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むしろ遅すぎる(婚約者談)

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「─── アレは今を去ること10日前のことだった。俺とイリーグと、あと同期の数名で街の酒場に行った。団長の娘さんの結婚が決まった祝い......と言えば聞こえはいいが、要は団長の愚痴を聞くために俺たちは力づくで連行されたんだ」

 ティスタから許可を得て、同じベンチに並んで座ることを許されたウェルドは、コホンと咳ばらいをして語り出した。

「早くに奥方を無くした団長は男で一つで娘さんを育ててきたのもあって、そりゃあ面倒臭い酒の席だった。でも相手は団長だし、団長が娘さんを溺愛しているのも知っていたし、団長のおごりだったし、団長が支払いするなら値段気にせず肉たべれるってことで皆、団長のことを一生懸命慰めてたんだ。……そこで、ま、事件は起こった」

 一気に語ったウェルドは、ここで言葉を止めた。そして眉間を揉んだ。  

 その仕草は、自ら浮気の説明をしなければならないことに苦悩しているように見えてしまう。というか、ティスタにはそう見えている。そうしか見えない。

「事件って、そんなに破廉恥なことをしたの?」
「まぁ、聞け」
「……うん」

 思わず口を挟んだティスタに、ウェルドは低く”待て”を命じる。

 そしてティスタが素直に唇を一文字にしたのを期に、ウェルドは続きを語り出した。

「団長と飲みはじめてどれくらい経ったかは今一わからないが、団長の席に酒樽が直に置かれて、それが無くなって、団長自ら厨房に酒樽担いで戻ってきた後だから……まぁ、かなり深夜になった頃だな。ぅおっほん。、ここで、君のお姉さん─── ヴァネッサ嬢が突然乱入してきたんだ」
「......っ」

 やたらと団長ばかりが連呼する話の中で、ようやっと確信にせまる時が来たのだとティスタはごくりと唾を飲む。

「ヴァネッサ嬢もかなり酔っていたから、最初は部屋を間違えたんだと思ったんだ。あ、飲んでいた場所は”もぐら亭”っていう結構高級店で完全個室だから貴族連中も足を向けるところなんだ。良い酒出すしつまみも旨いし、従業員は皆そろって口が硬いし......って、すまん。話がそれたけれど、まぁ要は俺たちはヴァネッサ嬢が酔っぱって部屋を間違えたんだと思ったんだ。だから、一応女性だし、君の姉だし、俺ら騎士だし、団長の愚痴は長いから、部屋に送り届けようと思ったんだ」
「......う、うん」

 ヴァネッサを部屋に送ろうとしたのは、割合的に団長の愚痴に嫌気がさしたからなんだろうと、ティスタは分析する。

 しかし、問題は団長の愚痴の長さではない。この後の展開だ。

「で、ま、まぁ......一応ヴァネッサ嬢を廊下に連れ出したら、なぜか向かいの部屋に連れ込まれて、止める間もなく彼女は服を脱ぎ出したんだ」
「!!!!!!」

 信じられない展開に、ティスタは言葉にできない感嘆符を口から飛ばした。
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