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温室に掛かる虹の橋(出所は父の吹いたお茶)
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【ハーピー】
それは魔物の一種で、神話に登場する女面鳥身の伝説の生物のこと。
文献によれば、顔から胸までが人の女性で、翼と下半身が鳥と描写されている。その名の由来は古代文字で「掠める者」という意味を持つ。
また、鋭い爪を持ち食欲旺盛で常に空腹状態。
鼻が利くのか目が良いのかわからないが、食べ物がある場所を的確に見つけ目にする食べ物を貪る意地汚い性格であり、しかも残飯の上に汚物をまき散らす下品極まりない生き物なのだ。
ただシュハネード国の貴族社会に限っては、ハーピーという名は別の人物の名を指す。
ルコッティナ・ローウィ。
今を去ること50年ほど前、社交界でその美しい容姿を武器に数多の男性を魅了した挙句に男心を弄び、気まぐれに厄災レベルのトラブルを振りまき、多くの人間の心をトラウマを植え付けた危険人物。
現在は鬼籍に入り、その存在は貴族のおじいちゃんおばあちゃんの昔話として茶菓子扱いされる程度……であったら良かったのだが、実はまだその名は健在である。
なぜなら、ここシュハネード国にはハーピー二世と呼ばれる存在がいるからだ。
その名もヴァネッサ・ローウィ。
──── かつてュハネード国のハーピーと呼ばれた悪女の孫だったりもする。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「わたくし、ウェルドさまと結婚することにしましたから」
うららかな冬のとある日。
温室で午後のお茶を楽しんでいたローウィ家の家族は、姉ヴァネッサの爆弾発言に絵にかいたようなリアクションを取った。
当主である父親のラナウンドは、盛大に口に含んでいたお茶を吹き出し、その妻リアンネはティースプーンを投げ落とし、次女のティスタはぽかんと口を半開きにした。
(あ……虹。お父様がこんな特技を持っていたなんて知らなかった。地味にすごい……)
ティスタの空色の瞳には、温室に突如現れた見事な虹が映っている。
陽の光を浴びて輝くそれは、今しがた父親が豪快に吹き出したお茶とは思えない程、とてもとても綺麗なものだった。
しかし、そんなことはどうでもいい。本っ当に、クソが付くほどどうでもいい。
それよりもヴァネッサの問題発言について諸々考えなければならない。
けれども、ティスタは一瞬で消えてしまった虹の残像を見続けている。明らかに頭がそれを考えるのを拒否しているのだ。
ちなみにその横にいるラナウンドは吹き出してしまった拍子にお茶が器官に入ってしまった為、死ぬんじゃないの?と思うほどド派手な咳をしている。
「ごほっ、うおほっん……ごほっ、ごほっ─── ヴァネッサ、急にどうしたんだい?お昼寝でもして悪い夢でも見たのかい?」
何とか自力で死の淵から戻って来たラナウンドは、痛々しいほど掠れた声でヴァネッサに問いかける。
対してヴァネッサは、不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「あらお父様、わたくしもう22歳ですわ。お嫁に行くのに早すぎる年でもないでしょう?」
的外れなラナウンドの問いを、これまた的外れな返答で終わらせたヴァネッサはここにいる全員を威嚇するように腕を組んだ。
たったそれだけで、辺りに居たメイド達はふぁさーとそよ風のようなナチュラルさで、柱や植木の陰に隠れた。
それは魔物の一種で、神話に登場する女面鳥身の伝説の生物のこと。
文献によれば、顔から胸までが人の女性で、翼と下半身が鳥と描写されている。その名の由来は古代文字で「掠める者」という意味を持つ。
また、鋭い爪を持ち食欲旺盛で常に空腹状態。
鼻が利くのか目が良いのかわからないが、食べ物がある場所を的確に見つけ目にする食べ物を貪る意地汚い性格であり、しかも残飯の上に汚物をまき散らす下品極まりない生き物なのだ。
ただシュハネード国の貴族社会に限っては、ハーピーという名は別の人物の名を指す。
ルコッティナ・ローウィ。
今を去ること50年ほど前、社交界でその美しい容姿を武器に数多の男性を魅了した挙句に男心を弄び、気まぐれに厄災レベルのトラブルを振りまき、多くの人間の心をトラウマを植え付けた危険人物。
現在は鬼籍に入り、その存在は貴族のおじいちゃんおばあちゃんの昔話として茶菓子扱いされる程度……であったら良かったのだが、実はまだその名は健在である。
なぜなら、ここシュハネード国にはハーピー二世と呼ばれる存在がいるからだ。
その名もヴァネッサ・ローウィ。
──── かつてュハネード国のハーピーと呼ばれた悪女の孫だったりもする。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「わたくし、ウェルドさまと結婚することにしましたから」
うららかな冬のとある日。
温室で午後のお茶を楽しんでいたローウィ家の家族は、姉ヴァネッサの爆弾発言に絵にかいたようなリアクションを取った。
当主である父親のラナウンドは、盛大に口に含んでいたお茶を吹き出し、その妻リアンネはティースプーンを投げ落とし、次女のティスタはぽかんと口を半開きにした。
(あ……虹。お父様がこんな特技を持っていたなんて知らなかった。地味にすごい……)
ティスタの空色の瞳には、温室に突如現れた見事な虹が映っている。
陽の光を浴びて輝くそれは、今しがた父親が豪快に吹き出したお茶とは思えない程、とてもとても綺麗なものだった。
しかし、そんなことはどうでもいい。本っ当に、クソが付くほどどうでもいい。
それよりもヴァネッサの問題発言について諸々考えなければならない。
けれども、ティスタは一瞬で消えてしまった虹の残像を見続けている。明らかに頭がそれを考えるのを拒否しているのだ。
ちなみにその横にいるラナウンドは吹き出してしまった拍子にお茶が器官に入ってしまった為、死ぬんじゃないの?と思うほどド派手な咳をしている。
「ごほっ、うおほっん……ごほっ、ごほっ─── ヴァネッサ、急にどうしたんだい?お昼寝でもして悪い夢でも見たのかい?」
何とか自力で死の淵から戻って来たラナウンドは、痛々しいほど掠れた声でヴァネッサに問いかける。
対してヴァネッサは、不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「あらお父様、わたくしもう22歳ですわ。お嫁に行くのに早すぎる年でもないでしょう?」
的外れなラナウンドの問いを、これまた的外れな返答で終わらせたヴァネッサはここにいる全員を威嚇するように腕を組んだ。
たったそれだけで、辺りに居たメイド達はふぁさーとそよ風のようなナチュラルさで、柱や植木の陰に隠れた。
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