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はじまりの章
街で知り合いと聞かれたら即座に違うと否定したい人=クズ ②
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睨み合うことしばしば。先に口を開いたのはセンティッドだった。
「なにか不満そうだね、ファル。言いたいことがあるなら、遠慮なくどうぞ」
余裕たっぷりの笑みを浮かべて手のひらを向けたセンディッドに対して、ファルファラは本気で「表に出ろ」と言いたくなる。
だがしかしセンティッドはこの国の王子であり、攻撃魔法を得意とする上級魔術師だ。
しかも彼の攻撃魔法は破壊力もさることながら、徹底的に敵を追尾する技術や、弱魔法と見せかけて実は強魔法を発動させる姑息な技に秀でている。言葉を選ばなければクソ汚い技ばかり使う。
ファルファラの魔術はオールラウンダー。不得手なものは無いが、逆に言えば何かに特化しているわけではない。
はっきり言うとルール無用のガチ勝負をしたら、ファルファラは絶対に勝てるとは言い切れない。いや多分負ける。だってセンディッドはやると決めたら、とことんやる。そして勝つためなら手段を選ばない。
そんな男に軽々しく喧嘩を売るのは得策ではない。
短い間に我が身を守ることを選んだファルファラは、感情を落ち着かせるためにお茶を一口啜る。それから、コホンと小さく咳ばらいをしてこう言った。
「さっきの結界の件なんですが、お伝えしたいことがありまして。でも、至極どうでも良いことかもしれませんが……あ、はい……言わせていただきます。あの、この屋敷は普段周りには見えないようにしているので、うっかりこの近くを通った人が魔道具を使っていたらご迷惑になるかなって思って魔力無効化魔法を組み込まないようにしてるんです」
言い終えてから、本当にどうでも良いことだとファルファラ思った。
でもこの剣吞な空気を変えるためには、これくらいしか話題が無かったのも事実で。
ちなみに魔道具とは、その名の通り予め魔術式を組み込んだ道具のこと。
火が無いところでもお湯を沸かせるヤカンだったり、軽く掃くだけでゴミと埃を全て取り去ることができるホウキたり、インクを補充しなくてもスラスラ書けるペンだったりーーと、価格はそれなりだが大変便利な商品がこのナラルータ国にはある。
そんな便利品の唯一の欠点は、無効化魔法である。
だからファルファラは、万が一のことを考えて自分の屋敷に張った結界に無効化魔法を組み込まなかった。
それを今ものすごく悔いている。そして直ぐにでも通行者に迷惑を掛けない無効化魔法の術式を計算しようと強く心に誓った。
ということは顔に思いっきり出ていたようで、センティッドは目を細めて何度もうなずく。
「そうか、そうか。ファルは気遣いができる良い子だね。俺はそんな心根の優しい妹を誇りに思う。……でもねえファル。君はつい頑張り過ぎちゃう子だから無理はいけないよ。いつか身体を壊してしまうから。それにね、亀の甲羅を強くする方法を考えるんじゃなくって、俺に甘えることをもっと覚えた方が良い」
「あいにく、そっちのほうが身体に悪いです」
食い気味に否定したファルファラに、センティッドは「酷い言われようだ」と言って肩をすくめた。
(いや、そもそも無駄な仕事が増えるのは殿下のせいなんですけど!もう二度とこんな暴力的な訪問をしないと誓って欲しいんですけど!!)
