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華麗なる一族と、自称婚約者
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鶴の間に到着した菜穂子は、大きく深呼吸をして襖を開けた。
「……あ」
たった一言呟いて、菜穂子はそこから動けなくなる。
真澄の隣──自分が座っていた席に、若い女性が座っていたからだ。
週一で美容院でトリートメントしてるなと思わせる艷やかな髪をハーフアップにした女性は、品のいいワンピース姿で柊木家の皆と談笑している。
違和感なく馴染んでいる若い女性は、襖から動けない菜穂子に気づいたけれど、席を立つこともなく再び柊木家に話しかけた。
まるで「あんたの座る席なんかどこにもないわよ」と言いたげに。
この人が、瑞穂が言っていた純玲という女性か。忠告通り、性格に難がありそうだ。
そんなふうに冷静に分析していた菜穂子だが、客人達の視線に気づいて息を呑む。そこにいる全員が全員、菜穂子に敵意の視線を向けていたのだ。
歓迎されていないのはわかっていたし、どうせ今年の秋に離婚するんだから気にしなくていい。そう頭では理解しているが、数で圧倒されるとなかなか堪えるものがある。
一旦、落ち着こう。菜穂子は襖の縁を掴んで、目を閉じる。その時──
「菜穂ちゃん、遅かったな」
優しく、馴染みのある声が降ってきて、菜穂子は目を開けて、見上げる。
「まぁ君……」
「あんまり遅いから、迎えに行こうかと思ってた」
「ごめんなさい。ちょっと……」
「謝らなくていいよ、菜穂ちゃん。責めてるんじゃない。俺が寂しかっただけだ」
真澄がこれ以上ないほど甘い声を出した瞬間、鶴の間は水を打ったかのように静まり返った。菜穂子もあんぐりと口を開けてしまう。
激甘ボイスで辺りをドン引きさせた自覚がない真澄は、呆然としている菜穂子の手を引き、上座に戻る。
「どけ。邪魔だ」
さっきとは打って変わって冷たい声を出した真澄に、純玲は酷い意地悪を受けたような表情を浮かべる。
「……でも、私の座るところがなくなっちゃうわ……」
「なら帰れ。ここは菜穂ちゃんの席だ」
更に冷たい声になる真澄に、純玲は口元に手を当て「ひどい……」と呟く。しかし、潤んだ目に、しっかり媚が浮かんでいるのを菜穂子は見逃さなかった。もちろん、真澄も。
とはいえ、真澄の両親は、どこまでも純玲の味方をする。
「真澄さん、そんな言い方をしたら純玲さんが可哀想よ」
「そうだぞ真澄。新年なんだし、そんなに目くじらを立てるな。それに菜穂子さんだって、わかってくれるよな?」
なぜここで自分に振る!?と、菜穂子は心の中でゲッと呻く。重矩が真澄の父ではなく、柊木グループの会長でもなければ、粋な返しをして黙らせることができる。しかし今は空気的に、無言を貫くのが妥当だ。
僅かな時間でそう判断した菜穂子は唇を引き結ぶと、真澄にどうすべきか視線で判断を仰ぐ。
視線を受けた真澄は、「わかっている。心配するな。ここは俺に任せろ」とでも言いたげに、力強く頷いた。
「呼んでもいないのに、勝手に来たお前の相手をしてやってたんだ。もう十分だろ?そんなにここに居たいなら、座敷の奥で大人しくしてろ」
真澄が吐き捨てた途端、鶴の間の空気が凍りつく。円満解決を望んでいた菜穂子の顔も引きつった。
しかし真澄だけは、自分の発言に後悔することなく平然としていた。
「……あ」
たった一言呟いて、菜穂子はそこから動けなくなる。
真澄の隣──自分が座っていた席に、若い女性が座っていたからだ。
週一で美容院でトリートメントしてるなと思わせる艷やかな髪をハーフアップにした女性は、品のいいワンピース姿で柊木家の皆と談笑している。
違和感なく馴染んでいる若い女性は、襖から動けない菜穂子に気づいたけれど、席を立つこともなく再び柊木家に話しかけた。
まるで「あんたの座る席なんかどこにもないわよ」と言いたげに。
この人が、瑞穂が言っていた純玲という女性か。忠告通り、性格に難がありそうだ。
そんなふうに冷静に分析していた菜穂子だが、客人達の視線に気づいて息を呑む。そこにいる全員が全員、菜穂子に敵意の視線を向けていたのだ。
歓迎されていないのはわかっていたし、どうせ今年の秋に離婚するんだから気にしなくていい。そう頭では理解しているが、数で圧倒されるとなかなか堪えるものがある。
一旦、落ち着こう。菜穂子は襖の縁を掴んで、目を閉じる。その時──
「菜穂ちゃん、遅かったな」
優しく、馴染みのある声が降ってきて、菜穂子は目を開けて、見上げる。
「まぁ君……」
「あんまり遅いから、迎えに行こうかと思ってた」
「ごめんなさい。ちょっと……」
「謝らなくていいよ、菜穂ちゃん。責めてるんじゃない。俺が寂しかっただけだ」
真澄がこれ以上ないほど甘い声を出した瞬間、鶴の間は水を打ったかのように静まり返った。菜穂子もあんぐりと口を開けてしまう。
激甘ボイスで辺りをドン引きさせた自覚がない真澄は、呆然としている菜穂子の手を引き、上座に戻る。
「どけ。邪魔だ」
さっきとは打って変わって冷たい声を出した真澄に、純玲は酷い意地悪を受けたような表情を浮かべる。
「……でも、私の座るところがなくなっちゃうわ……」
「なら帰れ。ここは菜穂ちゃんの席だ」
更に冷たい声になる真澄に、純玲は口元に手を当て「ひどい……」と呟く。しかし、潤んだ目に、しっかり媚が浮かんでいるのを菜穂子は見逃さなかった。もちろん、真澄も。
とはいえ、真澄の両親は、どこまでも純玲の味方をする。
「真澄さん、そんな言い方をしたら純玲さんが可哀想よ」
「そうだぞ真澄。新年なんだし、そんなに目くじらを立てるな。それに菜穂子さんだって、わかってくれるよな?」
なぜここで自分に振る!?と、菜穂子は心の中でゲッと呻く。重矩が真澄の父ではなく、柊木グループの会長でもなければ、粋な返しをして黙らせることができる。しかし今は空気的に、無言を貫くのが妥当だ。
僅かな時間でそう判断した菜穂子は唇を引き結ぶと、真澄にどうすべきか視線で判断を仰ぐ。
視線を受けた真澄は、「わかっている。心配するな。ここは俺に任せろ」とでも言いたげに、力強く頷いた。
「呼んでもいないのに、勝手に来たお前の相手をしてやってたんだ。もう十分だろ?そんなにここに居たいなら、座敷の奥で大人しくしてろ」
真澄が吐き捨てた途端、鶴の間の空気が凍りつく。円満解決を望んでいた菜穂子の顔も引きつった。
しかし真澄だけは、自分の発言に後悔することなく平然としていた。
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