提案を、ファルファラは即座に断った。
彼は万能執事であるが、人間では無い。従って複雑な音程を再現するのが苦手で、うっかり聞いてしまうと三半規管に支障が出る。
昨日、嫌というほど人の視線を浴びたファルファラは翌日になっても疲れは取れていない。だから今日は、全力で体を休めたかった。
対して子守唄を拒絶されたラバンは不愉快になることは無く、無言でパラソルで居続けてくれる。
春の日差しは穏やかではあるが、それでも日に当たるとファルファラの肌はすぐに赤くなってしまう。陶器のような肌を維持できているのは、ひとえに彼のお陰だ。
「......ふぁあぁぁー。お昼のメニューはなんだろうね」
「夕食はお嬢の大好物の頬肉の煮込みを作るとコモンとクラリが張り切ってましたから、きっとお昼は軽めのサンドイッチになると思います。具材のリクエストがあれば伺いますが」
「んー、大丈夫。二人が作るのは何でも美味しいから」
コモンとクラリは、クローヴァ邸のメイドであり、ファルファラの使い魔だ。そんな二人は、持ち前の魔力で広い屋敷をたった二人で切り盛りしてくれている。
ちなみにこの小さな屋敷の使用人は他にも庭師が2名いるが、それも全てファルファラの使い魔だ。
「んー......じゃあ、ラバン。悪いけどお昼ご飯ができたら起こし......て......ね?」
「かしこまりました」
もう半分夢の中にいるファルファラはむにゃむにゃと不明瞭な言葉を紡ぐが、ラバンはそれを的確に読み取り生真面目に頷く。
そうして、昼食までファルファラは惰眠を貪ろうとしたのだけれど、
ーーー ドッカーン!!
耳をつんざく大爆音が屋敷の敷地全部に響いた。
位に関係なく魔術師の仕事は、大きく分けて二種類ある。
まずアクティブ系では騎士団と共に魔物討伐に参加したり、新種の魔物がいないか調査をしたり。次にインドア系では、各地に点在する魔法学校の試験問題の監修に、他の魔術師の論文の添削なんかも請け負ったりする。
ファルファラは二つ名を持つ<慧眼の魔術師>だ。
そうなると身体が幾つあっても足りないとお思いだろう。だがしかし、実際はさほど忙しくはない。
なぜなら<慧眼の魔術師>は、王命のみに従う王の忠実な番犬だから。言い換えるなら、王からの命令がなければ、どれだけぐうたらしてても後ろ指を差されることは無い。
ただし王様の命令は絶対。どんな汚い仕事でも、どんなに罪悪感を覚えるものであっても、粛々とやり遂げなければならない。
とはいえ現在のナルラータ国は国内外において、きな臭い話は無い。
おかげでファルファラは、専ら昨日のように式典に花を添える仕事が主なものとなっている。
ーー願わくば、このままのんべんだらりと過ごしたい。
そんな野望を抱くファルファラは、ずぼらであるが怠け者ではない。ただ単に人と関わることが嫌なだけ。
人と関わらない仕事なら、いつでも喜んでやらせていただく所存だ。
「......あーあ。昨日……ラバンがあそこに一緒にいてくれたら、どれだけ心強かっただろう」
しみじみと呟いたファルファラは身を起こすと、ぎゅっとラバンの腰に抱きついた。
昨日は枯れたススキのように存在感を消していたその姿は、今は小さな子供のように頼りない。
「私の居場所は、お嬢がいるところです。だから今度はお供させていただきます。たとえ陛下や殿下が何を言っても」
ギリギリのバランスでハンモックに座っているファルファラが落ちないように、ラバンはしっかりと華奢な身体を抱き締める。
「うん。じゃあ、永久的に使える人外入場許可証を出せるように交渉してみるね」
「そうしてください。さすがにお城の結界を破壊して入城するとお嬢に迷惑が掛かりますから」
この会話の通り、ラバンは人間じゃない。ファルファラが大失恋をした後、召喚し契約を結んだ人ならざる者。
だから彼にぎゅっと抱きしめられても温もりは無い。それでも不思議と心がポカポカとなる。
それは精霊や人外の生き物は嘘を付く概念が無いからなのだろうか。それとも契約を結んでいる間は絶対に裏切らないという信頼感からなのだろうか。
もちろんそれも大いにある。だが、どれだけスキンシップを取っても色恋沙汰にならないのが一番の理由だろう。
そんなことをつらつらと考えているファルナを、ラバンは器用にハンモックに横たえた。
「さ、お嬢。許可証の件は後回しにして、お昼までお休みください。それとも昨日食べたいと仰っていたパンケーキをお持ちしましょうか?」
「う、う、ううーん。いいや、っていうか、それはおやつに取っておく」
「さようですか」
食い意地の張ったファルファラの発言に苦笑するラバンであったが、すぐにブランケットをかけ直して、ファルファラが寝やすいようパラソル代わりとなる。
「子守唄でも歌いましょうか?」
「ううん、それはいいや」
ラバンの提案を、ファルファラは即座に断った。
彼は万能執事であるが、人間では無い。従って複雑な音程を再現するのが苦手で、うっかり聞いてしまうと三半規管に支障が出る。
昨日、嫌というほど人の視線を浴びたファルファラは翌日になっても疲れは取れていない。だから今日は、全力で体を休めたかった。
対して子守唄を拒絶されたラバンは不愉快になることは無く、無言でパラソルで居続けてくれる。
春の日差しは穏やかではあるが、それでも日に当たるとファルファラの肌はすぐに赤くなってしまう。陶器のような肌を維持できているのは、ひとえに彼のお陰だ。
「......ふぁあぁぁー。お昼のメニューはなんだろうね」
「夕食はお嬢の大好物の頬肉の煮込みを作るとコモンとクラリが張り切ってましたから、きっとお昼は軽めのサンドイッチになると思います。具材のリクエストがあれば伺いますが」
「んー、大丈夫。二人が作るのは何でも美味しいから」
コモンとクラリは、クローヴァ邸のメイドであり、ファルファラの使い魔だ。そんな二人は、持ち前の魔力で広い屋敷をたった二人で切り盛りしてくれている。
ちなみにこの小さな屋敷の使用人は他にも庭師が2名いるが、それも全てファルファラの使い魔だ。
「んー......じゃあ、ラバン。悪いけどお昼ご飯ができたら起こし......て......ね?」
「かしこまりました」
もう半分夢の中にいるファルファラはむにゃむにゃと不明瞭な言葉を紡ぐが、ラバンはそれを的確に読み取り生真面目に頷く。
そうして、昼食までファルファラは惰眠を貪ろうとしたのだけれど、
ーーー ドッカーン!!
耳をつんざく大爆音が屋敷の敷地全部に響いた。
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