そんなことをもういっそ口に出してしまおうかと思った。
だが瞬きをする間に、センティッドの表情は一変した。取り巻く空気もおちゃらけたものではない。
それが何を指し示すのか理解したファルファラは、すぐに居住まいを正した。
「では殿下、茶番はこれくらいにして結界を破壊してまでここに来た理由をお聞かせいただきましょうか?」
「そうだね。客人を待たせていることだし、そろそろ本題に入ろうか」
にこりと優美に笑ったセンティッドは、足を組み膝の上で手を組んだ。
その一つ一つの仕草は完璧なものであり、きっと女性はこういうところでクラリとするのだろうと冷静に分析する。
だがしかしファルファラにとってセンティッドは、街で知り合いと聞かれたら即座に違うと否定したい人でしかない。これからも、ずっと。
「なにか不満そうだね、ファル。言いたいことがあるなら、遠慮なくどうぞ」
余裕たっぷりの笑みを浮かべて手のひらを向けたセンディッドに対して、ファルファラは本気で「表に出ろ」と言いたくなる。
だがしかしセンティッドはこの国の王子であり、攻撃魔法を得意とする上級魔術師だ。
しかも彼の攻撃魔法は破壊力もさることながら、徹底的に敵を追尾する技術や、弱魔法と見せかけて実は強魔法を発動させる姑息な技に秀でている。言葉を選ばなければクソ汚い技ばかり使う。
ファルファラの魔術はオールラウンダー。不得手なものは無いが、逆に言えば何かに特化しているわけではない。
はっきり言うとルール無用のガチ勝負をしたら、ファルファラは絶対に勝てるとは言い切れない。いや多分負ける。だってセンディッドはやると決めたら、とことんやる。そして勝つためなら手段を選ばない。
そんな男に軽々しく喧嘩を売るのは得策ではない。
短い間に我が身を守ることを選んだファルファラは、感情を落ち着かせるためにお茶を一口啜る。それから、コホンと小さく咳ばらいをしてこう言った。
「さっきの結界の件なんですが、お伝えしたいことがありまして。でも、至極どうでも良いことかもしれませんが……あ、はい……言わせていただきます。あの、この屋敷は普段周りには見えないようにしているので、うっかりこの近くを通った人が魔道具を使っていたらご迷惑になるかなって思って魔力無効化魔法を組み込まないようにしてるんです」
言い終えてから、本当にどうでも良いことだとファルファラ思った。
でもこの剣吞な空気を変えるためには、これくらいしか話題が無かったのも事実で。
ちなみに魔道具とは、その名の通り予め魔術式を組み込んだ道具のこと。
火が無いところでもお湯を沸かせるヤカンだったり、軽く掃くだけでゴミと埃を全て取り去ることができるホウキたり、インクを補充しなくてもスラスラ書けるペンだったりーーと、価格はそれなりだが大変便利な商品がこのナラルータ国にはある。
そんな便利品の唯一の欠点は、無効化魔法である。
だからファルファラは、万が一のことを考えて自分の屋敷に張った結界に無効化魔法を組み込まなかった。
それを今ものすごく悔いている。そして直ぐにでも通行者に迷惑を掛けない無効化魔法の術式を計算しようと強く心に誓った。
ということは顔に思いっきり出ていたようで、センティッドは目を細めて何度もうなずく。
「そうか、そうか。ファルは気遣いができる良い子だね。俺はそんな心根の優しい妹を誇りに思う。……でもねえファル。君はつい頑張り過ぎちゃう子だから無理はいけないよ。いつか身体を壊してしまうから。それにね、亀の甲羅を強くする方法を考えるんじゃなくって、俺に甘えることをもっと覚えた方が良い」
「あいにく、そっちのほうが身体に悪いです」
食い気味に否定したファルファラに、センティッドは「酷い言われようだ」と言って肩をすくめた。
(いや、そもそも無駄な仕事が増えるのは殿下のせいなんですけど!もう二度とこんな暴力的な訪問をしないと誓って欲しいんですけど!!)
そんなことをもういっそ口に出してしまおうかと思った。
だが瞬きをする間に、センティッドの表情は一変した。取り巻く空気もおちゃらけたものではない。
それが何を指し示すのか理解したファルファラは、すぐに居住まいを正した。
「では殿下、茶番はこれくらいにして結界を破壊してまでここに来た理由をお聞かせいただきましょうか?」
「そうだね。客人を待たせていることだし、そろそろ本題に入ろうか」
にこりと優美に笑ったセンティッドは、足を組み膝の上で手を組んだ。
その一つ一つの仕草は完璧なものであり、きっと女性はこういうところでクラリとするのだろうと冷静に分析する。
だがしかしファルファラにとってセンティッドは、街で知り合いと聞かれたら即座に違うと否定したい人でしかない。これからも、ずっと。
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