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温室に掛かる虹の橋(出所は父の吹いたお茶)

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「そう……そうよね、ヴァネッサはもう22歳ですものね。大きくなったわね。さ、あなたもお座りなさい。美味しいケーキをいただきましょう」

 引きつった笑みを浮かべて、場を取り繕うようなことを言ったのは母のリアンネだった。

 だがヴァネッサは、今度は冗談じゃないと言いたげに眉間に皺を刻む。

「は?お茶ぁー?? 嫌よ、冗談じゃないわ。わたくし甘い物は嫌いなの。それよりお部屋のワインのストックが切れたから補充をしてちょうだい」

 不機嫌そうに酒を強請るヴァネッサの顔はほんのりと赤かった。そして、鼻をすんすんしてみれば、まごうこと無きアルコール臭を感じ取れる。

 ついさっきまで飲酒をしていたことは間違いない。

 ここにいる誰もがそれに気付いた途端、温室の空気が一気に凍り付いた。

 そんな中、一人だけ冷静にティーカップを傾ける者がいた。それは次女であるティスタである。

 だが、その手は可哀想なほど小刻みに震えていた。

 無理もない。今しがたヴァネッサが結婚すると言ったウェルドとは、何を隠そうティスタの婚約者だったりする───。





 ローウィ家は伯爵家ではあるが、元をたどれば一介の兵士に過ぎない。

 かつて、ここ───シュハネード国が大きな戦争をした際に武功を立てた先祖が、国王陛下から領地を与えられたのが始まりだった。

 初代の軍人もとい伯爵家当主は、ある日突然貴族となって慣れない生活を強いられムキィーとした……か、どうかはわからないけれど、見栄や矜持が皆無だったおかげで領民から慕われ、何代か繋ぐうちに押しも押されぬ伯爵家となった。

 現当主であるラナウンド・ローウィは温厚な性格で、領民のことを第一に考え実直堅実に領地を治めている。

 またその妻リアンネもシュハネード国一番の刺繍の名手と謳われ、その技術を惜しみなく人に教え、教会のバザーの際には数多くの作品を寄付している。

 最後に次女ティスタは母親譲りのブラウンゴールドの髪に空色の瞳の御年17の娘盛り。控え目な性格のせいで地味な印象を与えてしまうが、それでも十分に愛らしい容姿だった。幼少の頃から母に教えられた刺繍の腕もかなりのもの。

 そして翌年春に、ティスタが18歳になるのを待って近衛騎士であるウェルド・アリガと挙式を上げる予定だった。

 ここまでなら、典型的な貴族の家庭である。

 しかし、このローウィ家は爆弾を抱えている。

 しかもいつ爆発するかわからない。そして一度爆発すれば、家族のみならず近隣の皆々様を飛び越え、縁もゆかりもない人間にまで多大な迷惑をおかけしてしまう厄災レベルのそれなのだ。

 それが冒頭で爆弾発言をかましてくれた長女ヴァネッサ・ローウィである。

 ヴァルラムは、波打つ艶やかなシャンパンゴールドの髪にヴァイオレットローズに瓜二つの瞳。顔のパーツ一つ一つがはっきりとしていて、ティスタと違いとても華やかな印象を与える容姿だった。

 そんな見栄え良く、そこそこ繁栄している伯爵家の美人令嬢。

 これだけなら、男共が列をなしてヴァネッサに求婚するだろう。

 だがしかし、ヴァネッサは22歳になっても独身である。美しい伯爵令嬢なのに、持参金は年々割り増しされていくというのに、だ。

 それは偏にヴァネッサの性格の悪さにあった。
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