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復讐を迎えた、朝
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完璧な社交界デビューを果たしたフローレンスは、それから半年後、ラヴィエルと親交を深め、17歳の終わりに正式に彼と婚約した。
その時のリコッタの反応は見ものだった。
嫉妬に顔をゆがめ、「どうして私じゃないの?」と両親に詰め寄る始末。
さすがの父も、うんざりしながら「リコッタはまだデビュタント前だから」という苦しい言い訳を口にしていた。
これもまた、前の生と同じ。いや、リコッタの反応は以前の時より激しかった。
ただそれは想定外の出来事ではない。そうなるようにフローレンスが仕向けたのだ。
わざとラヴィエルと仲睦まじい様子をリコッタに見せつけ、露骨に両親の前で彼と過ごした出来事を語り、幸せそうな自分を演じ続けた。
とはいえ、実際のところフローレンスは、ラヴィエルに好感を持っていた。それは前世でも。
ラヴィエルはとても紳士的で、誠実な人だった。また鋭い洞察力を持っていた。
しかしながら死に戻った過去まで信じられるほど、彼はおおらかな考えは持っていないだろう。当人であるフローレンスとて、時折、全てが夢ではないのかと疑うことが未だにあるのだから。
だからフローレンスは、ラヴィエルには全てを伝えることはせず、けれど彼にも一役買ってもらうことにした。
─── そして、とうとうフローレンスは己が殺された朝を迎えた。
(いよいよ、今日ね)
いつもより早く起きたフローレンスは、ゆっくりと身支度をする。
あの日、バルコニーから突き落とされた時と同じドレスに袖を通す。奇しくもそれは、ラヴィエルから贈られたもの。
一見、装飾品が無いシンプルなドレスだけれど、よく見れば総刺繍が施されている着るものを選ぶ一級品だ。もちろん、リコッタが着こなせるはずもない。
なのに、性懲りも無くリコッタは、これを欲しがった。とはいえ、たまたま居合わせたラヴィエルが、義理の妹をきつく窘めた。
この事件は過去と同じ。けれども一度目はハラハラするだけだったそれが、二度目だと胸がすく思いになったのは致し方無い。
そんなことを思い出しながらも、フローレンスは身支度の手を止めない。
長年、この日を迎えるためにずっとずっと準備をしてきたことがあるから。それを着々と進めていく。
そしていつも通りの時間になると、侍女となったユーナがフローレンスの為にお茶を運んで来た。
「───……ねえ、ユーナ。ちょっとお願いがあるのだけれど」
ゆっくりとお茶を味わったフローレンスは、優雅にティーカップをソーサーに戻すとそう切り出した。
「なんでしょう、お嬢さま」
滅多に願い事を口にしないフローレンスに、ユーナは不思議そうに首を傾げる。けれど忠実な侍女は、どことなく嬉しそうでもある。
「あのね、大したことじゃないんだけれど───」
フローレンスは無邪気な笑みを浮かべて、ユーナに至極簡単な願い事を言った。
「お任せ下さいませ」
深く追求することなく頷いたユーナに、フローレンスはにこっと人懐っこい笑みを浮かべ「ありがとう」と口にした。
けれど内心は、リコッタに向け冷徹な笑みを浮かべていた。
その時のリコッタの反応は見ものだった。
嫉妬に顔をゆがめ、「どうして私じゃないの?」と両親に詰め寄る始末。
さすがの父も、うんざりしながら「リコッタはまだデビュタント前だから」という苦しい言い訳を口にしていた。
これもまた、前の生と同じ。いや、リコッタの反応は以前の時より激しかった。
ただそれは想定外の出来事ではない。そうなるようにフローレンスが仕向けたのだ。
わざとラヴィエルと仲睦まじい様子をリコッタに見せつけ、露骨に両親の前で彼と過ごした出来事を語り、幸せそうな自分を演じ続けた。
とはいえ、実際のところフローレンスは、ラヴィエルに好感を持っていた。それは前世でも。
ラヴィエルはとても紳士的で、誠実な人だった。また鋭い洞察力を持っていた。
しかしながら死に戻った過去まで信じられるほど、彼はおおらかな考えは持っていないだろう。当人であるフローレンスとて、時折、全てが夢ではないのかと疑うことが未だにあるのだから。
だからフローレンスは、ラヴィエルには全てを伝えることはせず、けれど彼にも一役買ってもらうことにした。
─── そして、とうとうフローレンスは己が殺された朝を迎えた。
(いよいよ、今日ね)
いつもより早く起きたフローレンスは、ゆっくりと身支度をする。
あの日、バルコニーから突き落とされた時と同じドレスに袖を通す。奇しくもそれは、ラヴィエルから贈られたもの。
一見、装飾品が無いシンプルなドレスだけれど、よく見れば総刺繍が施されている着るものを選ぶ一級品だ。もちろん、リコッタが着こなせるはずもない。
なのに、性懲りも無くリコッタは、これを欲しがった。とはいえ、たまたま居合わせたラヴィエルが、義理の妹をきつく窘めた。
この事件は過去と同じ。けれども一度目はハラハラするだけだったそれが、二度目だと胸がすく思いになったのは致し方無い。
そんなことを思い出しながらも、フローレンスは身支度の手を止めない。
長年、この日を迎えるためにずっとずっと準備をしてきたことがあるから。それを着々と進めていく。
そしていつも通りの時間になると、侍女となったユーナがフローレンスの為にお茶を運んで来た。
「───……ねえ、ユーナ。ちょっとお願いがあるのだけれど」
ゆっくりとお茶を味わったフローレンスは、優雅にティーカップをソーサーに戻すとそう切り出した。
「なんでしょう、お嬢さま」
滅多に願い事を口にしないフローレンスに、ユーナは不思議そうに首を傾げる。けれど忠実な侍女は、どことなく嬉しそうでもある。
「あのね、大したことじゃないんだけれど───」
フローレンスは無邪気な笑みを浮かべて、ユーナに至極簡単な願い事を言った。
「お任せ下さいませ」
深く追求することなく頷いたユーナに、フローレンスはにこっと人懐っこい笑みを浮かべ「ありがとう」と口にした。
けれど内心は、リコッタに向け冷徹な笑みを浮かべていた。
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