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むしろ遅すぎる(婚約者談)
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ただ、ハーピー二世を見限ったとはいえ、やらなくてはならないことがある。
「あのう......ウェルドさま。お耳を少々お貸しいただいても?」
「ああ、どうぞ」
あっさり耳を差し出してくれたウェルドに感謝しつつ、ティスタはそれに唇を寄せた。
「姉が大変ご迷惑をおかけしました。浮気を疑ってごめんなさい。許してください。なんでもします。あと......怪我はしてないですか?」
ウェルドの肩に手を置いてそぉっと覗き込めば、彼に似つかわしくない薄っすらと笑みを浮かべていた。
「ご心配ありがとう、ティスタさん。怪我は無いですよ。でも、心に傷を負いましたが」
「ごめんなさい!」
思わず叫んでしまったティスタだが、運悪くすぐ側にはウェルドの耳があった。
当然ながら大声量を至近距離で受けたウェルドは耳を押さえて顔をしかめた。
「......重ね重ね申し訳ありません」
「......いや、これは俺の鍛練不足だ。気にするな」
鼓膜を鍛える方法などあるわけないので、これはウェルドの優しさだ。嬉しい。そして、申し訳無い。
ということを伝えたいが、現在激しい耳鳴りに襲われているウェルドに話しかけるのは酷だろう。
だからティスタは、ウェルドの耳が復活するのを大人しく待つことにした。彼の膝の上で。
***
待つこと数分、ウェルドの耳は復活してくれた。
予想より早い回復ぶりにティスタは本当にウェルドは日頃鼓膜を鍛えているのかと尋ねたくなる。
だがしかし、それを聞いてしまうと絶対に話が逸れる予感というか確信しかないので、ぐっと好奇心を押さえ込んでつい今しがた決心したことを彼に伝えることにした。
ちなみにティスタは隙を見て、ウェルドの膝からベンチへとお尻の位置を変えている。
それから、大きく深呼吸をすると、今しがた決意したことを口にした。
「ねえ、ウェルド。あのね......私、姉を見捨てる愚かな妹になりそうなんだけれど......良いかな?」
ティスタは、これまでヴァネッサに踏みつけられて生きてきたせいで、あまり執着がない。
何かを手に入れても、いずれは姉に取られるものだとどこか心の中で割りきっていた。
でも、ウェルドに嫌われるのは、怖い。とてつもなく。
世界中の全員に嫌われたってどうってことは無いが、彼に軽蔑されることは死と同義語だ。そして一般論として、家族を捨てる人間は畜生と同じでもある。
そんな犬畜生と同じ位置に自ら立とうとする罪悪感と、軽蔑される怖さもあり、遠回しな決意表明になってしまった。
(......伝わった......かな?)
覗き込んだ彼の顔は、驚いたというより、呆れたという表情に近く、でも怒りとか侮蔑とかそういう感情は無くって──── まぁつまり、言葉で表現できないほど微妙なものだった。
「あのう......ウェルドさま。お耳を少々お貸しいただいても?」
「ああ、どうぞ」
あっさり耳を差し出してくれたウェルドに感謝しつつ、ティスタはそれに唇を寄せた。
「姉が大変ご迷惑をおかけしました。浮気を疑ってごめんなさい。許してください。なんでもします。あと......怪我はしてないですか?」
ウェルドの肩に手を置いてそぉっと覗き込めば、彼に似つかわしくない薄っすらと笑みを浮かべていた。
「ご心配ありがとう、ティスタさん。怪我は無いですよ。でも、心に傷を負いましたが」
「ごめんなさい!」
思わず叫んでしまったティスタだが、運悪くすぐ側にはウェルドの耳があった。
当然ながら大声量を至近距離で受けたウェルドは耳を押さえて顔をしかめた。
「......重ね重ね申し訳ありません」
「......いや、これは俺の鍛練不足だ。気にするな」
鼓膜を鍛える方法などあるわけないので、これはウェルドの優しさだ。嬉しい。そして、申し訳無い。
ということを伝えたいが、現在激しい耳鳴りに襲われているウェルドに話しかけるのは酷だろう。
だからティスタは、ウェルドの耳が復活するのを大人しく待つことにした。彼の膝の上で。
***
待つこと数分、ウェルドの耳は復活してくれた。
予想より早い回復ぶりにティスタは本当にウェルドは日頃鼓膜を鍛えているのかと尋ねたくなる。
だがしかし、それを聞いてしまうと絶対に話が逸れる予感というか確信しかないので、ぐっと好奇心を押さえ込んでつい今しがた決心したことを彼に伝えることにした。
ちなみにティスタは隙を見て、ウェルドの膝からベンチへとお尻の位置を変えている。
それから、大きく深呼吸をすると、今しがた決意したことを口にした。
「ねえ、ウェルド。あのね......私、姉を見捨てる愚かな妹になりそうなんだけれど......良いかな?」
ティスタは、これまでヴァネッサに踏みつけられて生きてきたせいで、あまり執着がない。
何かを手に入れても、いずれは姉に取られるものだとどこか心の中で割りきっていた。
でも、ウェルドに嫌われるのは、怖い。とてつもなく。
世界中の全員に嫌われたってどうってことは無いが、彼に軽蔑されることは死と同義語だ。そして一般論として、家族を捨てる人間は畜生と同じでもある。
そんな犬畜生と同じ位置に自ら立とうとする罪悪感と、軽蔑される怖さもあり、遠回しな決意表明になってしまった。
(......伝わった......かな?)
覗き込んだ彼の顔は、驚いたというより、呆れたという表情に近く、でも怒りとか侮蔑とかそういう感情は無くって──── まぁつまり、言葉で表現できないほど微妙なものだった。
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